やはり俺が十師族を守護するのは間違っている。 作:ハーマィア
お待たせしました、続きでございます。
〜人物紹介〜
由比ヶ浜結衣
情報付加魔法の遣い手。情報を持つものであれば彼女の魔法から逃れられる術を持たないが、相手の体をぬいぐるみに変えたりできるしテレポートの真似事さえできてしまうので作中最強キャラかもしれない。但し、いかなる場合であっても本人の性格上誰かを傷つけることは出来ない。
ヒッキー
ガハマさんの標的。はよ逃げて
すばるん
八幡に一途な女の子。魔法師としてはありふれた家の出であるが八幡と出会ってから色々と変わったらしい。九校戦でどんな活躍が見れることかたのしみですね
ゆきのん
校内に迷い込んだ猫を見つけたものの、近寄ったら威嚇されたので少し元気がない。
関本勲
ああ見えてサボリ魔。こんな性格になったのはだいたいヒッキーのせい
夢と現は全く異なるものだ。
例えるなら、……そうだな。
夢は停滞するもの。
現実は前に進み続けるもの。
と、いったところか。
夢を見た分だけ人は立ち止まり、妄想し、現実から逃げようとする。
現実と対峙した数だけ人は挫折を味わい、心が折られ、夢を諦める。
だが、その両者は人が人であるために必要なものだ。
まず、現実という壁にまともにぶち当たるには、一般的とされる人の心は弱過ぎる事から始めよう。
もちろん、一度の衝突で壊れない心を持つ人間もいれば、たった一度の衝突で砕ける心の持ち主だって生まれてくる。
両者の違いは一言に耐久力の差であり、どんな強靭な猛者であろうとも命という限界を背負っていることに変わりはない。
その心を休める、或いは癒すために夢はあるのだ。
『理想という夢があるからこそ人は立ち上がれるし、希望という夢があるからこそ人は立ち向かって行ける』
この考えからすると、人はそれ程に強い夢を持っている限り、無限に現実に立ち向かっていく事ができることになる。
たとえその者の命が枯れ果てようとも、意思が滅びようとも、その
……さて、さて。
人体実験や遺伝子操作によって生まれた魔法師達は、兵器であることを捨てヒトとして生きようとしている。
それも、同じ国に住まう総人口九割以上の一般市民を前にして、だ。
魔法師の力がここまで広まってきている以上、彼らを恐れる心も相応に育ってしまっている。並大抵の努力ではこれを覆せまい。
それでも、現実に抗う魔法師共が己が利権を勝ち取り、認められる社会を築く事が出来たのなら。
その時は、誰も見たことのない景色が我らの目前に広がっていると思わんかね?
……それはきっと、魔法師以外の存在が消え去った未来だよ。
☆
それは。
百年以上も前の時代より靴から上履きに履き替える場所として広く知られている、生徒たちにとって馴染み深いもの。
であるが、そもそもの学園形態として外靴のままに校内で授業が行われている魔法科高校には、下駄箱というものが存在しない。故にこの場所を昇降口と表現して良いのか困ってしまうものの、来賓などを迎え入れる玄関は別にあるし、生徒たちの出入り口として機能しているのだから、やはりこう表現するべきか。
生徒が利用する玄関、昇降口にて。
真面目に説明するフリをしていた関本と説明を理解するフリをしていた八幡は、背後を振り返って自分達に見張りがいないことを確認し、息を吐いた。
「……ここまで来れば大丈夫か。それじゃ、帰りは気をつけて寄り道しないように」
「……わかった。俺もデコイを適当に走らせて帰るわ。墨鐘も居ないしな。面倒事は極力無視しよう……」
気だるげな様子でそれぞれ校舎から出ようとする二人は、とてもよく似ていた。
——任務を最初からサボろうとする点で。
「解散——」
「まっ、待って!」
それを引き留めたのは、二人に付いてきた昴だった。
「……なんだよ? なんか寄るとこあんのか?」
「いや、そうじゃなくて、いちおう……仕事だろ? だから、サボるのはどうかと」
昴はこの三人の中で唯一と言っても良い根からの常識人だ。仮にも風紀委員のような光の当たる仕事に就けているというのに、サボタージュするというのはどうにも認め難いもののようだった。
しかし、常識的行動というよりは八幡に声をかけて関本は無視している辺り、本音は昴の八幡に対する個人的な事情か。
「んなこと言っても、もう先輩いないぞ」
「ほんとだ……いや、だからってダメな方に流されちゃダメだろ」
関本勲は宣言通りどこからか取り出した、精巧に似せて造られた人形に後を任せ、既にこの場から姿を消していた。
其れは任務報告も欠かさず行える優れもので、都合の良いことに本日から一週間の部活動勧誘期間中、問題の発生に対処した場合以外の風紀委員は、下校時刻後には直帰して良い事になっている。実に好都合だ。
しかし、この人形にはとある欠点があった。
普段の授業サボりにも重宝される程のスグレモノであるが、精霊の眼という異能持ちには簡単にバレてしまうのだ。
別に関本の評価がどうなろうと、八幡個人としてはザマアミロ程度にしか感じないのだが、八幡には、ここで関本の不利をわざわざバラすメリットが無い。
八幡が形式上は真面目に仕事をこなしている(実際真面目も何もないが)のは、その不足する欠点に対するフォローの為だったりする。
無論、風紀委員の仕事や記録機などの操作方法については予習済みだ。
「知ってる、だからバレないようにサボるんだよ。ちゃんと学校ん中にはいるから」
故に、昴とのこんなやり取りはむしろ形式的な意味しかなく、中身の無い本音を叫び合うだけの、側からみればただの痴話喧嘩中の恋人同士に
「……本当か——じゃなくて、サボったらダメだって言ってるんだ。真面目に仕事しろ」
「わかってるって。乱闘とかが起きたら沈めれば良いんだろ? こんなのマテリアル・バースト使えば一発で」
「学校どころか八王子が消し飛ぶわっ!」
だからといって、そこに本音がないとしたらそれは嘘になる。
「……いいか!? 絶対に使うんじゃないぞ!」
「『再成』すれば良いんじゃね? ほら、併用すればお手軽ユガ・クシェートラ——」
「それをやったらオレはお前を一生軽蔑するからな」
「……『破城槌』程度に留めとく」
「とりあえず校舎を破壊しなきゃ気が済まないのかお前は」
冷めた目で八幡を見る昴だが、もちろんこれも演技だ。
「つってもな。ファントム・ブロウでも俺の場合下手すりゃ身体が弾け飛ぶし……雲散霧消使うとことか他の奴らに見られたくないしな」
「さっき委員長のとこで思いっきり使ってたよなオマエ。今更じゃねえの?」
「さっきのは司波兄に対して威嚇するという意味があったから使ったんだ。大体、克人さんの試合の後じゃ物が消えるくらい、大して驚かれないだろ。あの委員長だって気付いてなかったっぽいしな」
自信満々な様子でハキハキと答える八幡だが、それを見上げる昴の視線は冷たい。
「……本当にそこまで考えていた「あ、そうだ森崎」……どうした?」
昴の言葉を遮った八幡は、何かを思いついた様子。
「俺でも怪我をさせずに、被害を最小限に抑える事ができる魔法があった」
「なんだ?」
『地雷原で纏めて倒せば』なんて言うつもりじゃないだろうな、と拳を懐に忍ばせつつ、言葉を待つ。
「毒蜂」
「殺すな」
予見が的中したその瞬間、昴の必殺右こつんが八幡の額をこつんした。
「じゃあ何で倒せば良いんだ」
「倒す事前提に考えるなっつの。話し合いとか、けん制とか、いろいろあるでしょ」
「掴み合い殴り合い殺し合い、先制……?」
「理由のない攻撃はだめだってば! 何、ストレスでも溜まってんの!?」
演技には演技。虚構には虚構。主題の無い演舞会がひとりでに進行していく。
……たとえそうだとわかっていたとしても。
「冗談だ」
一体どこまでが冗談か。笑みのかけらもないその横顔を、昴はほんの少し、信じる事が出来ずにいた。
「なんで取り締まる側を見張らなきゃならないんだよ……!」
「そりゃ問題児だからな、俺」
「開き直るな!」
「ま、とりあえず歩こう。それっぽく歩いてりゃ気付かれんだろ」
ダメだ。いくら言っても無駄だ。
仕事が始まってから五分、昴は働いてもいないのに中と外の温度差がもたらすズレにより、疲労困憊状態に陥っていた。
「……お前のせいでオレは心労で倒れそうだよ」
「大袈裟だな、今日一日で」
「毎日これが続くとそりゃ心労にもなるだろ……お前あんまり友達いないんだから」
「友人の数は関係ないよね? ていうか、そんな心配しなくて大丈夫だぞ」
「あん!?」
何をだ!? という意味を込めて八幡を思い切り睨み付ける昴は、次の瞬間「あっ」と声を上げた。
彼女も気づいたのだ。八幡が何故にこんな風に余裕の態度を取れるのかを。
風紀委員の云々以前にいかなる手段を持ってしても逃げ出そうとしていた八幡が大人しくしている事自体、異常だというのに。
「今日はたまたま被っただけで、明日からほぼ学校に来なくなる。だから風紀委員の仕事も伸び伸びとできる」
「……何を、したんだ?」
気付いていながら敢えて言葉を投げる昴の問いに、八幡はニタリと頬を歪め、初めて情というものを見せた。
「六道の仕事をしこたま入れてやった。六道は基本的に仕事の方が優先されるからな、仕方ない」
嬉しそうな八幡。だが、昴の表情は違っていた。
一瞬だけ訪れる、本物の表情。其れを敏感に感じ取った八幡は、顔の向きを変えた。
「それならお前じゃなくて
せっかく、一緒にいる時間ができたのに。
そんな思いが、昴の中で膨れていく。
「それしたら何もかもが台無しになるだろうが。比企谷を表明してる俺が行くから良いんだよ」
ただでさえ逢える時間が少ないというのに。
「六道の仕事もサボるとか言ってたじゃねえか」
同じ学校に進学できたのは奇跡だとさえ思えたのに。
「おう。今のうちに負債作りに励まなきゃな」
「失敗前提かよ……」
だけど、そんな彼だからこそ昴の好きな彼なので。
「当然だろ。何のために俺が——あ」
着信音。八幡のメールだ。
しかし、八幡のその勝ち誇った笑みは——
或いは、打ち砕かれた筈の昴の希望は——
「……『何を企んでいるのか知りませんが、貴方は仮にも高校生です。一度しかない貴重な経験は極力無駄にするべきものではありません』……だと」
十秒と持たずに雲散霧消し。
一秒もかからずに再成した。
何が起こったのか。何が行われたのかといえば。
八幡が握りしめるケータイの画面に、
「……二木……ッ!」
二木舞衣。八幡の意図を見透かした十師族当主によって比企谷が受けた任務は全て他の六道や十師族によって白紙化——任務たる必要性が無い程度に縮小——されていた。
メールに記されている通り、純粋に八幡の高校生活というものを失わないよう、八幡のためを考えている舞衣の言葉には疑えるものが何もない。それは、八幡も理解していた。
そもそもの前提として、大きな事実がある。
八幡のためを考えている——それは意外にも、人として当たり前の生活を送ってほしいと云う十師族の総意だったりする。
特に、ひとつの言葉に二つも三つも裏がある七草や自分を敬愛するあの四葉までもが、八幡を我が子のように愛でている。
全ては六年前の比企谷参入時に起きた事件が発端であるが、それはまぁ、今の八幡が置かれている状況とは関係がない。
八幡の今の心境は、親に対する反抗期のようなものなのだから。
この計画を練る時、八幡は馬鹿であったわけではない。怪しまれないように細心の注意を払っていたのを、四葉の調査力と七草の人手の多さで以て調べ上げ、その日のうちに駆逐する。
無論八幡が可愛いだけで動くのではなく、比企谷を野に放つ危険性を大人達は理解した上での合理的協同である。が、普段は犬猿の仲である十師族が手を取り合う滅多にない状況の原因が自分であることに、構われたくない八幡は気付いていなかった。
「……あ」
「……なんだよ?」
「『生滅』を使えば、暴力が起こったという事実自体が発生しないから——」
「ヒストリーホロウも禁止だバカ!」
任務がないのでは、サボりようがない。
しかしそれで八幡の取れる策が全て潰えた訳ではなく、その為に『彼女』のような存在が常に彼の近くにいたりする。
「やっはろー……あれ? ヒッキー、その腕章ってヒッキー風紀委員になったの?」
ピンク色の髪を後ろの方で団子状に纏め、昴よりも遥かに発育の良い体つきと表情も雰囲気も明るげな少女が八幡達の歩く道の反対方向から、一人で歩いてきた。
その姿を見た途端、八幡は足を止める。
「……前方にビッチ発見。怖いから迂回するぞ」
「ビッチ? ……ああ、確かにあの胸はビッチだ。近寄るべきじゃない、行こう」
体の向きを変えた八幡に最初首を傾げていた昴だったが、八幡が退いたことで見えたその少女の胸を見て、同じように彼女も頷いた。
揃って踵を返す二人にピンク髪の少女——由比ヶ浜結衣は、ぷくっ、と頬を膨らませた。
「二人とも失礼すぎだしっ!? ヒッキーは挨拶とかないの!?」
奇天烈ではあるが、一応挨拶した結衣を罵倒した挙句に無視しようとしたのだ。結衣が怒るのも当然のこと。
しかしそれを実際に反省しているのかどうかは別として、二人は結衣の呼びかけに足を止めた。
「まったく、ヒッキーもすばるんもホントにあたしのことなんだと思って——」
歩み寄る結衣だが、二人が足を止めた真の意図に気づいてはいない。
「…………」
「……ああ」
小さく言葉を交わし、二人は頷き合う——と。
「ヒッキー? ——あっ!?」
結衣が瞬きをしたそのゼロコンマの間に、二人の姿は消えてしまっていた。
テレポート。或いは雪乃が得意とする閃光機動か。何れにせよ、結衣では防ぐことができない魔法だ。
してやられた、という表情を浮かべる結衣だが、その割にはきょろきょろと辺りを見回したりしない。
防ぐことは出来なくても、結衣にとって対処ができない魔法ではない。
「——付け足す」
結衣は既に二人の逃げた先を知っているかのような顔で、手首を振って取り出した拳銃形態のCADデバイスのトリガーを引いた。
すると結衣の姿も途端に消え、
「わっ!」
「っ!? ゆいがはっ、お前っ……!?」
「なあっ!? あり得ないだろ、おい……っ!?」
結衣は閃光機動で逃げた二人の背後、八幡の背中に抱きついた。
予想外の事に単純に驚いた八幡と、八幡と同じように驚きつつも途中から視線が下がり鋭さが増した昴は結局、結衣の『抱き着き』を躱すことができずに捕まってしまう。
結衣も同じように転移してきた事に対し驚愕する二人だが、そもそも『由比ヶ浜』の結衣にとってこれは朝飯前、赤子の手をひねるよりも簡単な事で、苦にもならないことを、二人は失念していた。
六道の座から降りた由比ヶ浜であるが、当主である結衣の父が比企谷との勝負に負けたというだけで、由比ヶ浜の持つ力までがなくなってしまったわけではない。
六道を外れた後も、新参となった比企谷の監視役や仕事のフォローを行う為に六道の補佐役として存在しており、その保有する戦力は以前と何ら変わりない。
大敗した比企谷を除けば、最強であることに変わりはないのだ。
だって。
今でも残されている戦時特令の一つに、
『由比ヶ浜が戦闘を行う領域はその瞬間からすべてが立入禁止区域となる』
があるくらいなのだから。
〝エイドスに情報を付加する事でその物がある状態を全く変化させてしまう魔法〟
それが、当時十師族含めて最強と畏れられた由比ヶ浜の魔法だ。
〝情報の改変〟ではなく〝情報の付加〟。
例えば〝街路を歩く人間〟を、
〝街路を歩く『一秒後に爆発する』人間〟とすることができ、
〝一秒前にそこにいた人間〟を、
〝一秒前にそこにいた人間『は、一秒後に全く別の場所にいた』〟とすることができる。
細かく指定をすればキリがないが、世界どころか宇宙を殺すことができる魔法であることに違いはない。
正しくは『情報付加魔法』と呼ばれるこの魔法は、事象干渉力が魔法の成立条件から除外され、思い描き、サイオンを消費するだけで簡単に魔法として放つことが可能だ。
但し、当然ながら修得すれば誰にでも、という訳ではない。
魔法の成立条件は由比ヶ浜の人間である事。それ以外になく、例え精霊の眼を持ち全てを一瞬で記憶する才能を持つ人間が居たとしても、体質から来るこの魔法の特殊な感覚はその血筋の人間以外には把握しきることは出来ない。
故に魔法の発動は個人の魔法潜在能力以外に影響されず、たとえば、結衣は数式が理解できなくても、そう考えるだけで数十万人を一瞬で消し去る魔法を放てるのだ。
当然、目印として使っているCADにあまり意味はない。
気分で人を殺せる——そんな彼女が、不機嫌な声で八幡の背にもたれかかる。
「ねえヒッキー。なんで逃げたの?」
結衣の発する声の音域は限りなく低く、重い。
その背に押し付けられむっちりと潰れていく胸の感触なんてわからないがその声の重さは結衣の心の冷たさを表しているようで、八幡の首筋を冷たい汗が伝う。
「……ごめんなさいって謝ったら許してくれる?」
「なんで、逃げたの?」
「……ハイ」
剃刀を飲まされているかのようだ。
ゆっくりと唾を飲み込む八幡は、そんな心持ちであった。
でっど おあ だーい