太陽と月のハイタッチ   作:黒樹

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気になる視線

 

 

 

親睦会と銘打ったBBQが始まった。山盛りに盛られているのは様々な野菜と牛肉を刺した串に、レイヴェルが実家から持って来たという鶏肉の焼鳥串がメインだ。レイヴェルも料理が得意だということで、彼女にも手伝って貰って四人で交代で肉を焼いている。グレモリー先輩達は悠々と食事ができていた。

 

「く〜、うめぇ〜〜〜ッ!!!!」

「ふふっ、そうですねイッセーさん」

 

妙な雄叫びを上げたのは兵藤だ。カルビ、玉葱が刺さった串を両手に頬張りハムスターみたいに頬を膨らませている。その横でまるで子供を見守る聖母の笑みを浮かべているのがアーシアだ。彼女も野菜多めの串を手に食事を楽しんでいた。最初は串に刺した食材に驚いていたようだが、味に慣れると兵藤のサポに回ってしまう。恐ろしいくらいにイッセーラブな女の子だ。

 

「うん。確かにこれは美味しいね」

 

唯一のイケメン木場は鍛錬の後だというのに爽やかに笑って串を上品に食べている。イケメンは何をしても格好良いのか、とても納得がいかない。脂の一つ飛びはしなかった。

 

「本当、連れて来て正解だったわ」

「ええ、そうですね部長。キツイ修行の後に料理をするのは少し、大変ですから」

 

修行の後に料理をすることが憂鬱だったのか、グレモリー先輩と姫島先輩の二人は何処かほっとしたように安堵の笑みを浮かべている。

 

「そもそも僕がその話を受けなくても、拒否権なんてなかったでしょう」

 

どう足掻いても僕の合宿参加は決定事項だ。

グレモリー先輩はオカルト研究部の合宿と銘打ってこの場にいるのだ。

つまり、僕が参加しないのは不自然になる。

もっとも、協力するといった手前、引き下がることなどなかったけど。

 

「……もぐもぐ。先輩の焼いたお肉、美味しいです」

 

しかし、そんな和気藹々とした空気とは別に目の前にはとんでもないフードファイターがいた。お肉の山を抱えている小さな女の子。一見して小柄だが侮ることなかれ。その山とは別にもう既に屍と化した串が三十本転がっている。

小猫だけはいつも通り、マイペースに食事をしていた。

 

「……先輩の……熱いの……いっぱい出てきます……」

 

感想を述べる小猫の唇が脂でてらてらと光って妙に艶かしい。食事風景かどうかを疑いたくなるが、無表情な小猫の口元を拭ってやることで冷静に戻った。

 

「特にこのピーマンの肉詰め……まるごと皮を被っているのに、中はぎっしり肉が詰まっていて、肉汁がいっぱい出てきて……口の中がいっぱいです」

 

普段は無表情なのに、声音だけが乱れている。

何故かいけないことをしている気分だ。

 

「そう。美味しいならよかった」

 

黙々と肉を焼き続ける。僕が好きなハラミとミスジを共有したい。その一心で、とっておきのステーキ二つを追加で焼いていく。僕が食べる予定で買ってきたけど、小猫に食べられるなら本望だと思った。

 

「……すごいお肉です」

「ハラミとミスジ、僕の一番好きな部位だね」

「くれるんですか?」

「まぁ、ハラミとミスジは僕が好きだからいっぱい買ってきたし」

 

まだあるよね僕のハラミとミスジ?

 

 

 

食事が進むと各々好きな串を取って勝手に焼き始める。その頃になって気づいたが、何処かこの食事会は空気がおかしかった。

 

「……先輩、口を開けてください」

「あ、うん。あー……」

 

今も小猫は僕が焼く串や焼き物を目当てに居座っている。最初からそんな風に偏ることは判っていたが、それは他の人達でも例外はないらしい。さっきからずっと周りを窺っていたが、思ったほど親睦会は上手くいってないようだ。

 

アーシアはイッセーから付かず離れずだし、姫島先輩もグレモリー先輩の隣を離れようとしない。木場は会話を振りにいったりもしているがどうも素っ気ないというか。よくいつものグループで一緒に行動するのはわかるが、レイヴェルが輪に入りきれていない。

 

それともう一つ、気になったことが。

 

レイナーレだ。彼女の近くには殆ど誰も寄ろうとしない。グレモリー先輩と姫島先輩と木場が一回、それからアーシアと小猫が何度かレイナーレと談笑をしていただろうか。だけど、違和感に気づいたのはそれが原因ではない。兵藤の反応だ。

兵藤といえば、年中教室内で猥談を繰り返し、覗きという犯罪の常習犯だ。その奴がグレイフィアとレイヴェル相手にデレデレしていたのは理解できるが、レイナーレにだけは近寄ろうとしなかった。アーシアに近づく虫は排除しようとしていた兵藤も、レイナーレとアーシアが話している間は何もしなかったのだ。

 

はっきり言って異常だ。

レイナーレ程の美人に兵藤が反応しないなんて。

 

「どうかしたんですか先輩?」

「いや、ギクシャクしてるなぁっと」

「あぁ、そうですね。……それもしかたないと思いますけど」

 

諦念にも聞こえる、小猫の呆れた声。

どうやらこんな会話でも食べる手を止めるつもりはないらしい。

俄然せずといった様子で肉を平らげていく。

指についた脂をぺろぺろと舐めて、僕の視線に気づいてハッとした様子でハンカチを取り出す。その一連の動作がまるで親に悪戯を見たかった子供みたいで、なんだか微笑ましい。

 

「んんっ。そもそも先輩がおかしいんです。堕天使とも悪魔とも仲良くなる人間なんて、世界中探しても先輩だけです。それに言ってしまえば先輩の家にいるあの二人の関係性も異常ですし」

 

レイナーレとグレイフィアは意外に仲が良い。僕が学校に行っている間に何があったのか、二人は友人のように接している、聞いていた悪魔と堕天使の諍いの話とは大違いだ。

 

「一番顕著なのは兵藤かな」

「どうしてですか?」

「レイナーレだけには近づかないから」

「それもしかたないことかと」

「なんで?毎日あんなにおっぱい連呼してるのに?」

「そのレイナーレさんに殺されたんですよ。イッセー先輩は」

 

なるほど、道理で苦手になるわけだ。

 

「仮にも元恋人だから気不味いんだと思ってた」

「叶多先輩の頭の中はお花畑ですね。羨ましいです」

 

今ものっすごく失礼なことを言われた気がする。

 

「じゃあ、レイヴェルは?」

 

思った以上にグレモリー眷属と関わりのないレイヴェルだけが浮いている状況について言及すると、小猫はまた興味なさそうに肉を食い漁り始めた。

 

「もきゅもきゅ……ごくん。あれはとても危険な匂いがします」

 

あの黒猫みたいに尻尾や耳があれば毛が逆立っているのだろう、威嚇するような視線に小猫の頭を撫でる。

 

「僕としては後輩二人仲良くして欲しいんだけど」

「それはあっち次第です」

 

食欲とレイヴェル、二人を天秤にかけた結果、食欲が勝ったのか小猫はなおも肉を食べ続ける。それにしても凄い食欲だ。こんな小さな体の何処に入っているのか、学園の七不思議の一つになってもおかしくはない。栄養何処行った?

 

「カナタ君」

 

そんなことを思っているとレイナーレが焚き火から離れて駆けてくる。手にはハンカチを持って、その上には銀紙の端が見えている。アルミホイルで何か包み焼きを作ったらしい。

 

「じゃーん、エリンギの包み焼きだよ」

 

包みを開いた瞬間、香ばしいバター醤油の匂いが溢れ出す。一口サイズに切られたエリンギが丸ごと一本分入っていた。

 

「手が塞がっているみたいだから食べさせてあげるね。はい、あーん」

「……っ、あふっ」

 

どうやら小猫が僕に肉串を食べさせるところを見ていたらしく、対抗心を燃やして何かを食べさせたかったらしい。周りの様子など知ったことかと僕の世話を焼きにかかった。

熱々のエリンギに口内を焼かれながら、なんとか咀嚼して飲み込む。

美味しいけど、そのあとが大変そうだ。

 

「どう?美味しい?」

「うん。美味しいよ」

 

調味料のバランスは完璧だ。文句のつけようがない。アルミホイルの中のエリンギがなくなるまで食べさせられた後で、割り箸と包み紙を捨てて、こう言った。

 

「……やっぱりカナタ君の隣は落ち着くわ」

 

とても疲れた様子でそう言って、自分も肉の刺さった串を取った。一度、肉に噛み付いてもぐもぐと咀嚼して飲み込む。側にあったコップに注がれたお茶を飲んで一息。話を続けた。

 

「正直言って不安だったのよね。グレモリーとは確執があるから、嫌な空気にならないかなーとか思ったりして」

「堕天使だもんね」

「そうよ。一人だけ堕天使なの!」

 

一人だけ浮いていると感じたらしいレイナーレの告白は悲壮感があった。

参加者は計十名。悪魔、悪魔、悪魔、悪魔、悪魔、悪魔、悪魔、悪魔、堕天使……と、そこまで並べて気づく。

 

「それ言ったら僕も一人だけ人間なんだけど」

「あ、そっか。カナタ君も一人だけ……ということは、私の仲間ね」

 

実は浮いているのは僕とレイナーレで、レイヴェルは対して浮いてないんじゃないかということに。だけど、それを嬉しいと感じてくれたのかまたレイナーレに抱き着かれた。

 

「もうそれだけで嬉しい!」

 

他のことはあまり気にしていないのか、僕しか見えていないのか。

彼女の頭を優しく撫でて、僕は肉を焼く作業に戻った。

本人があまり気にしていないのだから、気にしても仕方がない。

 

「となると、あとは……」

 

さっきからずっと此方を見ているレイヴェルに目を向ける。視線が交差した瞬間にぱちくりと瞬きをして、さっと顔を逸らされた。

 

 

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