ほむら「美樹さやーー「私がガンダムだ」はぁ?」 作:わんたんめん
「すまない、待たせたか?」
「おせぇぞさやか!!待ちくたびれるところだったぞ!!」
店に入り、先に席に就いていたいろはたちの姿を見つけると待ちくたびれたのかフェリシアから急かす声がかけられる。
その声に困ったような笑みを見せながら彼女らの元へ向かうと4人用の座席のテーブルに三つ椅子を無理矢理足し加え、セッティングされている光景が目に入る。
「あれ、やちよさんは?」
「すぐ来るはずだが…‥‥」
やちよがまだ来ていないことに気づいたいろはがちょうど座ったさやかにそのことを聞くと同時に店の扉が開き、遅れてやちよが現れる。
「ごめんなさい、少し遅れたわね。」
遅れていたやちよだが、ほかのみんながそれを咎めるような気配は微塵もなく彼女を出迎えると注文した適当な飲み物が全員の手に回ったところでその視線がテーブルの上に置かれたいろはの携帯に注がれる。
「そ、それじゃあ、返信します…‥ね?」
「仮になにかあったとしてもこの人数ならどうにかなるだろう。」
不安そうな表情を見せるいろはにさやかがどうとでもないというようないつも通りの様子で携帯の画面を見つめる。その様子にいろははいくらか安心感を感じたのか安堵したように胸をなでおろした。
「というかこのメール、ウワサからのものなんでしょうか?一見すると本当に迷惑メールにしか見えないんですけど…‥‥」
「このみちゃんの言う通り、私にもそうにしか見えないのは正直なところではありますけど、流石に魔法少女の単語が文章に出されているからには無視を決め込むのには難しいところです。」
「仮に本当にウワサからのメールなのであれば、わざわざ向こうから連絡を取ろうとしてくること自体怪しいのもあるわね。」
このみやかこ、そしてウワサに関しての第一人者でもあるやちよから思い思いの言葉をかける。しかし、それらも結局はこのメールに返信をしてからでないとなにも意味をなすことはない。
いろんな意見が飛び交う中だが、いろははいよいよ意を決した表情で携帯を操作するとウワサが送り主と思われるメールに返信のメールを返した。
『あなたは一体誰ですか?』
満を持して送られた返信のメール。その反応は直後に鳴り響いた携帯のコール音で示される。表示される連絡相手の名前は当然の如く非通知電話。
想像以上に速い返答に目を見開いたり、びっくりした声を挙げながら椅子から飛び跳ねそうになったりとだがその場にいる全員が驚愕の表情に満ち溢れる。
「いろは」
「あ…は、はい!!」
一番に冷静さを取り戻したさやかの声で我に返ったいろはが慌てた様子ながらに携帯を通話状態にし、他のみんなに聞こえるようにスピーカー設定で相手の声を待つ。
しかし少し待っても向こうからの声はない。怪訝そうな表情をしたさやかといろはが顔を見合わせると、しびれを切らしたさやかが口火を開いた。
「そちらがだんまりを貫くのならこちらから行かせてもらう。お前がひとりぼっちの最果てのウワサか?」
「うわー、物怖じすることなくストレートに聞いちゃったよこの子。」
『はい、その通りです。ひとりぼっちの最果てのウワサ。個体名をアイといいます。』
「驚いたわね…‥‥‥まさか会話までできるなんて。」
鶴乃が苦笑いを浮かべていると、電話口から聞こえてくる声。その声は人のものではあるものの、響いてくる声は編集でもされたようにわずかにノイズがかった機械的なものであった。しかし、会話ができるほどの自我を持ち合わせているウワサというのはやちよにとっても前例がないのか、その証拠に驚きに満ちた表情を見せていた。
「あの‥‥‥‥どうして私とメールで連絡を取ろうとしたんですか?私は─────」
『知っています。あなた方がウワサを倒して回っていることは神浜中の電波を受信している私の認識の内にあります。』
「こちらの状況は理解しているということか。ならばこそ疑問が湧くのだが、お前が監禁しているはずの双葉さなの救出をなぜ望んだ?」
さやかがそう問うと、ひとりぼっちの最果てのウワサ────もとい『アイ』は二葉さなが自身の元に来るまでと、来てからの過ごした様子を簡略的ながらも話し始める。
日付はおよそ3週間から一か月ほど前、『アイ』のいるウワサの領域内に一人の魔法少女が足を踏み入れた。そこには既に別の人間がいたが定められたシステムにのっとり、先住民であったその人間は出口が開くとそれまで閉鎖的な空間にした心理的な不安からなのか、新しく侵入してきた相手の顔を一瞥もすることなく、一目散に出口から逃げかえっていった。
『‥‥‥‥‥‥』
脱出した人間にはまるで興味すらなくなった様子で入り込んできた魔法少女を見下ろす。ほどなくして気が付いたのかその少女は目を覚ました身体を起こす。これまでの記録からここにやってきた人間たちは自分を見るなり揃いも揃ってすぐに『逃げたい』だの『帰りたい』と同じことを譫言のように繰り返すだけだった。
どうせこの目の前にいる魔法少女もそこらにいる人間たちと同じように恐怖に満ちた目線で自分のことを見つめるのだろう。
『誰からも必要とされていないわたしには、ここが一番ふさわしい場所だから。』
でも彼女は、さなは違った。彼女自身以外生物がまさに皆無といっても差し支えなかったこの場所を気に入り、あろうことかその時まで名前のなかった自分に『アイ』という個体名をくれた。
そして彼女はここで時を過ごし始めた。はじめは彼女の見せる笑顔が作り物であり、時間が経てばそのうち帰りたくなるのだろうと思い始めた。
だが蓋を開いてみれば、彼女のこの電脳の空間がふさわしいという言葉はうそ偽りではなく、時間が経った今でも彼女の表情に暗い影が落ちることはなかった。投影した様々な風景やAIである自分と勝てるはずのないチェスを、それら全てを彼女は心の底から楽しんでいるように見えた。あるとすれば、本来であれば入り込んできた人間を閉じ込める立場であるはずの自分がさなに帰らなくていいのかと聞いてしまったときくらいのものだった。
なぜそのような質問をしたのかは今の自分に理解はできない。
だがいつも笑顔でいるはずの彼女の表情に影がかかった顔を見たときに私は言いようもない感覚に襲われた。
さなのそのような物憂い気味な表情を見ることに嫌悪と似たような感覚を覚えると同時に彼女はここにいるべきではないと思えるようになった。
『お願いです。私の元からさなを連れ出してください。私ではそれを成すことはできません。それができるほどの機能性はありません。お願いします。』
『私の代わりにさなを必要としてあげてください。お願いします。』
電話越しからでも十分にその心打ちを感じることができる『アイ』の頼みにさやかたちは顔を見合わせるとそろってなんとも言い難い、難しい表情を浮かべていた。突然そんなお願いごとをされてもというような困惑気な顔を見せているのが大半のなか、さやかとやちよの二人はその頼み事を難しくしている部分を理解していた。
推察の上でしかないが、『アイ』の元から連れ出されることを二葉さな自身が望んでいる可能性は低いだろう、ということだった。
自らの居場所をそこであると認識し、話の聞いている限りウワサの領域内に居続けることを苦痛であると感じているようには見られない以上、こちらが救出に向かったところで素直に応じてくれるとは思えなかった。
(それでも彼女の救出を望むということは、よほどのことがそこにはあるということなのか?)
「そちらの頼みに関して答えを出す前に一つ聞きたいことがある。双葉さながお前の元に居続けると、何か悪影響のようなものはあるのか?」
さやかは『アイ』からの頼みごとに対しての是非を判断する前にそう尋ねた。
『それは不明です。もっと正確に言えば何をするかわからないといった具合が一番適切であると思われます。』
「それは…‥‥‥お前自身が二葉さなを手にかけるという意味か?」
『誓って、そのような行いをさなにすることはありません。私自身、さなのことを人間でいう大切な友人であると認識していますので。』
『アイ』からの答えにさやかは考え込む表情を見せながら座っている椅子の背もたれに寄りかかる。大方予想はついていたが、このウワサの背後にもマギウスの翼の存在があるのは明白だ。となると、『アイ』が危惧している双葉さなに降りかかる悪影響というのがマギウスの翼によるものである可能性が高い。
「…‥‥‥‥わかりました。」
どうしようかと考えている中、承諾するような声が響く。思わず全員の目がその声を発したであろう人物に向けられる。
「いろは…‥‥‥それは本気か?」
心配するような声でさやかがそう言った先にはいろはの姿があった。
「‥‥‥‥本気です。」
「…‥‥正直に言うが、この二葉さなという人物が救出を望んでいない可能性もある。もしかしたら拒絶だってされてしまうこともあるだろう。それでも、やるのか?」
「そうね。こればかりは彼女の言う通りだと思うわ。環さん、どうするの?」
「やちよさんやさやかさんの言うこともわかります。でも私は、助けられるなら助けたいです‥‥‥‥‥!!」
そう語るいろはの表情は決意に満ち溢れたものであった。それもどこか見たことのあるような、既視感を覚える表情。さやかはいろはのそれを見てそのような感覚を抱く。
(‥‥‥‥‥そんな気がすると思ったら‥‥‥まどかと似ているのか。)
思い返してみれば、まどかもこういう風に誰かを助けるためには損得感情などを無視して行動を起こそうとする気質だった。そのおかげといっていいのかは定かではないが、そのまどかの行動がきっかけでインキュベーターとめぐりあい、こうして魔法少女としてさまざまな人たちとの交流ができている今がある。
(魔法少女の契約をしてしまったことを後悔にさせないためにも…‥なんとかしてマギウスの翼の救済のための手段の詳細を知らなければな‥‥‥‥‥)
そう考え一度目を伏せたさやかは再びを目を開くと、その目線をいろはの携帯に向ける。
「いろいろ確認しておきたいことがある。こちらがこれから聞く質問には答えてくれるだろうか?」
「え、いいんですか!?」
「いいもなにも、私は懸念こそ口にはしたが、救出すること自体に異を唱えたつもりはないのだが…‥‥‥?」
「…‥‥‥ならはじめからそういってくださいよ…‥‥」
「最低限、それくらいの警告はする必要があると思っていたからな。頭ごなしに物事に賛成を示して従うより、出すべき意見は出した方が結果的にいい方向に運ぶだろうからな。そちらもその腹積もりではいるのだろう?」
「‥‥‥まぁ、行くこと自体に否定をするつもりはないわね。」
話題転換と言わんばかりにやちよにそうはいうさやかだが、微妙にいろはの表情から不服気なものが抜けない。参ったようにわずかにため息を漏らしながらも、いつまでも店内にとどまり続けるわけにはいかないため、さっさと『アイ』にひとりぼっちの最果てについての質問を始めることにした。
「まず根本的なところとしてだが────」
「‥‥‥‥‥おおよそ、ここまで聞ければ十分か。」
しばらく経って聞きたいことは聞き終わったのか背もたれに寄りかかったさやかがそう言葉を零す。
「そうですね…‥‥‥そのひとりぼっちの最果てへの入り方やさやかさんが聞いてくれたおかげで出口についても知ることができましたからね。」
「まぁ、それに関してはウワサの概要を聞かされている時になんとなく気になったからな。ところで今更ながら変な事を聞くが、二人はこの後も私たちと行動を共にするつもりか?」
「へ?ま、まぁそのつもりではありますけど…‥‥‥」
「というか、話の流れ的にてっきり…‥‥」
うまく事を運ぶことができそうだと表情をわずかに緩めているかこだったが、突然のさやかの質問に同じく質問の対象になっていたこのみと一緒にきょとんとした様子で聞いてきたさやかの顔を見つめる。
「確かに私が二人のことを焚きつけるようなことを言ったのもあるが‥‥‥‥‥二人にはこの件とは別のことを頼みたい。」
「別のこと、ですか?」
繰り返すようにつぶやくかこの言葉にさやかは表情を微妙なものにしながらも頷いた。
「正直に言って、『アイ』────彼女はかなり特殊なパターンのウワサだ。こうして対話が可能なほど自意識がはっきりとしていることから双葉さなの救出にはそんなに人数を必要とはしないはずだ。だからその代わりに二人にはウワサの存在とその危険性を、他の魔法少女に知らせてほしいんだ。」
「他の魔法少女に、ですか‥‥‥‥」
このみの言葉に再び無言で頷くさやか。そしてその彼女の目線がやちよに向けられる。はじめは突然視線が向けられたことに少しだけ首をかしげるやちよだったが、やがてさやかの意図を察したのか柔和な笑顔を見せながら二人に語り掛ける。
「そうね、私からもそうしてもらえるとありがたいかしら。見ての通り、こうしてウワサの存在をちゃんとした脅威として知っている人は魔法少女も含めて少ないわ。」
「奴らは魔女と性質や姿が似ているようにも見えるが、アレは本質は別だ。行動パターンも違ければグリーフシードを落とすこともない。戦うことになれば完全に骨折り損だ。」
ふぅ、と困ったようにため息を吐きながらのさやかのと、それに続くやちよの言葉に今度はかこ達が頷く仕草を見せる。
さやかの言う通り、ウワサと戦うことは魔法少女にとっては無駄以外の何物でもない。グリーフシードがなければ行き着く先はソウルジェムが黒く濁り切る以外に存在しない。
「で、でもさやかちゃん達はそれでも戦っている…‥‥それはなんでなの?特にさやかちゃんは、神浜市から離れた見滝原からわざわざ来ているんだよね?」
そのこのみの質問にさやかはまぁ、そうなるなとでも言いたげに納得した表情で頷き、佇まいを直すように椅子に座りなおした。
「‥‥‥‥私たち見滝原の魔法少女はある噂の調査をしている。」
「そのウワサって、どういうウワサなんですか?」
「‥‥‥‥‥すまない、それを教えることはできない。噂は広まってしまってこその噂だからな。下手に巻き込んで大変な目に遭わせてしまってはこちらとして面目も立たないからな。」
少し間が空いたあとに難しい表情を浮かべるさやかの返しに残念そうに顔を俯かせるこのみ。彼女の様子から気になっているようだったが、さやかの言う噂を広まってこそ噂というのにも一理あると感じたのか、それ以上聞き出そうとすることはなかった。
「そういえばさやかさん、さっきの夏目さんと春名さんは一体どういう経緯で知り合ったんですか?」
「‥‥‥‥‥あまり他人の交友関係を根掘り葉掘り聞き出そうとするのは感心しないが‥‥‥‥」
話はまとまり、翌日の夜に再び電波塔の屋上に足を運ぶことになった。
かことこのみの二人は帰る方向が異なるのか早々に別れたところでいろはがさやかに二人との馴れ初めを聞き始めた。
もっとも聞いたいろははさやかから渋い表情で返されたことに驚きながらも申し訳なさそうな表情で頭を下げた。
「まぁ、別に構わないし、いろはも無関係ではないだろうからな。むしろ聞いてほしいところもある。」
「え…‥‥そうなんですか?」
いろはの呆けたような言葉にさやかは静かに頷きながらもかことこのみの二人について語り始める。
「あの二人は‥‥‥‥実は秋野かえでと仲のいい魔法少女なんだ。だが彼女が最近音信不通、というより若干の鬱状態なのは、水波レナから聞かされているはずだ。それで私が所用で二人と顔を合わせたのがきっかけか。」
「さやかさんもレナちゃんから聞かされていたんですか‥‥‥‥!?」
「ああ。もっとも私は、今の彼女のようにあまり楽観視をすることはできていないがな。」
「どういうこと?確かに周りの人と連絡を取ろうとしていないのは何かあったのかな~…‥とは感じるけど‥‥‥‥何か理由でもあるの?」
さやかがかえでの異変を聞いていたことに驚いているところにさやかが険しい表情を見せていると、そこに首をかしげながら鶴野が声をあげる。
「‥‥‥‥‥結論だけを言うと最悪彼女、マギウスの翼に傾倒していってしまうのではないのかと危機感を感じてしまっている。」
険しい表情から飛び出たさやかの言葉にいろはたちは目を見開いて茫然とした様子で発端であるさやかの顔を見つめる。
「ねぇやちよししょー。ケイトウするってどういう意味だったけ?」
「首ったけとか夢中になるとかがあるけど‥‥‥‥一言で言えばかえでが敵になるかもしれないっていうことね。」
「えええええええええええッ!?なぁんでぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」
見知った人物が敵に回ってしまう可能性があるということに、鶴乃は早くも考えることを放棄したのかもう日が沈み、ビルからの光が照らし始めた街中で人目もはばからず絶叫にも似た大声で驚きを露わにしてしまう。
その声の大きさと言えば耳障り以外の何物でもなく、鼓膜が破られるかと思った上に周囲から奇異な目線をもらう羽目になった一同は思い思いのやり方でその原因である鶴乃を止めるなり処すのだった。
最近投稿ペース終わってんなぁ、おい。
マギレコ世界にさっさんを武力介入させるのは……………
-
ガンダムだ
-
ガンダムではない