ほむら「美樹さやーー「私がガンダムだ」はぁ?」   作:わんたんめん

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アリナの口調ムズイんご‥‥‥‥(白目)


第65話  00 RAISER

「ッ‥‥‥‥‥」

 

ビル群からの光が夜空を白く染め上げている中、さやかはGN粒子を出しつつ空を駆ける。しかし、浮かべている表情はお世辞にも良いものとは呼べず、険しいものを見せていた。

 

(さっきから妙な胸騒ぎが止まらない‥‥‥‥イノベイターとしての感覚が何かを示していると思っていいんだろうが…‥‥‥一体なんなんだ?)

 

さやかは思わず心臓の動悸を抑えるように胸元に手を当てるが、その腕にも鳥肌のようなものが浮かび上がっていた。なんとも言えない感覚だが、いうなれば、見た者に恐怖を与える理解できない存在でも見てしまったかのような感覚だ。

 

(いろは…‥‥願うことなら無事でいてほしいものだが‥‥‥‥)

 

『────────────────!!』

 

「!?  今のは‥‥‥‥‥!?」

 

その瞬間、誰かの叫びのような声が響いた。直接頭の中に響いているその声はさやか以外には聞き取ることができない。それは念話という形のもので行われたものではないが、イノベイターとして目覚めつつあるさやかにはその声でない叫びがいろはのものであることを感じ取っていた。

 

「‥‥‥‥‥多少は強引な手段を使うしかないか‥‥‥‥やるしかない‥‥‥!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ‥‥‥‥ハァ‥‥‥!!」

 

電脳空間のような足元に電気信号のような光が駆け巡る空間をいろはは息を切らしながら駆け抜ける。途中で足場が直角に折れ曲がっていて、そのまま壁を垂直走りしている自分がいたような気がするが、ウワサの領域などそんなものだろうと言い聞かせてお構いなしにただひたすらに走る。

そうでもしないと、すぐそこに迫っている狂気に呑まれてしまう。

 

「あっはははははははははは!!もうサイコー!!とってもテリブルでエクセレントなアリナのドッペルッ!!!」

 

ウワサの領域に突然現れた魔法少女は自我を手に入れたアイさんに興味が出たとか言うとその身体から奇抜な発光色の絵具をあふれださせ、そのまま私たちに攻撃を仕掛けてきた。直観的に飲み込まれたらまずいと感じ、その場を飛び退くが、その絵具は濁流のようにウワサの領域内を飲み込み、じわじわと獲物をなぶり殺しにするかのように逃げ場をなくしていく。

 

「ッ‥‥‥‥!!」

 

「フッフフ、アハハハハハッ!!」

 

ともかく何もしないままではやられると思って、発生源であろう魔法少女に矢を放つが、狂気的とも呼べてしまうような声を挙げながら回避されてしまう。なんとも気色の悪いその様子にに思わず表情を顰めてしまう。

 

「あ、貴方は一体誰なんですか!?まさか、マギウスの翼ですかッ!?」

 

たまらず叫ぶようにその魔法少女に問ういろは。さながいろはのことをマギウスの翼の魔法少女と勘違いしていたことからそこにいる魔法少女がマギウスの翼だと勘ぐるが、その魔法少女はどういうわけかさっきまで挙げていた笑い声をピタリと止め、打って変わって不機嫌そうな憮然とした表情で見下ろす位置にいるいろはのことを見つめ始める。

直前まで喧しいほどにハイテンションな様子から突然侮蔑のようなものが入り混じっているそれに一変したことにいろはは困惑してしまう。

 

「翼と一緒にされるとか、不快感がマックスなんですケド。」

 

「あ、あの人はアリナ・グレイ…‥‥‥『マギウス』の一人で、マギウスの翼を束ねている人です…‥‥」

 

「えっ!?『マギウス』って確か…‥‥‥!!」

 

いろははその言葉をやちよから聞かされていた。さやかからの情報提供で入手したモノだが、マギウスの翼には黒羽根・白羽根の他に組織のトップとも呼べる存在、────通称マギウスの御三家がいると。

 

「あの人がトップのうちの一人…‥‥!?」

 

いろはは唖然とした様子でその御三家であるアリナを見つめる。まだ会ったばかりだが、彼女のことを一言で言ってしまえば狂気の一言につきるだろう。とてもではないが、マギウスの翼が掲げている魔法少女の救済をその胸に掲げているとは思えなかった。

 

(でもなんなのこの人‥‥‥‥とてもじゃないけどまともな人には見えない…‥‥!!)

 

『さな、それに環さんは脱出してください。アリナ・グレイに見つかった以上時間の問題でしょう。今でしたら出口は開いているので。』

 

「そ、それはそうですけど…‥‥それじゃあアイさんはどうするんですか!?」

 

『当初の目的と変更はありません。どうか、この場で私を殺してください。』

 

さも当然とした口ぶり、あっけらかんとした様子でアイは変わらずに自身の消滅を願い出る。こうして会話は普通であるのに、元々が機械であることを象徴するかのような発言に思わず二人は尻込みをしてしまう。

 

「どうしても‥‥‥‥どうしてもそうしないとダメなの‥‥‥‥!?わたし、嫌だよ‥‥‥‥アイちゃんと別れるなんてっ‥‥‥‥!!」

 

嗚咽を含んださなの声が響く。目じりから涙を流していることから、やはり無二の友人を手にかけることに抵抗があるのだろう。その声にはどうしても諦めきれない胸中がまざまざと入っていた。

そして、そのさなの願望を否定するかの如くアイは静かに、そしてわずかな笑みを浮かべながら首を横に振った。

 

『それはできません。彼女に‥‥‥アリナ・グレイに私の行為が露見してしまった以上、その存在が許されることはないでしょう。』

 

そういいながらアイは手を振りかざすとアリナの周囲にパソコンのウインドウのようなものを発生させ、彼女を包囲して取り囲む。エラーコードのような文字を表示しているそれに鬱陶しそうに表情を歪める彼女の様子からそのウインドウは身動きを取りずらくさせるものなのだろう。

 

『そしてそれは、さなや環さんにも全く同一のことが言えます。アリナ・グレイの出現という図らずな形にはなりましたが二人の生存のためにはここからの脱出が不可欠です。さらには予測でしか物事を語ることはできませんが、彼女の性格上、私たちを生かすつもりはないでしょう。

そして────』

 

『二人が脱出したときには、私は再び暴走するでしょう。誰かを、またこの牢獄に閉じ込めるその瞬間まで。それがウワサの本能というものですから。』

 

『もう私は、これ以上誰かに危害を加え続けるマギウスの翼の行いに賛同できません。ですからさな、お願いします。私をどうか、消してください。』

 

「アイさん‥‥‥‥‥」

 

アイの様子にいろはは心痛な表情を浮かべることしかできないでいた。これまでにもさなと同じように他の人間をこの空間に閉じ込めてきたのだろう。その人間たちはおそらく電波塔から飛び降りるようなことをしたのだから、大方自殺願望のようなものを持っていたのだろう。

ウワサのことを知っていたからか、もしくは偶然か。その真偽はともかくいざ電波塔から飛び降りてみれば、そこはあの世とかそういった類のものではなく得体のしれない電子生命体と二人っきりの電脳空間。

死にたいとは望んでしまったものの得体のしれない存在と二人っきりの空間で長時間ずっと居続けるというのは精神的につらいものが十分にあるだろう。

おそらく、色々と心ない言葉を浴びせられることもあったのかもしれない。

いろはが鶴野から聞いた電波少女のウワサというのも、この空間に閉じ込められた人間の声が電波としてまき散らされ、それが近くを通った人の携帯に拾われていたというのが真実だろう。

 

「ううっ‥‥‥‥」

 

それでもアイは人に限りなく近い知性を有しながらも決して人間たちに手をあげることはなく、むしろ自身の危険性を案じ、こうして消滅を望んでいることは感嘆に値するだろう。

だが、それでもやはりさなは心底から辛そうな表情を浮かべてその場に蹲っていた。彼女の魔法少女としての武器である人一人が簡単にその影にすっぽりと覆われてしまうほど巨大な盾に寄りかかっている様子から、彼女にとってアイという存在がどれほど大事で、大切な存在であったのだろう。

 

「さなちゃん、今はあの人をどうにかしないと…‥‥」

 

うなだれるさなの肩にいろはが手を置きながらそう声掛ける。視線を上にあげてみればアイの作り出した防護壁の数が少なくなっていることに気が付く。その身から文字通りあふれ出る絵具のドッペルで猛烈な勢いで破壊していることから動けるようになるのは秒読みだろう。

 

「ッ…‥‥‥‥」

 

振るえる足に力を入れて立ち上がる。本当は彼女(アイちゃん)を喪うようなことは嫌だ。本音はもっとそばにいてほしいし、別れたくない。でも別の誰か。それこそ他人を傷つけることを平然と行うような人たちに殺されるのはもっと嫌だ。

そんな胸中でさなは立ち上がる。支えにしている大盾を持つ手に力が入る。

 

「アッハハハハッ!!!二人と一台のAIだけで向かってくるの!!言っておくけど、アリナのドッペルは加減とかくだらないものなんかナシだからネ!」

 

アイの妨害をすべて破壊したアリナは高らかに笑いあげながらいろはたちを見下ろす。加減がないとか言っているが、その表情は明らかにいろはたちをまるで歯牙にもかけないちっぽけな存在とでも見ているようだ。

 

「そんなの‥‥‥やってみなければわかりません!!」

 

「アハッ!!そんな顔がいつまで続くか見ものだヨネ!!その表情が苦痛とテリブルに染まり切ったその時…‥‥‥フフッ、全員そろってアリナのアートにしてあげる!!どうせアリナにとって重要なのはこの空間そのものであってそれ以外はまたクリエイトしちゃえばそれでいいヨネッ!!」

 

「アイちゃんはやらせない…‥‥!!」

 

狂気的な笑みを浮かべ、笑いあげるアリナにさなは大楯の表面を展開すると、開いた穴から無数の鎖を放出する。その鎖の先端はすべて鎌の形状をしており、攻撃性の強い鎖がアリナを取り囲む包囲網となって彼女に襲いかかる。

 

「アハハハハハハハハ♪」

 

その包囲網をアリナはまるで意にも介さない様子で迫る攻撃をひらりとかわすことで脱出する。いろはたちも攻撃を加えようとするが、アリナが吐き出し続けているドッペルの絵具とアリナの手から放たれる誘導弾のような魔力弾の弾幕のせいで思うように攻撃の手を加えることができない。さらには広がり続ける絵具のせいでアイとさなの二人と引き離されてしまった。

 

「さっさと死ぬなりアリナのドッペルに狂わされるなりどっちかにしてよね!!選ぶ自由があるだけ感謝しなさいヨネ!!」

 

(ドッペル…‥‥‥もし私のドッペルなら────)

 

「私の‥‥‥‥ドッペル‥‥‥‥?」

 

ふと何気なく漏らした言葉にいろはは何か引っかかる感覚を覚える。思い返せばアリナが先ほどから声高に言っているドッペルという単語に自分はさほど驚いているような反応をせずに平然と流している。

聞いたことはないはずなのに、妙にすとんと腑に落ちているようなギャップにいろはは少しばかりの困惑を覚える。まるで、自分自身が以前にドッペルを出した経験があるかのような────

 

(あ、そうだ…‥‥思い出した…‥‥‥)

 

脳裏に移りこむのは以前全滅の危機に瀕した水名神社こと口寄せ神社での戦闘。今までは自分が気を失っていた間に駆けつけたさやかが代わりにウワサの本体を倒してくれたものだと思っていた。

しかし、本当は自分が出したドッペルがウワサを惨いほど叩き潰した。そして初めてのそれでまともに制御におくことができなかったことでドッペルが暴走し、一緒に戦っていたはずのやちよと鶴乃を手に賭ける直前でさやかが自身を無理矢理ドッペルから引きはがして正気に戻していたのだった。

 

(私…‥‥なんでそんな大事なことを────)

 

『環さん!!前をよく見て!!』

 

アイの声にハッとするも既にいろはの目の前はドッペルの絵具で覆いつくされていた。戦闘において気を抜くことは許されない。一瞬の気の迷いが自分を殺すことになってしまうこともたくさんある。

その禁忌をいろはは犯した。何かしようにも目の前の極彩色の波に飲み込まれるという光景がいろはの思考回路の働きを鈍くした。

 

「あ────────」

 

目を見開いて茫然とするいろは。どうすることもできない状況に陥ったことにいろはの胸中に絶望の色が浮かび上がる。波のように迫りくる絵具に飲み込まれる、と思った次の瞬間、いろはの視界が一瞬ブレると腰に強烈な痛みが奔った。

 

「あうッ!?」

 

どうやら尻餅をついてしまったらしく、強打した部分をさすっていると、直前まで少し離れた場所にいたはずのアイとさなが自分のそばにいることに気づく。

 

『ここは私の意志一つでさまざまなことができます。人間一人を瞬間的に移動させることも造作も無いことです。ですが、お気をつけて。アリナ・グレイのドッペルは触れられれば忽ち狂気に精神が蝕まれ、人として一貫の終わりです。決して緊張の糸を切らさないように。』

 

「す、すみません。それとありがとうございます。」

 

「ねぇアイちゃん…‥あの人を無理矢理外へ出すことはできないの?」

 

『できるできないかの質問であれば、できます。ですがそれには少しばかり時間がかかります。私自身そのプログラムを実行に移すための時間が必要ですし、そのような時間を彼女が与えてくれることもないでしょう。』

 

さなの提案に難しい表情を見せるアイ。つまり彼女が行動を起こせるまでの時間を稼げば当面の危機を脱することはできるらしい。しかし、今のいろはたちにはそれができるまでの戦力が絶望的に不足している。ドッペルを出現させようにもまだソウルジェムはその輝きを曇らせるほど穢れがたまりきっておらず、ドッペルによる反撃も期待できない。

 

(どうしよう、このままじゃ三人そろってやられる‥‥‥‥)

 

背筋を漂う濃密な死の気配に冷や汗を流すいろは。あの絵具に飲み込まれたら最後、どういう末路になるかは定かではないが、ろくなことにならないのは明白だ。

 

「アイさん、確かマギウスの翼はこの空間に入るためのウワサを別に持っていて、入り口…‥電波塔からのルートからは原則一人しか入れないんですよね?」

 

『はい。残念ながら電波塔からでは一人しか入れません。』

 

アイからの返答に渋い表情を浮かべるいろは。事実上援軍すら見込めない状況。マギウスの翼による妨害はある程度覚悟していたものの組織のトップクラスの魔法少女が来てしまうとは予想外だった。

 

(それだけこの空間には何か隠されているとみるのが正論なんだろうけど‥‥‥‥)

 

死んでしまったら元も子もない。しかし、このまま何もしないでいてもどのみち待っているのは死ぬ未来だけだ。

 

(…‥‥‥‥さやかさん。)

 

浮かび上がる仲間の顔。その中で一番いろはのことを信じてくれているであろう。そしてこの状況を打破してくれそうな人物。とても冷静で思慮深いけど、ときおりやることが突拍子がなかったり、まるで自分の直観に任せているようなところがあってみていてハラハラする人。

でも、それでも‥‥‥誰よりも他人を思いやり、手を差し伸べ、それを届かせる人。

 

(外ではやちよさんたちが待っている。それにさやかさんの仲間のみんなもいる。でもこのままじゃ‥‥‥)

 

 

 

 

 

さやかさん‥‥‥‥‥!!!

 

 

 

 

たまらず心の底で叫び声をあげる。ここに誰も来ることができないのはわかっている。自分やさな、そしてアイ。この少ない人数でまさに暴力の権化といっても過言ではないアリナ・グレイを退ける必要がある。

そして状況はまさに絶体絶命。触れたら終わりの絵具のドッペルに周囲を取り囲まれ、なおかつアリナ自身からの攻撃に晒される。魔法少女とはいえ、どこにでもいる女の子でもある少女の心は絶え間なく続く死の気配に竦みあがっていた。

 

 

────────ダブルオーライザー、目標に向けて飛翔するッ!!!

 

 

「え────」

 

この場にいるはずのない人間の声がいろはの脳に念話のような形で響く。

瞬間、いろはたちから程よく離れた場所の地面からガラスが割れるような破壊音と共に一筋の光が立ち上る。突然の状況に全員の目線が領域に立ち上る一条の光柱に注がれる。

 

『これは…‥‥まさか領域の外からの攻撃!?』

 

「い、一体何が…‥‥!?」

 

解析したアイがこの空間の外からの直接攻撃であることに驚愕の声を挙げ、その光の柱の熱量に気圧され、さなは大盾の影に身をひそめる。

 

「絵具が‥‥‥‥燃えていく…‥‥」

 

地面を覆いつくしていた絵具が光の柱の熱量で燃え、すべてが灰と化して散っていく。領域に現れた光の柱はそれだけではなく、徐々に傾き始め、バキバキと音を立てながら大地を割り、空間そのものを両断していく。

 

「な、なに!?なんなのよ!!意味不明なんですケド!?」

 

それまで笑みしか見せてこなかったアリナの表情に初めて焦りと動揺の色が見えた。傾き続ける光の柱に向けてドッペルの絵具を放つが、柱に届く前に絵具が熱量で発火し、煤となって消えていった。

 

「ッ‥‥‥‥‥ああもうッ!!!」

 

攻撃がろくに通用しないと判断したのか、アリナは吐き捨てるように歪に表情を歪め、逃げるようにこの場を立ち去った。

 

「たす‥‥‥‥かった…‥‥?」

 

『ですが…‥‥あれは一体…‥?』

 

とりあえず窮地は脱したと思ったのかその場にへたりこむさなに未だ傾き続ける光の柱という異物に落ち着かないのか困惑している様子を見せるアイ。

 

「いえ、大丈夫です。あれは…‥‥‥」

 

いろはがそういうと同時に高々とそびえたっていた光の柱が徐々に細くなっていき、最終的に地上と天井に一つずつ、空間にぽっかりと大穴を作って消失した。天井に開いた大穴からは外の風景であろう夜空が写りこんでいた。

そして地上の大穴から、翠色の粒子を輝かせる光が現れる。その光はまるで誰かを探しているかのように辺りを周回するといろはたちに向かって一直線に向かってくる。

 

「いろは!!無事か!?」

 

「さやかさん…‥‥はいッ!!大丈夫です!!」

 

 

 

 

 

 




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