太陽と月のハイタッチ 作:黒樹
「いい天気だねぇ……」
「そうですね、先輩」
ぽかぽかと陽気な太陽の下で気怠い声が漏れる。
いつものようにベンチで待ち合わせて、弁当を平らげた後はひなたぼっこが日課となっていた。
腹が膨れて満足した身体に、春の陽光。
猫が日向で昼寝をするのも頷けると、猫の気持ちを代弁する。
実に昼寝日和だ。
「教室に戻りたくなーい」
「同感です。ずっとこうしてたいです」
小猫も僕の意見に賛成のようで、目を瞑りながら春の陽射しを一身に受けていた。やがて、力の抜けた身体が傾きぽてっと体当たり。僕の肩が占有されるに至る。
後輩女子の柔らかな感触。動いたらシャボン玉のように壊れそうで動くことが憚られる。僕は脱力しながら受身で受け入れていた。
「放課後もこうしてませんか、叶多先輩」
「んー、別に予定もないからいいけど」
日が暮れるまでには帰らないとグレイフィアの機嫌が悪くなるが、逆にそれまでなら普段は自由な時間だ。約束の一つでもなければ、あの二人は基本的に僕の学校生活には関与しない。しかし、それは前までの話。オカルト研究部に所属することになったと言ったら、毎日事細かに放課後の様子を知りたがった。変なことされてないかだとか。
レイナーレ自身、グレモリー先輩達に殺されかけたこともあっていい顔はしなかったものの、あの人達に僕をどうこうするくらいの力はないと考えているらしく、心配に留められてはいるがいつ爆発してもおかしくない。
愛情の裏返し、と取ればそれも仕方ないことではあるが。
「小猫ちゃんはオカルト研究部行って、眷属の仕事ってやつをしなくちゃいけないんじゃないの?」
オカルト研究部の主な活動は『ボランティア』という名目の地域貢献とされている。悪魔への願いを聞き入れ、それを叶えることで対価を得ているらしいのだが、要は何でも屋みたいな感じらしい。それが悪魔として、オカルト研究部の活動内容なのだ。だから、僕は参加できないしする必要もないのである。本当に名前だけ在籍していて、オカルト研究部にはあまり立ち寄っていない。更に言えば小猫と話すくらいしかやることないので行く意味もあまりない。
「今日は来客があるそうで、お仕事はお休みです」
「ふーん。客、か……」
十中八九、裏の関係者と見た。
「やっぱり悪魔かな?」
「はい、部長の婚約者だそうです」
「婚約者って良家のお嬢様かよー」
「そうですが?」
「あー、そうだったねー」
グレイフィアもレイナーレもグレモリーがどうのと話をしていたから、そんな気はしていた。別に忘れていたわけじゃないよ、うん。
「まぁ、その件で部長は生理前みたいにピリピリしているので、実を言うとあそこにいるのも嫌なんですよね」
「上司に対する不満がぶちまけられている。って、それ言っていいの?」
「私は叶多先輩に弱みを握られたことになりますね。どうしますか、先輩?」
「弱みの種が弱すぎて脅迫にも使えないよ」
話の流れからして僕に文句を言えと。
遠回しの要求に後輩の強かさが目に染みる。
あぁ、それとも征服されたい欲でもあるのか。
飼い慣らされたい猫、みたいな。
現実的には飼い慣らされたい猫なんていないと思うけど。
「–––と、いうわけで先輩には放課後オカルト研究部についてきて欲しいです」
「わぁ、不自然なほど長い前振り」
一瞬、かよわい部分を見せたかと思えばこれだ。
気まぐれな猫のように転身が早い。
「因みにその婚約者の男ですが。女癖が悪いらしく、嫌がる部長の太股に手を這わせるなど、淫行を躊躇いなくやるようで」
これは思った。小猫の貞操が危険だと。
「って、嫌なんだ」
婚約者といえど恋愛関係ではないのだろう。悪魔には純血を重んじる思想があるらしく、純血の悪魔同士での婚約が重んじられているとかなんとか。グレモリー家のお嬢様も大変らしい。
「成人するまで話を待つように説得したり、先延ばしにしているらしいです」
「つまり、婚約破棄したいと」
「有り体に言えばそうですね」
「言い切っちゃったよ」
他人の家庭事情に首を突っ込むほど無粋ではないので、どうしようもない話だ。
◇
その日の放課後、僕は逃げる間も無く小猫に捕まった。この後輩にして吐気を催す来客らしく、逆に興味が沸いてきたほどだ。覚悟を決めればむしろ面白そうではある。
裏門で捕まり、グラウンドを横切って、旧校舎へ。
木造建築の校舎に足を踏み入れると、不思議と落ち着く古臭い匂いが鼻腔を擽る。
無機質なコンクリートよりも、僕は此方の方が好きだ。
風情がある、のかな?
そういうところが好きなのかもしれない。
「やぁ、叶多君」
相変わらず無駄に荘厳な扉の先にあるオカルト研究部の部室を訪ねると、木場祐斗が片手を上げて挨拶をした。あの笑顔に騙された女子生徒の数知れず。
「ちょうどいいところに来たわねカナタ」
その笑顔と同じくらい男子生徒を虜にした笑顔が振り撒かれる。
グレモリー先輩が、満面の笑みで出迎えた。
その背後であらあらうふふと笑む影、姫島朱乃。
そして、ソファーには兵藤一誠とアーシア・アルジェントという名のシスターが揃って座っていた。
僕も小猫とソファーに座る。
「確か前に来たのは、小猫ちゃんが仕事の時でしたかしら?」
「えぇまぁ来る理由もないので」
「もっと気軽に来てくれていいんですよ。うふふふ」
「いや、本当に理由ないんで」
何故か来て欲しい姫島先輩の誘いを受け流すと、彼女もまた雰囲気をがらりと変えた。揶揄い半分だった雰囲気が微笑みの裏に隠される。
「では、今日はどういった用事で?」
「小猫が嫌うグレモリー先輩の婚約者を見物に」
「あらあら、そうですか」
何割増しか姫島先輩の微笑みが深くなり、瞬く間に僕の分の紅茶が出される。
これを飲みに来る、っていうのもいいのかもしれない。グレイフィアの腕には劣るけれど。
妙に距離を詰めてくる姫島先輩と小猫に翻弄されながら待っていると、その瞬間はやって来た。
部室内に突然、光が溢れた。
原因は床に現れた、煌々と光を放つ魔法陣。
そこから火が吹き上がり、ホスト風の男性が現れる。金髪スーツの頭悪そうな感じの男、もう一人の“僕”いや“私”ならそんな評価を下すだろう風貌の悪魔だ。
まるでマジックみたいだな、と珍妙な感想を抱いているとその男は開口一番にこう言った。
「–––ふぅ、やはり人間界は空気が不味いな」
実に横暴な態度で自信家、僕の嫌いなタイプだと一発でわかる。僕の興味もすぐに逸れて、膝の上でもそもそとお菓子を食べている小猫に視線を移した。いつ乗ったんだい君?
僕も嫌ではないので文句はないが、兵藤の方は血涙を流さんばかりに此方を睨んでいる。その場所を代わって欲しいと言わんばかりの視線の横で、兵藤の目移りに気づいたアーシアが少し不満そうに膨れる。
ははぁん、なるほど。アーシアは兵藤のことが……珍しいこともあったもんだ。本人のモテたい願望はよく知っているが、まったくそれに気付いていない状況に呆れるやら、だけど僕の口から伝えることでもないので見守らせてもらうことにする。
「そう思わないかリアス」
登場と共にグレモリー先輩に話を振った男はソファーに乱暴に座る。自然な風を装ってグレモリー先輩の隣に。その横からそっと無言で姫島先輩は紅茶を出す。
「え、えーっと、部長、その人は?」
突然、現れた男を指差して兵藤が疑問を口にする。
どうやら兵藤はまだ知らなかったみたいだ。
それをいい機会と見たのか、グレモリー先輩が嫌悪感を仄めかす口調で紹介する。
「この人は私の婚約者よ、イッセー」
「えぇ、婚約者!?」
かつてないほどのショックが兵藤を襲った。
グレモリー先輩の婚約者、その名をライザー・フェニックス。悪魔の名門フェニックス家の三男、純血の上級悪魔。と言われても悪魔の事情に詳しくない僕や兵藤では殆どどうでもいい話だ。
兵藤が気にしていることと言ったら、ソファーに座って一番にグレモリー先輩の髪や肩に馴れ馴れしく触れていることで、そちらに目が釘付けになっていることだ。
グレモリー先輩は負けじと手を払ったが。
「でも、前から私言っているわよね。あなたと結婚する気はないって。それに人間界の大学を卒業するまでは好きにさせてくれる約束だわ」
何処で拗れたのか婚期が早まってしまったらしい。グレモリー先輩の主張はその一点張りで、乗り切ろうとしている。
「おいおい、俺たち悪魔の未来にとって大事なことなんだぜ。サーゼクス様や君の御両親だって御家断絶を危惧してるんだ」
「ええ、いつかは結婚するわよ」
「じゃあ、俺と–––」
「でも、今すぐではないし、相手も私が決めるわ」
きっぱりと言い放つグレモリー先輩の剣幕に、ライザーと呼ばれた男が押される。優男っぽかった雰囲気がチッと一度舌打ちしただけで軽減する。
「……あのなぁリアス、俺もフェニックス家の看板を背負った悪魔なんだ。そんなことを言われて黙って引き下がるわけにはいかない」
不機嫌そうな声色で、グレモリー先輩の眷属達を睨む。
「態々君のために人間界に出向いて来たが、こんなところから早く帰りたいんだよ。わかるか?」
彼の言い分は、どうして人間界に拘るのかとグレモリー先輩に説いているようでもあった。
続け様に語るわ、ライザーの言い分だ。
「この世界の炎と風は汚い。炎と風を司る悪魔としては堪え難いんだよ」
ガスで燃える炎、穢れた風、あぁ確かに人間界の空気や炎は汚いのかもしれない。実に納得できる理由で頷ける。昨今は環境汚染が問題にされているからか、その本質も悪魔が見抜いているのか。ライザーの言い分も筋が通ってないわけじゃない。
冥界の炎や風がどんなものかはわからないが、人間界は確かに酷くなりつつある。もしこのまま深刻化すれば、人が住めなくなるという話題もあっただろう。
それほど深刻に捉えられなくて、人類の一割も気にしていないだろうが。
僕もまたそれほど気にはしていなかった。
そんなことを考えていたからか、次の言葉は妙に耳障りだった。
「俺は君の下僕を全部燃やし尽くしても、冥界に連れて帰るぞリアス」
随分と挑発的で野蛮な言葉。
ふとした拍子に膝上の小猫を抱く腕に力が入る。
グレモリー先輩の眷属である小猫達も僅かに気を引き締めたようだった。
張り詰めた空気、ピリッとした緊張感。
その中で、ライザーの炎が煌々と燃え上がる。
「てめぇ、さっきから黙って聞いてれば部長に失礼じゃないか!」
そんな中で一番先にキレたのは兵藤だった。
「なれなれしく髪に触ったり肩を抱いたり羨ましいことをっ!」
本音駄々漏れの説法に張り詰めた空気が霧散する。
今、存在に気づいたのかライザーの視線は訝しげだ。
「誰だおまえ?」
「俺は兵藤一誠、部長の兵士だ!」
「ふーん、あっそ」
聞いた割には興味なさげである。
いや、駒を聞いて興味を失くしたのか。
その言葉が兵藤を刺激したのか、彼はがなりたてる。
「おまえこそいきなり現れてなんなんだよ!」
「いきなり……ね。おいリアス、説明してなかったのか」
「聞かれていないことを説明できないでしょ」
「しかも俺のことも知らないようだが。転生者か?それにしても知らないものか?」
いや、僕もライザー・フェニックスという名前は知らない。悪魔や堕天使で警戒するべき相手の名前をそこそこグレイフィアに教えてもらったが、そんな名前は聞いた覚えがない。
「落ち着きなよ兵藤、君がいくら喚いたって何も変わらないんだから」
キーキーと煩くなってきたので僕も介入せざるを得なくなる。やれやれと重い腰を上げるが、膝の上には小猫、物理的には腰は上がらない。座ったままの体勢で僕は顎を後輩の頭に乗せた。腕を肩から回して、前で結ぶあすなろ抱きである。
「グレモリー先輩は結婚したくないなら、御両親を説得するべきじゃ?」
「えぇ、そうね。それができれば苦労はしないわよ」
逆にそれが出来ていたのなら、今の状況は出来上がっていないだろう。実に滑稽な提案だったと思う。
「それならレーティングゲームはどう?」
「何言ってんだよ大空、おまえは知らないかもしれないけどレーティングゲームは成人した悪魔がするゲームで部長は……」
「でも、このゲームを代理戦争に見立てて身内で争うって聞いたことがあるけど。あくまで公式戦に成人していない先輩は出られないだけで、非公式なゲームならできるんだよね?」
聞き齧った程度の知識ではあるが、少し無粋ではあったか。
まず提案してみたが、どう考えてもグレモリー先輩が不利だ。
「まぁグレモリー先輩にとっては不利過ぎるから、良策とは思えないけど–––」
「それよ!」
「……えっ」
心なしかグレモリー先輩の瞳が輝きを取り戻した。
「おいおい正気か?悪いが君の下僕じゃ、俺の可愛い下僕には勝てないぞ。まさかこの面子が君の下僕全員だと言うんじゃないだろうな」
「そのまさかよ、ライザー」
おいまさか、本当にこの人数で挑むつもりかこの先輩。
相手の力がどの程度かわからないが、無謀という言葉が浮かんだ。
はっきり言って、ライザーだけでも相手にならないだろう。
おそらく、今のレイナーレ一人でもグレモリー先輩の眷属達は完封できる。
そんな確信があった。
「まぁいい見せてやろう」
ライザーがパチンと指を鳴らす。すると再び魔法陣が輝きを放ち、大量の悪魔達が転移されて来た。
一言で表すなら、そう。『ハーレム』という言葉がぴったり当て嵌まるだろうか。ライザーの眷属は全員女性、それもロリから大人のお姉さんに至るまであらゆる属性が完備されているかのようなタイプ不一致。『十人十色』と書いて、『ハーレム』と呼ぶようなそんなくだらない考えが脳裏を掠めた。
「……なぁ、リアス。君の下僕君が俺を見て号泣してるんだが」
よりどりみどりの女の子達に囲まれているライザーを見て、大号泣している兵藤の姿を指差し、初めて余裕そうな表情が変わる。戸惑い気味悪がっているように見える。
「あの子の夢、ハーレムなのよ……」
グレモリー先輩は残念な子を見る目だ。
「ほう、じゃあ……」
ライザーが手招きをすると一人の女性が寄っていく。あからさまに抱き締めると顎をくいと持ち上げて、いちゃらぶちゅっちゅとキスを始めてしまった。舌が絡む濃厚なやつ。
さしものグレモリー眷属もぽかんとした表情でその光景を見た。
グレモリー先輩は呆れ、姫島先輩は表情一つ変えず「まぁ」と溢し、小猫は咥えていた棒状の飴をガリっと噛み砕いた。木場は壁で腕を組みながら視線を逸らし、兵藤は血涙を流さんばかりで、アーシアは驚愕に目を見開きながらも手で顔を隠し、指の隙間からしっかりと見ているのだ。
濃厚なキスが終わると、ライザーと眷属の女の二人の間に銀色のアーチが。
夜でもないのに、僕の中の私がぶるりと身震いした気がする。
普通、人前でする?
「ライザー様わたしもー!」
「あ、ライザー様わたしも!」
「おいおい、しょうがないな」
何処かの国で行われたという監獄実験という言葉が頭を過った。
どうやら彼女達に羞恥という概念はないらしい。
ライザーという男一人にメロメロである。
次々と、キスを繰り広げていった。
「ライザァァァァァアア!!!!」
そんな光景を見せられて、兵藤の何かがぷつりと音を立てて切れた。神器を発動し、赤い籠手で殴り掛かる。
「随分と無粋なやつだな。おい」
ただ一言、そう命じただけでライザーの眷属の一人、棍棒?を持った女が前に出る。襲い掛かってくる兵藤の腹を打ち据えて、その勢いのままに天井へと放り投げた。天井にぶつかった兵藤は跳ね返り、重力に従い落ちてくる。
「い、イッセーさん!」
倒れ伏していた兵藤は無事だったようで、痛みに打ち震えながらも手をついて立ち上がろうとする。そんなところにアーシアが駆け寄り、神器で傷を癒そうとした。
「おいおい、あいつは俺の下僕の中でも一番弱い兵士だぞ。その程度でどうにかできると思っているのか?」
さっき兵藤を叩きのめした女性、彼女の実力は棍棒を操る技量と人間を少し超えた力にあるのだろう。人間でも剣道の達人クラスなら善戦くらいはできる。そんな印象だった。あくまで武術を経験しているクラス、それに比べて兵藤は一般人に等しい。
唇を噛み悔しがるのも、無理はない。
あいつは一般人から悪魔になって、ろくに戦う術を習ったわけではないのだから。
「ちくしょう…俺だってそれくらいわかって…」
「そうだね。自分が弱いってわかっただけでも大きな収穫だと思うよ」
「大空……?」
「フェアじゃない。フェアじゃないんだよこの勝負。人数的にも、グレモリー先輩にまず勝ち目はない」
とうにわかり切った答えを口にすると、グレモリー先輩もバツが悪そうな顔をする。
「まずライザーを相手にするだけでも勝ち目がないのに、眷属全員を相手にしていたらより一層勝ち目なんてなくなる」
「ほう、リアスおまえの眷属にも中々理性的なやつがいるじゃないか」
「あれ、私の眷属じゃないわ。人間よ」
「あ?なんでそんな奴が此処に……」
僕という異常性に気づいたライザーが眉を潜め、怪訝な顔を向けて来た。
–––その時、黒い何かが窓ガラスに突っ込む。
「カナタ君!!」
二階の窓を破って侵入して来た黒い羽を持つ彼女は、僕を守るようにライザーと僕の間に割って入る。室内に舞い上がる黒羽はひらひらと舞い落ちて、幻想的な光景を生み出した。
「チッ、堕天使が何故此処に……」
ライザーの眷属は臨戦態勢、武器を各々構え、ライザーも炎を纏う。
「次から次へと……」
頭痛がするのかこめかみを抑えるグレモリー先輩はぼやいた。
これまた間抜けな表情をしているのは、グレモリー眷属だけだ。
「カナタ君大丈夫酷いことされてない!?」
「いや、大丈夫……」
突然乱入して来たレイナーレの焦燥ぶりを見て、どういうことか察する。彼女は大量に悪魔が転移してくる気配を察知して、僕の危機だと勘違いしているらしい。その手に握られた物騒な光槍が証左だ。
「おいリアスどうなってる!」
「どうもこうも私は手が出せないわ。あの堕天使は彼のものだもの」
動揺しているライザーをおちょくるのが楽しいのか、口元の笑みを堪えながらグレモリー先輩は言い放つ。此処はおまえの管轄だろう、とはライザーの弁だ。
「リアス、堕天使を野放しにさせておいてるなんて君の御両親やサーゼクス様に知れたら不味いんじゃないか?ん?」
「そうかもね。でも、私にはどうにも出来ないのよ。そういう約束だから」
「チッ、なら俺がやるだけだ!どうせはぐれ堕天使、冷戦状態の今こんな薄汚い羽が一人消えても文句は言えないだろう!」
煌々と炎が燃え上がる。ライザーの手に真っ赤な炎が出現した瞬間、腕を振るうことで放たれる。直線上にいる小猫なんてとばっちりのいい迷惑だろう。
炎が到達する僅かな間にレイナーレが此方に振り返る。
彼女なら迎撃可能だ。炎を払うくらい、なんてことない。
「いいよ、僕がやる」
だけど、今の僕はレイナーレを「薄汚い羽」呼ばわりされてキレていた。
小猫を下ろして、炎の前に僕は飛び込んだ。
次回は別の人の視点です。