やはり俺が十師族を守護するのは間違っている。   作:ハーマィア

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ちょっとゴタゴタありまして、自分を抑えきれなくなったので書きました。ぼちぼち投稿していけたらなと。


入学編
プロローグ


 

 

……そう。あれはある、寒い日のこと。

 

今思い出しても震えが止まらない、とある夏の(・・・・・)体験談。

 

あーし(・・・)はその光景を、怯えながら見ていた。

 

 

 

 

 

 

「撃て! 撃て! 撃てぇぇぇ! 手を休めるな! あの化け物は……」

 

 

 

 

 

 

深緑色の軍服を着た軍人が、激昂にも等しい指揮の途中で言葉を失う。

 

途端、彼の指揮下にあると思しき他の軍人達の間に動揺が走った。

 

驚愕に目を見開く者。舌を浮かせ、開いた口も塞がらない者。その結果に恐怖を噛みしめる者。様々な反応がある中で、そのどれもが、ある一人の人間を見つめていた。

 

彼らの視線が腕や腹に突き刺さる錯覚を覚える。

 

でもそれはあーしに向けられたものではなく、あーしの隣に立つ、腰元まで髪を伸ばした黒髪の彼女(・・)に向けられたもの。

 

……それは、飽くことなき暴虐の使徒。ただし、破壊することに執心しているのではなく、生命の営みを絶断させることにその力を費やしている。

 

命を啄むその雪鳥は傲慢にも、人の命を刈り取ることだけを目的として、自分で作った命の氷像には目もくれようともしない。

 

だから、あれほど高飛車な様子で、まるで自分はミサイルの届かない、暖かいミルクティの淹れられた司令室で怒りに拳を震わせているかのように怒鳴り散らしていた軍人のその最期も、まるでシャッターを切るかのように、永遠の額縁に入れてしまった。

 

「――! ――――!」

 

至近距離で相対する敵が何か話している。さっきと一緒で内容がわからないのは、相手がこの国の兵士ではないからか。ただ、敵があーし達に怯え、慄き、罵っているのだけはわかった。

 

しかしその喧騒も、一瞬後にはピタリと止む。

 

あまりの静けさに、まさか失聴してしまったのかと耳に手を当ててみる。けど、指が耳に触れる音が聞こえ、瞳に映るその景色は消して絵画の世界ではないということを認識させてくれた。

 

……あーしの視界に広がるのは、時が停止した世界。

 

或いは永遠の凍世界。死のその瞬間を切り取った優秀な氷像達が立ち並ぶ、冬のコンテスト会場か。

 

どちらにしろ、南国県の沖縄で雪が降り積もるというのは、何か違和感を感じるおかしなものに見えた。

 

……そういえば、どうしてあの時あーし達が戦闘に巻き込まれたのか、よくは覚えていない。

 

そもそも何故沖縄に行ったのかさえ朧げだ。

 

だけど、ひとつだけはっきりと覚えてることがある。

 

「……優美子ちゃんに、手を出すな」

 

――敵を見る彼女の目は、なんというか……こう、腐っていた。

 

俯瞰するとか一歩引いてとか第三者視点からとかその類のもので、味方の事情も敵の作戦も全てを知り尽くした上で「仕方ない」と諦めてしまっているような、どうしようもなさ。

 

でも、どうだっていいなんて思ってはいない筈だ。

 

あーしのこの右腕に彼女がくれた()は、決して他言してはいけない力。

 

なにせこの力は、魔法すら凌駕しかねないものなのだから。

 

あれから数年が過ぎた今でも、あーしのこの身に宿る力は最強であることに変わりはない……筈だ。

 

それを否定しかねない勢いで全てを凍りつかせているのが、隣の彼女なんだけど。

 

冷たい息をふうっ、と吐きながら、振り返ってあーしを見つめる芸術世界の創造主(アーティスト)

 

そして、そんな彼女は目を細め、少しばかりの笑みと悲哀の表情を浮かべながら、彼女は振り返ってあーしに語りかけた。

 

「……優美子ちゃんは、俺が護るから」

 

そんな台詞についあーしは照れくさくなって、

 

「女の子なのに一人称が“俺”なんて――ちゃんも面白いこと言うし」

 

そう返すと彼女は、呆れたような困ったような、そんな表情をした。あ、迷惑そうな顔だこれは。

 

「……いや、俺、女の子じゃ……」

 

「面白いしっ!」

 

相変わらずの惚け顔に、思わず笑みを浮かべる。凍りついた敵の死体が眼前にあるにもかかわらず、あーしはそう言って笑顔を浮かべた。

 

「いや……だから女じゃ……」

 

……そうでもしなければ、その光景に耐えられたかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ん? あれ、女の子……だったはずだ。


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