ロクでなし魔術講師ととある新人職員   作:嫉妬憤怒強欲

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第4話 招かれざる客

 今日から学院の教授陣や講師達は、揃って帝国北部地方にある帝都オルランドで開催される帝国総合魔術学会に出席するため学院からいなくなり、それに合わせて学院は五日間休校になる。

 

 本来なら守衛を残して学院は蛻の殻になるはずであったのだが、例外が存在している。

 一ヶ月前に退職した講師ヒューイ=ルイセンに代わり、非常勤講師グレン=レーダスが担当することになった二年次生二組。彼らのクラスだけ授業が遅延しており、休日中のこの五日間も補講として授業を行うことになっている。

 

 その頃には既にそれまでいい加減過ぎる授業を行って来たグレンは、どういう心境の変化か、その姿勢を一変させていた。とはいえ、彼自身の性格や人間性が変わったわけではなく、単に真面目に教え始めただけだ。それも教本には載っていない、生徒達があっと驚き眠気など覚えていられないほどに有意義な授業内容である。

 それからというもの、覚醒したグレンの質の高い授業に他クラスからも人が集まり、十日経つ頃には立ち見の生徒まで出始めた。学院の講師の中にはグレンの指導から学ぼうとする者も現れ、グレンはダメ講師から一躍時の人となりつつある。

 

 これまで学院に籍を置く講師達にとっては、魔術師としての位階の高さこそが講師の格であり、権威であり、生徒の支持を集める錦の御旗だった。だが、学院に蔓延する権威主義に硬直したそんな空気は一夜にして破壊された。まさに悪夢の日だった。

 

……閑話休題。

 

 そういうわけで休日でも二組以外の何人かの生徒たちがグレンの授業目当てで二組の教室に集っていた。

 

 

 

 だが、人気者になっている当の本人はというと………

 

「うぉおおおおおおお!? 遅刻、遅刻ぅうううううううッ!?」

 

学院へと続く道中を叫び声をあげながら全力疾走していた。ポケット内にある時計の針は授業開始時間を過ぎていることを示している。正真正銘の寝坊による遅刻だった。

 

「くそう! 人型全自動目覚まし時計が昨夜から帝都に出かけていたのを忘れてた!」

 

 パンを口にくわえ、必死に足を動かし、ひたすら駆ける。

 

「つーか、なんで休校日にわざわざ授業なぞやんなきゃならんのだ!?だから働きたくなかったんだよっ! ええい、無職万歳!」

 

 とにかく遅刻はまずい!遅刻したら小うるさいのが一人いるのだ。今は一刻も早く学院に辿り着くのが先決である。上手く行けば、なんとかぎりぎり間に合うかもしれない。グレンは居候しているセリカの屋敷から学院までの道のりをひたすら駆け抜けた。表通りを突っ切り、いくつかの路地裏を通り抜け、再び表通りへ復帰する。そして学院への目印となるいつもの十字路に辿り着いた時。グレンは異変に気づき、ふと、脚を止めていた。

 

「……っ!?」

 

 人っ子一人いない。朝とはいえこの時間帯なら、この十字路には行き交っているはずの一般市民の姿が見当たらなかった。辺りも夜の森みたいにひどく静まり返っており、違和感がありすぎる。

 

「こいつはまさか……」

 

 周囲の要所に微かな魔力痕跡を感じた。

 これは人払いの結界だ。この構成ではわずかな時間しか効力を発揮しないだろうが、結界の有効時間中は精神防御力の低い一般市民は、この十字路を中心とした一帯から無意識の内に排除されるだろう。

 

 『なぜ、こんなものが、ここに?』という疑念と共に湧き上がる、危機感がちりちりとこめかみを 焦がすような感覚。グレンは感覚を研ぎ澄ませ、周囲に油断なく意識を払う。そして、グレンは十字路のある一角へ、突き刺すように鋭い視線を向けた。

 

「出てきな。そこでこそこそしてんのはバレバレだぜ?」

 

 すると――

 

「ほう……わかりましたか? たかが第三階梯(トレデ)の三流魔術師と聞いていましたが……いやはや、なかなか鋭いじゃありませんか」

 

空間が蜃気楼のように揺らぎ、その揺らぎの中から染み出るように男が現れた。ブラウンの癖っ毛が特徴的な、年齢不詳の小男だった。

 

「まずは見事、と褒めておきましょうか。ですが……アナタ、どうしてそっちを向いているのです?私はこっちですよ?」

「……………………別に」

 

 グレンは気まずそうに自分の背後に出現した男へと改めて振り返る。

 

「ええーと。一体、どこのどちら様でございましょうかね?」

「いえいえ、名乗るほどの者ではございません」

「用がないなら、どいてくださいませんかね?俺、急いでいるんですけど?」

「ははは、大丈夫大丈夫。急ぐ必要はありませんよ?アナタは焦らず、ゆっくりとお向かい下さい」

 

 噛み合わない男の言葉に、グレンは露骨に眉をひそめた。

 

「あのな……時間がないっつってんだろ、聞こえてんのか?」

「だから、大丈夫ですよ。 アナタの行先はもう変更されたのですから」

「はぁ?」

 

 

 

 

 

「そう、アナタの新しい行先は……あの世です」

 

「――っ!?」

 

 一瞬、グレンが虚を突かれた瞬間、小男の呪文詠唱が始まった。

 

「《穢れよ・爛れよ・――」

 

(や、やべ――ッ!?)

 

 場に高まっていく魔力を肌に感じ、グレンの全身から冷や汗が一気に噴き出した。先手を許してしまった。警戒を怠ったつもりはないが、これほどまでに問答無用の相手とは予想外だった。こうなればグレンの三節詠唱ではどんな対抗呪文(カウンター・スペル)も間に合わない。

 

(しかも、あの呪文は――)

 

 とある致命的な威力を持つ、二つの魔術の複合呪文。しかも極限まで呪文が切り詰められている。呪文の複合や切り詰めができるのは超一流の魔術師の証だ。

 

 

「――朽ち果てよ》」

 

 小男の呪文が三節で完成する。その術式に秘められた恐るべき力が今、ここに解放される――

 

 

 

 

♢♦♢

 

 

 

 クリストファーは赴任して二か月しか経っておらず、準備が間に合わなかったということで学会には出席しないことになっており、その代わり、万が一のことがあっては困るということもあり、その間のみ医務室の管理を任されていた。

 

 

 その日の午前10時30分、8時頃には既に学院に到着し、医務室に待機しているクリストファーは、1人医療器具の手入れをしていた。

 

 手荷物の黒カバンの中にあった大小さまざまな手術用のメスと鉗子は砥石で研ぎ、注射針は内部などを水で洗って、アルコールで消毒する。そして、それらを机に並べ、陽の光に当てて乾燥させていた。 

 他にもブラッシング洗浄、浸漬洗浄、チューブ洗浄などを入念に行い、長い時間を経てようやくすべての器具の手入れが終ろうと――――

 

「ん?」

 

―――していたところで、妙な違和感を覚えて動きを止める。

 張り詰めた空気を肌で感じ、手にしたメスから視線を離して窓の方へ向けると、そこで彼の視界に何かが映った。

 

学院敷地のアーチ型の正門前を覆っていた見えない壁のようなものが硝子の如く割れる光景を。

そして割れた箇所を通り道に、5人の黒装束の男が学院の敷地内に踏み込む様を。

 

「…なんだ?」

 

 正門に張られていた壁は学院側から登録されていない者や、立ち入り許可を受けていない者の進入を阻む結界だった。学院を取り囲むように張られたそれがどれほど高度な魔導セキュリティなのかは、クリストファーも理解している。

 

 だが、5人組がそのセキュリティを難なく攻略して侵入してきた。

 これはただ事ではない。

 嫌な予感がしたクリストファーは、生徒たちがいる二年次生二組に向かおうと医務室を出る。

 

 だが―――

 

「なんだよ。まだ職員が残っていたのか」

 

 右に曲がると、そこには守衛の恰好をした男がいた。

 後ろ髪が白髪に混じっている黒髪、左頬の大きな傷跡、少し顎鬚が生えている40代後半といったような風貌の男だった。まるで小馬鹿にしたような嘲りと憐れみが入り混じっているような、そんな目をしている。

 

「……誰ですか貴方は?」

「ん?誰って、俺はここの守衛だが―――」

「嘘ですね。この学院の守衛はこの時間帯、正門前のすぐ隣に据えられている守衛所で待機しているはずですし、自分は貴方の顔を見たことがありません」

「ありゃ? もうバレちまったか。あの弱っちい連中相手だと上手く騙せてたのになァ……」

「もう一度聞きます。いったい貴方はどこの誰で何が目的ですか?」

「おいおい、質問は一つずつにしてくれよ? まったくせっかちな坊やだな。心配せずとも質問の答えは順を追って説明してやるよ」

 

 クリストファーは男に尋ねると、偽の守衛はニヤリと口を歪める。その強面な外見と裏腹に飄々としており、僅かに殺気を出していた。

 

「まず、俺がどこの何者か? 俺の名は《魔弾》のヴラム。世間で言うテロリスト、帝国の女王にケンカ売る『天の智慧研究会』に所属しているおっかない魔術師の1人だ」

「なっ…『天の智慧研究会』!?」

「まだ半信半疑の様だな?ならその証拠にホラ、この洒落たマークを彫ってるだろ?」

 

 そう言って偽の守衛―――《魔弾》のヴラムは袖を捲る。

 その腕には『天の智慧研究会』のトレードマークである、蛇が絡みついた短剣の刺青が彫られていた。

 

 『天の智慧研究会』

 アルザーノ帝国に蔓延る最古の魔術結社の一つ。魔術を極める為なら何をやっても良い、どんな犠牲を払っても許されるといった思考を持ち、蹂躙を愉しみ、虐殺を好む外道魔術師達の組織である。《大導師》という謎の人物を指導者に、歴史の中で常に帝国政府と血を血で洗う抗争を続けてきた最悪のテロリスト集団、魔術界の最暗部。

 

「そして、次に何が目的でここに来たのか? 答えは簡単。組織の命令でこの天下に名高い魔術学院は俺たちが占拠しに来た。既に俺の仲間があの弱っちくて可哀想な守衛サンを全員始末したあと、厄介な結界をブッ壊して入ってきている頃合いだ。ちなみにこの服はあいつらより先に潜入するために守衛の1人から頂いたものだ。変装のために簡単な変身魔術を使ったんだが………あの連中、たいしたことないな。まったく気がついてなかったよ」

(なんてことだ………)

 

 ヴラムの仲間というのは、先程門をくぐってきた例の5人組の事だろう。

 クリストファーは嫌な予感が的中してしまった事を悟り、ヴラムからゆっくりと後ずさった。

 

「………ここにいる生徒たちはどうするつもりですか?」

 

 やけに冷静な事を聞きながら、クリストファーは更に一歩後ずさる。だが廊下の壁に背がぶつかってしまい、逃げ場がなくなる。

 

「心配せずともガキどもの皆殺しは計画に入っていない。逆らわなければ危害を加えることはないよ」

「なら――――」

「だが、ガキどもを解放するつもりはない」

「なっ…!?」

 

 

「せっかく卵とはいえ活きの良い若い魔術師達が大量に手に入るんだ。ここでの用事が済んだからハイさよならなんてつまらな過ぎじゃないか?…それに組織にはガキどもを実験材料にしたいって言ってる連中がいるしな。心配せずとも髪の毛一本も無駄にせずに惨たらしく有効活用させてもらうよ」

(外道が……)

 

 こらえ難い悪寒と共に、クリストファーは目の前の男に生理的嫌悪感を覚える。

 

 

「だがまあ、お前はある意味幸せ者だよ。なんせこれから自分が死ぬ理由を知りながら苦痛なく死ねるんだからな」

 

 そう言ってヴラムは懐からエングレーブのような刻印が刻まれた回転式拳銃―――魔銃ペネトレイターを取り出し、話のシメを行った。

 

「さて、少し話が長くなっちまったが大体の筋書きはこうだ。『由緒正しきアルザーノ帝国魔術学院は、世界最強の魔術師セリカ=アルフォネアが不在の間に無様にも極悪非道のテロリストに襲撃を受けました。そして気づいた時にはすでに遅く、学院にいた未来ある子供たちは皆連れ去れて実験材料にされてしまいました。彼らには助かる方法なんてものはなに1つありませんでした』とさ!」

 

 

 クリストファーの鼻先に向かって、話が終わると同時に引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 しかし、弾丸は放たれなかった。

 

「なっ……」

 

 ヴラムは、手に痺れるような痛みを感じていた。引き金を引いた筈の指が空しく虚空を引き絞る。銃は空中に跳ね上げられ、そのまま目の前の男の手元に納まったではないか。

 

 ヴラムが引き金を引く瞬間、クリストファーが足の動きだけで銃を蹴り上げたのだ。上半身には何の動きも見られなかった為、ヴラムはその攻撃を全く予測する事ができなかったのだ。

 

 銃を手にしたクリストファーが、その銃口をヴラムの眉間に突きつける。

 

 

「助かる方法ならあるさ――――――殺られる前に殺る、それだけだ」

 

 そう言ってクリストファーは開いた手で眼鏡を外し、前髪をかきあげてオールバックにする。

 

「さっきは馬鹿みたいにベラベラと目的を喋ってくれて本当に助かった。わざわざ拷問して情報を聞き出す手間が省けたよ」

「―――ッ!」

 

 そこに存在したのは、ほんの数秒前までとはまるで別人のような雰囲気を纏った一人の男。

 ヴラムは思わず固まってしまっていた。銃口が恐ろしかったのではない。それを突きつける男の目を見てしまったからだ。

 

 全てを呑み込む、いや、全てを破壊しつくしそうな瞳。暗く深く、そしてギラギラと赤く輝いている。それは憎悪と憐れみと蔑みを混ぜ合わせて、全てを自分自身に向けたような色をしている、そんな目をしていた。平和ボケした坊ちゃん達が通う学院の職員の目ではない。ましてや今まで殺してきた騎士や宮廷魔導士の中にもこんな目をしたものはいなかった。一体今までどんな生き方をすればこんな目になるというのだ。

 

 だが、そんな事は正直どうでもいい。何にせよこのままでは殺される。それだけが確実に理解できる現実だった。

 

「ら、《雷―」

 

 ヴラムは口を開き、呪文詠唱を開始する。放とうとしているの魔術は黒魔【ライトニング・ピアス】。

 指さした相手を一閃の雷光で刺し穿つ、軍用の攻性呪文だ。見かけは【ショック・ボルト】とそう大差はない。だが、その威力、弾速、貫通力、射程距離は桁外れであり、分厚い板金鎧すら余裕で撃ち抜いてしまうほどだ。術に内包されている電流量も【ショック・ボルト】とは比較にすらならず、なんの魔術的防御も持たない普通の人間ならば、触れただけで感電死するだろう。そのシンプルな外見からは想像もつかない恐るべき殺戮の術だ。かつて、戦場から弓や銃はおろか鎧の存在価値すら奪った術だった。

 

 因みにペネトレイターは、その存在価値のなくなった銃を魔導技術の踏襲による徹底的な改良を施し、弾薬に自動的に付与される【ライトニング・ピアス】などの殺傷性の高い魔術攻撃を早撃ちで射出できるようにしている。

 

 それを使っての狙撃、連射、装填しながらの呪文詠唱による攻撃などといった戦法で数々の魔導士達や騎士たちをことごとく打倒し、いつしかヴラムは《魔弾》という異名が付いた。

 

 だが、シンボルであるペネトレイターはクリストファーに奪われた。

 

 ならばと、他の魔術師の様に一節詠唱で起動させようとするのだが………

 

「おっと」

「――ガボッ!?」

「誰が魔術を使っていいって言った?」

 

クリストファーの動きは速かった。ヴラムが呪文が完成する前に瞬時に距離を詰め、銃口を彼の口の中に突っ込んだのだ。

 詠唱を物理的に中断させられ、引き金を引くだけで簡単に人の命を奪える武器がゼロ距離で自分に向けられている。そして得体の知れないクリストファーの双眸に睨まれているというこの状況に、ヴラムは脂汗を垂らしながらガタガタと怯えてしまっていた。

 

「マ、マヘ!マッヘクヘ!」

「ダメだな。一度銃を抜いた奴が、結果、相手の方が強かったからと言って見逃してもらおうなんて都合が良すぎじゃないか?」

「タ、タノフ!」

「それにこれでも俺は怒ってるんだよ。貴様はあいつらを実験材料にするだの惨たらしく有効活用するだの公言した。これ程不快なことがあるものか」

「ワフカッハ!ホフノジョフハンダ!」

 

 口に銃口を突っ込まれながらも必死の形相で命乞いを始めるヴラムだが、クリストファーは聞く耳を持たない。

 

「貴様らみたいな人でなし共はいつもこう思ってるんだろ? 『魔術という強力な力を使える俺たちに敵う奴なんて誰もいない』、『俺達は特別だ』、『俺達は最強だ』、『俺達は安全だ』、『俺達は絶対に死なない』とな。今のこの状況でもそう思える試してみようか?」

 

 そう言ってクリストファーは、銃の引き金に力を込め始めた。ゆっくりと、死を与えるまでの時間を楽しむかのように。

 

 だがその指の動きが、一瞬だけ止まった。

 

「そうそう、せっかくだからさっきお前が言っていたセリフをそっくりそのまま返すよ」

「―――ッ!?」

「確かこうだったかな?『お前はある意味幸せ者だよ――――なんせこれから自分が死ぬ理由を知りながら苦痛なく死ねるんだからな』」

 

 乱暴でいて果てしなく冷たい、氷の刃のような口調でクリストファーは淡々と告げる。

 

「散々殺してきたんだろ? なら一度くらい自分が死ぬ経験もしておけ」

「―――ッ!―――ッ!」

 

 引き金に力がこもる。ヴラムは抵抗しようと両手を振り上げるが、全てが遅すぎた。

 

「――――死ねよ、クズが」

 

 バアン!

 

 銃声が廊下を鋭く響き渡る。どこまでも。どこまでも遠くへ。

 

 

 ヴラムの後頭部は、口の中で銃口から放たれた一閃の紫色の光線によって吹き飛ばれ、真紅の血飛沫と脳髄の混じったものが絨毯が敷かれた廊下に飛び散った。

 

 そして、ヴラムだった死体は糸が切れたように床に転がり、頭に空いた大きな穴からドロリと大量の血が床に零れ出して絨毯に染み込みだす。 

 

 クリストファーの顔と銃を持っていた手にも返り血が掛かっていたが、クリストファーは特に拭おうともせず、虚空を見つめる。

 

 

 

「……さて、招かれざる客達を盛大にもてなすとするか」

 

 それからクリストファーは広がってきた血溜まりを気にせずに、他の天の智慧研究会の外道魔術師達が向かった場所――東館二階の二年次生二組の教室の方へゆっくりと歩を進める。

 

 

 その歩みと共に彼の右の袖が黒く滲み始めた。

 それは見ようによっては泥か瘴気のようにも見え、渦を巻くように規模を広げて、徐々にクリストファーの体を浸食して呑み込もうとしているかのよう。クリストファーが動く度にうねうねと動き、決して体から離れることはない。

 

 やがてどす黒い影の様な固まりに形を成し、彼の全身をローブで覆い隠すように纏わりついた。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、街の広場では、かなりの人がざわついていた。

 

「う…っ」

「こりゃひでぇ…」

「警備官はまだ来ないのか?」

「こんなの…人間のやる事じゃないわ…」

「ああ…一体だれがこんな事を…」

「ママ、あれ何?」

「こら!、見てはいけません‼︎」

 

 街の人達は亀甲縛りの小男―――キャレルを見ながら、縛られた彼に同情する者や軽蔑している者がいた。

 

 

 

 


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