やはり俺が十師族を守護するのは間違っている。   作:ハーマィア

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8月8日が今年も近づいてきてる……

ゆきのんと八幡のみのクロスなしSS書きたいなあと思ってます。

人物紹介


比企谷八幡

ギラファノコギリクワガタ


雪ノ下雪乃

姉に煽られたせいで八幡の監視に来たものの、結果的に逃亡を幇助(ほうじょ)する事になったかしこいかわいい()人。大理石のように滑らかでありつつも関東平野のように微妙な凹凸しかなくて結論としては胸が無い。


由比ヶ浜結衣

八幡に迫ったけど逃げられた人。この人をホルスタ(以下略)と呼ぶのはなんかちがう。確かに大きいけど比較対象がスケートリンク(平)なだけで余計大きく見えるだけかもしれない。


森崎昴

校内の皆様に迷子のご案内をいたします。一年生、一科生の六枚花弁を肩につけた「もりさきすばるちゃん」がお連れ様をお探しです。
至急、職員室平塚の所までお越し下さい。



兄葉六枚羽(パラスキニア)

 湯の沸く音。

 

 沸騰した湯が茶釜の中で踊る事で、蓋の穴からこぽこぽと音を奏でている。

 

 それを見てふと、八幡は思った。

 

 よくもまぁ、指先一つでプロの料理人が作ったものと遜色ないものが口にできるこの時代に、茶道が廃れずに残っていたものだ。

 

 ……いや。青カビじみた文化に価値を見出したくなるほど、人は超飽和的人間生活を送っているということか。

 

 茶道の存在理由を軽んじる八幡だが、それは決して茶道に対しての知識が無であるからの感想ではない。

 

 作法や礼儀、茶室の中では誰もが平等であるという理念を八幡は知っている。人付き合いは苦手な八幡であれど、相手を貶す事なく対等にやり合うそのあり方自体は、好ましく感じていた。

 

 ひとつだけ、目の前の光景を除いては。

 

「……よよ、よい、……いひょっ?」

 

 危なっかしい手つきをするその姿をじっと見つめながら、八幡は考える。

 

 所詮は高校、所詮は素人の猿真似。

 

 美味しいものが飲みたいのなら自販機に行けばいいし、作法を識りたいのなら教科書を開いて理解すれば良い。その方が簡単だし、何より正確に正解に近づける。

 

 だが、それを敢えて〝体験〟というカタチで自らの手で表現する事に拘る不器用さこそが、人間の愛すべき欠点なのかもしれない。

 

 不完全さを愉しむ——生きとし生けるものが全力で生を磨き続けているその中で、それは人間にだけ許された特権だ。

 

 たとえ詩を理解する心がなくても、この空間で息をして目を閉じるだけで、何かが心に染み入ってくるような気さえする。

 

「……あ、できた」

 

 ……ただし、それはあくまでも、目を閉じることが出来ればの話だが。

 

 こくり、と八幡が喉を鳴らす。刃を喉に突きつけられながら話しているかのような、他に類のないほどの緊張感が八幡の精神を縛っていた。

 

「……っ、先輩——」

 

 沸いた湯を柄杓で茶碗に注ぎ、八幡の対面にて抹茶を点てていくのは、藍野日織。

 

 2人がいるこの場所は茶道部の部室兼茶室で、結衣から逃げていた八幡を茶道部員である日織が匿ったのだ。

 

「ぅん?」

 

 せっかくだからお茶でもどうぞ、ということで一服させていただくことになったのだが、この辺りで八幡の精神は臨界点を迎えた。

 

 手を止め、小首を傾げながら八幡を見上げる日織。彼女は二年生——八幡の先輩であるが、『実はちっこい方が年上』と言われても絶対に信じられないだろうという程度には日織の身長は小さかった。

 

 いやそうではなくて。

 

 ここが何処だとか、今俺たちは何をしているのかだとか、何でここにいるのかとかとか、諸々まるっと置いといて。

 

 とりあえず叫ぼう。せーのっ!

 

「——服着ろやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ひゃっ!?」

 

 まさか嵌められたのではあるまいな——と思いつつ、何故か水着姿で平然と茶を点てるセンパイを睨みつける。

 

 ……この日一番の絶叫が、茶道部茶室内に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 藍野日織という人物について、比企谷八幡は少し思い出す必要がある。

 

 彼女と初めて邂逅を果たしたのは確か、平塚静の説教を受けた直後のことだ。

 

 その時八幡は日織のことをただの変な先輩としか思っていなくて、きっとこの先関わり合いになることはないのだろう——と思っていた。

 

 食堂で、彼女の本質を理解するまでは。

 

 何があったのか、決して比企谷以外は持たぬ筈の力を日織は持っていた。

 

 それも、制御ができないという最悪の形で。

 

 ただの魔法師のただの暴走ならば、術式解体なり相反する術式を展開するなりして押し潰してしまえばいい。

 

 しかし、式の構築強度が強過ぎる比企谷の魔法を術者以外が打ち消すことはほぼ不可能で、八幡が日織の暴走を抑え込めたのも、殆ど奇跡に近いのだ。

 

『八幡がその目に認めたのは六枚。であるから、あれはおそらく()だ』

 

 八幡の話を聞いた材木座の解析結果は、あくまで枚数から推測したものに過ぎない。

 

 しかし、八幡もそれでおおよそ当たりだろうと踏んでいた。

 

 兄葉六枚羽(パラスキニア)という、日織がチカラを暴走させてしまった時に発現した六枚の羽。それを八幡は日織の背中に認めていたからだ。

 

 比企谷を深く(・・)知る者は、その者の能力が暴走した際、過去の教訓から大まかな状態を段階的に知ることができる。

 

 その危険性は五つに分けられていて、兄、姉、己、弟、妹の順に侵蝕率が高くなっていく。

 

 侵蝕度が一番軽い「兄」では羽は六枚、皮膚は生まれ持った色のまま、髪は色変わりしない。自我はハッキリとしている。

 

 二番目に軽い「姉」は羽の枚数が減って四枚になり、皮膚はそのまま、髪の色が薄くなる。脳髄の奥から手を伸ばしてくる鈍い痛みが、思考を乱してくるようになる。

 

 三番目の「己」は羽の数が一対と片翼一枚の三枚になり、肌がうっすらと灰色味を帯びてくる。髪の色は変化が見られずに、この状態からまともに思考することはできなくなる。

 

 四番目の「弟」になると、一枚の羽を残し残りは消えてしまう。内出血でも起こしたかのように肌が赤くなり、髪の色は一気に色が抜けて白髪に。痛みを緩和するために脳内麻薬が大量に分泌され、一時的ではあるが人間らしい人格を取り戻す。

 

 五番目、末期の「妹」は、一枚残った羽も消えて侵蝕完了状態となり、能力が足下から物理的に流出し、辺りの物体に干渉、周囲から湧き出る「黒」い流動体と血黒く染まった肌が清流のような白髪を映えさせる。「弟」の時に分泌された脳内麻薬の歯止めが効かなくなって一種の中毒状態となり、痛みに鈍く、理性など消し飛んで、殺戮を始めるのだ。

 

「妹」状態の能力者が現れたとなれば、八幡も学園生活を送るどころではなくなってしまうのだが——だが、八幡が最後に見た彼女の羽は二枚。

 

 日織が暴走させた能力の最終形は兄弟姉妹のどの状態でもなかったことから、八幡は一つの仮定を立てた。

 

 ——日織の侵蝕状態は、五つの段階のさらに先を行っているのではないか? と。

 

「——そして、彼女を知ろうと八幡は、その小さく華奢な体躯のまだ熟れる兆しもない幼気な少女の肢体を隅々までぺろぺろに……ぐぺっ!?」

 

「あ、すいません。菓子を頂きたいのですが……ビンの蓋がどうにも硬くて」

 

 相も変わらず服を着ようとしない日織にアイアンクローをぶちかます。

 

「あぃ、いだっだだだだっ!? キミがこじ開けようとしてるのはビンの蓋じゃなくて宇宙の真理だよっ!?」

 

 まだそんな軽口を叩く余裕があるのか——と半ば感心しつつ、

 

「なら、なおさら開けなきゃ……ですね」

 

 少しだけ手の力を強めた。

 

「ひゃーっ!? 待ってストップすとっぷ! わかったから、言う通りにするからっ!」

 

 流石に痛みに耐えかねたのか、涙目で八幡の腕をタップする日織。

 

 目尻には涙が浮かんでいて、本気で痛がっていることが窺える。

 

「……言う通り、とは?」

 

 日織が本当に反省しているかどうかは別として、八幡はアイアンクローを解いた。

 

「ぐすん……わかったよ、水着も脱げばいいんでしょ……」

 

 日織は涙目のまま「んしょ」と言ってシャツを脱ぐように水着の上を持ち上げようとする。八幡のその正面には布が外れ徐々に見えていくピンク色の突起——がぁべりゅっ!?

 

 半開きになっていた口を真横から彼自身の右腕によるストレートパンチが襲い、離れかけた理性をギリギリ取り戻す。

 

「窓から投げ捨てていいですか?」

 

 問いかけつつも七割裸の日織を担ぎ、茶室の窓を開ける八幡。

 

 自分の体が床から離れ、八幡の本気を感じ取った日織は慌て始めた。

 

「待って待って待って待ってっ!? 今外に放り出されたらマズいよっ! 人いっぱいいるし、風紀委員もうじゃうじゃいるから! こんな格好見られたら部活が無くなる!」

 

 では何故水着になったのか。

 

 日織を床に下ろしつつ、そう思わずにはいられない八幡だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼らが茶室にいる理由について。

 

 座標を偽って尚、標的の真実を捉える淑女(キング・オブ・ストーカー)(由比ヶ浜の例のアレ)の能力からは、魔法師であれば逃げ切る事は叶わない。

 

 八幡が日織と二人きりになれたのは、もとい、八幡が結衣から逃げ切れたのは、雪乃が結衣を抑え込んでいるからではなく純粋に結衣の追跡を振り切れたからである。

 

 しかし、今話した通り、基本的に由比ヶ浜の能力からは逃げられない。そこには一分の例外もなく、彼女が意識に捉えた〝総て〟は由比ヶ浜の手中にあるはずだった。

 

 結衣にとってのイレギュラーは、今も尚自分を拘束し続ける雪ノ下雪乃の存在ではない。

 

 正門付近にて他の文化系クラブに紛れ、たった1人茶道部への勧誘を行っていた藍野日織。彼女こそが、結衣が八幡を追跡できないように細工を施した張本人だった。

 

 否、細工をしたという表現には誤りがある。

 

 日織は、魔法を行使していない。

 

 その痕跡が見つからない、或いは感知されることのない全く新しい魔法——というわけではなく、魔法としてカタチを成していない。

 

 故に、どうして結衣の追跡を振り切れたかについては八幡もまだよくわかっていないので、一部省略してお送りする。

 

 簡潔に言うと、結衣から逃げている途中で日織と出会ったから。

 

 人混みに紛れることを狙って校門付近を八幡が結衣から逃げていると、何故か時折結衣の追跡(探知されているのを感知することができる)を振り切れる場所があった。そこを探索し留まっていたら部活動勧誘中の日織と遭遇、話を聞くついでに匿ってもらっていたのだ。

 

「……で、なんで先輩は水着だったんですか?」

 

 三度、八幡は日織に問いかける。

 

 その視線はもはや人に向けられているものとは思えないほどで、軽蔑と憎悪に塗れていたが、制服を着せられてわざと板の上に正座をさせられた日織は更に土下座をしている為、そんな視線を気にすることはなかった。

 

「比企谷くんは目に見える肌色が多ければ多いほど御し易いと聞いたデス」

 

 普通は謝罪か感謝を伝える格好で「お前はちょろい」とさらに挑発されるも、

 

「いや、そういうのいいんで」

 

 とまともに取り合わず、恐る恐る顔をあげる日織の顔を八幡は見つめた。

 

「藍野日織。旧名、加須源陽羽(かすがあげは)

 

「な……」

 

 陽羽。その名が八幡の口から放たれた瞬間、日織の八幡を見る目が変わる。

 

 まるで忌避するかのように手をつき足を擦らせて後退り、八幡に向けるは暴漢を見るような目だ。

 

 しかしそんな視線には目もくれず、八幡はすらすらと続ける。彼の心に、彼女の心理に対する配慮は無かった。

 

「右利き。年齢は十六歳。誕生日は八月八日、俺と同じですね。生まれは京都、育ちは東京。九歳からおよそ七年間を東京で過ごしているために訛りや方言は一切なし。身長143センチ。スリーサイズは上からB(バスト)6じゅ「わあわあわあ!!」……とまあ、一通り調べさせていただいた訳ですが」

 

「ひ、ひどすぎる……人間のやることじゃあない……!」

 

 ぽろぽろと涙を流す日織。そこには自分の個人情報を流出させている怒りよりも、胸の小ささを指摘される悲しみがあった。

 

 だが、そんな涙も八幡にとっては関係がない。

 

「あなたの個人データは結構簡単に調べられました。名前変更の際に捏造などの情報操作があった形跡もありません。この事から、あなたを認識させなくする結界は生来のものじゃないことがわかっています。ですが、あなたのこの結界は認識以前のヒトの記憶に関わる部分で周囲の人間に致命的な影響を及ぼしていることも理解していますか? 由比ヶ浜に干渉されない、それだけでも喉から魔法が出るくらい羨ましいのに、加えてぼっちのための人工力場を作り出せる事が俺にとってどれだけ羨ましいことかわかってます? 認識されないだけならまだしも、何も魔法を使っていない状態で場合によっては記憶——いや、記憶の自己中心的改竄と自分に対する意識の集中さえも分散させてしまう現象を引き起こしているんですよ。その上、あなたのその能力は由比ヶ浜の追跡さえ易々と躱してみせた。対象が由比ヶ浜に絞られていないにも関わらずです。ほんと羨ましい……。良いですか、あなたの能力は理にさえ干渉する〝マホウ〟クラスの威力を備えている。因果律をいとも簡単にねじ曲げる代物なんです。まともに人と付き合えるあんたがなんでそんなもん持ってんだぼっち舐めないでください」

 

「え……う、うん……ゑ? い、いま、真面目な話をしてたよね?」

 

 きょとん、と潤んだ目で問いかける日織だが、八幡は構わずに日織が立てた茶を一息で飲み干した。

 

 八幡がゆっくりと茶碗を置き「結構なお手前で」などという常套句を吐いた後、改めて手にした刀を(・・・・・・・・・)突きつけた。

 

 本当に耐性はないのだろう。小さく悲鳴を上げ、怯えた表情で日織は八幡を見ている。

 

 もうひと押し。

 

 表情に影を落とし、恐らくは彼女が今までに受けてきたであろう人間達とあえて同じ目で、八幡は日織を睨む。

 

「……あんた。人間主義(・・・・)を掲げる一般的な政治家の家に生まれたくせに、どうしてここにいるんですか?」

 

「……それは……」

 

 それは。今まで日織自身が幾度となく自分に対して問いかけてきた、答えのない問いだった。

 






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