ほむら「美樹さやーー「私がガンダムだ」はぁ?」   作:わんたんめん

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メタルビルドでザンライザー出ましたね。

…………なんなんアレ、明らかに剣の本数過多だよね。背中もただでさえザンライザー背負った時点でヤバそうなのにさらに追加しちゃってさァ!!

あんなん刹那でも苦笑いもんだよなぁ!!ぜってぇ扱いこなせねぇって!!







だから気に入った


第33話  新たなる舞台の開演

白に浮かぶ黒、さながら影のようにその全体像が浮かばなかった魔女を、その魔女が祈りを捧げていた真紅のオブジェごと横一文字に両断したさやかは結界が崩れていく中、残心のようにGNバスターソードⅡを振り払うと左肩に懸架し、元に戻した。

 

「ん…………?」

 

結界が崩れ、細かな粒子となって消えてゆき、元の風景が覗き始めている最中、地上に降り立ったさやかは足元へ淡く光を反射している物体を目にする。それは魔女を倒した証であるグリーフシード。

さやかはそれを拾い上げると踵を返し、自身の後ろにいた杏子の元へ向かう。

 

「協力してくれたこと、感謝する。ありがとう。」

 

「………………フン。」

 

微妙に儚げな笑みを浮かべ、礼を述べるさやかに杏子は不機嫌そうな顔を見せるとそのままそっぽを向いてしまう。

 

(ホントにコイツは図太いというかなんというか…………)

 

なし崩しで共闘したとはいえ、少し前まで本気で殺し合っていた相手に気まずい空気を一切感じさせずに笑顔を見せ、お礼を述べるさやかに杏子は一種の戦慄を覚えていた。

 

「………………何故そっぽを向いているんだ?」

 

「うるせぇー!!誰も彼もお前にみてぇに簡単に態度変えられる訳じゃねぇんだよー!!」

 

その杏子の様子に純粋な疑問を持って聞いてきたさやかに思わず彼女は声を荒げ、地団駄を踏むようにをさやかを捲し立てる。

 

「………………」

 

「なに人の顔見て笑ってんだよ、気持ち悪い。」

 

「ん………すまない。思わず嬉しくて笑みを浮かべてしまった。何せ、先ほどまで互いの得物を突き付けあっていたのに、こうも語り合えるのだからな。」

 

その威圧にさやかは噛みつくわけでもなく、満足そうに笑みを浮かべた。それに引き気味な表情を見せる杏子にさやかがその理由を語ると、一層眉を深めて不機嫌そうに顔を背ける。

 

「……………早くグリーフシードを渡せよ、馬鹿。」

 

「ああ。それが条件だったからな。」

 

吐き捨てるような杏子からの催促にさやかは手にしていたグリーフシードを彼女に渡すと、自身の胸元のソウルジェムに接触させ、中に孕んでいた穢れを取り除いた。

 

「…………アンタのソウルジェムはどうなんだよ。」

 

そう尋ねてきた杏子にさやかは懐からソウルジェムを取り出し、杏子に見せつけるように掌に乗せた。その装飾された宝石の輝きは微塵の穢れも感じさせないほどに純粋な光を杏子に向けて照らしていた。

 

「…………アンタは自分が特異な性質と言っていたけどよ、それでも空を飛んだり、見るからに高威力なビームをぶっ放していたのに穢れが一切ねぇってのは解せねぇ。一体なんのカラクリなんだ?それに   

 

杏子はそこで一度言葉を切ると、今は普通の色合いに戻っているさやかの目の虹彩に目線を移す。

 

「アンタが見せていたあの金色に光っていた目だ。ありゃあ普通じゃねえ。それを含めて、一体何者なんだ?」

 

そう言って、杏子は鋭い目線をさやかに向ける。明らかな疑いを持ったその視線にさやかは後頭部に手を当てて、困ったようにそこを摩った。

 

「……………と言われてもな。実際にお前のいう目が金色に輝いているところを確認した訳ではないからな…………今はどうなんだ?」

 

「今は、普通に戻ってる。」

 

(…………まぁ思えばあの謎の空間が形成された理由もわかっていないからな…………つくづく謎が多いな、ガンダムというのは………魔法少女より魔法じみたことをやっていないか?)

 

考え込むように顎に手を当て、仕草を見せるさやかだったが、いくら考えても答えにたどり着く感じがしない上に、以前頭の中に直接声をかけてもらった謎の存在からしかその謎が明かされることはないと判断した。

 

「…………質問を受けていたところ、申し訳ないがお前には先に答えてもらわないといけないことがある。ワルプルギスの夜との戦闘における共闘戦線についてだ。まだ明確な答えをお前から受け取っていない。」

 

「あー……………そういえばお前、そんな理由でアタシんとこ来てたんだっけ。」

 

さやかからの問いかけに思い出したかのような反応を見せる杏子。その様子をさやかは神妙な面持ちで彼女からの答えを待つ。

 

「………………まぁ、先に聞いてきたのはそっちだ。返事を明確にするのはこっちが優先するのは道理、か。」

 

そう言って思案に耽る姿を見て、杏子がさやかに対して少なくとも悪い感情を抱いていないことは察している。あの光輝く謎の空間で、杏子の父親が杏子になにを語りかけたのかをさやかは詳細まで知ることはできない。だが、直後の彼女の反応を見るに、謝罪の言葉を述べたのだろう。それだけしか、わからなかった。

 

「言っておくけど、アタシはお前のやり方をいいとは思っちゃいねぇ。その先にあるのは、どうしようもない行き止まりだからな。」

 

「………………私は   

 

「だけどお前、言ってたよな?もしお前が間違いをやりそうになった時止めてくれってさ。だったら強くなる必要がある。今のアタシじゃ、お前には勝てねえみたいだからな。だから、戦ってやるよ。ワルプルギスの夜とな。」

 

やはり相容れないかと、さやかはそれを覚悟した上で自分の信じる道を言葉にしようとしたとき、ついに杏子から承諾の声が飛び出る。そのことに一瞬目を見開き、驚いた表情を浮かべると、その表情をすぐに朗らかなものに変える。

 

「…………そうか…………これで…………ようやく、未来へ進められる、準備が整えられる、というわけ、か。」

 

突然、さやかはか細い声を出し始めたことに杏子は怪訝な表情を見せながら彼女の顔を見据える。そこでようやく杏子は気づいた。さやかの顔色がまるで生気が感じられないレベルまで真っ青で額から脂汗を滲ませているのを。

 

「いや………我慢してみたが、やるものではない、な。貧血に対しては…………」

 

「お、おいッ!?」

 

その言葉を最後にさやかは体を大きく揺らし、バランスを崩すとそのまま仰向けに倒れ伏した。思わず杏子が声を荒げながら倒れたさやかの側に駆け寄り、安否を確認するが、彼女自身、ポロっと貧血と自白した通り、血の気が真っ青になり、息が荒くなっているだけ、かつ既に傷も塞がっていただけだったため、命に別状はないように見えた。

 

「…………緊張がほつれた上にアドレナリンが切れたらしい…………まぁ、休めば治まると思うが………」

 

「いいから喋んな馬鹿!!」

 

「ええ………………」

 

杏子の突然の罵声にさやかは最近馬鹿って言われすぎではないだろうかと考えながら困り果てたように表情を変えてしまう。

 

「ったく、手のかかる野郎だぜ…………!!」

 

横たわるさやかを他所に、悪態をつくと杏子は肩に腕を回し、さやかの体を担ぎ上げる。

 

「佐倉………杏子?」

 

「……………なんでもいいから飯奢れ。それでチャラにしてやんよ。」

 

「それはまた…………なんとも横暴だな………」

 

杏子の要求に苦笑いだけを見せるさやかだったが、程なくして安心したのか意識を闇に落とす。それに面倒くさそうな表情を見せる杏子は強化された魔法少女としての脚力を持って、悠々と一般的な人間ができる跳躍高度を跳び越し、夕焼けに染まりかけた風見野の空へ駆け出した。

 

日が照らした彼女の表情に鬱屈としたものは見当たらなかった。

 

 

 

 

 

「ちったあ気まずいといえば気まずいけど…………」

 

ビルの屋上からビルに渡り移るように移動し、それなりに見滝原に近づいてきた杏子は口を窄めた表情を見せていた。杏子はさやかをどこに連れてくればいいのか、わからないでいた。おおよそ見滝原にいる見当はついていたのだが、いかんせん杏子は見滝原の土地勘がサラサラない。そのため唯一持っていたパイプを使わざるを得ないでいた。

 

(…………佐倉さん?近くにいるの?)

 

杏子の脳内に念話としてマミの声が響く。かつてマミと共にコンビで魔女を狩っていた杏子。しかし、それも昔の話となってくるため久しぶりの感覚がする杏子は調子が狂うような感情を覚える。

 

(まぁ…………そんなとこだ。突然の連絡ってのは申し訳ねえんだけどよ。アンタの部屋使わせてもらってもいいか?)

 

(……………一体何のために…………?)

 

(お前んところの馬鹿を届けに。それと………例のワルプルギスの夜についてだ。アタシも手を貸してやる。)

 

(ッ…………ええ、ええッ!!今すぐにケーキとお菓子を準備して待っているわね!!)

 

(え………お、おいマミ!?)

 

杏子が参戦してくれるということがよほど嬉しかったのか、上ずった声を上げながらマミは慌てた様子でケーキの準備をし始める。予想以上の反応と出迎えに思わずマミに静止の声を投げかけるが、それに返答が返ってくることはなく、杏子は呆れたようにため息をついた。

 

 

 

 

 

「で………………マミの部屋に来たわけなんだけどさ。」

 

程なくしてマミが住んでいるマンションに足を運んだ杏子は、満面の笑みを浮かべながらドアを開け放つマミの熱烈な出迎えに乾いた笑みを見せる。

担いださやかを安静にソファに横たわらせると開幕一声にそんな言葉を上げた。

 

「誰だオメェら。」

 

「ピェ」

 

「………………」

 

鋭い目つきを見せながら見下ろしている杏子のその姿勢に威圧されたのか小さく悲鳴を上げた涙目と澄ました顔と、正反対の反応を見せる人物がいた。

マミから連絡を受けたのか、さやかの友達であるまどかと魔法少女仲間であるほむらが居座っていた。

 

「暁美ほむら。あなたと同じ魔法少女よ。佐倉杏子。」

 

「えっと…………鹿目まどかって言います。」

 

ほむらとまどかから自己紹介を受けた杏子は二人に訝しげな視線を向け、まるで吟味するように二人のことを交互に見やる。そしてまどかに目線を合わせるとその訝しげな表情を一層深める。

 

「…………アンタ、魔法少女じゃねぇな?」

 

「え………は、はい、そうですけど…………?」

 

「なんでそんな奴がここにいる?この集まりはワルプルギスの夜を倒すためのモンだろ?」

 

「……………その前に一つ聞いてもいいかしら?」

 

「……………ソイツのことか?」

 

矢継ぎ早な質問攻めにまどかの精神が悲鳴を上げ始めたところに、ほむらの質問が飛んでくる。それに杏子は目配せを送ると部屋にいた全員の目線がそこに向かう。ソコにはソファで横たわっているさやかの姿。その表情はソファの寝心地がいいのかは定かではないがわずかに口角が上がっていた。

 

「何か、あなたを変えるだけの出来事があったのは察せるわ。あの子と、さやかとそりが合わなかったのは一番知っているつもりだから…………」

 

「あん…………?お前何言って……………?」

 

ほむらの言葉に眉を一層潜め、怪訝な表情を露わにする杏子。

 

「…………貴方には知ってもらわなければならないことがざっくりとして二つあるわ。ソウルジェムのことと、私自身のことについて。」

 

「アンタ自身のことはともかく………ソウルジェムのことなんて、なんかあんのか?」

 

「それが…………あるのよ。私ですら知らなかった、意図的にキュウベェに聞かされていなかったことが。」

 

「意図的に………だと?アイツ、前からすかした奴だとは思っていたけどさ…………」

 

杏子の疑問に答えたマミの言葉に首をかしげる彼女だったが、マミの陰が入り込んだような曇った表情に目を見開く。

 

「……………聞かせてもらおうじゃねぇか。ソウルジェムの秘密って奴をさ。」

 

テーブルに頬杖を付き、半分疑いを持ったような目を浮かべている杏子に、ほむらとマミは互いの目を見合わせ、意を決した表情をすると、杏子にソウルジェムの秘密を語り始める。

 

インキュベーターと契約を交わした時に産み出されるソウルジェムは契約した魔法少女自身の魂が材料となっていること

 

そのソウルジェムが砕かれたり、一定の距離を所有者から離れさせると、所有者自身の魂が抜けて抜け殻となった身体の機能は諸々停止すること。

 

そして、ソウルジェムの穢れは魔女がばらまく呪いと同質のものであり、その穢れがソウルジェムの輝きを覆い尽くした時、魔法少女は魔女へと変わり果ててしまうこと。

 

 

 

「なんだよ…………それ……………そんな馬鹿みてぇな話、誰が信じるってんだよ…………!!」

 

その話を聞いた杏子は大きく目を見開き、ワナワナと顔を震わせながら事実を認識できていないのか、頭を振り払う。

 

「マミ!!お前こんな話を信じるのかよ!?コイツの話が全部事実だとすれば、これまで倒してきた魔女は全部元は    

 

「ええ、そういうことになるわ。」

 

マミに言いよる杏子だったが、言いたいことを全て語るより先にマミ自身にそれが真実であることが遠回しに含まれた言葉で遮られ、二の句を告げられなくなる。

 

「私だって、始め聞かされた時は真実だって思いたくもなかった。当然でしょう?今まで倒してきた魔女が元は全員が同じ魔法少女だったなんて、普通は正気でいられるはずないもの。」

 

「じゃあなんでそんな平然としていられるんだよ!?ついにトチ狂ったのか!?」

 

マミを指差しながら杏子は捲し立てるが、対するマミは杏子に言い返すことはせず、代わりに視線を別のところに向ける。自然とその視線を追う杏子は彼女の目線がソファで寝ているさやかに行き着いていることに気づく。

 

「…………多分、先輩としての矜恃なんでしょうね…………後輩である美樹さんがしっかりと受け入れて立ち上がっているのに先輩である私がいつまでも下を向いていられないもの。」

 

「またソイツかよ…………一体今度は何やらかしたんだよ……………」

 

「巴マミと変わらないわ。美樹さやかも受け入れただけ。でも、その形は大きく異なるわ。」

 

「なに……………?」

 

「さやかは、貴方に伝えたソウルジェムの真実………主に穢れに染まり切ると魔女に変貌する真実に自力でたどり着いた。その上で彼女は魔法少女になることを選んだ。」

 

「一体何のためにだ…………?」

 

「魔女の結界に取り込まれた私と………その魔女の相手をしていたほむらちゃんを助けるため…………。」

 

嫌悪感か、はたまた怒りからか表情を歪ませている杏子にまどかがさやかが魔法少女になった状況を一言で語ると、杏子はテーブルに拳を叩きつけ、部屋にけたたましい音を響かせた。その音に思わず三人は口を横一文字に噤み、沈黙が支配を始める。

 

「………………悪い、少しカッとなった。もうアイツに負けちまった以上、アタシがとやかく言えることは、もうねぇもんな。」

 

思わず机を叩いてしまったことに杏子は支配した沈黙の空気を切り開きながら、バツが悪そうに謝罪の言葉を口にする。

 

「やっぱり、美樹さんに負かされたのね。」

 

「そうじゃなきゃぁアイツだけ適当に放っておいて帰ってる。」

 

バツが悪そうとはいえ、不機嫌なところは変わっていないのか、言葉の端にトゲがついたような口振りの言葉を返す。

 

「んん…………寝てた…………いや意識を失っていたか…………まぁ、貧血だったのだからしょうがない、か。」

 

「さやかちゃん!!」

 

「グフッ」

 

そんなタイミングでさやかが目を覚ました。しかしムクリと上体を起こし、現状を確認している最中、まどかに飛びつかれたことにより、小さく呻き声を上げながら再びソファに身を沈める羽目になった。

 

「だ、大丈夫………?美樹さん。」

 

「まぁ……………生身で魔女に立ち向かった時よりはさしたる問題はない。貧血程度だったからな。」

 

まどかに悪意がなかったとはいえ、半ば無理やりソファに沈められたさやかに心配そうに声をかけるマミにさやかはまどかを押し除けながら答える。その貧血程度という言葉に杏子は渋い顔を見せていたが、さやかは敢えて触れることではないと判断してスルーすることにした。

 

「それと、ほむら。少し聞きたいことがあるのだが……………」

 

「何かしら?」

 

「…………お前が時間遡行してきたことによる因果の重なりとは、まどかにしか存在していないはずだったよな?」

 

「待って。彼女にはまだそこまで話をしていないわ。」

 

「ん…………そうか。」

 

ほむらの待ったの声にさやかは開いていた口を噤むと、まどかをソファからどかし、今度こそ上体を起こし、杏子と対面する。

 

「で、どこまで話は進めているんだ?」

 

「まだソウルジェムのことを話しているところ。要するに全然よ。」

 

「…………すまないが、まだ寝ていてもいいか?さっきまでは貧血から意識を失っていたから疲れが取れてないんだ。」

 

「貧血になった経緯は知っておきたいところだけど…………必要になったら起きなさいよ?」

 

「ん……………」

 

しょうがないというようなほむらの返答にさやかが返事を返すと、ソファの背もたれに背中を預けて再び意識を闇に落とす。とはいえ、今度は安定した寝息が聞こえてくるため、そこまで心配することはないのだが。

 

「……………トーシローが無茶をするからそうなる…………」

 

「あら?その無茶をする素人に負けてここにいるのはどこの誰かしら?」

 

「うっせ」

 

呆れたようにため息を吐く杏子にマミがいい笑顔でそうツッコミを入れると途端に杏子の表情は不機嫌なものに戻り、悪態を吐き出す。

 

「ホントにノーテンキな野郎だぜ。魂が抜き取られて、ソウルジェムとして形になったのなら、アタシらはいわゆるゾンビじゃねぇか。なのにどうしてよく平然としていられる。」

 

「多分、そうなったとしても、こうして会話ができたり、心を通わせられるのなら人間と変わりはない、なんて言いそうね。美樹さん。」

 

「それに、美樹さやかに至ってはその魔法少女の中でも異質中の異質になるでしょうけど。」

 

「………そういやソイツ、自分は特異な体質だからグリーフシードはいらないって言ってきたんだけどさ、お前らはそれ知ってるのか?」

 

「…………ついさっき、穢れを溜め込みすぎたソウルジェムが魔女化してしまう事実があったでしょう?」

 

ほむらのさやかへ特異中の特異という言葉でさやかがグリーフシードを渡した時に言っていた言葉を思い出したのか、杏子がそのさやかの特異性について尋ねると、マミが先ほど話した魔女化の話を挙げる。

 

「私が暁美さんから聞かされた魔女化に至る条件は主に二つ。魔力の使い過ぎと、人の感情の揺れ幅。前者はともかく後者はあんまり実感が湧かないと思うけど、絶望に対して強い反応を示すそうよ。」

 

「絶望…………………」

 

マミの口から語られた絶望という単語に杏子の脳裏に情景が映り込む。それはさやかとの決闘で敗北した直後に魔女が現れた時の自分自身。その時の杏子はどういうわけか魔女が現れたにも関わらず、自分自身に溢れ出んとする感情を吐露するのに躍起になっていた。

 

それこそ、周囲の状況が記憶としてはっきり残っていないほどにだ。

 

(だから、アイツはあんなにまで必死になっていたのか。アタシを魔女化させないために…………)

 

だが、そんな状態でもなんとなくさやかが自身の眼前に立っていたことは朧げながらにも覚えていた。

 

「…………で、それがその特異性となんの関係があるんだ?」

 

「美樹さんが持つ特異性は魔力の自動回復。つまり、彼女は魔力の使い過ぎによる魔女化の可能性がほぼゼロなの。だからよほどのことがない限り、グリーフシードも必要ないの。」

 

「…………そんなチートじみた奴と戦っていたのかよ、あたし。」

 

「いえ、少なくとも貴方が彼女とイザコザを引き起こすまで、美樹さやかは普通の魔法少女だった。」

 

「普通、ねぇ………………」

 

「…………佐倉さん?」

 

さやかが持つ魔力の自動回復が杏子とのイザコザが起こるまで普通だったという言葉に訝しげな表情を見せる。そのことが気になったマミがそれを指摘するように杏子の名前を呼ぶと、一度目線を外してから再度マミ達と目線を合わせた。

 

「…………アイツ自身自覚がないって言っていたからあんま言うつもりはなかったんだけどよ………もしアイツの目が途中で金色に変わって、虹彩が蠢いていた、なんて言ったら信じるか?」

 

杏子の言葉に三人は互いに目を見合わせて首をかしげる。常識的にも人の目が金色に変わり、なおかつその瞳孔が蠢くなど魔法少女の観点からも有り得ない。

 

だが        

 

 

「ッ……………夢か…………今の…………?」

 

不意に寝ていたはずのさやかが目を覚まし、眠気を振り払うように頭を振る。ちょうど話題の人物が目を覚ましたことで自然とほむら達の目線はさやかに向けられる。

 

「ね、ねぇ、美樹さん、どうしたの…………?」

 

「……………突然、不思議な夢を見たんだ。見慣れない少女、いやあれは魔法少女、なのか?」

 

マミが声をかけるとさやかは顔を片手で覆い、頭を抱えるような仕草で俯いていた。そのさやかから呟かれる譫言のような言葉に揃って首をかしげる四人。

 

「魔法少女が救われる都市、神浜市……………そこに一体何がある…………?」

 

譫言を呟き続けたまま、徐に覆っていた手をどけ、顔をあげるさやか。その瞳は杏子が言ったように金色に輝いていた。

 

 

 




次をワルプルギスの夜編と言ったな?あれは嘘だ。



追記

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マギレコ世界にさっさんを武力介入させるのは……………

  • ガンダムだ
  • ガンダムではない

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