太陽と月のハイタッチ   作:黒樹

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視点は叶多♀へ。


神器発動

 

 

 

太陽が沈み、月が昇る。

太陽の魔力が月の魔力へと変化する。

男と女が入れ替わり。

呪いと祝福が私を創り出した。

 

呪いと祝福は表裏一体。それは誰の言葉だろうか。

それを体現したのが私だ。

『力』という祝福を手に入れ、『性の反転』という呪いを受けた。

 

しかし、呪いというには程遠い。私はこの姿を割と気に入っている。容姿が優れているのがポイント高い。女性特有の生理現象が起こったりもするけど、それも一種の勉強になった。女の子に生まれなくてよかったと思う。

 

 

「あら、どうしたのかしら?早く始めましょう。夜更かしは美容の大敵よ。もちろん、そういう営みは別だけど」

 

目の前で固まってしまっている悪魔達に冗談めかして声をかける。何やら嫌悪感のする視線が私を見ている気がするが敢えてスルーしておくことにした。

 

「…叶多先輩、ですか?」

「それ以外に誰がいるというの?」

「…先輩って女の子だったんですか?」

「違うわよ。今は生物学上『女性』だけどね」

 

男に付いているあれはないし、男についていない果実は実っている、この身体から製造されるのも卵子。生物学上『女性』と言っても過言ではないどころか、生理現象も女性のそれなのだから。ただ健全なる肉体に精神が引っ張られがちなのは否めないけれど。

 

惚けている小猫の顎に手を添えて見つめ合う。

 

「でも、私が好きなのは女の子よ。ふふ、食べちゃいたいくらいに可愛いわね」

 

そのまま小猫を抱き締めると「ふにゃ」という情けない声が胸元からした。嫌そうに捥がくので仕方なく離してあげると、その表情は絶望に染まっていた。

離れた小猫の身体はゆっくりと倒れ、膝をつくと四つん這いになる。

 

「……理不尽です。この世界は、理不尽ですっ」

 

何やら苦しそうに胸を押さえて、涙目の小猫は膝を抱えて蹲る。

 

「まずは一人」

 

塔城小猫は戦意喪失。

続いて、私に不快な視線を向ける男を睥睨する。

 

「学園の女子生徒の気持ちを代表して、兵藤君は死になさい」

 

パチンッ、と指を弾くと兵藤の身体が氷の棺に閉じ込められる。もちろん、無理に剥がそうとすれば皮も一緒に捲れて悲惨な事になる。具体的には筋繊維が剥き出しになり、血をダラダラと垂れ流し、やがては失血で死ぬ。

 

「小猫!? イッセー!? いきなり不意打ちなんて卑怯よ!」

「どうせ物の数には入らないわ。それよりどうする?まだやる?私としては日頃のストレスを発散するいい機会だから、もう少し楽しませて欲しいところだけど」

「一対一のはずでしょう」

「いいじゃない。細かいことは気にしないで。むしろあなた達にハンデをあげてるのだから感謝して欲しいくらいだわ」

「くっ……まさかこんな隠し球を持っているなんて誤算だったわ」

「お互い様でしょう?貴女には貴女の打算が、私には私の勝算があった。まさか卑怯だなんて言わないわよね?力量を測り間違えたのは貴女なんだから」

 

確実な勝算を持っていたのでしょうけど、そもそも小猫には真実を教えていたのだから隠していたなどと戯言は言えない筈だ。本当にお互い様ねと言いたくなる。

 

「次は誰かしら?別に全員で来てもいいのよ」

「……これ以上は無意味、と言いたいところだけど」

 

この状況でも冷静に判断したのか、グレモリー先輩は側にいた木場祐斗に目配せをする。

 

「部長の望み通りに」

 

次の瞬間、木場の姿が搔き消える。死角から剣を携え襲い掛かってきた彼を迎え撃つ。

 

「神斧リッタ」

 

顕現した戦斧を一振りして、振り下ろされた剣ごと叩き斬る。剣は砕かれ木場はそのまま吹き飛び壁に衝突して崩れ落ちた。

 

「神斧…リッタ…ですって!?」

「あれは……」

「何を驚いているのかしら。神器なんて珍しいものでもないでしょう?」

「大戦時代、ある人間が使用した伝説の神器の一つ。かの者の魔力は天使、堕天使を魅了し、魔王や堕天使幹部ですら相手にならなかったと言われている人間が使用していた神器よ」

 

グレイフィアが外では絶対に出すな、そう言っていた意味がようやく理解できた。

 

「能力そのものは二天龍に劣るけど、本当に厄介だったのは所有者。かの者は全ての種族の頂点に立つ者と言っていたけど、本当に人間を超越した化け物と言われていたわ」

 

神斧リッタは後世に残るほどの歴史を刻んでいた。

故にその所有者である私は、持っているだけで災厄に巻き込まれる。

グレイフィアにはそれがわかっていた。

つくづく隠し事ばかりするグレイフィアに今度問い詰めておくことにする。

 

「私、女の子を傷つけるのは趣味じゃないの。そろそろやめにしない?」

「部長、彼女もそう言ってますしここは……」

「ええ、そうね。引き出せるものは引き出せた。それで良しとしましょう」

 

拍子抜けする終わり方ではあるけど、第一の目的は達成された。私も暴れ過ぎるとグレイフィアになんて言われるか怖いのでいい落とし所だろう。

倒れた眷属を回収するグレモリー先輩、その手伝いの合間に姫島朱乃が私の方へやってきた。

 

「少し、お窺いしたいことがあるのですがよろしいですか?」

「何か用があるなら手短にお願いするわ」

「あの神器、いつ頃から発現できるように?」

「そんなの子供の頃からずっとよ」

 

あれなくして私は語れない。神斧リッタは産まれながらの相棒。

ずっと一緒にいてくれた、という意味ではグレイフィアより長い付き合いだ。

 

「まぁこっちの姿は本来の力じゃなくて、歪めた結果だから昼間の方が強いのだけど」

「それで本気ではないと?ふふ、本当に面白いお方」

 

姫島先輩は妙に喋り易い。聞き上手というか、年の功と言ったら失礼だけど学園でお姉様と言われるように年上の立ち振る舞いというのが出来ていて素直に尊敬できる。

 

「私の勝ちでいいわね」

「それは仕方ないわ。だけど、貴女は何が目的なの?」

 

勝利宣言にグレモリー先輩は問い質そうとする。

何が目的、と言われても……。

 

「レイナーレが目的。それ以上でもそれ以下でもないわ」

 

堕天使という存在は欲に溺れた天使の末路。ならば、その男性が好むような体つきをしているレイナーレを欲しいと思ってしまうのは世の摂理である。ただでさえ彼女は魅力的な容姿をしていて、それを殺すなんて勿体ないとは思わないのか。知らない仲なら知らないふりをしていただろうけど、そうはいかないのが私というもの。

 

「さて、それじゃあ敗北を宣言して貰いましょうか?」

「負けを認める。今後一切その堕天使に関しては何もしないわ。これでいい?」

「ダメよ。私の前に跪きなさい」

「くっ、貴女ねぇ……!」

 

お怒りのグレモリー先輩の肩にポンと姫島先輩が手を置く。

 

「部長、潔くいきましょう」

「何を笑っているのよ!人ごとだと思って!」

 

まぁ、私の趣味の範囲内ではある。冗談だけど。

 

「本当、酷い顔ね。可愛い顔が台無しだわ」

 

あちらが喧嘩をしている間に私はレイナーレの元に戻り、その手からアーシアの神器を奪って発動させる。すると淡い緑の光がレイナーレの顔の青痣を癒した。

 

「女の子の顔を殴るなんて酷いやつよねぇ」

「……カナタ君、なのよね」

「ええそうよ。まぁ色々事情があって……そういう話はまた今度。帰りましょう」

「帰るって……」

「私の家に。私の枷を外したんだもの、その代償は身体で払ってもらうわ」

「それって……カナタ君の家にいてもいいってこと?」

「まぁ成り行きだし仕方ないんじゃない」

 

いやもう本当にグレイフィアを説得する手間を考えれば億劫になるけれど、このままサヨナラバイバイは私の精神的にとんでもない負荷が懸かる。主に良心の呵責によって。

 

レイナーレを助け起こすと未だ冷凍されている兵藤を指弾き一つで解放して、私は神器を放り投げた。もちろん、リッタなんて投げたら受け止めきれず悲惨なことになるのでアーシアの神器を。

 

「兵藤君、受け取りなさい」

「わっ、ちょ、何すんだよ!?」

「アーシアの神器よ。弱って眠っているあの子に返しておいてちょうだい」

「えっ、アーシアは……」

「死んでないわよ。何を勘違いしているの?」

 

元々、レイナーレは安全に神器を取り出す儀式をしていたのだが、妙な邪魔が入って余計な負荷がアーシアを蝕んでしまったために死んだように眠っているだけだ。微かに呼吸音が聞こえるし、胸の起伏がゆっくりと上下しているのでまず間違いないだろう。

 

「さぁ、帰りましょうか」

 

遠慮がちなレイナーレの手を握り締め廃墟を後にした。

 

 

 

 

 

「……帰りたくない」

 

枷をもう一度する事で私は僕に戻る。夜の時間だから、好きな方に戻れるがやっぱり気持ち的に男性の僕は僕を選んだ。しかし、あちらの僕は少々自信家で傲慢なところがある故に大胆な行動ができるものの、こちらの僕はそうもいかないわけで……今となっては僕は厄介事に首を突っ込んだ結果を恐れていた。

 

確実に『枷』を外したことはグレイフィアにバレているだろう。それにレイナーレを連れているとくれば更に不安の種が増える。しかし、連れて来てしまったものはしょうがない。

 

「た、ただいま……」

「お帰りなさい叶多。ところでこんな時間に何処をほっつき歩いていたのか何か言うことは?」

「……ご、ごめんなさい」

「ええ、何をしていたかわかっていますよ?グレモリーに接触した挙句、力を解放し、あまつさえ堕天使を助けて家に連れ帰ってくるなど正気の沙汰とは思えませんね。私達の愛の巣に堕天使を入れるなど」

 

……あぁ、やっぱり怒ってる。玄関には淑女然として立っているが無表情に激怒しているグレイフィアがいた。パジャマ姿が可愛いなとか思う隙もない。

 

「まさか、家に置いておくつもりで?」

「……だ、ダメ?」

「……はぁ。ダメとは言いませんが。元のところに返して来なさいと言っても聞かないでしょう。まったくあなたは」

 

呆れたようにそう言ってお説教が始まった。

 

 

 

–––二時間後。

 

 

 

正座して足の感覚すらなくした僕がいた。同じく正座させられたレイナーレもプルプルと震えている。

わかる。わかるよ。こういう時のグレイフィアは怖いから。

まぁ彼女の声は綺麗で何時間でも聞けるから別に苦ではないけど。足の方の感覚がない。

もう立ち上がる気力すら失くした僕にグレイフィアは漸く結論だけを言ってくれた。

 

「その堕天使を家におくことは許可しますが一つだけはっきりさせておきましょう」

 

レイナーレが家に住む許可は出た。もうこれ以上に懸念することはないだろう、と安堵していたらグレイフィアはレイナーレに僕が聞くのも恥ずかしい質問をさらっとしてしまう。

 

「堕天使レイナーレ、あなたは叶多を愛していますか?」

「あ、愛って、そ、そんなの……」

 

いや、出会って数日だよ。そんなわけない。レイナーレは頬を赤くして狼狽えて、その姿を見てグレイフィアが呆れたような表情。

 

「悪魔は重婚が可能です。だから、そういうことにも私は理解があるつもりです。助言の一つでもしましょうか。叶多は本当にこちらから告白するまで何もしないヘタレ野郎なので積極的にいかないといつまで経ってもそのままですよ」

「え、でも……」

「私が正妻。それは譲りません」

 

何故だろう。二人が見つめ合っている。

僕だけが蚊帳の外で何が起きているのかわからなかった。




今回の設定。
女性化するとSっけが目覚め感情も昂ぶる。
普段は温厚な分、その差は著しく現れる。

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