やはり俺が十師族を守護するのは間違っている。   作:ハーマィア

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戸塚はやはりどの作品でも八幡を釣るためのダシとなり得るんですよね。


彼にさえ、心の底から嫌う人物はいた。

早起きは三文の徳、ということわざがある。

 

早起きすれば何か良いことがあるよ、という意味らしいのだが、起きたばかりの比企谷八幡はそれを肯定する気になどなれなかった。

 

『from:三浦優美子』

『title:』

『ヒキオ、学校行くよ』

 

彼女の意思が全ての決定事項であるかのように振る舞う、炎の女王さまからのメールに始まり、

 

『from:雪ノ下雪乃』

『title:おはよう』

『比企谷君。布団から一歩、家から一歩出てみるだけでも世界は違って見えるものよ。とはいえ、生まれたての子鹿に走れと命令するようなものよね。いきなりは無理でしょうし、仕方ないから私が一緒に登校してあげる。感謝して咽び泣きながら家の前で待っていなさい』

 

総ての意味をねじ伏せて覇道を貫く、氷の女王さまからのメールを流しながら、

 

『from:七草真由美』

『title:八幡くんおはよう!』

『相談したいことがあるの。一緒に登校しながら聞いてくれない?』

 

弓を持たずに的確に彼の急所を撃ち抜く、魔弾の女王さまからのメールに安堵すらしていた。

 

「……学校行きたくないでござる」

 

思わず知り合い(ゼット木座くん)のマネをして布団の上を転がる八幡だが、いくら彼でも時間(・・)は巻き戻せない。

 

「…………〜〜〜〜っ、っはぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁあああああああ……」

 

盛大にため息をつきながら、ケータイを手に取る八幡。

 

「……ん?」

 

現代から百年ほど遡った時代では、最大で数キロ程にもなる重さの教科書を持ち運びせねばならない、どの修行だと言いたくなるような登下校をしていたものだった。

 

が、そんな非効率なものがいつまでも台頭している筈もない。

 

紙媒体は資源の無駄という観点から電子媒体へと姿を変え、それによって殆どの生徒はスマホ一台分の重さを持ち歩くだけで事足りる様になった。

 

「……あ?」

 

その点はこの学校の授業スタンスを褒めてもいいと思う八幡だが、この端末にあるメール通信機能の自動受信システムが知らせる新たなメッセージの着信を見て、思わず端末を投げつけて踏み潰してしまいたい衝動に駆られていた。

 

どうにもならない事であると、知っておきながら。

 

 

 

 

 

 

『from:ハゲ坊主』

『title:お早う』

『朝からメールのハニートラップ三昧とは羨ましいねぇ、妖魔(・・)くん?』

 

 

 

 

 

 

「……あのハゲ坊主、見つけ次第回避不可の攻撃魔法の事(イグゾア・イグアクテ)でぶちのめしてやろうか……っ!」

 

九重八雲。八幡の仇敵にして臥薪嘗胆をせずともその存在が脳裏から離れない怨敵である。……と八幡は思っているが、一時期共に依頼された任務をこなしたりなど、八幡とこの僧侶は、雰囲気を見てその機嫌がわかる程度には知り合い(・・・・)であった。

 

どうやって情報を仕入れているのだろうか、八幡の立場を知って、八幡を取り巻く現状を知って、それでも尚それを面白いと近くで眺める。それが、八幡にとっては酷く不愉快なのだ。

 

まるで、子供の成長を楽しげに眺めている親のような視線。何様のつもりだ。

 

反抗期の子供が親に向かって生意気に話すように、八幡は顔を歪めて返信を打つ。

 

『くたばれ』

 

『いきなりの悪口とは酷いなぁ。今朝も修行には来るかい?』

 

『行か』

 

『「ない事もないむしろ参加させてくださいお願いします」迄しっかり文字として心を文体に出力してくれないと、こっちも読み取れないんだけどなぁ。ま、君は文章越しでも本音がわかりやすいからいいけど』

 

『』

 

『無言メールは辛いよ?』

 

「……あほくさ」

 

わざわざ付き合ってやる道理も義理もない。

 

ケータイを投げ捨て、もぞもぞと布団に入り直す八幡。――と、その時また新たなメールの着信音が鳴った。

 

「ん……んんっ!?」

 

どうせ何かセコい手だ――そう思いつつ画面を見た八幡の顔は、驚愕に包まれる。

 

 

 

『ちなみに今日の修行にも戸塚くんを誘っている』

 

 

 

戸塚、というワードを見て八幡の目は腐って、ではなく煌めいた。

 

こうしてはいられない。

 

ベッドから跳ね起きて、八幡は制服の上着に袖を通しつつ画面も見ずに光の速さで(自称)メールを打つ!

 

 

 

 

 

 

『いいか三分以内に俺はそこに辿り着く』

 

『なんの宣言なのかな?』

 

 

 

 

 

 

その後、八雲が計測し始めて一分で八幡は九重寺に到着し、誘っている「けど来てくれなかった」の文章を付け忘れたという八雲から謝罪を受け、危うく九重寺の建つ山を更地にしかけた八幡は〝八つ当たり〟の意味を込めて、達也との組手に細工をしたのだとか。


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