やはり俺が十師族を守護するのは間違っている。 作:ハーマィア
〜人物紹介〜
比企谷八幡
主人公。初恋の人の精神を自分の肉体に同居させるという「あなたは私の中で生き続けるの……」状態の生き地獄を精神を取り込む側で味わった猛者。今やそれどころではない。
材木座義輝
八幡の相棒なんですけど、なんか気分で小鳥さんになれます。
七草真由美
ヒロインの中で八幡と一番最初に出会った人。明るく話しかけたけど当時八幡には無視された。
「ふんふーん」
日も傾いた夕刻。夕焼けが横顔を照らし、眩しさとは別の、哀愁に似た寂しさを感じつつ、材木座義輝は校門へと向かっていた。
「ふんふんふふー……」
彼が鼻歌を歌うのは何も気分が良い時だけではない。むしろ気分が悪い時ほど、それを吹き飛ばそうと明るく振舞う癖が彼にはある。
「むっ」
だが、たとえ楽しげな時であろうと哀しげな時であろうと、不穏な空気というものに彼は敏感だった。
義輝の目指す先、校門の入り口にて誰かが話をしている。誰なのかは距離の近さもあって簡単に判明した。
「本日はありがとうございました。今日こちらを訪問させていただいたのはほんの〝ついで〟なのですけど、おかげさまで有意義な時間を過ごすことができました」
「こちらこそ、会談の求めに応じていただきありがとうございました。まだご案内したい場所が沢山あったのですが、またいらした時にゆっくりご案内いたしますね」
「その時は、またよろしくお願い致します」
第一高校校門付近にて。真由美ともう1人、見慣れない制服を着た金髪の少女が何やら別れの挨拶をしている。
来賓の見送りをしている様子だが、金髪の少女の方は他の学校の生徒だろうか。
……少なくとも、東京では見たことのない——
「……!?」
……義輝が今までに味わったこれほどの衝撃は、司波深雪の時以来か。
義輝は金髪の少女を見て、横顔を確認して、激しく動揺した。
……何故だ。
義輝はその金髪の少女のことを知っていた。
彼女とは面識もある。……だが。
それでも、義輝が金髪の少女と出会うのだけは、ダメだ。
義輝とあの金髪の少女が顔を合わせることで何か問題が——というわけではない。
力関係的に、義輝は金髪の少女に敵わない。
故に義輝は、もしも金髪の少女と相対してしまった際の抵抗が難しくなる。
そして、最終的には八幡と引き合わさせられてしまうだろう。
それはできない。それはまだ、最低でも半年は先の事だ。
だから——
「……?」
不意に金髪の少女が、義輝のいた場所に振り向いた。
しかし、金髪の少女の視界に映ったのは東京の夕焼けと空を飛ぶ鳥のみ。
「どうかされましたか?」
「……いえ、何でもありません。あちらの方が賑やかな様子でしたので、少し気になりまして」
金髪の少女が振り返った先は第二小体育館。確かに今頃、あの場所で何かが起きているはずだ。
金髪の少女の反応に思わず胸を撫で下ろしながら、義輝は金髪の少女の
金髪の少女の言葉に真由美は「ああ」と頷き、
「当校は今日から部活動の勧誘期間に入っておりまして。それで騒がしくしているんです」
「部活動が盛んなのですか?」
「ええ。夏の九校戦に向けてどの部も戦力確保に躍起になっていますから」
「九校戦……時間が合えば、見学させていただきますね」
真由美の勧誘に対して金髪の少女の反応は薄い。
それほど興味がないということらしいが、次の真由美の一言で金髪の少女の瞳に色が入った。
「ええ、是非ご覧になってください。今年は特に新入生が粒揃いの子達ばかりですから、新人戦は見ものですよ?」
「新入生……というと、先程挨拶をいただいた司波深雪さんのような方でしょうか」
探るような目つき。それに気付いてか気付かずか、真由美は自慢げな様子だ。
「ええ。司波さんは勿論のことですが、次席の比企谷八幡くんも……まぁ、性格にやや癖がありますけど、魔法師としての力はプロにも負けていませんから」
「…………なるほど」
金髪の少女のそれを見た途端、びくり、と自分の体が震えた——と思ったのは、義輝の気のせいである。
少女が振り返る事で何か変化があったとしても、せいぜい空を飛ぶ小鳥の羽ばたきの回数が増えた程度だし、何も気付かれてはいない。
だが。
無意識に、体が震えているのだと思い込みたくなる程、義輝は怯えていたのかもしれない。
「……ひきがや、はちまん……さん、ですか」
まるで初恋の人の名前を呟くかのように、八幡の名を呟く少女。
「ええ。新人戦どころか本戦でも優勝候補なのは間違いないです」
「……それは楽しみですね」
真由美につられてにこり、と金髪の少女が浮かべた微笑は、それを見ていた義輝の背筋を凍り付かせた。
「それでは……あっ、すみません。少し、失礼します」
真由美も見送ろうと歩き始めていた……が、突然鳴った真由美の携帯が彼女の歩みを止めた。
一言二言交わすと通話を切り、表情を変えて金髪の少女に向き直った。
「申し訳ありません。本当は駅までお見送りしようと思っていたのですが、問題が発生しまして……そちらの対処に向かわないといけなくなりました」
「あらあら、それは大変ですね。私は地図を見て帰りますので、七草さんは早く向かわれた方がよろしいかと」
「ええ、すみません」
金髪の少女に謝ると、身を翻し小走りで真由美は校内へと戻っていった。
それを見届けて、金髪の少女も義輝も、それぞれ進み始めた。
(この後駅に向かうのか。面倒ではあるが……)
いつ来るのかわからない金髪の少女のキャビネットを待ち、彼女が駅を出てから乗車するよりも先にキャビネットの来る時間がわかっている義輝が先に乗った方が、安全に離脱できるだろう。
(よし……)
そうと決まれば後は逃げるだけ。気付かれてもいないのだから、楽勝だ。
義輝の決意と同時、金髪の少女と同じ方向に飛んでいた小鳥が獲物でも見つけたのか、より速く飛んでいったが、それを気にする者は誰もいなかった。
「…………なるほど。駅、ですか」
☆
全てを話せと要求する八幡に対し、日織が語ったのは純粋な真実。日織が生まれてきたこれまでのことを、罪を告白するかのように怯えながら、日織は口にした。
力には、突然目覚めたこと。
それは七年前であること。
魔法にはなんの関わりもなかったというのに、箸やペンを使うのと同じように魔法を使えたということ。
それからの周囲の変貌ぶりはあまりにひどく、自殺も何度かやってみたものの、その傷痕すら残らない自分の治癒能力を目の当たりにして自殺することは早々に諦めたのだとか。
「……わからないよ。だってわたしが産まれたのは、お父さんだった人とお母さんだった人が子供が欲しかったからだもの」
八幡に刀を向けられた日織は、それでも、八幡から目を逸らすことをしなかった。
目を伏せながら——ではなく、しかと。八幡の瞳と睨めっこをして、だ。
日織の瞳の中——折れることのない意志を感じ取った八幡は、ため息を吐きつつ、日織に向けていた刀を消した。
「あなたが産まれてくる
元々が殺傷力のない模造刀だ。当てたところで飴細工のように砕けて散るだけ。いわば人を傷つけない為の脅しであり、この問答自体、最後の念押しのようなものに過ぎなかった。
八幡の瞳から殺気が消えると、日織は何故か笑みを浮かべた。
……人を馬鹿にしたような、嫌な笑みだ。出会ってから今日までの数回で、少なくとも一度も目にしたことのない——人に見せる類ではない——表情だ。
「……それじゃあ、もしかしたら。わたしじゃなくてお父さんだった人とか、お母さんだった人とかがこの力に目覚めていた可能性もあるってこと?」
泣き声のような、悲鳴のような。憎悪と怒りが入り混じった低く暗い声色の問いを、日織は震わせながら口にした。
「力を得た時期にもよりますが、その可能性はありえます——というか、今力を得ていても不思議じゃない」
「…………そっか」
質問の答えを訊き、納得した表情の日織。
納得した彼女の顔は、憎悪と侮蔑に染まっていた。
語り始めたのは、元家族に対する想い。
「……例えばさ。〝嫌い〟とか〝産まなきゃ良かった〟なんてハッキリ言ってくれた方が、わたしとしてはむしろ気楽になって良いんだよね。気負ってはいないんだけどさ、やっぱり無い方がいいものは無い方がいいに決まってるんだよ。未練なのかな? 改名までさせて、改名したあとの方がむしろすっきりするような名前まで用意しといてさ。親子の縁を切ってるくせに毎月生活費だとか内緒で振り込んでくるし、元旦には絶対手紙が届くんだよ。これは実は愛情の裏返しで、本当は愛されてるんだと思う? 違うよ、この仕送りもきっと責任感とか罪悪感じゃなくてわたしが「ぎゃくたいですー」って訴えたら勝つから、機嫌取りのために仕方なくしてるようなものなんだよ。というか縁切ってるから虐待も何もないか。でも、何も無しに振り込まれてるのは怖いよね。意図が読めないし意志の疎通が出来ないから突然振り込まれなくなったらって思うと全く頼りにできないし、ありがたみがないというか。手紙にしても不気味なんだよね。逆に盛り沢山なんだよ、言葉が。たぶんお母さんだった人が書いてるのかなー。気遣う気持ちなんてひとかけらも無いのに「元気ですか」とか書いてあるし、この前なんかわたしの妹に当たる女の子の事についても書かれてたし、本当何報告してんの? って感じ。幸せそうだよねぇ。あ、妹って言ってもわたしが家を出てったあとに産み直した子供だから、わたしとは無関係だからね。写真とか時々ボイスメールで送られてくるんだけど、魔法が使えないわたしの妹はさ、ほんとお気楽に育ってるみたいだよ。この前なんか「お姉ちゃんと会ってみたいです」なんて手紙まで送ってきてさ。わたしの気持ちも知らずに「お姉ちゃんはえらい」だとか、覚えたばかりの言葉で勘当されたわたしをお姉ちゃんって呼んでくれるんだよ? ほんといい迷惑だよ。どんなにわたしが妬んで、恨んだ場所にいるのかも知らないで……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
止まらない、心中の吐露。それは、ヒトの悪意に敏感な八幡でさえも口を挟もうとせずにはいられない程であったが。
「……、あの」
「ほんと、良かったなぁって」
瞬間、八幡は自らの不満……憤りを完全には口にしなかった事を、安堵した。
「お父さんとお母さんと、妹に。わたしみたいな能力が出なくて良かったよ。……まぁ、これからを考えると安心はできないわけだけど」
それと同時に、八幡は羞恥というものを痛烈に実感する。
やはり、八幡は自分が人付き合いが苦手だ、めんどくさいと思う。言葉や表情だけではヒトの気持ちを全く理解できないし、ヒトの心の在り方なんて海の天気のようにコロコロと変わるからだ。でなければ、〝昨日の敵は今日の友〟などということわざは生まれまい。
「それじゃ、俺はこれで失礼します。話してる間に先輩から力は大体
ヒトの気持ちが理解できないのに己の理想を押し付ける、自分の気持ち悪さに吐き気を覚えながら八幡は立ち上がる。
日織が瞳に浮かべていたのは、自分への軽蔑と後悔。
元々八幡は正義の味方、か弱い少女を救うヒーローではない。
自省を促す教師でもないし、所詮は社会の為の歯車に過ぎない自分の存在。そんな自分が、これ以上誰かの人生に関わって良い筈がないのだ。
だから彼は、最小限の接触によって、先祖がしでかした不始末を片付ける事にしていた。
「先輩の元々のご家族についてもご心配は必要ありません。俺の仲間が調査に赴きますし、もし能力発現の兆候が見られたとしても、能力だけを奪ってしまうのでその後も今までと何ら変わりない生活を送ることができますよ」
取っ手に手をかけ、涙目でこちらを見る日織にそう言葉をかけて、この顔を見るのもこれで最後だ——なんて思いつつ、部屋を出ようとする八幡。
「? どこにいくの?」
しかし日織は、これから縁が切れて何の関係も無くなる筈の彼を呼び止めた。
「何処に……って、校内に戻るんですよ。一応これでも風紀委員ですし。最終下校時刻も近づいて————
ズアッ。
「——っ!?」
瞬間。八幡は、
いや、それよりも。
自分の右腕が斬り飛ばされた事なんかよりも、八幡の眼前に広がる光景は彼に痛みを忘れさせ、惹きつけている。
ゆらり、と立ち上がった日織は、どこか神々しいまでのブレもなく無駄のない動きで、八幡の制服を掴んだ。
「
引き寄せられ、顔を覗き込まれる八幡は、普通ではない彼女の
「…………ッ!?」
あの時よりもさらに輝いて見える、赤色の羽。
頬に涙の痕を残す日織のその背には、あの、忌むべき「力の翼」が生えていた。
宝石ルビーの最高級品「ピジョンブラッド」を思わせる深紅の翼は、その美しさを誇るかのようにゆっくりと広がっていく。
食堂で見たあの時とは違う。翼は明らかに、攻撃的な見た目をしている——ように見えた。
「わたしの力はそんなに美味しいかな? ただそこに居て、存在しているだけだったのに。どうしてあなたはわたしを引きずり出したのかな」
その、慌てふためいて喚き散らすべきであろう危機的状況を、八幡は、対岸の火事を眺めるかの如く、ただ唖然とした様子で見ていた。
まさか、八幡がミスをしたとでもいうのか。
ありえない。比企谷の力の取り扱いについては、八幡が誰よりも知り尽くしているというのに。
では何故? ……まさか、日織が力を隠していたのか。
益々ありえない。日織は嘘などつける体質ではないし、なによりも、「力」は特殊であれば特殊であるほど、八幡に寄ってくるのだから。
加えて、「わたしを引きずり出した」というセリフ。自分の能力が奪われたことに気付いたのは、日織ではない……?
となると、考えられる原因はただひとつ。
藍野日織は比企谷の血を引いている——などではなく、七年前。
彼女は能力に目覚めたのではなく、彼女が
(それしかねぇ……っ!)
そして今は、日織の能力が奪われたことを知った「何者か」が日織に能力を戻し、奪った張本人である八幡を排除しようとしているのか。
であるならば、まずはその日織と「何者か」の繋がりを断ち切らねばなるまい。
そうと決まれば。
「失礼します……よっ!」
日織の腕を掴み、引き剥がす。上着の掴まれていた部分が破れたものの、お構いなしにそのまま肩を押し、突き放した。
体制を崩した日織は床に倒れる——かと思いきや、数歩後退っただけで耐えてみせる。
(普段の先輩なら、絶対に転けていた筈……)
羽が発動している。ということは、そこから身体能力強化の魔法が自動発動していても不思議ではない。
千切った制服を手離し、日織は八幡を見据えた。
「……なに、するの。わたしは八幡くんと/=/対象視認。能力の残留値僅か。強制回収に参ります」
半分が破れてしまった上着を脱ぎ捨てながら、八幡は日織を睨む。
「
「……此方【
藍野日織——改め、イチジョウと名乗る何者かは、翼を八幡に突きつける。
「
「…………」
肩の傷口から滴る血が、八幡の足下の畳に血溜まりを作っていた。
——誰が。
——『〝彼女〟は君の目の前に居ない』と、言った?
——言っておこうか。
——〝彼女〟は、君が〝彼女たち〟を知るずっと前から。
——或いは、君が生まれた瞬間から。
——そんなにも前から、君を狙っていたんだ。
——無関係な他人を巻き込むことは許されないだとか、決してその程度で済む話ではない。
彼が、巻き込まれていたのだ。
語彙力が欲しい。私がドラゴンボールに願うとしたら、金なぞよりもまずは知識をもらうだろう。