太陽と月のハイタッチ   作:黒樹

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とある者の視点でございます。


太陽狂い

旧校舎の外、空を見上げれば真っ赤な塊が浮いていた。膨大な熱量はまさしく太陽のようで、フェニックスである私でさえも焦がされるような錯覚を覚えた。驚くべき事にそれを創り出したのは人間の男性だ。

 

「あれは……あぁ、なんて……」

 

–––美しいのでしょう。

 

肌を焦がす熱は、やがて全身に回った。血が沸騰するほどに煮えたぎり、細胞の一つ一つが歓喜するかのように汗を発して、ついには胸まで焦がされる始末、どうしてくれようか。

 

爆ぜる瞬間、眩く発光した姿はまさしく地上から見える太陽と瓜二つで、直視出来ないのが残念だと嘆いた。

 

お兄様が地に堕ちた。

そんなこと、もうどうでもよかった。

私の興味は目の前の男性にしかない。

 

あの“太陽の魔力”を持つ者にしか……。

 

かつて何代か前のフェニックス卿もそうだったらしい。戦場に現れた“太陽の魔力を持つ男”の力に焦がれ、それを血に取り組む事をフェニックス家の命題として掲げて来た。

今も受け継がれるその思想に一番酔ったのは、幼い頃の私。

謳うように語って聞かされた太陽の魔力を持つ男の話に、恋焦がれてしまったのだ。

 

その男性が今、目の前にいると動悸が治らなかった。

 

一歩近づくに連れて、心臓が高鳴る。

一歩近づくに連れて、まるで太陽に近づいているかと思うほど、暑くなって。

一歩近づくに連れて、私の纏うドレスはぐっしょりと汗で濡れた。

 

それでも私はフェニックス。

お兄様の度重なる無礼を詫びなければならない。

いくらこんな姿を見られたくなくとも。

私は丁寧にドレスの裾を摘んで、お辞儀をした。

 

「先程は兄が大変な失礼を–––」

 

緊張で自分が何を言っているかわからない。でも、名誉だけは挽回しなくては。悪印象を与えてはいけない、好印象でこの場を終わらせたかった。その為に仕切り直す。

 

「–––後日、改めて謝罪に伺わせていただきますわ」

 

そう言い切って私は踵を返した。

 

 

 

 

 

 

逃げるように帰った。お兄様は眷属達に任せて私だけ人間界に蜻蛉返り。どうしても調べておかなければならなかったのだ。太陽の魔力を持つ人間の事を。

グレモリー眷属や学校から情報を得た後、また家に帰った私はメイド達に両親の所在を聞いてすぐに駆け込んで行った。

 

「お父様、お母様、お話があります!」

 

来客用の応接間の使用中にノックもせず、私は堂々と侵入する。

普段の私なら、もっと淑女らしくできたのに。

来客があるという事実にも関わらず、私ははしたない真似をした。

見れば、両親含め来客もびっくりした様子で此方を見ていた。

 

「レイヴェル、お客様の前ですよ」

 

お母様に嗜められたが、それどころではなかった。

私は早口に捲し立てる。

 

「ついに見つけたのです!」

「まさか“太陽の魔力”の持ち主か!?」

 

お父様が思わず立ち上がる。

フェニックスにとって“太陽の魔力”はそれほど特別なのだ。

先祖代々からの悲願。

達成する可能性があるのだから。

お父様の興奮も当然というもの。

 

「はい、お父様」

「おぉ、してその者は」

「駒王学園に在籍しております」

「リアス・グレモリーの眷属か!?」

「いえ、人間でしたわ。間違いなく」

 

私達にとって彼の者を眷属にするのは蛮行に値する。しかし、リアス・グレモリーの眷属であらば是が非でもトレードを持ち掛けただろう。それくらいに私達フェニックスの中では神聖化されているのだ。もっとも、二度目に現れた太陽の魔力の持ち主を眷属化しようとした折、悪魔の駒が燃え尽きたことから不可能と言われているが。

 

一通りの情報を話した後で、黙って聞いていた来客の男性が口を開いた。

 

「太陽の魔力……フェニックス家はずっとお探しでしたな」

「これはグレモリー卿。大変失礼を……」

「いや、いい。フェニックスがどれだけ欲して来たかわかっているからね」

 

来客はお兄様と婚約予定のグレモリー家の当主であった。

私も一礼して、御挨拶をする。

 

「と、なれば……まずはレイヴェルを学園に編入させ、仲を深めるのが定石か」

 

お父様の中で計画が組み上がっていく。

その手は既に、私も考えていた。

いきなり“婚約”の話を持ち掛けても、きっと首を縦には振らないだろう。そんな結論に至ったらしい。

私もまた失敗するわけにはいかない。

 

「……太陽の魔力は言い伝え通りかね」

「はい。あのお兄様が太陽に焼かれるほどの高熱、早々出せるものではありません」

 

今や重傷で気絶してベッドで寝ている兄を看護している眷属達を思うと、その威力が窺える。フェニックスを焼くほどの炎、あれは本物だと私の細胞が告げている。

 

「取り敢えず、私は人間界に行く準備を進めて来ますわ」

 

 

 

急いでも編入手続きは一週間の時間を要するらしい。私の中の恋の炎は燃え上がるばかりで、焦燥感ですら起爆剤になってしまう。ついに我慢出来なくなった私は、編入の一週間前から人間界に入り浸る事にした。

どうにかこの暇な時間の潰し方と仲良くなる切っ掛けを掴めないかと模索して、辿り着いたのはグレモリーが根城にしている旧校舎だ。彼女達が橋渡しになってくれるよう、利用しようとしたのだ。

 

「ごきげんようリアス・グレモリー。……あら、どこかお出掛けですの?」

 

転移した先、旧校舎の部室にはリュックに大量の荷物を詰めているリアス・グレモリーの姿があった。それに学校の制服ではなく、ジャージを着用している。私は首を傾げた。

 

「レイヴェル?あなたが何故……あぁ、そういえば転入するんだったわね。私達はレーティングゲームの為に明日から特訓をするのよ。このままだとライザーに勝てないから」

 

なるほど、道理だ。今のままでは、リアスとその眷属達でお兄様に勝つのは至難だろう。むしろ、可能性すらないかもしれない。と、思ったら妙に相手は得意げだ。

 

「勝算はありますの?太陽の魔力の持ち主にフルボッコにされましたが、あれでいてお兄様は公式戦実質無敗。勝ち目があるとは思えませんが……」

「あぁ、それね。大丈夫よ。私達には特訓に付き合ってくれる人達がいるから」

「まさか、サーゼクス・ルシファー様の眷属ですか?」

 

サーゼクス・ルシファー。現魔王様の一人はリアスグレモリーの兄にあたる。その眷属達から直接指導されたとあれば、戦力アップは間違いなしだろう。結局は、本人達の力量次第だが。

 

「いえ、違うわ。グレイフィア・ルキフグスよ」

「なるほど、魔王様に匹敵する旧魔王派の残党ですか」

 

グレイフィア・ルキフグスは現在、カナタ様と生活を共にしているらしい。その他にも堕天使までもが共生しているらしく、その事実を知った時は酷く驚いたものだが、その者に教導して貰えるとならば戦力アップは間違いないだろう。

 

–––しかし、グレイフィア・ルキフグスが行くということは。

 

「カナタ様も参加していたりは……」

「あぁ、あの子も参加するらしいわよ」

「本当ですか!?」

「え、えぇ……」

「私も参加させていただきます」

 

転がり込んだ幸運を利用しない手はないと、私はその話に飛びついた。

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