ほむら「美樹さやーー「私がガンダムだ」はぁ?」 作:わんたんめん
早く魔女に前格特格派生叩き込みたい…………
マミの魔女退治の体験コースから1日ほど経った。
薔薇のようなものが生えていた魔女を倒した後にほむらとマミが少々視線がぶつかり合うようなことがあったが、さやかとまどかは学校で変わらずの日々を過ごせていた。
「…………行くべきか否か………。とは言え前回行ってから然程期間が空いている訳ではない………。」
さやかは教室の自身の座席で少々唸るような声を上げながら思案に耽っていた。
それは病院で入院している恭介への見舞いをするかどうかで彼女は悩んでいた。この前のマミとの魔女退治の体験コースにて彼女が口にした魔女が現れやすい場所。その中には主に人気のない場所とのことであったが、その他にも病院と言った生命力の弱った人間が集まりやすい場所にも出没するとのことであった。
そのことがさやかにどうしようもなく、恭介の安否を心配させてしまう。
もし彼が入院している病院に魔女が現れたら、ただでさえ弱っている恭介を含めた病人達の身に何が降りかかるかわかったものではない。
「見舞いをしに行かなくても病院を訪れるだけでも………いや、それはどう考えても行動が不審者のソレだ。最悪警察沙汰ではないだろうか?」
一瞬思いついた考えも、即座に自問自答の上に否定してしまうため、完全に思考が袋小路に入り込んでいた。
「いや………行くか…………。何かあれば、最悪大急ぎでマミ先輩を呼び出せばなんとかなるか………。彼女には申し訳ないが………。」
結局さやかは恭介の見舞いに行くことを決意し、その重い腰を上げ、学校から恭介への見舞いの品の調達へと向かった。
「………前回は包丁を持ち出して恭介に怒られてしまったからな………無難に花とかにしておくか………。」
適当な花屋で見舞い用の花束を調達したさやかは夕暮れに染まった空を見上げながら病院へと向かうため、街中を歩いていた。
そんな最中ーーーー
「あら………?美樹さん?これから帰るの?」
不意に声をかけられ、自然と視線が声をかけられた方向に向けられる。視線の先にはどこか驚いた様子でさやかを見つめているマミの姿があった。
「マミ先輩か…………帰るところではあるが、少し寄り道をしてから、だな。」
「ふふ、そうなのね。」
マミの質問にそう答えると彼女は朗らかな笑みを浮かべる。マミの笑顔にさやかも釣られるように笑顔を向ける。
「そういえば、貴方もちょうど帰宅していたところなのか?」
「ええ、そうね………今日は少し特別な日だから、魔女退治もお休み。」
何気なく聞いてみたさやかだったが、マミが特別、と言った割にはどこか悲しそうな表情を浮かべる。そのことにわずかに眉を潜めるさやか。
「えっと、美樹さん?そんな訝しげな顔をして、何か私の顔についている?」
そのさやかの表情が目についたのか、先程の悲しげな表情から一転して、少しばかり困惑気味な笑顔を浮かべながらさやかの顔を見つめる。
そのマミの表情にさやかは真剣味に溢れた視線をマミに送り返した。
そして、両者の間で気まずい空間が広げられていると、さやかがわずかに逡巡する仕草を見せる。
「……………ご両親の命日か?」
「え…………!?」
突然のさやかの言葉にマミは驚くことすら出来ずに呆けたような表情を浮かべる。
「ど、どうしてそれを…………!?」
「前回貴方の部屋に招待させてもらった時、玄関には貴方以外のものと見られる靴、特に男性用の靴がなかったこと。さらにあきらかに複数人での同居を前提としているであろう広い部屋にも拘らず、貴方が言った一人暮らしをしているという言葉。これだけの判断材料が有れば、嫌でも両親が亡くなっていることは想像に難くない。」
なぜそれを知っているのかと言うかのようなマミにさやかは以前彼女の部屋にお邪魔させてもらったときの違和感をそのまま伝える。包み隠さず伝えられたさやかの言葉にマミは顔を俯かせると気まずそうにさやかに視線を合わせる。
「……………今日は、パパとママの月命日なの…………。」
「やはり、そうだったのか………聞き出した私が言えることではないが、すまない。話したくないことを話させた。」
両親の死など、普通はそう簡単に話せるものではないだろう。そう判断したさやかはすぐに彼女に謝罪の言葉を述べながら頭を下げた。そのさやかの様子にマミは困惑気味な様子を隠せないでいた。
「…………ちなみにだが、ご両親の仏壇とかは自宅か?」
「……………貴方、何をする気なの?」
続け様のさやかの質問に流石のマミも目を細め、視線を鋭くせざるを得なかった。怪しい者でも見るかのような警戒度にさやかは頰を軽くかくような仕草を見せるが、持っていた花束を肩に担ぐと、彼女に柔らかな笑みを向ける。
「……………気が変わったから墓参りに、だな。」
「…………改めてすまない。突然押しかけるような形になってしまって。」
「………最初は何を言い出すのかと思ったけど………。」
突然彼女の家に入れてもらったことにお礼を含めた謝罪の言葉を伝える。そのさやかの言葉にマミは気にしていない、とは言えないが表面的にその様子を取り繕っているような雰囲気を出していた。
「でも、良かったの?その花束、本当は別の人に向けてのものじゃなかったの?」
「アイツとは、また別の機会、それこそ明日でも、明後日でもいつでも会えるさ。だが、既に亡くなっている人間とはこう言う命日のような概念的な動機がなければ会えないだろう?」
さやかのその理由にマミは微妙に首を傾げながら家に入れると、彼女をある一室に招いた。その部屋には小綺麗なテーブルが置かれており、その上に二枚の写真立てが乗せられていた。
その写真立てには二人の男女の写真が入れられてあった。その男女の両方にもどこかマミを彷彿とさせる特徴があった。
さやかはその彼女の両親の写真に買ってきた花束を添えると、その写真に向かって黙祷を捧げた。
「…………ありがとう。私のわがままを叶えてくれて。」
「………そんなことないわ。私も初めてだったもの。パパとママを他人に会わせるなんて。」
彼女の両親にお参りを済ませた後、マミが用意してくれた紅茶を頂くさやか。その最中、自身のわがままを承諾してくれたマミにお礼の言葉を述べる。
そんなさやかにマミは初めての経験だったと、さっきまでの警戒感を無くし、わずかに笑みを浮かべる。
「…………私の両親は事故で亡くなったの。」
「っ…………!?」
突然のマミの両親の死因の吐露にさやかは紅茶を飲んでいた手を止め、驚いたように目を見開いた。そのさやかの反応に少しばかり気に触ったのか、顔をムッとしたものに変え、さやかに細い目を向ける。
「………何?まさか、今更そこまでは聞くつもりがなかったとでも言うつもり?」
「い、いや、その、だな………!!貴方がそこまで話してくれるとは、思わなくてだな……!!」
マミの言葉が図星だったのか、慌てた様子で首を振るさやか。
そのさやかの様子にマミはテーブルに肘をついて頰を支えながら深いため息をついた。
「要はそういうことじゃないの、もう。あんまり他人の家族事情に踏み込んじゃダメよ?私はまだいいけど、人によっては逆鱗に触れるわよ?」
「…………す、すまない…………。」
マミの諫めるような言葉にさやかはわずかに冷や汗のようなものを流しながらひとまず頷くことにした。
「貴方には鹿目さんより先んじて私の願いの内容、それと一緒にその時の状況を教えてあげるわ♪」
「……………ちなみにだが、その内容を聞かずに紅茶だけ飲んで帰るという選択肢は…………。」
「あら、乙女の秘密を察するだけ察しておいて後は放置だなんて、いい性格をしているのね?」
(……………要するに知った以上、私に退路はない、ということか。)
難しい表情を浮かべながらも諦観する様子で残っていた紅茶に口をつけるさやか。
さやかが紅茶を嗜んでいる間にマミは話を戻した。
「…………私のパパとママはドライブ中に事故に遭ったの。もちろん、その時は私も一緒の車に乗っていたわ。」
「………………。」
マミが魔法少女になるに至ったその経緯。それをさやかは無言で聞届ける。
「車は大破して、ぐちゃぐちゃになったわ。それでもその時、私はまだかろうじて意識はあったけど、妙な確信があったわ。このままじゃ絶対に死ぬって。」
「だから事故の衝撃で朦朧とした意識の中、私は助けを求めて必死に手を伸ばしたわ。その時だった、キュゥべえが私の前に姿を現したのは。」
助けを求めて必死に外に手を伸ばす少女。しかし、その手の先にあったのは、助けにきた人の手ではなく、キュゥべえであった。
その時のマミにもはや選択肢は残されていなかった。
「…………そこから先は察しのいい貴方ならもう分かっていると思うのだけど、考えてる余裕すらなかったわ。私はキュゥべえに生きたいって願いを伝えて、魔法少女になったわ。」
「…………今となって、その選択に後悔はないのか?」
「後悔はしていないわ。今の生き方も、あそこで死んじゃうよりは、よほど良かったって思っているわ。」
そう言ったマミの目に揺れているようなものは見られず、彼女自身に嘘、つまるところ後悔はしていないことをさやかは感じ取った。だが、さやかは別のことが気になっていた。それこそ、もっと根本的な部分。まどかやさやかのような年頃の少女にはまだ必要とされるべきものであり、マミにはもうない、家族の存在。
「……………後悔はなくとも、貴方はその生き方に寂しさとかを感じないのか?」
「えーーー」
目を閉じたさやかからの言葉にマミは目を見開いた。そのマミの表情を、いや、さやかは見なくとも察せていたのか、その瞳を閉じたまま言葉を続ける。
「…………私だったら、いくら強く外側には取り繕っていても、どこかで、それこそ人の目につかないところで必ず寂しさを感じてしまう気がする。なぜなら、まだ私たちのような子供にはどうやっても親のような無心に甘えられる、待っていてくれる人が必要だからだ。」
そう言っている途中でさやかの瞳が開かれるが、その目はどこか悲しそうなものを浮かべられていた。
「…………貴方は、どうなんだ?まぁ、人間十人十色、様々な感性の持ち主がいる。私はおそらくダメだが、貴方は大丈夫、そんなこともあるのだろう。」
そこまで言ったところで、さやかは部屋の壁一面に広がっている窓の方へ視線を向けた。元々マミと会った時点で夕暮れだった橙色の空はすっかり暗くなり、気づけば後数十分としないうちに空に星が瞬き始めるであろう時間になっていた。
「すっかり日が暮れてしまった………。私はそろそろ家に帰りたいと思う。紅茶、感想としては陳腐だが、美味しかった。」
紅茶の感想を述べるとさやかはバックを肩にかけ、マミの部屋から立ち去ろうとする。
「ーーーーねぇ、美樹さん。」
不意にマミの声が後ろからかけられ、さやかは足を止めると視線だけを彼女に向けた。
「貴方は、叶えたい願いとかはあるの?」
マミからの問いかけ。それは極めて短い文章だったが、魔法少女になってでも、自分の人生を捧げてでも叶えたい願いがあるか、そう言った内容のものであった。
「……………。」
マミのその質問にさやかは考え込むような仕草を浮かべる。脳裏にチラつくのは事故で指が動かなくなってしまった恭介の姿。確かにキュゥべえに魔法少女となる代わりにその願いを叶えてもらえれば、恭介の指は再び動かせるようになるだろう。
しかしーーーー
「あるにはある。だが、それを自分の人生を代価に実現してほしいともすれば、二の足を踏むのが正直なところだ。将来的に、そんなことをしなくても人自らの手でその未来を切り開いていけると思っているからな。」
「まぁ、言うのであれば、人の…………可能性?いや、敢えてこちらにしよう。私は人の革新を信じている。」
さやかは敢えて、その願いを抱えながらもキュゥべえに叶えてもらうことはないと言った。そのことにマミは少々呆気に取られたような顔を浮かべる。
「……………貴方はどんな願いを叶えてもらえるって言う奇跡も、そんなことで片付けられるのね…………。」
「一応、口ではそんなことと済ませてはいるが、貴方のように事故などに遭って考えられる時間がなければ、私も例外ではない。私だって生き延びられる手段があるのに、そんな時にまでこだわっていられるほど意固地な人間ではないからな。」
さやかはマミの言葉にそう答えると、靴を履き、玄関の扉に手をかけた。
「…………お邪魔したな。最後にだが、キュゥべえ、奴はあまり信頼しない方がいいかもしれない。何か、隠している気がする。」
「え…………?」
さやかの言葉にマミが何か声をかける前に彼女は部屋から出て行ってしまった。
呼び止めかけた手の置き所をなくしてしまったマミは渋々といった様子で腕を下ろした。
「行ってしまったわ…………美樹さんが最後に言っていたキュゥべえが何か隠しているって、どういうこと?」
「僕がどうかしたかい?」
ちょうどそのタイミングでキュゥべえが姿を現した。いつも神出鬼没なキュゥべえの姿の現し方だったが、マミはもう慣れているのか、さほど驚いている様子を見せずにキュゥべえがいる方に振り向いた。
「………………ううん、なんでもないわ。」
(…………美樹さんが言っていたこと、私はちょっと信じられないわ………。だって、キュゥべえは私が魔法少女になったばかりの頃から一緒にいたもの。)
キュゥべえが自分を呼んだかどうかを尋ねた質問にマミは柔らかい笑みを浮かべながら首を横に振る。そこでマミはふと気になったことを代わりにキュゥべえに尋ねることにした。
「そういえば、キュゥべえ。貴方、美樹さんにはあまり魔法少女に誘わないのね?」
「そのことかい?美樹さやかに素質自体はあるけど、そこまでのものじゃないからね。仮に彼女がなりたいと言えばもちろんそれに応じるけど。だけど、鹿目まどか、彼女は素質に満ち溢れている。僕でもその指数が測れないくらいだ。」
「…………そんなに鹿目さんはすごいの?」
「うん、彼女が魔法少女になってくれれば大抵の魔女は倒せるだろう。」
「そう…………それは少し残念ね。」
「…………それはどういうことだい?」
マミの言葉にキュゥべえがキョトンと首を傾けながらその言葉の真意を尋ねる。キュゥべえの言葉にハッとなったのか、マミは手を横に振る。
「そんな大したことじゃないのよ?美樹さんにも魔法少女の素質が高かったら、心強いって思っているだけだから。」
「…………彼女が側にいても君の足手まといになるだけだと思うけど?」
「そういうものじゃないのよ。もっと、精神的なもの。今までは直視しないようにしてたけど、本当は私、仲間のような人がほしいんだなって、美樹さんと話していてわかったから。」
さやかに寂しくないのか、と聞かれた時、マミは何も言い返すことができなかった。それは心の中のどこかで彼女の言葉が真実であったことの証左で他ならなかったからだ。
「…………仲間になってほしいなら二人にはやっぱり魔法少女になってもらうしかないかな。彼女たちが人間である以上、魔女には到底傷をつけることすら叶わないからね。」
そう言ったキュゥべえの言葉にはどこか含みがあるかのように感じられたが、マミはそれに気づく様子を見せずに時間が流れていってしまった。
人の強さってそんな素質なんかでわかるものじゃないよなぁ…………。
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