やはり俺が十師族を守護するのは間違っている。   作:ハーマィア

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タイトルからしてやばいです。あまり関係なくもないような気がしないこともある気がするようなそんなことはない感じですかね。
(やばい)




バイバイ、平穏。

『げほっ! げほが! ……てめえら覚えてろよっ!』

 

達也をイジメた時(先程)とは打って変わって苦しげな表情で咳き込んでいた八幡は、まるで悪戯が失敗した子供のように苦しげな表情のまま、階段を駆け下りていった。

 

最後に、負け犬のような捨て台詞を残して。

 

逃げ帰った八幡を抜いた八雲と達也と深雪の三人は、相変わらず縁側に座っていた。

 

八幡がいた分の深雪との距離を、八雲は詰めていない。

 

身を乗り出すような格好で、深雪越しに達也は八雲の方を向いた。

 

「先生。……比企谷八幡の事について、お訊きしてもよろしいでしょうか」

 

「うん、いいよ……と言いたいところだが、彼の事については色々喋れないこともある。答えられる範囲でなら、答えてあげよう」

 

困ったような笑み(苦笑いではない)を浮かべ、額を掻く八雲。

 

達也はそれに挨拶程度に頭を下げて、頭を上げた。

 

「ありがとうございます。……では」

 

そこで一瞬、逡巡する達也。八雲の言葉から察するに、答えられないことの方が多い筈だ。

 

これなら、答えられることもあるかもしれない。……そう考えて、達也は口を開いた。

 

「彼は、魔法師なのでしょうか」

 

「答えられない」

 

まさかの一発目での回答不可。

 

(これくらいは、と当たり障りの無さそうな質問だったが……)

 

「……彼が先程使った魔法は、何種類でしょうか」

 

先程――というのは、「彼が境内に入ってから」ではない。正確には、今日達也が九重寺に到着して、彼に対して放たれた妙手の数々全ての事を指している。どうやら、アレの大半が彼の肉体感覚を狂わせる為に行われた魔法であるらしいのだが、達也は正確にはたったの一つでさえも魔法を見つけられていない。

 

(魔法師かどうかがダメなら、これもやはりダメか)

 

だが、この状況では質問しないだけ損であるというもの。

 

達也は大人しく、八雲の答えを待った。

 

すると八雲は、顎に手を当て、考える仕草をする。

 

「ふむ……」

 

即答ではない。個人情報(パーソナリティ)に関係のない、単なる事実を確認するだけならば、或いは――

 

「……うん、それなら一つだ」

 

「……ひとつ、ですか?」

 

拍子抜け、ではなく虚を突かれ顔をする達也。

 

達也たちに対して行使された魔法は明らかに一つではなかったからだ。まさか、九重八雲ともあろう人間が見抜けなかったという事も無かろうが(本当に見抜けなかった可能性を彼は残している)、答えられないものと先程までまだ思い込んでいたからだ。

 

「かの天才魔巧技師、トーラス・シルバーの開発した『ループ・キャスト』のように同じ魔法が繰り返されているわけでもない。発動は一度きり、効果時間も大してあるわけでもない。けど、一番最初に発動していたね」

 

ループ・キャストと聞いて達也の目が揺れる事はなかったが、彼は『一番最初に発動していた』という言葉に引っかかりを覚えていた。

 

(……複合的、或いは重複的か順序的に魔法が発動していたと? 彼はその魔法のトリガーを引く役目をしていた……?)

 

「チッチッチ」

 

考え込む達也だったが、そんな彼をからかうように八雲は指を振った。達也がからかわれたことが面白くないのか、深雪は眉を寄せて不機嫌な顔を浮かべている。

 

「『ベルヴァニアの橋』……と言っていたかな。イタリアのベルバニアとの関連性は見つけられなかったが、もしかしたら適当に付けた名前かもしれない。……けど、あの時にこの空間で発動していた魔法は確かにそれ一つだよ」

 

「そんな筈がありません!」

 

絹を裂くような、悲鳴にも似た声を深雪が上げる。その顔は事実を認めたくない臆病者が浮かべる拒絶の相貌ではなく、確かな経験・揺るぎない知識に基づく、必要であるならば悪魔の証明ですら可能だとする人間のカオだった。

 

「魔法が発動していたのなら……お兄様にその存在を知覚できない筈はありません! お兄様は……!」

 

明らかに自分を盲信している、盲信し過ぎている深雪の態度に、達也はゆっくりと声を出す。

 

「……深雪、俺にだってできない事はある。普通の魔法が使えないとかだ。それと同様に、師匠にだって俺の魔法は使えない。だから、できないことがあるのは別に不思議な事ではない」

 

「……っ! ……も、申し訳ございません、お兄様……」

 

ヒステリックになっていたという自覚があるのだろう、深雪は顔を赤くして頭を下げた。

 

「良いんだよ、僕も最初に彼に会った時は取り乱してしまったからね。……それで、質問の続きだけど」

 

雲をつかむようにつかみ所のない九重八雲が、取り乱した。その事実に二人が瞠目していると、八雲は顎に手を当てた。

 

「……あれ(・・)は多分、魔法じゃあないんじゃないかな。我々が知覚できない、魔法師にとって完全な未知の領域だ。しかも、そんな存在を君たちの家が知らないはずもない。四葉の当主から忠告なり警告なりを受け取っていないのかい?」

 

「……『関わるなら最後まで。余計な災厄を被りたくないのなら、徹底的に関わるべきではない』――と、仰っていました」

 

「……ふむ、そう来たか。だったら安心して良いと思うよ。彼は薮蛇のようなものだ。触らぬ神に祟りなしという言葉があるように、こちらから何もしなければ何もしてこないからね。無論、相手に非があるなら責めて良い。それと――」

 

「……? それと、なんでしょう?」

 

「――随分長居しているようだけど、時間は大丈夫なのかな?」

 

とんとん、と八雲は人差し指で自分の左手首を叩く。それはつまり時間の事を指していて、つられて二人は各々の時計を確認――

 

「まずい、深雪行くぞ! 師匠――」

 

「うん。また明日だね、達也くん。深雪くんも」

 

「はい! 本日はこれで失礼します!」

 

始業時間がすぐそこに迫っていた。八幡の介入があったとはいえいつもの事なので、五分ほど時間が伸びたとしても登校時間には十分、間に合う予定だった。

 

それはつまり、八幡が細工をしたという事。サンドイッチの仕返し――なのだろうか。

 

慌てて二人は立ち上がり、八雲に一礼をして九重寺を後にする。

 

二人を座ったまま見送った八雲は、二人の姿が見えなくなるなり、つぶやいた。

 

「――アスタリスク、だよ達也くん。第三次世界大戦時に創生した、水上学園都市『六花』。まずは彼らと親交を深め、理解を進めなければ、我々はいずれ滅びてしまうだろうねぇ」

 

八雲の独り言は、誰へ伝わることもなく、空気中に薄れて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

厄介な事を――と、達也は自分のデスクにて授業登録を済ませながら毒づいた。

 

彼は、八幡による時間感覚の操作によって遅刻ギリギリに登校する羽目となっていた。

 

深雪のサンドイッチ爆弾作戦(?)を否定しようかといえば、別に後悔も反省もする気もさせる気もなかった。

 

悪意には報復が一番似合う。それについては何も言うことはない。ただ、厄介な事をしてくれたものだ――と、やはり達也は毒づく。

 

そんな事を思いながら昇降口で深雪と別れ、達也は二科生の教室へと向かっていた。

 

(………………あれは、なんだったんだろうか)

 

その途中で、今朝見たばかりの顔見知りの男子生徒が何故か黒焦げになって、金髪の一科生と思しき女子生徒に引きずられていたのを目撃したものの、達也と深雪は知らんぷりを決め込んでいた。

 

「……へー」

 

「……ん?」

 

報復の報復――ではないが、それによって多少胸の空いた達也は、自分を見て感心しているような声に気付いた。

 

その人物は、達也が自分が向けていた視線に気づいたのだろう。達也が視線を向け返すと、口を開いた。

 

「悪い、今時キーボードオンリーで入力する奴なんて珍しくてさ。俺は西城レオンハルト。レオって呼んでくれ」

 

「……、俺は司波達也だ。俺も達也でいい」

 

レオ。そして、隣の席の入学式で知り合った柴田美月に、同じく入学式で知り合い同じクラスとなった千葉エリカ。

 

これは退屈しそうにないな、と思いつつ、クラスメイトとの会話に達也も口を開いていた。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ知ってる? 今朝聞いたばかりなんだけどさ、昼ドラバリにドロドロした女関係をもつれさせて、魔法で焼かれたり凍らされたり女子生徒の制服を着せられたりした新入生の怪談がこの学校にあるらしいよ」

 

「……いや……知らないな」

 

どんな報復が彼の身に降りかかったのか、達也は少しだけ気になった。




一応次回から八幡視点に移っていきます。

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