やはり俺が十師族を守護するのは間違っている。   作:ハーマィア

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人物紹介始めました。内容も順番もランダムかつ適当に。


雪ノ下 雪乃

 食堂の様子を見に行ったあとに少し忘れられてた人。固有魔法によって超速く動けるが、お姉ちゃんより遅い。


三浦 優美子

幼い頃の八幡に言葉遣いと常識と友達という概念について教えた。


渡辺 摩利

見た目によらずシャイ。キレると手がつけられない。


七草 真由美

 八幡のお姉さん。誰にも八幡のお嫁さんを譲る気はないが正直何もしなくても一番に八幡と結婚しそうな人。


司波達也

八幡のライバル的存在だが八幡には名前呼びされたくない。


司波深雪

達也の妹。視界に入ったすべての八幡を凍らせる。


比企谷 八幡

「はちまん」と打ったら何故か「バゼルギウス」に予測変換された。
唐突にバゼルギウスが出てきたら八幡の間違いです。



強者どもが模擬試合のあと

 

 試合を終え、八幡達は演習室から生徒会室へと戻ってきていた。道中で別の仕事があるらしい服部と十文字とは別れ、ドサクサに紛れて帰宅しようとする八幡は真由美が引き摺って——ではあるが。

 

 因みに服部は深雪に対して謝罪をしたが、達也と八幡に至っては一瞥されただけ。

 

 とはいえ、彼の中で八幡達に対する認識の変化はあったに違いない。八幡達を見る試合後の視線は、赤と青のようにはっきりと違っていたからだ。

 

 ……ただ、八幡の人格適正に関しては別に疑いが晴れたわけではないので、その部分のしこりはどうしても残るが。

 

「さて、それじゃあ改めて風紀委員会本部に向かおうか。比企谷、達也くん」

 

 摩利が和かな笑みを浮かべて達也に声をかけ、八幡の手首を掴む。

 

 模擬戦に負けてからというもの、隙あらば脱走しようとしているからだ。

 

 先程までで計17回。普通に脱走、窓から逃亡、謀反革命反乱反逆、逆ギレ、無視、物忘れ、嘘、聞き違い、曲解、etc……。

 

 特に、透明化を使用された時などは摩利や真由美に捕まえるのは無理かと思われたものの、なぜか見破ることができる達也のおかげであえなく御用となった。

 

 しかし、八幡は「逃げませんから」と摩利の拘束を振り払う。

 

「シャイなのか?」とからかう摩利に八幡は「ゴリラアレルギーなんで」と返し、摩利に触れられていた箇所をハンカチで擦っていた。

 

 直後に〝何かが陥没する音〟が聞こえ、生徒会室の床には男子生徒1名がうつ伏せになった状態ですやすやと寝ていたが、気にするものはいない。

 

 気絶した八幡の首根っこを掴み、達也が今までに見たことがない程に爽やかな笑みを浮かべて、摩利が達也を手招きする。

 

 この前といい今日といい、彼が抱えている命の危険について少しだけ気になった達也だった。

 

「深雪さんには生徒会の仕事について説明しますので、この場に残っていただけますか」

 

「はい、わかりました。お兄様、頑張ってくださいね」

 

「ああ、行ってくる。深雪も頑張れ」

 

 その後も淡々と深雪にこの後の事について説明をする鈴音だが、風紀委員会本部と繋がっている扉の奥にその姿が消えるまで、一度も八幡に視線が向けられることはなかった。

 

 風紀委員会本部の場所は生徒会室の真下に位置している。そして風紀委員会本部から生徒会室へ直接向かうことができる通路があり、摩利達はそこを通って本部まで降りてきたのだが、整理整頓の概念が行き届いた生徒会室とは違い風紀委員会本部は、はっきり言ってゴミ屋敷と見紛うレベルの汚さがあった。

 

 無論不潔という意味ではない。ただ、何もかもが整理されておらず、書類は散乱し、CADなどは机の上に放置されたまま。足の踏み場もない(実際には物の置き場もない)とはこの事かと大きくため息をつきながら、達也はジャケットを脱ぎ、シャツの袖をまくった。

 

「委員長。ここ、片付けても良いですか。魔工技師志望としてはCADが放り出されている状況が許せないので」

 

「構わないが……魔工技師? あれだけの戦闘スキルがあるのにか?」

 

 意外だ、という表情で摩利が達也を見る。

 

「俺では、どう足掻いてもCランクのライセンスしか取得できませんから」

 

 しかし、その理由を聞いて——摩利は「すまない」と一言溢した。達也の心を傷つけるとか、とてもそんなつもりでは無かったのだが、結果的にそのようなことを言ってしまったせいだ。

 

「気にしてません」

 

「そうか」

 

 だからか、達也のその言葉を聞いて摩利はもう気にすることをやめた。当人が気にしていないと言っている以上、それを表に出すのはマナー違反であるからだ。

 

 そして、摩利は性格に表裏がない。それ故の気にしないという選択肢だった。

 

 それより、摩利が気になるのは……。

 

「達也くん。比企谷の魔法は見てたか?」

 

「ええ。十文字先輩とぶつかり合った時の硬化魔法は見事でしたね。一切の構築漏れがなく、それでいて強度はかの「ファランクス」とぶつかり合える程に堅い。多分、得意魔法なのでしょうが……」

 

 摩利も、達也も、八幡が増えたことについて知りたがっていた。

 

 特に、分析が得意な達也でさえ見抜くことができなかった魔法。

 

 吐き出さずにはいられないほどの異物感が達也の胸中を占めていたのは、確かだった。

 

 活性化したサイオンが全身を包むとか、術式展開時における余剰サイオンの漏れだとか、それ以前に、

 

「……意味不明な現象が起きていた。相当無理があるが、例えばタンパク質の粉を撒いたり、基礎となる人形などの触媒無しに、純粋な人間の構造をしたモノを精製できるものか? しかも、魔法が十二分に使える状態で」

 

「隠していた、という可能性は? 観測しようにも隠蔽されてしまえばそこまでですから」

 

 達也の指摘は摩利が魔法による光学迷彩を見破れないことを前提としているが、この場合「摩利に隠蔽工作を看破するスキルが無い」という意味ではなく「八幡が使用した魔法のタネも仕掛けも摩利には分かってはいない」という意味であり、その点に関して言えば、あながち間違いでもなかった。

 

「いやそれは無い。何せこいつには私が付いていたからな。……それに、試合をすることになったのはついさっきだ。準備する時間をこいつは全てなぜか散歩に充てていた」

 

「今更見学ですか? 入学から結構経っていますが」

 

 散歩といえば達也の脳裏に自然と思い浮かぶのがそれだ。

 

 部活動勧誘期間はもう少し先の筈だから、施設の見学だろう。

 

 しかしそんな達也の問いに対する摩利の答えは、少々尖っていた。主に、方向性という面で。

 

「入学当初からの問題児らしいからな、比企谷は。儀式として何か意味があったのかもしれないが、私にはわからなかった」

 

「問題児? 深雪への犯罪行為以外にですか?」

 

 達也の疑問に、摩利は手を振って否定する。

 

「ああ、そういう意味じゃ無い。「問題がある」というよりは「問題を抱えている」と言った方が正しいか。平塚先生の話によれば、何でも受験の実技試験の為に用意された試験用CADの全てが、彼の使用後に破棄されたそうだよ」

 

「破棄……ですか?『故障した』ではなく?」

 

 達也が困惑した表情を浮かべる。その変化を見ていた摩利にとって達也の「眉をひそめる」という仕草は、普段人間味が感じられない達也の中の「人っぽさ」に触れた気がして、思わず笑みが溢れた。

 

「ああ。試験のために用意された三十六基の大型CAD全てが破棄されたそうだよ。原因はサイオンの過剰供給。電源回路は焼き切れ、ハードは形だけなんとか保っていたようだが、ソフトは微細損傷が原因とみられるノイズやバグだらけだったそうで、修復するとかえって費用がかさむらしいから破棄することにしたらしい」

 

「過剰……供給?」

 

 言いながら手渡された(送られてきた)風紀委員の次回集合日時に目を通しながらの会話をしていた達也が、顔を上げる。

 

「信じられない事に比企谷は、体内にあるサイオンが強すぎるせいで使うCADが壊れてしまうらしい。CADと縁が無いのもそのせいだろうな」

 

「…………」

 

 言葉を失う達也。「それは本当に人間か」という言葉を、彼は己が理性にまかせて失わせていた。

 

「手をかざすとほぼ同時に1基目が爆発を起こしたようだ。……ああ、ちなみに君たちとはタイムテーブルがわかれていたから、目にする機会が無かったと思うが」

 

「それで、1基ずつ順番に潰していった結果、学園が保有するCADの三割が今回の試験で壊失。被害額は周辺設備の交換含めて間違いなく収集した入学金と釣り合っていなくて赤字確定だったろうに、それでも学園はコイツを受け入れた。……恐らく、コイツが六道だからなのだろうが」

 

「……では、その『強すぎるサイオン』が何らかの影響を及ぼし、二人目、3人目の比企谷を創り出したカラクリになっていると、委員長はお考えなのですか」

 

「おそらくはな。……だが、証明のしようが……ああいや、納得のしようが無いんだ。何せ起動式の影すら見えなかった」

 

「起動式諸々が省略されているのだとしたら、それはもう、安全性と正確性に欠けた超能力の域ですが……」

 

「それと、再現性もほぼ無い。あまりにも個人技能に特化したモノは現代魔法ではないからな。流石は古式魔法を名乗るだけはある……か」

 

 摩利の視線の先には、やはり地面に倒れ伏している八幡の姿があった。

 

 呻き声の後、八幡はゆっくりと目を覚ます。

 

 頭を振って多少の痛みを飛ばした後、達也を見た。

 

「……あら?(・・・) 達也?(・・・)

 

 しかし、意識を失う前と比べると随分柔らかな表情をしている。角度によっては笑んでいるようにも見えるだろう。

 

 八幡は達也の名を呼んだ。しかし、呼び方が違っていた。

 

「……お前に名前で呼ばれる筋合いはないが」

 

「あ……ああ、そうそう、そうだったな。ごめんなさ——悪い。寝ぼけてたみたいだ」

 

 不快そうな達也の指摘に、今更気づいた様に目を見開き、誤魔化すように笑みを浮かべた。

 

「……出てくんじゃねぇよ」

 

 そして、二人から顔を隠すと何かを呟いて部屋の外へと向かう。

 

「寝ぼけていたのか?」という摩利の問いに振り返って、

 

「ゴリラは百を超える数の手話でコミュニケーションを取るそうですね。人語を話すことができる珍しいゴリラもいるようですが——っぺ」

 

 と返し、今度はアッパーカットで再びノックアウトされていた。

 

「さて、今日はこれで終わりだ。明日からよろしく頼むよ、達也くん」

 

「はい、こちらこそ。……比企谷はどうしますか?」

 

「ああ、こいつはいい。この後真由美が迎えに来るからな。それまでここに居させるつもりだったからちょうどいいしな」

 

「では、また明日。失礼します」

 

 礼をして部屋を出る達也。その直後に真由美が八幡を迎えに来て一緒に帰ることとなり……また別の場所で一悶着あったのだが……今日の彼は、それを知ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どんなに高い料理でも、料理である以上はそれとしての価値を保持しているものであり、対価と引き換えに食うことができる。

 

 それと同じように、進まない道もいつか進む時が来る。

 

 歯車は回り始めるし、それこそ「時」だってずっと止まることを知らない。

 

 だが。

 

 明けない夜はないという話には「太陽が輝いている」という前提があり、太陽が消滅した遥か先の未来はきっと夜は明けない。その励ましにもいつか終わりが来る。

 

 そうだ。「終わり」だ。

 

 とは言っても、形式だけの、実演的な終わり方では意味が無い。

 

 誰もが納得できる方法でなくていい。

 

 唾棄して、否定して、罵り、感情的になって胸ぐらを掴み合う——そんな、決定的な決裂。

 

 そんな刺激的な変化が、今この場には必要だ。

 

 

 

 

 そんなことを、左右からの圧力に怯えながら、八幡は考えていた。

 

「では、今日のところは八幡は私どもの家に連れて帰るという事でよろしいでしょうか? 急なお願いでこちらも色々と準備が必要になりますし……ああもちろん、私の婚約者に何かしようというわけではありませんよね? 『お手つき』の七草嬢?」

 

 三浦優美子が完璧な外面を造り。

 

「いいわけねーだろなに寝ぼけたこお、いっふぇぇぇぇ!!」

 

 横槍を入れようとした八幡が優美子に頬を引っ張られ。

 

「それでは私と八幡くんの〝賭け〟が成立しません。そもそも十師族でなくなった三浦さんは彼と無関係なのでは? ですよね? それなのにどうして貴女が引き止めるのです? もう舞台袖に引っ込んでいたらどうですかモブヒロイン」

 

 真由美が、高慢な態度で優美子を見下す。

 

「……それじゃあ比企谷くん。また明日」

 

「待って雪ノ下お願いです待って。お前がいてくれないと困る。このままだと俺の人生がやばい」

 

「……そ、それはつまり、貴方の人生において私が必要だということかしら」

 

「必要だ、今は何よりも」

 

「……は、ひにゃ……!?」

 

「だから頼む。……俺と一緒にいてほしい」

 

「……わ、わかったわ。こ、こちらこそ……っ、ふつつ、不束者だけど……っ!」

 

「「おい待てこら」」

 

 特殊性が強い魔法科高校にも下校時刻というものは規則として存在する。

 

 施錠をして、指定された時刻までには下校しなければいけないというものだ。

 

 ただし、研究の為であったり、特別に学校設備利用の許可が出ている生徒はその規則の例外となる。

 

 だが八幡は生徒会役員として居残りなどは無いので、普通に帰ろうとしていた。——真由美との約束を忘れて、だ。

 

「——起きた?」

 

「起きた。ていうか床に膝つくなし。ワンピースが汚れる」

 

「あら。膝枕をしてあげたのになんて言い草なのかしら」

 

「そういうのいいからもう……ほら、早く立って。綺麗にしてやるから」

 

「言葉遣い」

 

「You are dirty(お前は汚れている)」

 

「そういう意味じゃないわよ」

 

 しかし。生意気になる相手を間違え、二度意識を奪われた結果、彼が目を覚ますと眼前には真由美の顔。

 

 真由美の膝に八幡が頭を預けるカタチで眠っていたのだが、八幡と真由美の目が合った直後に学校のチャイムが鳴り、大人しく下校することに。

 

 ちなみにその間摩利は顔を赤くして二人の様子を見つめていたが、この程度では何も動じることがない二人の関係の深さを目の当たりにし——さらに赤くしていた。

 

 そして、真由美と八幡が校門を出ようとしたところで鉢合わせた(待ち構えていた)のが、件の優美子と雪乃だったのだ。

 

 仲睦まじく腕を組んで帰る二人を目にした彼女らに、必然的にどういうことかと問い詰められ、八幡の争奪戦が始まろうと——既に始まっていた。




次回、旦那の取り合いクリーク勃発。

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