ほむら「美樹さやーー「私がガンダムだ」はぁ?」   作:わんたんめん

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…………途中までこの魔女退治体験コースにキュウべぇがいることを忘れてたわんたんめんなのでした(白目)


第8話 薔薇園の魔女 ゲルトルート

「えっと、あまり、無茶なことはしないでね?」

「ああ、わかっている。あれはたまたま一匹しかいなかったからやっただけだ。集団で来られれば、流石に貴方に任せる。」

「ならいいのだけど………。」

 

前回のさやかがやった使い魔を物理攻撃で吹っ飛ばしたことにマミは微妙な笑みを浮かべながら結界の内部を進んでいく。

もちろん、行手最中にも使い魔がポンポンと姿を現すが、マミが取り出したマスケット銃の前にその身を蝶々のようなエフェクトを散らしながら消滅していくのみであった。

 

「マミさんカッコいい…………!!」

「…………凄いな。あれから一度も外していない。」

「まぁ、ね。伊達に魔法少女を続けていないわ。」

 

まどかやさやかから尊敬の目で見られていることに少々鼻が高くなっているのか、陰湿な空気が漂う結界の中でも和やかな笑みを浮かべるマミ。

彼女のテンションがうなぎ登りになっている間にさやか達一行は魔女の結界を突き進んでいく。

魔女の結界の内部はおよそ、現実とは思えないような、浮いた構造物ばかりで形成されていた。

メンヘルな外見に付け加えられたおぞましささえ感じさせる雰囲気にあてられてしまえば、何も知らない人間は前回のさやかとまどかのように恐怖のあまりまともな行動ができなくなってしまうのが精々だろう。

 

しかし、今回の二人の側にはその空間を広げている元凶である魔女、その専門家であるマミがいる。彼女から感じる安心感は計り知れないだろう。

 

そのマミの先導でこれといった危険はなく、魔女の結界の奥に進んでいく。

その最中、不意にマミが足を止めた。急にマミが歩みを止めたことにさやかとまどかは不思議そうな顔しながらマミの様子を眺める。

 

「…………ここね。」

 

何か当たりをつけたようなマミが一見すると行き止まりのような壁に貼られたポスターのような絵に手を伸ばす。

そのポスターに手が触れると、そのポスターが貼られた壁は扉のように開き、先に道が続いていることを三人を示した。

 

「か、隠し扉か!?」

「魔女の結界というのは魔女が身を隠すために広がる空間なの。だから、身を隠すためにいくらかのギミックが施されてもおかしくはないの。」

 

さやかが驚いた様子でその扉に視線を向けていると、マミが結界についての簡単な説明をしてくれる。その説明に納得しているさやかとまどか。

 

そして、その隠し扉のような壁を三つほど潜り抜けていくと、突然ドームのように開けた空間が現れる。

出た場所がそもそも高い位置だったため、自然と目線を下に下ろすと、緑の丘のような地面には薔薇のような紅い花が咲き乱れていた。その周りにさやかが蹴り飛ばした剪定バサミのようなものを持った使い魔がそれなりの数で蠢いていた。

そして、何より目を見張るのが、その中心にいる()()

 

「あ、あれが、『魔女』…………!?」

 

まどかが無意識にそう言ってしまうのも無理はなかった。その物体は人より何倍もの巨体を有しており、そのピンク色の巨体の脚は無数もの青黒い触手で覆われており、それがウネウネと胎動を続けている。背には蝶々のような羽が生えており、何よりその魔女の頭部と思しき部分は溶けているかのようにドロドロと爛れており、そのドロドロの中から目を表しているのか、紅い薔薇が咲き乱れていた。

 

そのあまりにグロテスクでこの世のものとは思えない存在に、さやかも険しい表情を浮かべながら、冷や汗を流していた。

 

(あれが、『魔女』………なのか?どう見ても化け物か怪物の類に分類される存在ではないのか………!?)

 

さやかは魔女のあまりのインパクトに前提としてあの醜悪な化け物に魔女という呼称自体間違っているのではないかと思ってしまう。少なくとも、あの醜悪な見た目の怪物に女要素は微塵も感じられなかった。

 

(…………今は考えることでもないか、女要素がどこにあるかどうかなど。それよりもマミ先輩があの魔女と闘うのであれば、できる限り彼女の気が散らないようにしなくてはな…………。)

 

さやかがそのように考えていたところ、マミは胸元のリボンを解き、そのリボンに魔力を込めると、リボンは飛び降りを図った女性を救った時のような網目状となっていき、まどかとさやかを魔女のいる領域に立ち入れさせないように入り口を塞ぐ。

そしてマミはその網目状の壁の先に悠然と立っていた。

 

「二人はそこから出ないようにね。さっさと片付けてくるから。」

「マミ先輩、少し待ってほしい。」

 

マミが二人に忠告をし、今まさに飛び降りようとしたところにさやかが声をかける。

出鼻を挫かれたように前につんのめるが、マミがさやかの方を振り向いた。

 

「えっと、何かしら?」

「マスケット銃を一丁渡してほしい。」

「銃を…………?一体どうして………?」

 

さやかの突然の要求に困惑気味な表情を浮かべるマミ。さやかはそんなマミの様子を気にすることなく話を続ける。

 

「貴方が戦っている最中にこちらに魔女の使い魔が来ないとは限らない。だが、貴方のマスケット銃があれば、一発は危険を冒さずに身を守れる上にマスケット銃ほどの銃身が有ればそのまま物理攻撃に移ることもできる。要はこちらも身を守る手段ができるということだ。少なくともこちらを気にかける必要性がなくなり、幾分かは戦いやすくなるはずだ。」

 

さやかの言葉にマミは考え込むような仕草を見せる。しかし、その逡巡もわずかなもので、マミはベレー帽からマスケット銃を一丁取り出すと、結界の隙間からさやかに差し出した。

 

「…………貴方の言う通りかもね。私自身撃ったあとのマスケット銃で物理的な攻撃をしていないわけじゃないから。でも、さっきも言ったけど、無茶はしないこと。いいわね?」

「分かっている。一番はこれを使わずに済んでくれることだがな。」

「それもそうね。ならさっさと決めてくるわ!!」

 

差し出されたマスケット銃を受け取ったさやかにそう笑顔で返したマミは地面に危なげなく降り立った。

降り立ったマミは薔薇に囲まれている魔女を見据えると自身の周囲にマスケット銃を展開させる。

その自身で展開したマスケット銃を両手に一丁ずつ手にすると、即座に照準を合わせ、その引き金を引いた。

ショッピングモールで聞いた拳銃特有の乾いた破裂音とはまた違う、火薬がふんだんに使われているような爆発音が辺りに響く。

その銃口から吐き出された丸い弾丸は魔女を取り巻いていた綿状の使い魔を貫くと、使い魔はその体を蝶々に分裂させながら霧散する。

 

突然の来襲に魔女は驚いているのか、その醜悪な見た目をグネグネと揺らすだけで、反撃のような行動が取れないでいた。その間にマミは魔女の周囲にいる取り巻きをどんどんと撃ち貫いていく。

 

『ーーーーーー!!!!』

 

流石の魔女も取り巻きの使い魔がどんどん倒されていくことが看過できずに怒りに触ったのか、咆哮のような唸り声を挙げると、そばにあった自身の巨体よりさらに大きい椅子を持ち上げると、マミに向けて投げつける。

 

自身に放たれた大質量による攻撃をマミは熟れた様子でその場から離れることで避ける。

投げつけられた椅子は地面にぶつかると破砕音を辺りに響かせながら粉々に割れてしまった。

攻撃を避けたマミは次なる行動に移ろうとしたが、一瞬、目を見開くと自身の足元に視線を向ける。

そこには彼女の気付かない間に蔦のような触手が、彼女の脚と地面を縫い付けていた。

マミがその蔦を切断しようとするより早く、蔦が彼女の脚を吊り上げ、マミは宙吊りの状態になってしまう。

 

「マミさん!?」

「ッ…………!?」

 

吊り上げられたマミは咄嗟にマスケット銃を二つ取り出し、その撃鉄を起こすが、弾丸は魔女を捉えることはなく、魔女付近の地面に小さな穴を作るだけだった。

拘束されてしまったマミにまどかが悲鳴のような声で彼女の名を叫び、さやかは反射的にマミから借り受けたマスケット銃を構え、その照準を見据える。

 

(ね、狙えるのか………!?この距離から、あの細い蔦を………!?)

 

咄嗟に構えたのはいいものの、銃を初めて扱うどころか、マミを縛っている細い蔦をきちんと狙い撃てるかどうかすら怪しかったさやかは思わず脂汗のようなものを流す。

 

そんな最中、さやかの視線の先にはあるものが映り込んでいた。

 

それはマミが不敵な笑みを浮かべている様子だった。まるでさやかを安心させるために浮かべたような笑みに一瞬、困惑気味な顔をしてしまう。

その浮かべた笑みの理由を考える暇もなく、マミはその触手に振り回されると、ドーム状の空間の壁に叩きつけられる。

 

「ああッ…………!!!」

 

マミが壁に叩きつけられる光景を目の当たりにしたまどかは悲痛な表情を浮かべながらマミの安否を願う。対するさやかは険しい表情をしながらも、その目に諦めたような表情は見えなかった。

彼女の笑みを信じているのだ。あの笑みはある種の余裕の様なものから生まれているものだと、ならばあの程度で彼女がやられる心配はないのだ。

 

結論から言えば、壁に叩きつけられる時に出た煙が晴れると痛みに耐えているのか、歯を食いしばっているマミの姿があった。しかし、その体に傷の様なものはなく、四肢が引きちぎれたなどのショッキングで凄惨なことはなかった。

だが、未だその脚に触手が絡んでいるのは事実であり、マミは再度宙吊りの状態にさせられる。

 

「マ、マミさん、大丈夫だよね………!?」

「……………信じよう。彼女を。私達にはそれだけしかできない。」

「そ、そうだよね…………。」

 

さやかの言葉にまどかは何もできない自分が嫌なのか辛そうな表情を浮かべる。

 

「……………何か策がない訳ではないらしいが。」

「え…………?」

 

不意に呟いたさやかにまどかが驚いたような表情を浮かべた瞬間、魔女の挙動が変わった。何か突然身を捩らせるような反応を見せるとその巨体がどこからともなく現れた金糸によって縛られていく。

その発生源を探ると遠目からでははっきりと判別できた訳ではないが、魔女のすぐ近くの地面からその金糸が伸びてきているように見えた。

 

(…………まさか、銃弾からあの糸が伸びているのか?)

 

確証が持てている訳ではないため、口には出さないが、その金糸の出所に当たりをつけるさやか。

何はともあれ、魔女の動きはその金糸によって散漫になっていく。

 

「せっかく後輩が見ているんだもの。カッコ悪い所、見せられないわよね!!」

 

そう言うとマミは胸元のリボンを解いた。解かれたリボンはまるで意志を持ったようにヒラヒラと動き回ると、マミの体を縛り上げていた触手を切断し、マミは自由の身となる。

空中に放り出された身のまま、マミが手元に戻ってきたリボンを掴むと、そのリボンは今度は螺旋を描くように回転を始める。するとリボンは徐々に別のものに変わっていき、さやかが気づいた時には巨大な砲台のような銃となっていた。

その砲台の砲身や施されている意匠がマスケット銃のものと酷く似ていたため、おそらくその砲台はマスケット銃をそのまま巨大化させたようなものだとさやかは直感的に感じとる。

 

「ティロ・フィナーレッ!!!」

 

マミがゲームでいう技名的なものを叫ぶと同時に火蓋が切られた巨大な銃の火力はその見た目以上の威力や勢いを持って、魔女を一撃で粉砕する。

彼女が魔女を撃破したことに安堵感を抱いているのか、二人揃って胸を撫で下ろしていると、地面に着地したマミはどこから取り出したのか、紅茶の入ったティーカップを取り出し、さやか達ににこやかな笑みを向けた。

その瞬間、戦いの終わりを告げるように結界が歪み始め、気づけばさやか達は廃墟の中に戻ってきていた。

 

「……………使わずに済んで何よりだ。」

「とはいえ心配させたのは事実みたいだけどね。ごめんなさいね。」

 

さやかが結局使わなかったマスケット銃をマミに返すと彼女は少しばかりバツが悪そうに謝罪の言葉を述べる。さやかはそのマミの謝罪に無言で首を横に振ることでそんなことはない、という意思を伝える。

マミはそのさやかの表情に笑みを浮かべると、マスケット銃を魔力に戻し、地面から何かを拾い上げた。

マミはその拾い上げたものを持ったまま、さやか達の前に来ると、その手の中にあるものをさやか達にも見せる。

それは、彼女の手のひらの上で不自然にその下部の細い針だけで直立している黒いアクセサリーのような物体であった。

 

「…………明らかに物理法則に則っていない代物のようだが…………。」

「さやかちゃん、魔法なんてものがある時点でその言葉は今更だと思うよ。」

「ん………そうなのか?」

 

さやかの言葉にまどかがツッコミを入れているとマミはその代物についての説明を始める。

 

「これはグリーフシード。一言で言ってしまえば、魔女の卵よ。」

「卵…………ですか?」

「ええ。運が良ければ魔女が持ち歩いていることがあるの。」

「…………魔女の卵、ということはそれから魔女が孵化する可能性もあるということだな?」

「だ、だよね………そういうことになっちゃうよね………。」

 

彼女が手にしたグリーフシードが魔女をいずれ産んでしまう代物だと言うことにさやかは眉を潜め、まどかは怖いものを見るかのような目線でそのグリーフシードを見つめる。

 

「大丈夫だ。その状態では安全だ。むしろ、役に立つ貴重なモノだ。」

 

そこに今まで口を閉ざしていたキュウべぇが急にその口を開いた。開く口がないのは突っ込んではいけない。

 

「……………まさか、それが貴方が以前言っていた見返り、というものなのか?」

 

さやかがマミにそう尋ねると彼女は頷きながらポケットから自身のソウルジェムを取り出した。そのソウルジェムの輝きは、魔女を捜索していた時と比べて、心なしか輝きが落ち、色が濁っているように感じられた。

 

「私のソウルジェム、ゆうべと比べて少し濁っているでしょ?」

「た、確かに…………。」

 

まどかが言われてみれば、というように答えるとマミはソウルジェムをグリーフシードに近づける。その瞬間、ソウルジェムの中にあった黒い汚れのようなモヤモヤはグリーフシードに吸い込まれるように消えていった。

 

「…………ソウルジェムが、綺麗になって、また輝いてる………。」

「これで私が消耗した魔力は元通りよ。」

「…………キュウべぇ、ソウルジェムが保有する魔力には限りがあるのか?」

「そうだね。魔力を使えば使うほどソウルジェムには穢れが溜まっていく。あの黒いのはその目安だと思って構わないよ。」

「となると、定期的にグリーフシードによる除去を行わなければ魔力が使えなくなるということか?」

「そうだよ。」

 

キュウべぇの言葉にさやかは少しばかり考え込むような仕草を浮かべる。

 

(…………そもそも、なぜ魔女から生じるグリーフシードで魔法少女のソウルジェムに干渉ができるんだ?そういうものだと言われてしまえばそれまでだが…………なんだか妙な予感がするな………。)

「美樹さんの言っていた通り、これが前に言ってた魔女退治の見返りがこれ。それとあと一度くらいは使えるはずよ。」

 

マミから話しかけられ、ひとまず思考を中断するさやかだったが、マミはその一度使用したグリーフシードを中が暗くてその先が窺えない廃墟の屋内に投げ入れた。

 

「えっ!?投げ捨てちゃうんですか!?」

「いや、どうやらそういうわけではないようだ。」

「そういうこと、貴方にあげるわ。暁美ほむらさん。」

「え…………ほむら、ちゃん………?」

 

マミが急にほむらの名前を口にするとまどかが彼女がこの場にいることに驚きに満ち溢れた表情を浮かべる。そのまどかの声が聞こえたのか、マミがグリーフシードを投げ入れた闇の中からほむらが姿を現した。

 

「……………。」

「それとも、人と分け合うのは不服かしら?」

 

マミの言葉にほむらは特にこれといって反応を示す訳でもなく、ただただその冷たい表情でマミ達三人を見つめていた。

 

「これは貴方の獲物よ。これは返すわ。貴方だけのものにすればいいわ。」

 

そう言ってほむらはマミにグリーフシードを投げ返した。投げ返されたソレをマミは掴み取ると険しい表情を浮かべながらほむらを睨みつける。

 

「…………そう。それが貴方の答えなのね。」

 

そのマミの言葉にも何か言い返すこともなく、ほむらはなぜか、さやかにとってはやっぱりまどかの方に視線を送ると、その場から立ち去っていった。

 

(……………余程まどかのことが大事なのか。そう考えるとますます彼女に事情を問いただしたい所だが、それで彼女が余計に心を閉ざしてはどうしようもない………。ここは地道に行くのが一番の最短なのかもしれないな。)

「仲良くできればいいのに…………。」

「お互いに、そう思えれば、ね…………」

(全くだな…………。)

 

まどかとマミの言葉に僅かに頭を抱えるような仕草とため息をするさやかなのであった。

 

 




一話が終わり、二話が終わる。ならば次は三話だぁ…………(ねっとり)

みなさんにお菓子より甘い物語をお届けしよう………すなわち、愛と勇気が勝つ物語って奴をなぁ………(ニッコリ)


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