やはり俺が十師族を守護するのは間違っている。   作:ハーマィア

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人物紹介〜


四葉真夜

八幡の不思議な魔法で若返った美魔女。同時にメンタルやフィジカルや魔法力など様々な能力が向上しており、具体的には達也を瞬殺できるようになった。


比企谷八幡

秘匿魔法再成の応用で真夜の体を治した。
現時点では真夜とバトルしても即敗北する(精神的に)と思われるが、彼の身体には十段階の封印や六つの複合封印(1つを解けば全部が解かれてしまうという弱点があるがその代わりトライデントでも消し去れない程の頑強さを持つ)などが施されているので全部開放すれば真夜には多分勝てない。(精神的な意味で)


微睡みの夜

 その男にとって、暗闇は心地の良い空間であった。

 

 暗闇とは言っても男が好むのは前後左右の判断がつかない程に強い暗闇ではなく、部屋の電気を消し、眼下の夜の街の明かりにぼんやりと照らされる程の繊細な闇である。

 

 それに、静かなのがとてもいい。

 

 男自身、仕事中毒者でも滅私奉公を信条にしている訳でもなかったから、夜は当たり前の人間のように寝る。

 

 しかし、この眠りにつく前の都会の夜景を眺める僅かなひと時が、男の最大のリラックスタイムであることに間違いはなかった。

 

 だから、男の楽しみに亀裂を入れた一通の電子メールは、男にとって許し難いもの。

 

 人付き合いの良い性格であるが故に、彼は言葉にはしないものの、その心にはかなりのストレスが溜まっていた。……そのメールに、目を通すまでは。

 

「……なに? ……?」

 

 男のストレスを一瞬で吹き飛ばしたのは、短く簡潔に纏められた一文。

 

〝彼らは任務に失敗しました〟

 

『どういう事だ』

 

 ——すぐにメールを送る。返事は数秒で来た。

 

〝作戦の報告完了予定時刻を30分過ぎました。報告はありません。また、こちらからの問いかけに対する返事も、彼らのステルススーツに取り付けた発信器も探知できません〟

 

 男のメール相手は戦闘用に造られたAIだ。ハルだかハロだかという名前の家庭用ロボットが元になっていて、言語情報、自己判断などの条件を元に提示された作戦という行動に対し、必要かつ最適化された手順のみを用いて目標を達成する。

 

 開発には膨大な手間と馬鹿にならない時間がかかったが、消費した分に見合う働きはしてくれていた。

 

 魔法師の人身売買という目的の為に、手練れであり証拠が繋がらない犯罪者達を雇う程度には優秀だったのだ。

 

 だからこそ、男には理由がわからない。AIに任せきりであるが故の無知から来る理解不足ではなく、機械と同等に、或いはそれ以上に自分が造ったモノについて知り尽くしている男だからこそ、そのAIが立てた完璧な(証拠を残さないなどの客観的に見た作戦の完成度ではなく多少強引であろうと100パーセント成功するという意味での)作戦を間違いないと男が判断したからだった。

 

 ……これが、経験の浅さというものか。

 

 男は、心底で初めて、己が造ったAIに毒づいた。

 

 ……元々男は、奴隷商人などという職柄の人間ではない。ミサイルだったり戦車だったり、魔法に依らない通常兵器を売買する売り手と買い手を繋ぐ仲介人に過ぎなかった。

 

 それが、ある時売り手が商品を用意出来ずに死亡してしまった為、仲介を担うことでその商売(・・・・)に多少の理解があった男に、売り手——奴隷売買の仕事が回ってきただけだ。

 

 男の住む世界では買い手の必要性に対して売り手のニーズが何百倍にも膨れ上がっており、それに代わる人間は希少どころか存在しない。

 

 故に、代わりとして存在が近しい人間を買い手達は選ぶ。買い手によって売り手は成り立っていると言っても過言ではなく、対等である筈の売り手と買い手の立場は高低差が付きすぎていた。

 

 そして、秘密を厳守しなければならないという点では仲介人の立場が最も低い。仲介人は、買い手に用意されて——この道に引きずり落とされて——ビジネスを始める者も少なくはない。

 

 何より、男の前に「売り手」をしていた人間も、元々は仲介人だったという話だ。

 

 それをふまえて、男にはその手の知識が豊富にあったし、前の売り手よりも確実に上手くやれる——そう判断したからこそ、男は今の地位にいる。

 

 幸いにも、不在となった仲介人を兼任してくれている売り手の方は男とはそれなりに付き合いが続いていて、失敗=死という恐怖性は2人の間には生じていなかった。これも、男が仕事を引き受けた要因の一つだ。

 

 何より、近年はただでさえ困難な人攫いの仕事を敢えて選ぶ分、その辺りは後始末さえしっかりとしていれば失敗に関してもかなり寛大になったといえる。

 

 無論、任務の続投も考えたが、思い直し、潔くする事に決めた。この手の類いは初手で成功させなければ2回目以降はまず間違いなく失敗するからだ。成功か死かと揶揄された所以が、そもそもそういう事を生業にしているからでもある。

 

 だから、男が依頼主に失敗報告を行う事に対する抵抗など更々なかった。

 

 流石に、気が狂ったかのように嬉々として失敗を報告する事もなかったが、それなりに神妙な面持ちで男は依頼主に電話をかける。

 

 しかし、男にとっての予想外はここでも発生していた。

 

「……?」

 

 成功にしろ失敗にしろ、男はこの時間に電話をかけてくるよう依頼主に指示を受けていた。

 

 だからかけたのだが——依頼主が、電話にでないのだ。

 

 暗殺や手引きなどさまざまな業種の仕事をこなしてきた男ではあるが、最近の失敗は今回の件だけだ。ここ数年、男は完璧に仕事をこなしていた。

 

 そして、その任務報告の度に依頼主は絶対に男の電話に出ていたのだ。まさか、今回に限って出忘れたなどという愚行はすまい。

 

 耳を離し、再度通知し直す為にかけなおそうとして、男はそれより先に届いたAIからのメールに目を下ろし——瞠目した。

 

〝しzぅば#れれBO。ばxdどあ〟

 

 意味不明な内容。何かの暗号であるわけではない。暗号化された内容も、男がメールを開く頃には全て解読されているからだ。

 

 それを見て、男は一つのことを悟っていた。

 

 男はAIに対し、自己が作戦立案も不可能なほどの危機的状態に陥った場合、なんでもいい——いや、敢えて意味不明なメールを寄越すように指示してある。このメールが届いたということは、そういうことだ。

 

 今回の件では、男と襲撃者だけでなく男とAI、AIと襲撃者達の関連性は何をどう調べても良いように細工されている。無論、依頼主とも。

 

 だがこのメールが届いたことで、男の心中を一抹の不安がよぎり、この場所から移動をしようと重要なデータなどが積み込まれたトランクに手を伸ばし——そのトランクに躱されたことで、男の手は空を切った。

 

「……っ!?」

 

 そこで漸く、男は薄暗い部屋の中で自分以外の何者かの存在に気付いた。

 

「……なるほど、このカバンの中にあのおもちゃのコアデータが圧縮されて入っているのか。これさえあれば、あれをいくら潰されたところですぐに復帰することが可能だった、と」

 

 トランクを手にまじまじと感想を零すのは、もうすぐ還暦になろうかという男よりも随分と若い——少年だった。

 

 薄暗い室内でもハッキリと分かる凛々しい顔立ち。それに、雰囲気で付けたのだろうか、金髪もその少年には似合っていた。

 

「な……っ、お前、何処から……!?」

 

 狼狽した声で男は声を投げる。男は俳優でも演技派の人間でもなかったから、当然だが。

 

「いえ、普通に玄関から」

 

 慌てふためく男の問いかけに、少年はわざわざ指で玄関を示す。

 

 その無駄とも言える時間の空白が男に思考する時間を与えていた。

 

「……なっ、何が目的だ!? 金ならここにはない! わかったら大人しく立ち去れ! 警備を呼ぶぞ!」

 

 一般人を装って喚き散らす。これが今の男にできる、精一杯だった。

 

「……、ふっ」

 

 しかし、何の証拠もない筈の男を前にして、確信とも言うべき失笑をもらす少年は、男の目には物の怪のように不気味に、嫌悪の念にまみれて見えた。

 

「その、今開いているケータイの通話先は時村后道(しむらこうどう)さんですか?」

 

 ゆっくりとした動作で少年は男の手にしたケータイを指差す。

 

「時村……后道……?」

 

 しかし、男には少年が口にした名前の人物に心当たりがない。

 

 無論男自身でもないし、依頼主や知り合いの名前でも——

 

「——まさか」

 

 依頼主のことだ。ケータイの相手など、それ1人しか心当たりがない。

 

 しかし、本名どころか性別すらわからなかった依頼主の素性を口にするこの少年は一体。

 

 男が湧いた疑問を思考として纏める前に、その少年から真実が語られた。

 

「はい。貴方への依頼主である彼は、こちらで処分しました。貴方のAIも同様に。連絡がついていないのはそのせいです。暁音(あかね)・D・ベルバさん?」

 

「俺の名前まで……!」

 

 男——暁音は、今度こそハッキリとした敵意を持ってその少年を見た。

 

「……?」

 

 しかし、暁音が見たのは少年の姿ではなく鏡に映った自分自身だった。

 

 それに、少年に対する恐怖だろうか。体が固まって、思うように動けない。

 

 ただ、少年の姿が何処にもないのはラッキーだった。今のうちにここを引き払わねば。

 

 ……まだ体は動かない。どうやら、相当に体は怯えていたらしい。前にも後にも、暁音の人生に於いてこれ程の恐怖はないだろう。

 

 ここから逃げ切ったならば、闇稼業からは足を洗って一般人としての生活に戻るのも悪くないかもしれない。仕事で得た金で恋人を作り、この後の人生をゆったりと過ごすのだ。

 

 …………。

 

 それにしても、随分と変な鏡だ。

 

 足下の靴まで鏡には映っているのに、首から上だけが映っていないだなんて。

 

 首の汗がひドい。ハyaクふキとりタイノにからダはまだウゴかなイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暁音の生首が思考を停止し、胴体が崩れ落ちるのを確認した直後——六道の少年、葉山隼人は着信音が鳴った携帯電話を通話状態にした。

 

「——はい、もしもし。……奥様でしたか。……はい、任務は滞りなく終わりました。買い手とバイヤーの両方を処分し、採取した顧客データから他のグループも合わせて一網打尽にできそうです。一晩戴ければ夜が明ける頃には終わらせられます」

 

 かけてきた相手は四葉真夜。この深夜に、真夜の執事である祖父以外から連絡を受けるとは思わず、多少まごついてしまったが、それでも基本的にやることは変わらない。

 

 落ち着いて何も取り乱さぬよう、隼人は言葉を間違えずに報告の言葉を紡ぐ。

 

 隼人にとって真夜と話しているこの瞬間は、闇ブローカーの暗殺任務よりも緊張していた。

 

『上出来よ、隼人さん。貴方のように素早く仕事をこなせた人は今のところ数人しかいないわ。文句なしに、貴方は四葉の一員ね』

 

「はっ。ありがとうございます」

 

 電話——顔の映らないケータイタイプ——越しの称賛の言葉に、隼人は頭を下げる。相手もいないのに——ではなく、相手がいないからこそ、自分の心に刻みつけるという意味で、隼人は深々と一礼をした。

 

 と、隼人は真夜の声が普段より幾分か軽く——高くなっていることに気づいた。

 

『まぁ、学生である貴方がそこまで頑張る必要はないわ。後は貢さん達に任せて、今日はもう休んで結構よ』

 

「はい、ありがとうございます」

 

 しかし、それを指摘することはしない。彼とて真夜の不興を買うつもりはないし、わざわざ面倒ごとに手を出す気もないからだ。

 

『それでね』

 

「はい」

 

 しかし、今日の真夜はいつもと違い、通話を切る為の挨拶に入ろうとしていた隼人を呼び止めた。

 

『今日は久しぶりに八幡の声が聞けたの。あの子はすぐに電話を切ろうとするから困っていたのだけど、今日は五分も話せたのよ? 久々に聞く八幡の声はもう本当に可愛くて——抱きしめたいくらいだったわ』

 

 言葉に詰まる隼人。まさか、悪名高い四葉の当主が子煩悩というか愛が重い片想い少女のように振る舞うのに耐えられず、思わずケータイを耳から離してしまった隼人を誰も責めることはしないだろう。実際、真夜の側で控えていた隼人の祖父、葉山執事は普段あり得ない、あまりにも興奮した主人の様子に嘆息していた。

 

「……奥様、もう11時を過ぎております。お疲れでしょうし、もうお休みになってはいかがでしょうか」

 

『……え、まだこの後に八幡とお話しする予定だから寝るのはもう少し後よ? 今日から水波ちゃんがあちらに住むことになったから、こちらへの連絡も頼んであるの。八幡とのお話が済んだら寝ようとは思うけれど……』

 

「奥様」

 

 遠足を楽しみにしている子供のように爛々と声を輝かせる真夜に隼人は1度目を瞑り、

 

「いくらその御身の肉体年齢が14歳であるとはいえ、不規則な生活は正しい成長とは結びつきません。流石に、これ以上の夜更かしは控えるべきかと」

 

 親が子を諭すように、ではなく科学的な根拠に基づいて専門家が王に進言するように。

 

 隼人は、そう告げた。

 

 ケータイ越し——今も尚、あの座り心地の良さそうな椅子に腰をかけ、足をばたつかせて楽しそうに話す少女の姿を浮かべながら。

 

 四葉真夜という魔法師は、八幡の魔法によって精神情報体以外の全てを再構築されていた。アンチエイジングや不老術式などと呼ばれる技を用いて、だ。

 

 普段こそ大人びた風格と色気が漂う貴婦人の見た目で周囲に接しているが、それはあくまでお付きの人間が光の屈折による幻惑でそう見せているだけだ。

 

 その中身は、真夜が見舞われたとある悲劇が起こった30年前より少し前の頃の真夜の身体に巻き戻っていたのだ。

 

 真夜の身体が巻き戻ったのは数年前とのことだが、それ以降は巻き戻しを行っていないらしく、真夜の体は順調に成長していた。

 

 極東の魔王は、小さくなった体に数年前を遥かに超える量の魔力——制御下にあるサイオンを振り撒きながら、無邪気に笑う。

 

『私から復讐と生きがいを奪い取ってくれた(・・・)八幡には、もっともっと構ってもらわなくちゃ。……そういえば、隼人さんの電話だけあの子はブロックしてないのはどうしてなの? ハッキング以外に着信拒否を切り抜ける方法があるのかしら?』

 

 ……まぁ、丸くなったといえば丸くなったのかもしれないけどさ。

 

 相変わらず、アイツの考えていることはわからないな——と思いながら主人の対応を祖父に任せ、隼人は「失礼します」と通話を切った。

 

 





次回、お風呂に入ったり男湯乱入シーンなど。まだまだ夜は明けないというか八幡の仕事が始まらないっす。
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