キャロルと並んでシリーズぶっちぎりに主人公&ヒロインちから高いサンジェルマンに母親属性が付与されたらこうなってほしいという気持ち悪い欲求

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サンジェルマンさん好きすぎてな
というか気になってたのが、サンジェルマンはノーブルレッドについて認知していたのか否か
ファウストローブの技術者だったヴァネッサについては知っててもおかしくはないと思うけど、事故後の扱いに関してはやっぱ知らなかったのかなー、と
サンジェルマンさんの性格上、理不尽な虐げに関しては許さなそうなとこあるし、ノーブルレッドの存在知ってたら拾っててもおかしくはなさそうだけど



まぁそんなサンジェルマンさん壊れるのでそっ閉じ推奨


職場のトップがクソすぎるのでバックれたら育ての親な上司が病んだ件について

―――あの子と出逢ったのは、もうどれほど前になるのだろうか

 

真理の探究。錬金術師としての命題と、人類を理不尽で不条理な支配から解き放つという、虐げられてきた者の一人としての、ただ一つの信念を胸に彷徨を続けていた私が、自身のもう一つの腕となる者を探し求めていた折に巡り逢ったのが、まだ幼い頃の、童児と呼んで差し支えない彼女だった。

 

あの子は私とよく似ていた。

 

人の心を持ち合わせぬ、ノブレス・オブリージュの概念を理解してもいない、汚れた金と見せかけの権力で上っ面だけを取り繕った下衆。その気紛れの情動により孕まされた女の胎から産まれ落ちたという彼女。

満足な愛を得られず、その日の生活にさえ困窮し、周囲に後ろ指を指され、その果てに飢餓と病でたった一人の肉親を喪った。

 

―――ああ。まるで私の生き写し

 

その瞳は飢えのあまり血走り、何が悪いのかもわからないから何もかもを怨み憎み続けた色に染まり、骨と皮だけのその身体には、幾重もの傷痕が刻まれていた。

 

だから、共感というよりは同情。

 

道の真ん中に倒れ臥し、誰からも気にも留められず、それどころか小石を蹴飛ばすかのように足蹴にされ続けたまま死を待つばかりの幼い子供を、気付けば私は連れ帰っていた。

 

本来ならば、このような偽善を振り翳す暇も資格も、私には無い。

正義を語るには道を踏み外しすぎていたし、自身を必要悪と定義できるほど上等な人間だとも思っていない。

 

だが、そんな思考とは裏腹に。

胸の最奥には、ただ一つの衝動が溢れていた。

 

 

 

―――だとしても、と

 

 

 

ああ。恐らく、私自身が彼女を捨て置くことを善しとしなかったのだ。

幼き頃の自分とどうしても重なってしまうあの子の姿を見て、地獄を歩んできた自分と同じようにはさせるまいと。

 

統制局長からは、一任する。と、ただそれだけ。

生かすも殺すも、残すも逃すも私個人の判断に委ねられた。有り体に言うならば丸投げだが。

 

そこからあの子との共同生活が始まった。

 

パヴァリア光明結社が歴史と世界の裏を活動の場としている以上、錬金術師でもない少女にあれこれ言うわけにはいかない。

最初こそ警戒されていたが、衣食住を与え、膝を交えて話をし、結社の一人としての活動にかかりきりでない限りは常に傍にい続けて寝食を共にする内に、あの子も私に心を開き始めていた。

だが当然、いつまでも親の真似事をするつもりなど毛頭無い。

理不尽と悪意が蔓延るこんな世界でも、一人で生きていけるだけの知識を授け、時が来たら姿を消せば良い。

ただそれだけ。言ってしまえば、私やこの子の父親が行ったような『気紛れ』と取られても仕方のないことだった。

 

だが彼女は、私の予想を遥かに上回る、非常に稀有な存在だった。

 

まず頭が良い。凡人は一を知って同じ数のことを覚えるが、彼女は一を知ってからすぐにそれを十に増やせる人間だった。

手慰みにと与えた子供騙しの玩具すら、自分の知識の糧にしようと、教えてもいないのにそこからあらゆる既定法則を導き出し、覚えていった。

水を吸うスポンジのようなその吸収の早さ。この頭脳さえあれば、一人でも強く生きていけるであろう。

その結論に至ろうとしていた私は、すぐさま考えを改めさせられることとなった。

 

―――あの子が錬金術を使ってみせたのだ

 

教えていないどころか、私はあの子の前ではその存在を口にしたことさえ無い。

だというのに、あの子は私の目の前で錬金術の基礎たる物質転換を、事も無げにやってのけた。

 

そこで私はようやく気付く。

この子の身体には、尋常ならざる魔力が秘められていることに。

 

事ここに至って、私はとうとう頭を抱えた。

 

これだけの頭脳と魔力、そしてそれを自在に振舞い扱えるほどの天性の才能。

確かにそれだけであるならば、生を謳歌し、将来的にはなに不自由無い暮らしを得ることだって出来るだろう。

 

だがそれは、彼女が自身の力と才能を正しく扱えるならば、という前提があっての話だ。

私と違い、何の教えも受けていないこの子が()のままに世界に飛び出せば、必ず善からぬ者の手に堕ち、その力と才能を利用されるであろうことは想像に難くない。

不安げに私を見つめてくる、時を経て成長して尚、無垢なままのその瞳。

 

この無垢な少女を、私と同じ外道とする地獄か。

それともこのまま解き放ち、外道に利用され蹂躙される地獄か。

 

選択肢なぞどこにも無く。

だからこそ、私はこれだけはすまいと誓ったはずの、最後にして最低最悪の、苦渋極まる決断をするしかなかった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

あの子が結社の一員となってからそれなりの年月が過ぎた。

その間に私は二人の同志を迎え入れ、あの子は結社入りしてから十年余りした頃に不老の存在へと肉体を造り変えていた。

 

結社に共に身を置くことになった以上、あの子にはこれまでのような、親子であるかのような接し方はするな、お前はこれからは私の部下なのだ、と何度も念を押しておいた。

その言葉を聞いたあの子の瞳が悲しみを帯びる度に、私の胸中にも、えもいわれぬ感覚が広がったが、それに蓋をし続ける。

さしもの局長もあの子の才能と魔力には興味を示したが、彼女を彼のような人でなしに利用されまいと決意したが故、局長の下に置くことだけは何とか避けることは出来た。

 

結社入り直後から、私の直属として、私では手を届けきれない研究や雑務を任せてきた。

だが困ったことに、その間でさえ彼女は私に教えを乞うてきた。

しかもその言い分が

 

『お忙しいことは重々承知の上です。他の方にも訊ねてはみたのですが、皆さん口を揃えて『手に余る』と。ですので、サンジェルマン様に教えを乞うのが最適かつ効率的だと判断いたしました』

 

これである。

その言葉が頷ける部分ばかりなのが殊更タチが悪い。

結局、私がその都度、仕方なしに教えを授けたり共に研究に当たったりすることになるのだ。なるのだが―――ああ。どんな形であれ、私と共に過ごす彼女の表情は、何て幸せそうだろう。

私が迎え入れた同志―――カリオストロとプレラーティも、気付けば彼女を妹のように可愛がっていた。

 

そんな中で幾つもの知識を蓄え、その人柄は外道揃いの結社の構成員達にさえ癒しと呼ばれ、時間が経つと共に頭角を現していったあの子。

 

結社の一員として働く時は、優れた錬金術師にして研究者として、冷静沈着に、何の事も無いように物事を完遂する。

私と二人でいる時は、あの子は幼い時分と同じ、一人の人間として、私を『お母様』と呼ぶことは無いにせよ、無邪気な瞳と笑顔を私に向ける。

 

ある日のこと、彼女が私に贈り物をくれた。

 

―――賢者の石。ラピス・フィロソフィカス

 

あくまでそれを模しただけの、ただの不完全な装飾品だが、彼女が一から私のためだけに錬成したのだと言う。

理由を問えば、彼女はバツが悪そうに、だが、華咲くように微笑みながらこう返してきた。

 

『今日は、私がサンジェルマン様に拾っていただいた日ですから』

 

『今の私と貴女様は、上司と部下の関係に過ぎないとサンジェルマン様は仰いました。ですが、私がこうして生きていられるのは、あの時サンジェルマン様に助けていただいたからに他なりません』

 

『何の値打ちも無かったはずの小娘に手を差し伸べてくれた貴女への感謝は、いつまでも消えることはありません。もし記憶を焼却するようなことになったとしても、その想い出だけは、私は絶対に捨てません』

 

『だからこれは、私から貴女様への恩返しのほんの一部です。……その、不要な感傷だと思われるのは当然だとも思っています。ですが、それでも。私は、サンジェルマン様への感謝と思慕を忘れたくありません』

 

 

 

『だから―――ありがとう。お母様』

 

 

 

―――滲んだ視界を、彼女に知られずに良かったと思っている

 

唇を噛み締め、今なお人間らしい感情を殺しきれない自分を忌々しく思いつつも、彼女への感情を抑えきれなくなっている自分に気付く。

 

だから、そんな想いに蓋をする。

 

私の信念、私の悲願。

そのために悪鬼の道に堕ちると決めた。そんな私に幸福を感じる資格などありはしない。

 

だから、彼女の言葉に私は―――

 

 

 

 

 

 

 

『絶対嫁には出さん』

 

『お母様!?』

 

 

 

 

 

 

 

そんな日々を過ごす内、更に時間が流れる。

あの子は結社に無くてはならない存在にまで成長し、誰からも一目置かれ、畏敬の眼差しを向けられる術師になっていた。

裏では、私と次期局長の座を争っているだとか、そんな根も葉も無い噂が出回るほどだったが、当然私たちの間にそのような思惑は無い。

 

どれだけの時が経とうとも、あの子は私の前では『娘』になり

私もまた、あの子と二人でいる時だけは『母』になってしまう

 

その頃には、私はもうあの子への感情―――言ってしまえば、『愛』を否定できなくなってしまっていた。

ただの私からの同情から始まった関係だったが、それでも、口にはしなかったし、否定できないからと堂々と認めてしまうのもどうかと思っていたが、それでもあの子への母としての愛を抑えきることは難しかった。

 

そんな私の心を知ってか知らずか、あの子はどこまでも邁進を続けた。―――続けすぎてしまった(・・・・・・・・・)

 

―――そんなあの子が、『局長補佐』という役職に抜擢されるのは、ある意味当然と言えた。

 

あそこまで誰かに対して声を荒げたのはいつ以来だろう。

あの男の傍に置くことだけは避け続けてきたというのに、なぜ今になってこんなことになってしまったのか。

私がどれだけ抗議をしようとも、あの男にとってはどこ吹く風。既に決定したことだと、私が尽くしたあらゆる言葉は、その一言で全て流された。

 

そして、何よりも衝撃だったのが、あの子自身が二つ返事でその辞令を承認したことだった。

 

あの子に直接理由を問い質しても、曖昧に笑うばかりで何も答えてはくれなかった。

何故。何故。何故。

そんな思考に囚われている内に、あの子は局長の下へと移って行ってしまった。

 

―――そして、二度と顔を会わせることは無かった

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

『敬愛なる我が師にして、親愛なる我が友。

そして、最愛なる我が姉にして母たるサンジェルマン様へ。

この文を読んでいらっしゃるのであれば、私は既に結社から姿を消していることと思います。

人生を幾度繰り返しても返し足りない、貴女から受けた慈悲と大恩に対し、満足に報いることなく、むしろ仇と不義理を以て返してしまう形になってしまったこと、心から申し訳なく思っております。

 

ですがぶっちゃけ、あの全裸の下で働くのはもうコリゴリなんです。

 

胡散臭いわワキガ臭いわ言ってることはわかり辛いわ、そのクセ本人は何も出来ないわ。貴女ほどのお方が、あんな顔だけ野郎に付き従う理由など私には知る由もありません。

貴女にはきっと何か、私のような下衆な勘繰りしか出来ぬ不孝で不出来な不埒者には考えつかないような意図があるものと思っています。でなければあんちくしょうの下で収まっている事実の説明がつきません。

 

私のような浮浪の小娘を、そんな義理も無いのに拾い育て、これまで様々な教えや智慧を授けてくださったことは、私の決して長くはない生涯においての宝であります。

貴女様の悲願の成就とこれからの更なる真理への探究を、遠い地の果て空の下から、その資格は無いながらも応援させていただきたく思います。

 

そして願わくば

 

いつか貴女を、私以上に想い慕い、愛してくれる誰かと巡り逢ってくれる幸福を、祈っています。

 

―――貴女の娘、オリヴィエより』

 

 

 

残された書き置きを、血糊のこびりついた手で握り潰す女性。

彼女の背後では、長身でグラマラスな美女と眼鏡で小柄な少女が冷や汗を流して震えている。

 

女性の義娘であり、背後の二人にとっては姉妹も同然だった術師が突然、三『匹』の実験対象を連れ出し、結社を脱走したとの報告を受けたこの三人―――サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティ。

すぐさま脱走した女性の上司であるアダムの下へ駆け付けた三人だったが、当の本人は何食わぬ顔で酒を嗜んでいたのだからさぁ大変。

 

烈火の如くキレ散らかしたサンジェルマン、錬金術なぞ使ってんじゃねえとばかりに素手でアダムを叩きのめし、その後に脱走者の私室のテーブルに置かれていた上記の手紙を読み上げて現在に至る。

あの無能は後でもう一回シメよう、と心に決めたサンジェルマンに、恐る恐るといった面持ちでカリオストロとプレラーティが声をかける。

 

「さ、サンジェルマン? オリヴィエちゃん、だいぶヤバいことやっちゃったみたいだケド」

「さ、探しに行くのなら当然私たちも付き合うワケダが……」

 

無言。

サンジェルマンは虚ろな目付きで床を見つめたまま何も言わない。それが二人の恐怖心を更に煽り立てる。

 

(どうすんのよプレラーティ!? オリヴィエちゃんが局長補佐になってから、親バカにより一層磨きがかかってたサンジェルマンがこんな……!)

(ええい私に言うなというワケダ、バカリオストロ! ……ともかく、サンジェルマンが動けぬならば私達で)

 

「―――フッ」

 

「「ひえっ」」

 

 

 

「フッ、フハハ、アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! そうか、そういうことなのねオリヴィエェ!?」

 

 

 

突如として顔を上げる。その表情は狂気に彩られ、双眸からは涙が溢れ、その瞳は光を無くして濁りきっていた。

 

「サンジェルマン!? サンジェルマーン!!」

 

「あぁ……待っていて、可愛い可愛い、私のオリヴィエ……すぐにお母様が迎えに行くから……そうしたら今度こそ」

 

 

 

 

 

 

 

―――アナタヲ、ハナサナイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エックシヴ!」

「お、オリヴィエ様!?」

「あ゛ー……フフッ。大丈夫だよヴァネッサ。それより、エルザとミラアルクの様子はどう?」

「は、はい。二人とも、全血清剤を投与したので、今は落ち着いています」

「そっか。ヴァネッサはどう?」

「……私は、まだ大丈夫で、うきゅ!?」

「嘘つかない。結社から逃げたはいいものの、当てが無ければ伝手も無いのが私達なんだから。……で?」

「……その、少し、辛い、です」

「ん。じゃあもう少し休もう。見張りは私がやるから、ヴァネッサも横になって消耗抑えて」

「……はい。……あの、オリヴィエ様」

「うん?」

「私はともかく、あの子達を拾い上げてくださって、ありがとうございます……そんな義理も無いはずなのに」

「―――お礼を言う必要は無いよ。知らなかったとはいえ、貴女達を虐げてきた側だからね、私も」

「ですが―――」

「それに、私がみんなを拾ったのはただの自己満足に過ぎない。『みんなが置かれていた状況を善しとしなかった』だけだからね」

「オリヴィエ様……」

「……もう休みな。妹達の傍にいてあげて」

「……はい。失礼します」

 

 

 

「……正しいか正しくないかなんて、私にはわかりません」

 

「それでも、だとしても(・・・・・)

 

「私がこの偽善を貫き通すことを、どうかお許しください。そして―――」

 

「ごめんなさい、お母様―――」




何か既視感を感じたあなたは魔女集会にご招待

ノーブルレッドもノーブルレッドで、もっと早い段階でまともな誰かに救いの手を差し伸べられていれば心まで怪物に染まることは無かったのではなかろうか、と



・オリヴィエ
オリっ主。
何の巡り合わせなのかサンジェルマンに拾い上げられた天才。
サンジェルマン直々の英才教育によりあらゆる物事を水準以上にこなして見せる努力型天才という最高にタチの悪い存在へ成長を遂げた。
しっかりマザコンであり、とっくに親離れの時期は過ぎていたが、サンジェルマンへの思慕によりなかなか離れられずにいたところにアダムの補佐という役職の話が出たために一念発起。
が、ノーブルレッドやそれに類する外道すぎる話を知ってしまった上にアダムからの無理難題に嫌気が差して遂に脱走。
ノーブルレッドの三『匹』を連れて逃亡するも、稀血の問題やサンジェルマンからの恩を仇で返してしまったことへの後悔もあってここから先、迷い続けることになる。

・サンジェルマン
私の娘がこんなにも可愛い。
カリプレからの陰の愛称はサンジェルママン。
言ってしまえば『子離れ出来なくなってしまったバカ親』
オリヴィエとの出逢いは、ふらりと立ち寄った寂れた村がたった一つのオアシスだった、レベルの癒しになってしまっている
結果娘を愛し過ぎて夜も眠れないママと化した。達磨にして監禁コースも辞さない覚悟。


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