太陽と月のハイタッチ 作:黒樹
最終日、日が暮れる頃の山の中には沢山の屍が転がっていた。兵士、騎士、戦車、女王、果てには彼らに護られるべき王まで。その傍らには心配そうにあわあわと慌てる僧侶の姿があり、それを作り出した張本人であるグレイフィアは涼しい顔をしてポツンと立っていた。出来の悪い生徒を見るような目で彼らを見渡すと瞑目して宣言する。
「これで全日程は終了です。お疲れ様でした」
最後の試練、僕、レイナーレ、グレイフィアとの連戦はご覧の通りの有り様だ。三人の誰にも歯が立たず、地面を転げているのが全てを物語っているだろう。
リアス先輩は大きな胸を荒い息で上下させ、返す言葉も出ないらしい。そして、そのプルプルと揺れる胸を見る余裕も兵藤はないようだ。動かない屍のようにうつ伏せに倒れている。
「さて、会話をする余裕もないようなのでこの後の予定を伝えさせていただきます。夕食の前に汗を流し、その後に食事といたしましょう。明日は丸一日の休養を取ってください。万全の体調でなくては全力を出すのも難しいでしょうから」
「わ、わかったわ。聞いたわね……」
「とはいえ、午前は全て作戦会議に当ててもらいます」
「そうね。身体を休めるだけじゃ不安だもの」
「では、私達は食事の準備をしますからさっさと入って来なさい」
ぱんぱん、とグレイフィアが手を叩けば無理矢理身体を起こしてグレモリー眷属達が動き出す。フラフラとした足取りながらも山荘へと向かって行く姿を僕らは見送った。残ったのは、グレイフィア、レイナーレ、レイヴェル、そして僕。
「それじゃあ皆行ったようだし、僕達も行こうか」
僕らにはまだ、夕食の準備が残っている。
◇
露天風呂から上がったオカルト研究部部員達は一足早くお疲れ様会と、ライザー戦に向けての意気込みを再度語ると早々に寝床に向かってしまった。その後片付けをした後で僕らもようやく一日を終えることができる。
時計の針が十二時を報せる少し前、ようやく僕達も露天風呂を堪能することが出来ていた。
「ふぅ〜。……ようやく一段落ってところかな」
湯船に浸かりながら月夜を見上げる、贅沢なシチュエーションに凝り固まった身体を解すように伸びをすると、手がふにょんと柔らかいものに触れた。そのまま拘束される。
「お疲れ様、叶多」
「ん。グレイフィアもおつかれ」
僕の腕を抱いたままグレイフィアは湯船に足を入れ、そのまま腰を下ろすと僕の隣に座った。当然のことながら僕の腕は抱かれたままだ。珍しく甘えたモードらしい。
「いよいよだね」
「はい。レーティングゲームまであと48時間ほどでしょうか」
「でも、僕達の仕事は終わりだ。約束は果たした。あとはリアス先輩達次第だ」
そう。今日で僕らの仕事も終わり、明日は一日中のんびりする予定だ。
「……叶多は勝てると思いますか?」
普段から口数の少ないグレイフィアが話題にしたのはレーティングゲームについてのこと。教えた手前、勝敗が気になるのは判らないでもないが、実に珍しいことだ。彼女が他人を気にするなんて。
「難しいんじゃないかな」
だから、僕もはっきりと思っていることを告げた。
現状、リアス・グレモリー側が勝利するのは難しい。
その理由はまず初めにライザーがフルメンバーであることだ。レイヴェルの僧侶の駒が一枠抜けたものの、人数だけなら圧倒的差があるといえる。『質』より『量』とはよく言ったもので、個々の実力は高くとも同格の相手が二人もいればまず勝ち目はないだろう。
二つ目の理由はライザー自身にある。あの不死にも近い再生能力は厄介極まりないだろう。決定打たりえるリアス先輩か朱乃先輩のどちらかと兵藤が残っていなければいけないのだ。それも力が温存出来ている万全の状態が好ましい。
「リアス先輩側がフルメンバーでライザーと戦えるなら勝機はあるけれど、まずそんな状況に持ち込むのは難しいだろうしね」
希望的観測を口にしてみたが、やはり無謀だろう。総合力で負けている。
「ですが、可能性ならあるのですね」
「可能性だけならね」
そんなことはグレイフィアも判っているのだろうが、他に言いたいことでもあるのか考え込んでしまう。言うべきか言わないべきか迷っているようで、僕もまたそんな彼女の様子に見蕩れてしまう。
「あー、二人ともイチャイチャしてるー!」
グレイフィアの横顔に見蕩れていると身体を洗い終えたレイナーレが乱入してきた。此方もまた裸を隠そうともしないすっぽんぽんで、小走りに駆ける度に大きな胸がプルプルと揺れる。側まで来るとグレイフィアとは反対側の僕の腕を掴んで湯船に浸かった。
「レイナーレはどっちが勝つと思う?」
「ゲームの話?私は判らないかなぁ」
ついでにレイナーレにも聞いてみたが、偏った答えではなく意外な回答が返ってきた。
「ふーん。意外だね。はっきり負けるって言うかと思ったけど」
「だって、ほらあのおっぱい大きい巫女さん。姫島朱乃だっけ?あの娘が光の力さえ使えば余裕じゃない?」
「ん?」
「あれ、カナタ君気づいてなかった?あの娘、堕天使の血が混じってるわよ。転生元が堕天使なんだろうけど」
道理で朱乃先輩の気配に違和感を感じるわけだ。何か悪魔とは違う別の気配を感じていたがまさかそれが堕天使だったなんて……その気配ならレイナーレで慣れていたはずなのに、気づかなかったのは混じっていたからか。でも、朱乃先輩が光の力を使うところなんて一度も見たことはない。どうしてだろうか?
「どうして使わないのかしら?」
レイナーレも同じことを思ったらしく首を傾げている。
「理由があるのでしょう」
「でも、もしその力を使ったのなら、勝率はぐんと上がるのにね」
もしそんな力を持っているのなら、大切な人を守るために僕は使ってしまうだろう。そうしないのは使いたくないからか、もしくは使えないのどちらかか。
その辺りをリアス先輩が指摘しないあたり深い事情がありそうだ。
「無い物ねだりをしても仕方ないし。別の事考えようよ。それに僕達が気に病むことでもないし」
そうして、話題は他のことに。
二人の柔らかな感触に包まれながら、目先のことを考える。
取り敢えずは明日のことだ。
明日一日、だらだら過ごすというわけにはいかない。
なにせこの山荘とは明日でお別れなのだから。
「明日は何しようかなー」
遊んでいたのも最初の一日だけで、他はリアス先輩達の手伝いばかりだった。明日こそは有意義な時間を過ごしたい。
「朝風呂というのもいいですよ」
ぐいっと腕を引くように抱き締めるグレイフィア。大きくも形の良い胸が僕の腕を挟み込み、逃さまいとした。
「ふふっ、私も賛成」
その反対の腕をレイナーレが引っ張る。胸に腕を埋めるように抱きしめて離さない。
ポヨポヨ。ポヨポヨ。
両腕が幸せな感覚に包まれて、やや困惑する。
「あの……グレイフィア?」
「いいじゃないですか少しくらい。この山荘に来てからイチャイチャするの我慢してたんですから」
グレイフィアが人前で甘えてくることは稀だ。だから、この山荘に来てからは特に何もしてこなかったのだが、ついぞ寂しくなって甘えに来たらしい。
「それにもうリアス達は眠っていますし、他人の目を気にする必要もないかと」
「んー、確かに久しぶりだね。こんな時間。最近は色々とあったから」
寝る時には抱き着いてきたりするけど、それと違った良さがここにある。他愛もない話をしている間に夜が更けて、やっと眠りについたのは午前二時を回った頃だった。