ほむら「美樹さやーー「私がガンダムだ」はぁ?」 作:わんたんめん
「黒江さん………………そんな………………!!」
ショックを受けた表情を浮かべ、悲痛な声でいろはが言葉をこぼす。知り合いが名も知らない一般の人々に被害を及ばす集団の一員に加わっていると知らされたのだ。いろはの胸中は困惑と悲しみでぐちゃぐちゃになっているだろう。
それを察したさやかはいたたまれない様子でいろはを見つめていた。
「………………マギウスの翼に加わった彼女を擁護するようだが、一つ言わせてほしい。彼女も別に好き好んで入ったわけではない、と思っている。だから、今度会った時にひどい罵声のような、彼女を傷つけるようなことだけは言わないでほしい。」
さやかはそんないろはに慰めるような口調ながらも黒江を悪く思わないでやってくれと宥めるような言葉をかける。無論、それは黒江の行動自体、さやかは理解できないものではなかったからだ。推察でしかないが、黒江はどこかで、もしくは神浜市内で自身の定められた運命を知ってしまったのだろう。だから抗おうとした。そんな運命はお断りだと、まだ死にたくはないと。だが、そんな方法などそう簡単に思いつくはずがない。なぜなら自身が手にしている力は理屈すら理解できない
どうしようもない無力感、そして絶望。一時の願望をかなえただけで、自身は醜悪な化け物になり果てるしかないのかと。そんな時出会った、出会ってしまった魔法少女の救済を掲げたマギウスの翼。
もう、それに手を伸ばすほかなかった。死にたくない。理由はそれだけで十分だ。
なぜなら
だからこそ、さやかはいろはに黒江のことを悪く思わないでほしいと頼んだのだ。
「………………わかりました。でも、黒江さんがそこまで他の人たちの迷惑になってまで救済を求めるのは、なんでなんですか?何か、そこまで駆り立てる理由がある。そしてさやかさんはそれをわかっているということですよね。さやかさんの言い方だと、そのようにしか思えません。」
だが、さやかにそのつもりがなくとも、マギウスの翼に加入しているものをかばうようなことを言うということはそれだけさやかはマギウスの翼への加入する理由に関して理解しているということである。それを指摘されたさやかは静かに目を伏せ、無言に徹する。
「………………ああ。その通りだ。私としては彼女らがこのような事態に及んだ理由を理解しているつもりではいる。そのうえで、彼女らと敵対する行動をとっている。」
「それはやっぱり、マギウスの翼が間違っているからですか?」
「間違っているというより、その先に望むような未来はないと思っているからだ。」
「未来がない………………ですか?」
さやかの言葉にいろはは要領を得ないような疑問気な表情を見せる。単純に間違っているならともかく、望んでいる未来がないとはどういうことだろうか。マギウスの翼の理想は魔法少女の救済、それを成し度げることができない、もしくは成し遂げたとしてもその先に幸せが待っているとは限らない。そういうことだろうか?
さやかの言葉に思考を張り巡らせるいろはだったが、ふとしたタイミングで何かに気づいたのか、突然自分のバッグをあさり始めた。さやかがその様子を不思議そうに眺める。
「すみません………………ちょっと電話が来ていて………………」
いろはの申し訳なさそうにしながら電話がかかってきたことを伝えると、さやかは合点のいった表情を見せると気にしないでくれと一言だけ伝え、いろはは電話をもって席から離れていった。残されたさやかはまだ残っていたドリンクに手を付ける。
(……………どうやら伝え損ねたか。とはいえこんな話をしたところで信じてもらえるかどうかは別問題なのだが………………)
いろはが離れていったことを確認したさやかは悩まし気な表情を浮かべながら小さくため息を漏らした。魔女化やソウルジェムの真実。結局さやかの中で教えるかどうかを決めかねていたが、タイミング悪くその機会が流れてしまった。
できれば、これは何か不測の事態が発生したことで知るより、他人から教えられるのが一番いい選択肢と思っているが、それをいろはなどをはじめとするそれまで知らなかった魔法少女たちが受け止めきれるかどうかは完全に別問題だった。
「むぅ………………」
流石のさやかもこれについては難しい表情を浮かべざるを得ないのか頬杖を机について憮然とした様子でドリンクの中身を飲み干した。しかし、ドリンクを飲み干したところでなにか気が晴れるわけでもない。さやかは所在なさげに机を指先で叩いて音を鳴らす。
「つくづく、インキュベーターの奴らは陰湿なシステムを作り上げるものだ………………他人に教えることすら憚られるとはな………………」
(だが、その陰湿なシステムからの脱却を目指しているのがマギウスの翼。となると必然的に構成員の黒羽根たちにも魔女化やソウルジェムのことが知られているということになるな。そしてそれを率いている『マギウス』と呼ばれる三人の魔法少女………………一体何者だ?)
その憮然とした表情をしたままインキュベーターに対する文句を並べながらさやかはマギウスの翼を率いていると思われる三人の魔法少女、『マギウス』について考える。が、それも結局のところ情報不足で結論など出しようがなかったため、別のことに意識を逸らす程度の役割しか果たせなかった。
どうしようもないというようにため息をついて、ちょうどそのタイミングで気晴らしに目線を周囲に向けると、電話が済んだのかいろはが戻ってくる姿が目に映る。その表情はさっきまでのとは違って、どこか驚いたような様子だった。
「………………何かあったのか?」
「ふぇっ!?そ、そんなに顔に出てましたか?」
いろはが席に就いたところで開口一番にさやかはそのことを尋ねる。当然尋ねられたいろはびっくりした様子でそう聞き返した。
「まぁ………………先ほどまでと様子が違ったと感じたから尋ねただけだったのだが。」
さやかが何気ない顔でそう返すと、いろははその電話の内容をさやかに話し始めた。どうやら他人に話していい内容だったらしい。いろはの話を聞いていたさやかは次第にわずかに目を丸くした様子に変わっていった。
「宝崎から神浜に引っ越すのか。それでその引っ越し先がみかづき荘だと。」
その内容はいろはが神浜市の学校への転校、それにともなう引っ越しに関することだった。その内容を繰り返すさやかの言葉にいろはは首を縦に振ると、さやかは手を顎の下に乗せ、少し考える様子を見せた。
「………………いろはは今一人暮らしの状態だったな。引っ越しの際は業者に頼むのか?」
「どうでしょうか………………そんなに荷物も多い訳ではないので………………」
そういっていろはは微妙な顔を見せるが、言葉面からして引っ越し業者に頼む様子ではなさそうだ。そう思ったさやかはこれ幸いというように笑みを見せる。
「なら、荷造りなどの作業を手伝おうか?さすがに一人で荷造りから運ぶまですべてこなすのは骨が折れるだろう。」
「え、ええっ!?そんな悪いですよ!!それほど持っていくわけでもないですし………………!!」
「人の好意は素直に受け取った方がいいぞ。後になって後悔してからでは遅いと思うが?」
さやかが手伝いを名乗り上げたことにいろはは遠慮がちな表情を見せて、その申し出を断ろうとする。しかし、さやかが自分の好意で名乗り上げたんだと断りづらくなるような文言を並べると途端に断ることに申し訳ないな気持ちがわいてきたのか、いろはが声を詰まらせる。
「もう………………そんな言い方されたら受けるしかなくなるじゃないですか………………」
「どのみちまた神浜市に赴く事情があるんだ。手伝うと言ったのもあくまでそのついでだ。じゃないとすぐに私の財布の中身が寒くなってしまう。」
「なるほど………………確かに見滝原からだとギリギリ日帰りができる距離ですからね………………でもさやかさん、定期券とか買わないんですか?頻繁に来るんでしたらそっちの方が最終的には安く済むと思いますけど。」
「定期券か………………」
いろはの言葉に目から鱗が落ちるというように呆けた顔を見せるさやかであった。
「………………で、なんであたしが駆り出されているんだ?」
「なんでって………………調整を受けたいから神浜市へ行くのではないのか?」
「そりゃそうだけど、流石にそれとこれじゃあ話が違いすぎる。」
次の日、今度はいろはの引っ越し手伝いのために宝崎市にやってきたさやか。その隣で同伴していた杏子はしれっと自分が手伝いに駆り出されていることに不服気に眉をひそめた目線をさやかに向けるが、さやかは別に変わらないだろうというように首をかしげる。
「そうか?というより、私個人としては君がいたことに驚いているのだが………………てっきりあのあとそっちの方で別れたものだとばかり………………」
むしろさやかは別のことに気が向いていたようだった。少々困惑気に杏子から少し目線を外した先にいるのは、フクロウ幸運水のウワサとの戦闘で共にしたフェリシアがいた。
「んん?オレのことか?まぁ、オレもホントはあそこで別れるつもりだったんだけどさ………………」
「コイツがあたしとおんなじ根無し草な生き方やってるって言ったら途端にマミの奴がコイツのこと心配しやがってさ………………なぜかあたしごとマミの家で泊まる羽目になった。」
「そうか………………まぁ心配する彼女の気持ちも十分にわかるが………………」
微妙な表情を浮かべながら後頭部に手を回す杏子の様子にまんざらでもなかったのだろうとはさやかは思ったが、それを口にすることはせずに杏子に同情するような言葉を並べた。
「ま、オレは寝れるのならどこでもよかったけどな!!」
「……………だそうだ。本人がそう言っているのだから、杏子が気にする必要はないだろう。」
「は、ハァ!?あたしがいつコイツのこと気にかけてるって言ったよ!?」
「……………違うのか?」
杏子がフェリシアのことを気にかけていると思い、それについて言及してみると、途端に杏子は顔を上気させて、さやかを捲し立てるような剣幕でそれを否定してくる。
その反応にさやかは僅かに驚いた表情を見せながら駅の改札口を通る。
ちなみに杏子とフェリシアの切符代はマミ持ちである。流石に毎回さやかが払っていたことを気にかけていたようだ。
「さやかさん!」
改札口を出たところでいろはの声が聞こえてくる。その声が聞こえてきた方向を三人が振り向くとこちらに向かって駆け寄ってくるいろはの姿が目に映る。そのいろはにさやかは手を振って彼女を出迎える。
「おー、いろは、だったけか?確かあたしらが初めて神浜市に来た時以来か。まさか引っ越しの手伝いに駆り出されるとは思いもよらなかったけどな。佐倉杏子だ。」
「佐倉さん…………あの時の赤い槍を持っていた魔法少女ですよね?」
「そうそう。よく覚えてんな。ほんの少ししか顔合わせしてなかったってのに。」
「さ、流石にほむらさん達と三人でさやかさんに後ろから飛び蹴りをしたのは記憶に焼き付きますからね……………」
「アッハハハハハ!!なんだそりゃあ!!やっぱさやかはめっちゃ面白い奴だな!!!」
杏子が自分のことを覚えていてくれたことに目を丸くして見直したような表情を見せるといろはが気まずい様子でその理由を語った。
そのさやかの自業自得な災難にフェリシアは腹を抱えて大笑いした。
「あの…………それでこの子は?」
「彼女は深月フェリシア。私達と同じ魔法少女で傭兵稼業をしているらしい。今回はこちらの偶然が色々重なって一緒にいる。」
「傭兵稼業……………」
さやかの紹介にいろはは思わずフェリシアを珍しいものでも見るかのような目で彼女を見つめる。傭兵という概念そのものがいろはにとっては聞きなれないことなのだろう。幸いフェリシアがツボに入ったのか大笑いをしており、そのいろはの目線が彼女の目につくことはなかったようだ。
「まぁ、だいぶ素行が荒いところがあるのは否めないから第一印象はすこぶる悪いと思うが、そこを超えてしまえば根っこのところが善良な子だ。」
「そ、そうですか………………私には結構わんぱくっていうか、わがままな子に見えますけど………………」
人の珍事を聞かされてそれを茶化すように大笑いを浮かべるフェリシアにさやかの紹介の通り少しばかり悪い印象を覚えるいろは。しかし、当の本人であるさやかがフェリシアの様子に角を立てず、穏やかな様子でいることからなんとか微妙な表情に抑える
「それは彼女がただ純粋なだけだろう。ここで言うのもなんだが、彼女は既に両親を魔女に殺されて天涯孤独の身らしい。つまるところ、彼女はそういった心的な教育を受けられなかった子供みたいなものだ。」
「そ、それは 」
さやかからフェリシアの過去を聞かされたいろはは驚愕したように目を見開くと、視線を下に下げて悲しそうな表情を見せる。
「………………彼女のこと、知ってみれば少しくらいは印象は変わってこないか?」
そのさやかの問いかけにいろはは小さく頷いた。それにさやかは満足したのかわずかな笑みを見せた。
「私たちもまだ十分に子供の範疇だがな。」
「あ、あははは………………」
フェリシアのことを子供といったのに、付け足すように自分たちもまだまだ子供だといって取り繕っているようなさやかの様子にいろははやっぱりこの人は精神年齢が少なくとも齢二十は超えているのではないだろうかと思ってしまういろはだった。
顔合わせをしたあとはいろはの先導で彼女の自宅へと向かう。高層マンションに蔦が生い茂っていたりと、どことなく退廃的な空気が漂っている宝崎の街並みに杏子とフェリシアは体になじむのかそれほどまでに見慣れない場所に訪れたような反応はなかった。
しばらく歩いてようやく彼女の自宅に到着すると、すぐさま作業に取り掛かる。元々いろはの部屋がすっきりと整理整頓されており、無駄なものが少なかったのが幸いしたのか、作業自体はスムーズに進んでいく。
「んおーい、いろはー。これはこっちの段ボールに詰めちまっていいのかー?」
「えっと………………はい!!そっちの箱で大丈夫!!」
フェリシアが荷物のまとめ先を聞いてくる声にいろはがそう返す。一緒に作業をしている間に心の壁のようなものが取り払われたのか、普通の会話程度なら造作もない辺りまで進展していた。
「そういや業者には頼まねぇって話だったけど、持ってく手段はどうすんだよ。」
「近くのコンビニだ。最近のは軽い荷物程度なら発送の時のやり取りを請け負ってくれる店舗が多いからな。」
杏子から荷物の運搬方法を聞かれると、さやかはコンビニと答えながら昨今のコンビニの利便性を語る。情報に疎い杏子とフェリシア、そういったシステム面などに苦手意識のあるいろは、少々事情は違えども三人は同じような関心したような声を挙げる。
「とりあえず荷造りが済んだのならさっさと送る準備をするとしよう。送ったときの時間が早ければ最速で明日には届くはずだからな。」
「すみません、わざわざ手伝ってくれて………………」
「いや、あたしと
向かった先のコンビニで荷物を送る手続きを済ませたいろはは店先で引っ越しを手伝ってくれた礼を述べる。それに杏子は巻き込まれたクチだから礼はいらないというように首を横に振る。それに同意するようにフェリシアも頷いた。
「そうですか………………そういえば、さやかさんたちは何か神浜市へ用があるっていってましたけど、またウワサ関連ですか?」
「いや、今回は杏子のソウルジェムを調整してもらうためだ。」
「ほむらとマミは先にやってもらってたけど、あたしはそん時は別行動中だったからな。」
「なるほど……………なら、またお会いした時にはお礼、させてくださいね。」
「だからお礼なんか別にいいって言ったんだけどさ…………だったら言い出しっぺのさやかにしてくれよな。」
「あ、だったらオレは今度何かうまいもんくれるんならいいぜ!!いろはがさやかの知り合いってんなら金も1000円から500円に安くしておくし。」
さやかと杏子の言葉にいろはが納得する様子を見せ、お礼をさせて欲しいというと杏子はそのお礼をさやかにだけしてほしいという。
「そうですか……………まぁ、フェリシアさんのは素直にありがたいと思っておくとして…………でしたらさやかさんは何かありますか?」
「私か…………?いや、特にはないな。されるにしてもそっちの好きにしてくれというのが本音だ。」
話を自身に振られたさやかだが、僅かに考える素振りを見せたが、それもすぐに戻すと首を横に振りながら特に要望のようなものはないと答えた。
その返答をされたいろははどことなく難しい表情を見せる。やはり彼女としては何かしら礼をしておかないと気が済まない性分なのだろう。
とはいえさやかの方も何かあれやこれをしてほしいという要望も思いつかなかった。
「…………うん、ならこうしましょうか。」
うやむやにするのもどうかと思い、互いに着地点を見つけようとしたところにいろはが妙案が思いついたのかそう言った。
「さやかさん、とっても強いですよね。魔法少女としても、人としても。」
「…………突然どうした?」
何か提案が出てくるのかと思えば、突然いろはから賞賛の声が送られ、さやかはむず痒い思いを感じながらそう聞き返した。
「だから、私もっと強くなります!!さやかさんの隣に立っても足手纏いにならないように!!強くなって、いつかさやかさんが危ない目に遭いそうになった時に助けられるように!!」
「ハハッ、中々どでかいこと言うじゃねぇかよ。」
いろはの宣誓のような言葉に杏子は呆れたような物言いながらも表情は感心したように腕を組んで笑みを見せる。
当のさやかは口を丸くして驚いたまま固まっていたが、少ししていろはの言葉を飲み込めたのか度合いこそ僅かなものだが、杏子と同じような、それに期待のこもった笑みを見せる。
「……………ああ、楽しみにしている。でもお前の妹のことを最優先にしてやってくれ。」
「それはもちろん!!」
付け加えるようなさやかの指摘にいろはは両腕でやる気に満ち溢れたガッツポーズを見せるのだった。
(……………隠しているようで申し訳ないが、まだ私には他人には見せていない戦うための手段や切り札が残っていると言うのは、流石に彼女のやる気を削ぐようで失礼に値するか。)
笑みを浮かべている裏でいつも全力を出しているが、まだまだ使っていない
次回からは、神浜市の魔法少女たちとの出来事を書いていくつもり。
でも最近予定が立て込んでいるからいつ書けるかはわからない…………
Oh my gods
マギレコ世界にさっさんを武力介入させるのは……………
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ガンダムだ
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ガンダムではない