太陽と月のハイタッチ   作:黒樹

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小猫視点です。
誰の視点でするか迷った結果、迷ったまま書いちゃった変かもしれませんが。




先輩と堕天使と銀髪メイド

 

 

 

「か、叶多先輩……!?」

 

私の目の前には轟々と燃え上がる炎、その炎に巻かれているのは私の大切な先輩だ。彼は迫り来る炎に飛び込み、大切な人を庇うように後ろに押し出した。堕天使はただその炎を見つめていた。

 

「あ……」

 

炎の中には真っ黒な人影が浮かび上がる。まるで蜃気楼のように歪め大きくなったように見えた先輩の姿を見て、私は意識が眩むような思いだった。

影はただ苦しむ様子もなく、炎に耐えている。

悲鳴を上げられないのか、微動だにしない。

そんな姿を見ているうちに、私は叫んだ。

 

「部長…!」

「大丈夫よ、カナタ君なら」

「い、いくら先輩が常識外れとはいえ流石にこの炎では!」

「むしろ不味いのはこの後かな」

 

助けを求めた部長ではなく、私の縋るような思いに答えたのは救われた堕天使。今は炎に巻かれている先輩と同居しているあの憎き堕天使が何を言っているのか、私には判らない。

こうしている間にも先輩は丸焼けになってしまう。そう思っているのは私だけなのか、部長達はただ燃え上がる炎を見つめているだけで何もしようとはしなかった。

ようやく口を開いた部長は、火の熱に当てられてだ。

 

「ライザー、熱いわ火を消しなさい」

「おいおい、人間の心配はしないのかよ。まぁ俺もあれが死のうがどっちでもいいが」

 

そんなやりとりの後、ライザーがパチンと指を鳴らす。

いや、鳴らそうとした瞬間、代わりに床に落ちたものがあった。

 

「あれは……大空の?ってことは!」

 

月のエンブレムが付いたチョーカーだ。叶多先輩がいつも着けているもの。それが転がったのを見て、イッセー先輩は喜色を浮かべて炎を見つめる。大方、また美女の姿になる叶多先輩を見たいのだろう。

こんな状況でも下衆めいた発想ができるイッセー先輩のお花畑思考に嘆息しながら、私もまた炎の中を見つめた。それでも叶多先輩は動かない。どうしたのだろうか。

 

–––まさか本当に死んだんじゃ。

 

ぞっとして身体の芯が冷えていく感覚を味わいながら、私は奇妙な現象を体験していた。

部屋の温度が上がっているのだ。

触れば一瞬で炭化してしまいそうな炎だ、まず普通の人間は生きていられまい。

私も触れればどうなるかわからない。けど、なんとなく叶多先輩は生きていると確信できた。

温度が上がって、制服のシャツが肌に張り付くほど汗をかいた時、その確信は本物になる。

 

 

 

「–––ぬるい」

 

 

 

炎の中から、声が上がった。

叶多先輩の声だと判別するのに時間は掛からない。

その声にライザーは仰天したように目を見開く。

 

「バカな、普通の人間が生きていられるはずはないッ!?」

「残念ながらカナタ君は普通の人間じゃないんですー、べーっだ」

 

挑発的に舌を出して堕天使がライザーを煽った。

自慢げなのは、先輩が身内であるからか。

 

コツ、という床を叩く靴音。炎の中の人影が歩き出し、ライザーの方に歩いて行く。その姿はいつもより大きく見えた。炎のせいでそう見えているかも知れないが、私はその中身の重圧に声が出ない。

きっと周りも同じだったのだろう。炎に包まれた人間が歩く間、誰も動けず声も出さなかった。ライザーの前に立った時、初めて炎は吹き荒れて掻き消される。それも、圧倒的な重圧によって。

 

「おやおや、室内で火遊びなど。建物に引火したらどうする気ですか?」

 

炎の中から現れたのは、叶多先輩を20cm程高くした偉丈夫。上半身は裸で、筋肉は隆起し、普段の姿からは考えられないほど逞しい姿で髪は無造作に伸びている。

 

「悪いことをしたら御免なさい。常識ですよ。よもやそんなことすらできないのですか?」

 

大男が小男を叱りつけるような、そんな光景だ。

あのライザーですら、叶多先輩の前では無力。

ようやく開かれた口からは、彼への返答ではない。

至極真っ当な質問だ。

 

「おまえは何者だ?」

「人間だ」

 

叶多先輩の答えは、何処かおかしい。

何処にこんな人間がいるのか。

昼は大男、夜は美女。

性別の概念は彼にあるのだろうか。

 

「それよりさっきの謝罪がまだですが」

 

叶多先輩の声によって本題に戻される。さっきの話と言われて、数秒考えていたようだがライザーは特に考えるでもなく言い放った。あの叶多先輩に対して不遜な態度を貫く。

 

「はっ、薄汚い羽と言ったことを怒っているのか?その堕天使が薄汚い羽っていうのは事実だろう。言って何が悪い」

「反省の色が見えないな。ならば」

 

次の瞬間には、神斧リッタが叶多先輩の手に顕現する。大上段に片手で構えられたそれを見て目の色を変えた眷属が飛び出そうとしたが、それよりも早くリッタは振り下ろされた。

その域は達人や人間のものではない。祐斗先輩とも比較にはならない。圧倒的強者の暴力、力任せな技がそこにあった。瞬きする間も無く振り下ろされた刃を床スレスレで止め、叶多先輩は残心を解かない。

 

「その、斧は……!」

 

ライザーが神斧リッタを見てそう呟いた瞬間、右腕がごろりと落ちた。

傷をつけられるどころか、落とされたことにも気づかなかったらしい。

 

「なっ……!」

 

だが、その傷もすぐに修復する。切断面から炎が吹き荒れて、混ざり合うと結合し不死鳥のように腕が蘇った。

あれがフェニックス家が厄介とされる所以だ。無限に等しい再生能力、それがフェニックス。いくら先輩といえどもあれが相手では分が悪いだろう。

フェニックスの再生能力を前にして、それでも叶多先輩は顔色一つ変えない。

 

「しかし、痛みはあるだろう。ならばそれでいい。貴様に本物の太陽を刻みつけてやる」

 

紳士的な顔で物騒な事を言い始めた。あの先輩がだ。

 

「ふんっ!」

「ぐわぁっ!?」

 

次の瞬間にはライザーの頭にアイアンクローを極めて、腕力の限りに上へとぶん投げた。すると天井を突き破ってライザーは旧校舎の外へ出てしまう。その後を追って、叶多先輩も飛び出した。

 

「ら、ライザー様!?」

「ど、どうしよう!」

「追いかけないと!」

「今すぐ助けに参ります!」

 

ライザー眷属が大慌てで外に出て行く中、堕天使が自分で破った窓から出る。その間際、振り返った。

 

「きっと面白いものが見られるわよ」

「えぇ、私達も追いかけましょう」

「そうですね、部長」

「……ええ、そうですわね。気になることもありますし」

 

私達も連れ立って旧校舎の外に出る。

ライザーの眷属は既に揃っており、空を見上げていた。

 

「部長、あれ!」

 

空にあったのは二つの太陽。白く直視できないそれと、眩く紅い炎の塊。前者がこの世界における普通の太陽で、後者が何者かの手によって作り出した人工物だ。しかも、旧校舎を吹き飛ばす分にはわけない大きさだ。あれが人の力で生み出されたとなると理解し難いものがあるが、あれもきっと叶多先輩の仕業だ。

 

「“無慈悲な太陽”」

 

紅蓮の太陽が動き出す。上空にいるライザー目掛けて、それは射出された。

 

「無駄無駄無駄ァ!俺に炎は効かないぞ人間ッ!!」

「それは自分の身体で確かめてみればいい」

 

グッと拳を握り、先輩は呟いた。

 

「–––“炸裂する傲慢”」

 

ライザーにぶつかった炎の玉が突如、発光する。その輝きはあの空にある太陽と同じく、直視できないほどの膨大な光量で私は手を翳し目を細めることで和らげた。

 

そして、炎の玉が爆ぜた。

 

爆風が周囲を襲った。膨大な熱量を纏った風が軀を撫でる。

その熱さに顔を顰め、堪えた。

光はやがて消え、空を見上げると太陽は焼失していた。

落ちてくる、人の影。

 

ドンッ、そんな音を立てて落っこちたのはライザー・フェニックスだった。その身体の節々からは煙が上がっており、尋常じゃないほどの火傷が身体を覆っていた。

 

「ライザー様!」

 

ライザーの眷属達が駆け寄って行く。

信じられない、といった様子だ。

それは部長も同じで目を見開いて驚愕している。

溢れた言葉は空に溶ける。

 

「まさか、フェニックスを焼くほどの炎なんて……太陽の魔力?」

 

誰が答えるわけでもない。堕天使は素知らぬ顔で、芝生の上に立つ男を見ていた。うっとりした表情、まるで恋をする乙女のような顔だとは部長は認めないだろうがそんな表情で叶多先輩を見ている。

 

「おのれよくもライザー様をッ!」

「おやめなさいユーベルーナ!」

 

激昂した眷属を治めたのは金髪ドリルの少女、彼女だけはライザーに駆け寄らず遠巻きに見ている。少しライザーの傷を見た後で、フェニックスの涙を飲ませようとした眷属達を手で制し、前に躍り出る。一歩一歩先輩のところに歩み寄って行くその足は重い。何かを躊躇しているようだが、最後の一歩を踏み締めた時、ちゃんと顔を上げて見た。

 

そして、ドレスのスカートを摘み一礼する。堂に入ったお嬢様っぽい仕草で。

 

「先程は兄が大変な失礼をしてしまい申し訳ございません。あなた様の名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「叶多様だ。覚えておけ」

「では、カナタ様とお呼びしても?」

「許そう、好きに呼べ」

 

普段の叶多先輩と比べて、傲慢な態度。

何処か“夜の姿”と似ていて、昼の謙遜する彼とは大違いだ。

そんな彼を見上げる少女は、もう一礼して名乗りを上げる。

 

「私はレイヴェル・フェニックスと申します。後日改めて謝罪に伺わせていただきますわ」

 

ただレイヴェルが言ったのはそれだけだった。恨み言も何もなし。あのライザーの妹なら先輩に何か言ってもおかしくなかったが、本当にそれだけ言うと引き下がった。

 

「帰りますわよユーベルーナ、お兄様を連れて行ってください。あ、起こすと面倒なのでそのままで」

 

次々とライザーの眷属達が転移して行く。レイヴェルだけは振り返り、部長へと顔を向けた。

 

「ゲームの日程は後日また」

 

魔法陣が浮かび、少女は冥界に帰って行った。

 

 

 

 

 

 

嵐が過ぎ去った後で私は叶多先輩のもとにゆっくりと近づく。近づけば近づくほど、まるで太陽のように暑さが増す。実際、グラウンドは既に夏の暑さで私のシャツはびっしょりと肌に張り付いていた。

 

「先輩、ですよね……?」

「あぁ、いかにも私が先輩だが」

 

喋り方まで傲慢な態度、そのギャップに思うところがある。

これがギャップ萌えというやつだろうか。

近づくのも苦しいのに、私は足を止められなかった。

もっと近くで見たいと思ったから。

 

「叶多先輩は強過ぎです」

「当然。しかしそれ以上、私に近づくのは危険だ」

「どうしてですか?」

 

もう一歩、距離を詰める。

 

「私に不用意に近づけば火傷ではすまないぞ小猫ちゃん」

 

そんな私に言い放った先輩の言葉は何処か気障ったらしい。

 

「口説いてるんですか?」

「いや、そういう意図はない」

 

距離が限りなくゼロに近くなる。見上げれば先輩の顔があった。いつもと比べて随分と高い。近いようで遠く、逞しい肉体がそこにあって少しだけドキッとする。

 

「……確かに火傷しそうなくらい熱いです」

 

近くにいるだけで血液が沸騰しそうで、肌が焼かれるようだ。

真夏の太陽なんて目じゃないくらい、今は暑い。

それでも私は触れてみたかった。叶多先輩のもう一つの姿に……。

そっと触れてみれば、人の体温。

どうも暑さの理由は彼の魔力らしい。

それを内包している叶多先輩も十分に熱い。

 

「あぁ、やっぱりあったかいですね」

 

姿は違えど、叶多先輩だ。安心した。

そんな確認をしている最中に、彼に襲い掛かる影。

 

「カナタくーん!」

 

広い背中に飛びつく形で抱き着いた堕天使が、そのままぎゅっと首に手を回した。

 

「おやおや、どうしましたか。レイナーレ」

「好きー!」

「私も同じ気持ちですよ」

「もう、カナタ君ったら」

 

突然、いちゃつき始めた堕天使は私を一瞥する。「彼は私のものだから」と挑発するように、此方を見てフッと笑いやがったのだ。

 

どうやら私は牽制されているらしい。

私自身の気持ちも筒抜けというわけだ。

腹立たしいことに先輩はわかってないみたいだが。

 

「それよりカナタ、この暑さどうにかならないの?このままだと熱中症で緊急搬送される生徒が出かねないんだけど」

 

密かに私が燃やす敵愾心の代わりに人目を憚らずいちゃいちゃする堕天使と人間の恋路に矢を投じたのは、パタパタと手で顔を仰ぐ部長だ。さっきシャワーを浴びたのにもう汗だくで、下着が透けて見えていた。

 

「おっと失礼。チョーカーは、と……」

「確か部室じゃない?」

「これですか?」

「あぁ、それだ。すまないなグレイ–––」

 

いつもの首飾りを探す先輩と堕天使の会話に割って入ったのは、いつ現れたのかわからない銀髪メイド。その出現に今気づいた部長達が驚きを露わに距離を取る。

誰も気づかなかった。その異常性がわからないイッセー先輩は呆けたまま……いや、突然現れた銀髪メイドに鼻の下を伸ばしていた。ある意味で大物だ。

 

「グ、グレイフィア!?どうして此処に……!」

 

先輩がグレイフィアと呼んだ銀髪メイド服の女性。

彼女は澄まし顔で答える。

 

「レイナーレが勝手に飛び出した挙句、叶多まで“無慈悲な太陽”を撃ち出せば出てくるのは当たり前でしょう。何か言うことはありますか?」

 

対して、問い詰められた叶多先輩とレイナーレの顔色はみるみるうちに青くなった。あの先輩がここまで恐れる相手に部長達も戦慄して動揺している様子だ。

 

「まぁ、事情は概ね理解しました。レイナーレが早とちりして単独で飛び出し、大方戦闘にでもなったのでしょう?」

「ち、違うのグレイフィア。カナタ君は私のために怒ってくれて……」

「大方、薄汚い羽だのと侮辱されたのでしょう?」

 

まるで見てきたかのようなグレイフィアの発言に二人は黙った。

 

「正直、レイナーレが飛び出したせいで面倒事にはなりましたがこれも遅かれ早かれ起きたことでしょう。怒っていませんよ。それに私も過去の精算をしないといけませんし」

 

二人から視線を離し、グレイフィアが部長を見る。

 

「久しぶりですね。リアス・グレモリー」

「……グレイフィア・ルキフグスなのね」

「もう一年も経てば、グレイフィア・大空といったところでしょうか」

「どうして此処に?」

「理由は察してくださいな。私は今、叶多とお付き合いしてるんです」

「……人間と、お付き合い?」

 

あまりに予想外で斜め上の発想だったのか、間の抜けた部長の声が空に溶けた。

 

「そう。でも、あなた自分の立場を理解しているかしら」

「ええ、痛いほどに理解しています」

「それはちゃんとカナタに伝えたのかしら?」

「…………」

 

グレイフィアと呼ばれた女性から返ってきたのは無言だった。それを見てか、呆れたような表情で部長は嘆息する。長い溜息の後でちらりと先輩に視線を送った。

どうしていいかわからず、先輩はおろおろしていた。

その姿は、チョーカーを着けて元に戻っている。

 

「大空叶多、あなたに大事なことを伝えておくわ」

 

部長は何を言うつもりなのかわからない。でも、確実にグレイフィアという女性に関してのことだろう。それがわかっていてもグレイフィアという女性に慌てる様子はない。瞑目し、ただ告げられるその時を待って–––。

 

「グレイフィア・ルキフグスは冥界でも指名手配されている大罪人よ」

 

白日の元に晒されたのは、そんな現実だった。

 




此処で宣言しておきますがライザー編が終わるまでは描く予定です。
後の話は七つの大罪とハイスクールD×Dを読み返さないと書けないんですよね。
知識が足らず申し訳ない。
勢いと意味のわからないテンションで見切り発車したから……。
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