太陽と月のハイタッチ   作:黒樹

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レーティングゲームの裏側

 

 

 

真夜中の学校に十二時の鐘の音が鳴った。こんな真夜中に僕は旧校舎の廊下を歩いていた。もうリアス先輩達はレーティングゲームを始めた頃だろうか。

そんな時間に僕が学校にいるのは彼女達のゲームの観戦のためだ。外部から魔法にて映像を繋げることもできたのだが、レイヴェルが一人で部室に残ってしまうこともあって、眠いのを我慢して学校に来たわけだ。

 

「カナタ様ですか?どうぞお入りになってください」

 

念の為と思ってノックをすると中からレイヴェルの上擦った声が返ってきた。入室しようと扉に手を掛けて半開き状態のドアの隙間から顔を覗かせると、レイヴェルの他にも何やらダンディな成人男性の姿が……誰?

 

「ご紹介します。此方は私の父です」

「やぁ、噂は聞いてるよ大空叶多君。敢えて光栄だ」

「え?……あぁ、どうも」

「私のことはお義父さんとでも呼んでくれたまえ」

 

対面するや両の手を握りしめられぶんぶんと振られる。

噂、と言っていたが何のことやら……レイヴェルとまともに接したのは強化合宿が初めてだし。と、思っていたら妙に握手が長い。というか全然離してくれない。

言っておくが、僕に男に手を握られて喜ぶ趣味はないのだ。

 

「あの……そろそろ手を離して貰えると……」

「いやぁ、すまないね」

 

そう謝罪して、パッと手を離す。……って、なんでレイヴェルの父親が。そう疑問に思った時、見計らったようにレイヴェルの親父殿–––フェニックス卿が壁に視線を動かした。

 

「まぁ、立ち話もなんだし、ゲームを観戦しながら世間話とでもいこうじゃないか」

 

宙に映し出されているのは此処とは別の場所の映像だ。複数の画面にはそれぞれ眷属達の動向が映し出されており、主に映されているのは王であるリアス先輩とライザーの動向、そして眷属達の暗躍と戦闘だ。まだ遭遇していないのか、誰一人として欠けていない。

 

ソファーに座った僕とフェニックス卿、だがレイヴェルが座らない。気まずさに固まっていると楚々とした流麗な所作で紅茶の準備を始めた。よくできた娘だが、今はどうか早く座って欲しいと切実に願う。

紅茶がテーブルに並べられている間も生きた心地がせず、レイヴェルが準備を終えて間に入ってくれたおかげでなんとか心身の安寧は保たれた。

 

……なんで僕がレイヴェルの父親と対面してるのだろう。

 

「さて、カナタ君。君はレーティングゲームについてどれだけ把握してるかね?」

 

無心になって画面を見つめているとフェニックス卿から声が掛かる。

レーティングゲームについては詳しくは知らない。

チェスを基盤にした実力主義のゲーム、というだけで……その実態はチェスとは全く違う。

王、女王、騎士、僧侶、戦車、兵士、どれも役割を与えられた悪魔達がプレイするものであり、個々の実力に差が出る。

リアス先輩とライザーに実力の差があるように、駒は全て平等というわけではないのだ。

 

「まぁ、概ねその通りだな。だからこそ、戦略が状況を覆す力を持っているのだが」

 

そう。だから、リアス先輩にとってこのゲームは物凄く不利なものである。何故、こんな勝ち目すら薄いゲームで抗おうと思ったのか甚だ疑問だ。

 

「人間で言うところの格闘技みたいなものですよね」

「確かに、見せ物といった意味ではそれに近いな」

 

ボクシング、柔道、レスリング、etc……。

サッカー、野球、その他のスポーツもそれに当て嵌まるかもしれない。

娯楽という意味では、人間で言うところのそれだ。

 

「しかし、レーティングゲームについて君は疎いだろう。そこで私が解説をしようじゃないか」

「ありがとうございます……?」

 

そして、レーティングゲームについては初心者の僕に解説をしてくれるという。

何を解説するのか判らないが。

なんでも聞いてくれたまえ、と言われても……何を聞けばいいか判らないのだが。

そんな期待の眼差しを向けられても困るのだが。

映像の中で、両陣営が体育館を目指しているのに気付く。

 

「じゃあ、あれ。どうして両チームとも体育館を目指しているんですか?」

「あれかい?こういうステージだとあそこは重要な拠点だからね。押さえておかなくちゃならないのさ。特に両陣営の中間地点とも言える場所だからね」

「なるほど……?」

 

それほど重要な拠点にも見えないが、そうなのだろう。

リアス先輩達の実力を考えると、闇討ちが一番効果的な手に見えるが。

先に体育館に辿り着き、占拠したのはライザー陣営。

敵が近づくのに感づいたのか、舞台袖に隠れて待ち伏せるようだ。

 

「さて、リアス嬢の眷属達はどう動くかな……?」

 

遅れて体育館に乗り込んだ兵藤、小猫の二人。

木場と朱乃先輩の姿が見えないことから、裏で別の任務が与えられているのか。リアス先輩のところにその姿はない。ちょうど、映像からもフェードアウトしており、此方からも動向が探れないようになっている。

見ればライザー陣営の数人が何をしているのかも判らない。

 

「まぁ、流石にこの程度気付かないわけがないでしょう」

 

レイヴェルの指摘通り、看破した小猫に観念したのか舞台袖から三人の女性達が姿を表す。

そして、初の接敵と戦闘が始まった。

 

「ほう、随分とやるようだね」

「当然ですわ。カナタ様が御尽力なさってくださったのですから」

 

感心した様子のフェニックス卿に何故か自慢げにレイヴェルが胸を張る。

そこで胸を見てしまうのは男の性か、自然体を装って目を逸らした。

 

「まぁ、あれくらいはやってもらわないとね」

「では、カナタ君はどちらが勝つと思うのかな?」

 

–––そんなの聞かれるまでもない。

 

「ライザーじゃないかなぁ」

「「えぇっ!?」」

 

驚いた声がふたつ。流石は父親と娘、息ピッタリだ。

どうやら二人とも僕がかなりグレモリー眷属に入れ込んでいると思っていたらしい。

それは見当違いだ。

僕はあくまで、冷静に物事を見ている。

そりゃあ、リアス先輩の意思を尊重すれば勝って欲しいところだが。

 

「可能性としては無くはないんだけど、それこそ赤龍帝が覚醒するか……奇跡と呼べるほどの何かを起こすか、かな」

 

現実的には難しいと言わざるを得ない。

 

「では、あれもカナタ君が修練を共にした結果かね」

 

少し目を離した先に何か起きたらしい。フェニックス卿に言われて映像に視線を移すと、女性の服を弾けさせている変態の姿がそこにあったので僕も驚く。

そんな破廉恥な光景も、すぐにレイヴェルに目隠しされて見えなくなってしまうのだが。

 

「絶対に違います」

 

これだけは言っておかねばならない。

あれとは無関係だと。

まさか躊躇なく女性に使うとは思わないだろう。

……これは兵藤の評価を改めねばなるまい。

 

「いや、いいんだ。英雄色を好むとも言うし……」

 

フェニックス卿の表情が何処か満足そうな様子、何やら誤解が生まれているようだ。

 

「もういいや。……レイヴェル、そろそろ離れて欲しいんだけど」

「そ、そうですね……。どうやら体育館から撤退を開始したようですし」

 

全裸の女性二人と戦車の女性一人、ライザー眷属だけを残して二人が離脱する。その直後、体育館を轟音と雷鳴が直撃し、映像越しに耳を劈くような音が耳朶を打った。

 

「きゃっ!?」

 

びっくりして僕にしがみつくレイヴェル。

画面からはとんでもないほどの光、一体何が起きたのか。いや、これこそが結果なのだとしたら、何が起こったのかは想像出来る。

炎のような光ではなく、これは稲妻だ。

誰が打ったのかは想像に難くない。

 

『ライザー様の兵士二名、及び戦車一名がリタイアしました』

 

事務的な声で告げられる敗退者達。

これで僅かに敵の戦力は減ったが、それでもまだライザー側の優勢は覆らない。

 

「大胆なことをするなぁ……」

 

敵の注意を引きつけて、建物ごと葬るとはまさに悪魔の所業なり。

……そういえば、リアス先輩も朱乃先輩も悪魔だ。

此処で悪魔と罵ることは、寧ろ褒め言葉だろう。

 

–––ドカァァァン!!!!

 

その数秒後、先程の落雷とはまた別の轟音が世界を震撼させた。画面が今度は真っ赤な炎で埋め尽くされる。

 

『リアス様の戦車一名、戦闘不能』

 

炎が晴れた先にいつもの後輩の元気な姿がない。

さっきまで一緒にいた兵藤は間一髪難を逃れたのか、一人校庭に倒れ込む形で残っていた。身体は無傷だが不自然に無理矢理倒されたような形で爆心地を呆然と見て……ふと、空を見上げた。その先にいたのは巫女服姿の朱乃先輩とライザー側の女王。二人が睨み合うようにして空を飛んでいた。

 

考えることはどちらも同じ。

だが、どう考えても確実に狩られているのはオカルト研究部の方だ。

多少の犠牲を出しながらも、堅実な方法で数を減らす。

それは、通常のチェスにおいては有効な手法だ。

 

「ゲームだからこその手か」

 

もしこれが命を賭けたものであれば絶対に使わない手を平気で使う。それこそが経験の差であり、やり方の違いなのだ。リアス先輩なら使えない手ならば、予想すら難しかったかもしれない。

仕方ないとは言えないが、此処で既に経験の差が出ている。

 

「あの小猫さんの断崖絶壁の鋼の肉体を火力で貫通させるとは、さすがはお兄様の女王ですわね」

「確かにね。並大抵の攻撃なら受け切っちゃう小猫ちゃんがワンパンって、絶対に当たりたくないなぁ」

「おや、カナタ君でもそう思うかい?」

「ですが、カナタ様に比べたら本当にゴミみたいな火力ですわ」

「ほう、それは実に興味深い」

「いえ、別に僕はそれほど強いというわけでは……」

「ちょっと今度、一発『無慈悲な太陽』を撃ってもらっても……」

「え?」

 

それは誰に。空に?誰もいない場所?言葉の意味が判らず困惑している時だった。

 

「もうお父様ったら、いくらお父様でもカナタ様のあれをくらったら本当に焼き鳥になってしまいますわ」

「はっはっ、だがあれを受け切ったとなれば私は末代まで名を語り継がれるだろう」

 

とんでもない会話が父娘の口から放たれる。冗談かと思いきや、レイヴェルはそれほど冗談が得意ではない。が、フェニックスジョークとして僕は処理することに決めた。

 

 

 

それから次から次へと、敗退した者達が告げられていく。

ゲームも終盤、王と王、そしてそこに駆けつけた兵藤とライザーの一騎討ちが始まった。画面の中で兵藤は懸命に足掻くも、ライザーには傷一つ負わせることすらできない。しかし、確実に兵藤は傷を負う。まるでライザーは遊びだと言わんばかりに手加減を施し、それでもなお兵藤は届かなかった。

ボロボロになって何度も立ち上がる兵藤、それは唐突に終わりを告げる。

 

『リアス・グレモリー様のリザイン宣言を持って、ゲームをライザー様の勝利と致します』

 

ゲームを終わらせたのは、リアス先輩自身の心が折れたから。

彼女自身が敗北を宣言したのだ。

 

「おや、終わってしまったようだね」

 

ゲームそっちのけで僕に話しかけてきていたフェニックス卿がゲームの終了を確認すると、感慨もなくそう言い放った。まるでそうなることは判っていたかのように。

 

「そうですね。じゃあ、僕はそろそろ帰ります」

「あぁ、ちょっと待ちたまえ」

 

特に用も無くなったのでそう告げて退室しようとすると、フェニックス卿に呼び止められる。

 

「実は今日、君に会いに来たのは別の理由があったのだよ」

「はい、なんでしょう」

 

とても真剣な顔だ。まるで今から大事な話があると言わんばかりに。

 

「……そうだね。単刀直入に言おう。大空叶多君、レイヴェルを嫁に貰う気はないかね?」

 

……そんな大事な話を帰り際に言いやがった。

 

「え、お、お父様!?」

 

レイヴェルにも寝耳に水の話だったようで、多少は驚きはしたものの僕と目が合うと恥ずかしそうに顔を逸らした。なんでそんな満更でもなさそうな顔を……。思い当たる節がないわけでもないが。

 

「何故、僕なんです?」

「君と話してよくわかった。君は善性の人間だ。レイヴェルの話の通り、とても面白い人間だし好感も持てる。君ならレイヴェルを大切にしてくれるだろう」

「僕はもう既に両手に花でそれどころではないんですが」

「あぁ、それも知っている」

 

他の女性の影匂わせたが、それも構わないと。

何言ってんだこのオヤジ。そう思った僕は悪くない。

 

「とはいえ君にも悪くない話だとは思わないかい。君の事情については熟知している。君の恋人の事もあらかた調べ上げたさ。リアス嬢はともかく、私はフェニックスの現当主。リアス嬢よりは発言権があるつもりだよ。……いや、彼女の父親と結託して君の彼女の便宜を測ってもいい」

 

–––つまり、フェニックス卿は僕と交渉するつもりらしい。悪魔側からグレイフィア・ルキフグスに関しては何もしない代わりに、レイヴェルを嫁にしろと。……自分でも何を言っているが判らないが、多分そういう事らしい。

 

「つまり、正妻にしろって事ですか?」

 

–––それなら僕は断る。

 

「いいや、愛人でも妾でもなんでもいいさ。なんなら玩具にしてくれても構わない」

 

–––こいつに親の心はないのか。フェニックスが極端にバカなのか。変態種族だというし、娘を愛玩具にされて喜ぶ変態なのかもしれない。

だから、僕が思わず怪訝な目で見てしまうのは仕方ない事だ。

 

「はっはっはっ、いやー娘は君に愛されているみたいだ」

 

どうやらこれも僕の気持ちを確かめる為の冗談らしい。……本当に冗談だったのかは定かではないが。

 

「どうだ悪い話じゃないだろう」

 

確かにグレイフィアの件が一応の終着を見せるのも、悪魔側と多少の繋がりができるのも悪い話ではない。それにレイヴェルを嫁に貰うという点も悪いわけではない。むしろ良い。あの二人の機嫌を損ねなければ。あと僕にハーレムを作る器量さえあれば。

しかし、両手に花という言葉があるように、両手に持てる花は二つだ。それ以上は人間の手には負えない。花束?それは語源とはなんら関係がないだろう。よって、ハーレムは難しいということが証明されてしまっている。

 

「……確かに良い話ですが。僕の一存では決めかねます」

「はっはっはっ、流石に二つ返事で了承してくれるとは思わないよ。そういうわけで、我が娘にチャンスをくれやしないかい」

「チャンスですか?」

「そうだ。来週からレイヴェルもこの駒王学園の生徒だろう。しかし、娘の一人暮らしは何かと心配でね。君が預かってくれるなら安心して私も娘を送り出せるというものだ。……もしその間にレイヴェルを気に入ったのなら、そのまま貰ってくれやしないかとね」

 

……そう、これは厳密に言えばお試し期間だ。悪魔の甘言とはこんなにも恐ろしいのか。クーリングオフできると言いながら、なぁなぁで買ってしまうパターンのやつ。通販の闇。

 

「二人も三人も同じだろう?」

 

–––今更、レイヴェルだけダメだなんて、僕に言う勇気もなければ権利もなかった。




その後、家に帰ったフェニックス卿は秘蔵のワインを一本開けたらしい。
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