ほむら「美樹さやーー「私がガンダムだ」はぁ?」 作:わんたんめん
電波塔に巣食っていた魔女を討伐したさやか、いろは、かこ、このみ。
予想外の難敵に一息ついたところにいろはの留守電を聞きつけて電波塔に駆けつけてきたやちよ、フェリシア、鶴野のみかづき荘の面々と合流する。
「貴方…‥‥どうしてこんなところに?それにあまり見ない顔ぶれがいるようだけど。」
「花を見繕ってもらう予定だったんだ。入院中の知り合いのためのな。そのつもりだったのだが、何やらきな臭いことになっているらしくてな、たまたまいろはに電話をしたらウワサが根城にしているかもしれない電波塔にいると聞いてすっ飛んできた。二人は同行を願い出てくれたのと、たまたまその紹介で向かった花屋の店員…‥いや手伝いだったか?」
「おお!!かこじゃねぇか。元気してっか?」
「フェ、フェリシアちゃんも元気そうで何よりでよかった。」
驚いた表情を見せながら事の顛末を聞いてくるやちよにさやかは乾いた笑みを見せながら応対している間に知り合いであったフェリシアとかこは和気あいあいとした様子で談笑を始めていた。
(この際だからアンタにだけ伝えるが、最近秋野かえでの様子がおかしいらしい。なにやらふさぎ込んでいるようだが…‥‥もしかしたら悪い形で魔法少女の秘密を知ってしまった可能性がある。)
(彼女が?ももこやいつも一緒にいるあの子はどうしたのよ?)
(ももこに関してはわからない。だがレナも詳細を知らないのか、どうせいつもの喧嘩だと思っているのか時間が経てば元通りになると考えているらしい。もっとも、その対応も彼女自身にも本気で心当たりがない初めての展開で困惑しきって心が追い付いていないことの表れだと思うが。)
(‥‥‥‥わかったわ。私の方からももこにそれとなく聞いてみる。)
(頼む。最悪のパターンも考えられる。)
念話でかえでに関することをやちよに伝えるさやか。さやかの言う最悪のパターンとはかえでを接点にして他の二人がマギウスの翼に引き込まれることだ。戦力の全貌が未だわからないマギウスの翼相手に明確な味方ともいえるももこたち三人が引き込まれるのは正直に言って避けたいところであった。
それもわかっているのかやちよも渋い表情を見せていた。
「そういえばいろは、結局ここにいたのは魔女だったのだがいろはは何を根拠にここをウワサが根城にしていると思ったんだ?」
「それはですね…‥‥‥」
思えばいろははレナからのウワサに関する情報提供を得たあとにこの電波塔をウワサの居城とみなして単身ながらにここに来た。結果待ち受けていたのが魔女ではあったが、それだけの何かしらの根拠をもってここに来たことに変わりはない。
「確か、メールがどうとか留守電で言っていなかったっけ?」
「メール?」
鶴野の言葉にさやかが首を捻っているといろはが携帯の画面を指差しながら『これです』と見せてくれる。
そこにはいろは宛に送られてきた送り主のわからないメッセージがあった。そこには何やら英文をそのまま機械で翻訳したようなお堅い文章が添付されていたが、そこにはいくつかのキーワードとも呼べるような単語が散りばめられていた。
『私が監禁している』
『助けてほしい』
『双葉さな』
『貴方は魔法少女ですか?』
いろはから見せてもらったメッセージでさやかが気になったものはこれらの単語だ。上の三つは合わせて監禁状態にある双葉さなという人物の救出を願う文言だと推測できる。だが一体だれが、何のためにこのメッセージをいろはに送り付けた。そしてこの存在はどこで魔法少女のことを聞き及んだ。
「…‥‥‥一言で言ってしまえば怪しいに限るメッセージだ。魔法少女の単語が出されていることは気にはなるが‥‥‥いろははこれがウワサと、それもひとりぼっちの最果てと関係したものだと?」
「これだけだと私もただの怪しいメールだと思っていたんですけど…‥‥鶴野ちゃんから聞いた別の噂と照らし合わせたら、もしかしてと思って‥‥‥‥」
「わたしがいろはちゃんに教えたウワサって…‥‥電波少女のウワサのこと?」
「電波少女のウワサ‥‥‥‥確か、中央区の電波塔のふもとで携帯に耳をあてると助けを求めているような人の声が聞こえてくるって奴だったわね。」
いろはの言葉に鶴野がいったん驚いた表情を見せるが、やちよが懐からお手製の神浜ウワサファイルを取り出しながらウワサについての概略をさらりとまとめたものを語る。
そのウワサというより一種の怪談や都市伝説とも呼べるような内容にウワサにかかわるのが初めてのこのみとかこはひきっつらの笑みを浮かべていた。
「監禁…‥助けを求める人の声‥‥‥‥中央区の電波塔…‥‥‥そういうことか。だが…‥‥‥となるとこのメッセージの送り主は…‥‥‥ウワサ自身からのSOS、ということになるのか?」
「待って、貴方それはさすがに…‥‥‥!!」
電波少女のウワサの概要といろはの携帯に送り付けられたメッセージから両方の関連性を見出し、このメッセージの送り主をウワサ自身であると推測するさやかにありえないとでもいうような驚愕した表情でやちよが待ったをかける。
「突飛な考えであることは百も承知だ。だが私たちはひとりぼっちの最果てのウワサ、その内容の情報を得ていない。貴方のそのファイルの中にはないのか?結論を出すのは、そこからでも遅くはない。」
「…‥‥‥それもそうね。」
さやかの言葉に納得した様子を見せながらやちよは再びウワサファイルのページをめくり始める。
「いろは。場合によってはそのメッセージに対して返信を行うことも考えられる。あまり気が進まないとは思うのだが‥‥‥」
「いえ、大丈夫です。私もさやかさんと同じような考えではいましたから。でも、実を言うと私が電波塔に足を運んだ時、聞いていたことと違うことが起きたんです。」
「違うこと?それは一体なんだ?」
いろはの言葉に安心したように穏やかな表情を向けるさやかだったが、その直後に聞かされたことに眉を顰める。
「電波塔に着いた時、ウワサにならって携帯に耳をあててその電波少女と呼ばれている人の声を聞こうとしたんです。そしたら助けを求める声じゃなくて、笑っている声が聞こえたんです。それも楽しそうに…‥‥」
「どういうこと‥‥‥?わたしが聞いたウワサだと助けてとか、そういう感じのものだって言っていたのに‥‥‥?」
「仮にその電波少女のウワサとそのひとりぼっちの最果てのウワサが同じものだとすると…‥‥楽しそうということはそこから出たくはないのでしょうか?もしくはそのウワサと仲睦まじくにしているとかも考えられますが‥‥‥‥‥ウワサに関わりだしてまだ新米もいいところなので大したことも言えませんが…‥‥」
「まぁ‥‥‥‥‥そういうことになってくるだろうな。」
聞いていたウワサの内容が違う状況が起こっていることに困惑気にする鶴野にかこが気が引きがちに自分の推測を述べ、さやかも同意見だというように同調の意志を示す。
「…‥‥どうしてなんでしょう…‥‥」
「それは…‥‥実際に会ってみなければわからないだろう。この双葉さなという人物にな。」
「話しているところ悪いけど、あったわよ。ひとりぼっちの最果てについての記事。我ながらよくスクラップにしていたわね。」
神妙な面持ちを浮かべるいろはにさやかが肩を竦ませながら腕を組んでいるところに目的のスクラップを発見できたのかやちよが戻ってくる。しかし、その表情は見つけたという割にはいまいち芳しくない。どうやら得られる情報自体は少なそうだ。
「中央区の電波塔から飛び降りるとひとりぼっちの最果てに行けるらしいわよ。それだけね。」
「意外と重要そうな部分を引っこ抜けたな。その様子だといまいち振るわなかったように見えたのだが‥‥‥‥」
「全くもってその通りよ。行き方だけ知ったところでどうしようもないでしょう…‥‥」
さやかの言葉にやちよはため息をつきながら首を横に振ってこのままウワサに臨むのは危険だという。ならばやはり‥‥‥‥
「いろは、やはりやってみるしかなさそうだ。」
「‥‥‥‥わかりました。」
「待ちなさい。流石にやるにしてももう少し落ち着ける場所でやりましょう。ここは基本、部外者は立ち入るべきではないスペースなんだから。」
やちよの指摘に全員の表情が口をポカーンと開いた素っ頓狂なものに変わる。今いる場所が本当は立ち入り禁止なスペースであることを思い出した一行はとりあえず降りてどこかやちよの言う通りに落ち着いて話ができる場所を探しに行くのだった。
「そういえば貴方。あの二人にはどこまで話したの?」
その道すがら、突然さやかにそんなことを聞いてくるやちよ。一瞬なんのことかと思ったが、彼女の目線を追ってみるとそれが誰のことを指しているのかすぐにわかった。フェリシアがはしゃいでいる様子に苦笑いを見せているかこと、いろはや鶴野といった初めて会う魔法少女たちと談笑をしているこのみの姿があった。
「まだウワサのことしか話していない。あとは秋野かえでがウワサの被害にあったことがあることくらいか。マギウスの翼に関してはこれから話すつもりだ。」
「そう‥‥‥‥」
自分から聞いておきながらすぐに興味が失せたような言い方にさやかは少しばかりムッとした表情を見せながらやちよの方に顔を向けるとそこにはどこか不満というべきか、どことなく思い詰めているような様子のやちよの顔があった。
(…‥‥思えば、彼女は最初からウワサに対する危機感を持ち合わせていた。彼女ほどの魔法少女としての名が知れているのならそれとなりに警戒を促すことができる気がするのだが‥‥‥)
ふとさやかはやちよの横顔を見ながらそんなことを思いつく。やちよは神浜市では西側の代表と呼ばれるほどの実力者。西側ということは東側にもそう呼ばれるほどの人物がいることなんだろうが‥‥‥
それはさておき、やちよほどの人物であれば、元々ウワサに対する警戒感から地域の魔法少女に対する注意喚起を行うことも難しい話ではないはずだ。しかし、彼女はそうせずにたった一人で周囲にウワサの存在を語ることすらせずに戦っていた。聡明な印象をうけるななかのグループにもいるかこすらもその存在を知らなかったのだ。
その口の堅さといえばいいのだろうが、ともかく計り知れない。
だが逆に疑問に思うこともある。彼女はなぜ他の魔法少女に協力を仰ごうとしない?
魔法少女や一般人の区別なく人々を襲うウワサの存在、魔法少女の解放、そしてマギウスの翼。まだ他の魔法少女たちには知らせていないがすでに個人ですませられる範疇を優に越している。それにも関わらず、やちよはももこたちを始めとするごく少数の人間以外にその話をしていない。
単純に他人に話したところで信じてもらえないからと言われればそれまでだと言うこともできなくもないが、さやかの直感がどうにもそれだけではない気がすることを感じ取っていた。
(なんというか…‥‥どうにも彼女の近くにはだれかいる気配がある‥‥‥‥一人‥‥いや二人くらいか?といってもこんな感じに彼女の隣に立ってないとわからないくらい希薄なものだ。だが、不思議と不快感は感じない。害する気はないということなんだろうが…‥‥よくテレビとかでいわれる背後霊とかそういう類なのか?)
やちよの周囲から感じる何かの気配にさやかはいぶかし気な表情をしながら首をかしげる。が、おいそれとそれについて聞くのもなんだか憚られるようなものを同時に感じ取る。
「なぁ、少し聞きたいことがあるのだがいいだろうか?歩きながらで構わない。」
「…‥‥なにかしら?」
「一応貴方にはまだ実感がわかないかもしれないが、マギウスの翼にはかなりの勢力が集まっていると思われる。そしてそれに連なるウワサによる被害もこの先かなり規模が大きくなってしまう危険性もある。」
「ええ…‥‥マギウスの翼はともかくウワサは貴方の言う通り、そうなる可能性はあると思うわ。」
「今のところマギウスの翼のやり方に反抗している勢力はほぼこの場にいる全員しかいない。向こうと比べるとあきらかに戦力不足であるのは否めないのだが、そこのところはどう思っている?」
代わりにさやかはウワサに対する危機感やマギウスの翼の存在を以前から知っていたにも関わらず、それを周囲の魔法少女に知らせずにひた隠しにしていたことを若干遠回し気味に尋ねる。
「そうね…‥‥おおむねはわかってはいるわ。」
「ならなぜ周囲にその存在を知らせるようなことをしない?私たちの行動だけを見て、それに周りが賛同してくれる。そんな都合のいい展開が起きるほど、現実が甘くないのは貴方だってわかっていることでは?」
「‥‥‥‥遅かれ早かれ、その必要性は出てくるでしょうね。」
やちよ自身、マギウスの翼に対する戦力が決定的に足りていないのはわかっている様子だ。しかし、それにも関わらず周りにマギウスの翼の存在を知らそうとしないやちよにさやかは眉を顰める。
だったらと何か一言申したかったさやかだが、そのことを口を開こうとしたところでやちよの「でも」という言葉に遮られる。
「教えたところで、他のみんながそれを知ってしまったときにどうなるかは察しのいいあなたなら想像するに容易いでしょう?」
「‥‥‥‥‥‥否定はしない。十分に考えられることだ。」
やちよの言葉にため息を吐くように肩を上下させるさやか。どうやっても泥のようにへばりついてくるソウルジェムに秘せられた真実。それを伝えたとき、一体どれくらいの魔法少女が自分たちの味方でいてくれてくれるだろうか?
正直言ってさやかもわずかな時間だけでも仲間として足を並べた人物にその刃を向けることは避けたいのが心情だ。
「私もわかっていないわけじゃないわ。でも中には知らない方がよかったことだなんて生きていく上じゃあいくらでもあるでしょ?」
「…‥‥‥‥確かにその通りだ。ならばなぜ、貴方はいろはたちを仲間として彼女たちを受け入れている?」
「ッ‥‥‥‥‥‥」
「私の仲間‥‥‥ほむらや杏子、そしてマミ先輩はみんなその事実を知ったうえで、その救済が間違っているとしてマギウスの翼に対抗している。だが、それに対していろはやフェリシア、そして由比鶴野、まぁ彼女に関しては私の推論だから真偽はさておき、あの三人はそれを知らない。」
さやかの問いかけにやちよはわずかに表情を歪ませるが、知ってか知らずかさやかはそれについて指摘することはせずにやちよに話を続ける。
「貴方は彼女たちを一体どうしたいんだ?共に真実を共有した仲間でいてほしいのか?そうであるのならば私は最低限彼女ら三人には話した方が賢明だとは感じるが。」
それだけ言うと、さやかはやちよの答えを待たずに先を行くいろはたちの後を追うように歩き去る。
「‥‥‥‥夏目かこと春名このみにはウワサの存在しか話さないことにする。もっとも、二人をつなぎ役にしてウワサの存在を神浜市の魔法少女に認知させることぐらいはお願いしたいとは思っているが…‥‥‥貴方が知っているかは知らないが聡明な常盤ななかなら動いてくれるかもしれないからな。」
わずかに足を止めながらやちよの方を視ずに言葉を残す。さやかが歩き去ったあとにやちよは険しい表情を浮かべていた。
「…‥‥‥あの子たちは、ただの助手よ。それ以上でもそれ以下でもないわ。決して、仲間だとは思っていないわ…‥‥‥」
思わずこぼれたようなその声はどこか悲壮感をにじませるものだった。
ふへ、ふへへ…‥次回は絶対あのルー語を話す芸術家のその鼻っ柱へしおって涙目か発狂させてやるぅ‥‥‥!!
マギレコ世界にさっさんを武力介入させるのは……………
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ガンダムだ
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ガンダムではない