やはり俺が十師族を守護するのは間違っている。   作:ハーマィア

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お待たせ致しました。続きです。


敵の敵は自分

 

 外法の神。外の世界の神。外神。——転じて、十神。

 

 それは、まさに神の如き存在だった。

 

 十師族の創設者である九島烈が十師族という枠組みを作るより、遥か昔のこと。

 

 力を持つ者としての格も、その在り方も、すべてが異なっていた一〇体の存在があった。

 

 彼らは元々人間であったらしいが、それをもう〝ヒト〟と呼ぶことはできまい。

 

〝重力の壁の向こう側〟、いわば神のみが立ち入りを許される神域へと至り、未知の力を手にした彼らを同じ人であると誰が呼べよう。

 

 彼らが辿り着いたその場所は、力しか存在しない世界。指向性を持たない、ただただ莫大なだけのエネルギーが満ちた世界。掌に少しかき集めれば、宇宙を創造する事すら可能になる程だったという。

 

 そしてその者たちは確信した。この場所こそが、『虐げられてきた(・・・・・・・)我々の楽園だ』と。

 

 ただ、その場所が彼らにとって安住の地であった事は『我々の不幸』である。

 

 その場所は間違いなく、彼らが立ち入ってはいけない聖域だった。

 

 蛇という番人が存在しない禁忌の楽園に足を踏み入れた彼らは、甘き果汁滴る力の果実を取り合うように貪った。

 

 そうして力を取り込み続けた結果、個人の内包するエネルギーが〝世界壱個分〟、到底人が抱えられる量では無い力を持つことになった化け物が十神だ。

 

 そんな彼らを比企谷が観測したのがおよそ一〇〇年前。

 

 観測した結果、それらは人類にとって断じて許容できる存在ではないことが判明、それの対策として魔法師開発——魔法師を護る為の仕組みに大きな変更が加えられたのが、それから二〇年後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「閃滅いたします」

 

 もしかしたら、八幡が感じた恐怖の中で最大のものは、これなのかもしれない。

 

「——な」

 

 手を伸ばす間もなく、目前の少女の意識が消えた。

 

 そこにある情報として消えてしまっていたのだ。干渉する対象が存在しなければ、現代魔法は無能と化す。

 

 だが、消え方が変だった。消えたとしてもその後の状況は情報として残るはずなのに、まるで最初から藍野日織なんて存在しなかったかの如く、情報の前も後も消えてしまっている。

 

 もしかすると、死んでいない——彼女の認識についての能力に関係があるのかもしれない。

 

 それか、もしくは——

 

「……はは」

 

 昨日の夜何食べたっけなー、小町が作ってくれた料理美味かったなー。……あれ? 小町って俺のこと忘れてんのかな? という現実逃避で心を落ち着かせながら、八幡は正面を見る。深呼吸してみても、目の前の現実が変わることはなかった。

 

「お前を殺す」という最悪の告白と共にイチジョウが展開した翼は、コウモリのように一枚の皮と骨、爪で出来ているのではなく、食堂で見たものと同じだ。羽毛のように一ミリの隙間もなくびっしりと生えた鋼鉄の硬度を誇る深紅の結晶の全てが、ピタリと八幡に向けられている。

 

 あれを一斉に撃たれたらマズい。前に爆発を抑え込めたのは無造作に放たれた指向性のない攻撃だったからで、八幡という標的がいる以上、どんな盾を用いようとも確実に削り殺す為の威力はあると見るべきだ。

 

 それに、まともにあんな攻撃を受けたなら「風通しの良い体になっちゃった☆」というギャグも出来なくなる。というか、絨毯銃撃の後に肉片なんて残るのだろうか。いやきっと残らない。チリひとつさえ。

 

 加えて、自分自身に腕を切断された瞬間から治癒魔法や再成を試みてはいるが、まるで効いていない。

 

『違い』が過ぎるのだ。ダイヤモンドにシャープペンシルの芯を突き立てても芯が砕けてしまうように、強度が違い過ぎる。八幡が奪った力は、敵全体の一割に達しているかどうか。

 

 故に彼女の攻撃は、如何なる手段を用いても止めることは出来ないだろう。

 

「……如何なる手段もって事になると、あの魔法もダメか……」

 

 例えば、この世で『まだ』一度も使われたことのない、結果的に対象の時を止める封印指定魔法『乖離』であっても、効力が結果として現れるかどうか。

 

 発動したとしても、結果的にしか効果をもたらさない『乖離』では、干渉力のせめぎ合いでせいぜいが光速に迫る速さで到達する魔法を音速に落とすことしかできないだろう。これでは、瞬きすれば終わることに変わりはない。

 

 幸いにも銃撃は開始されていない。「殲滅する」と口にしたのだからいずれ発射は行われるのに間違いは無いし、今は発射する為のエネルギーを充填しているのだろうか。

 

白羅撃(はくらげき)

 

 なんか数学っぽく考えてたら攻撃が来た。

 

「ちょっタンマっ——」

 

 言葉で静止しようと何も間に合わない。

 

 ————————————————っ!

 

 放たれた一発目が無音の轟きと共に、八幡に届いた。

 

 無音というのは、イチジョウの銃撃にはそもそも火薬が使われていない為、銃撃音というものが発生しなかったのだ。

 

 だが、その威力の馬鹿馬鹿しさは、茶室をズダぼろに破壊する事で証明されていた。

 

 掛け軸がボロボロに破れ、床に落ちる。

 

 それ以前に、掛け軸をかける為の壁が吹き飛んでいた。

 

 空調や電源、水道の為の配線が剥き出しになっている。

 

「……っ!? あ、はぼっ……」

 

 苦悶の声が上がる。負った傷の数に従って、血が噴き出た。

 

 体に空いた無数の穴は全て貫通している。体を支えている筋肉を貫いたせいでとても立っていられずに崩れ落ち、畳に手をつき、血を吐く。

 

 跳ね返った銃弾は、喉を、肩を、肘を、太ももを、あばらを、貫いたのだ。無事でいられるはずもない。

 

 

 

「ただしイチジョウ、お前がだ」

 

 

 

 美少女は、鮮血と共に倒れる。

 

 夥しい数の銃撃を浴びて血を吹き出したのは、八幡ではなくイチジョウだった。

 

『乖離』は物体情報から時間に関する情報を剥離させ、永久不変の完全物質を生み出す為に開発されることになる(・・・・・)魔法だ。

 

 消去ではなく剥離、あくまでも切り離す魔法である為、イチジョウのケタ違いの干渉力によって切り離しが不十分になり、攻撃を止めることはできない。八幡の全ての力を持ってしても、緩やかにする事が関の山。

 

 ならば。

 

 全てではなく、一部だけ止めてしまえばいい。

 

 イチジョウがあまりにもゆっくりと攻撃の準備していたのは、エネルギーを貯める為ではなく狙いを定める為。コンピュータではないのだ、あれだけの弾頭を制御するには、多少の時間が生まれても仕方ないかもしれないが。

 

 自分のどこが狙われるのかは、八幡でも容易に想像する事ができる。

 

 あとは、イチジョウの観察と並行して一番最初に八幡の肉体を抉るであろう銃弾を「予測」し、その時その場所に来る銃弾だけを止めてやればいい。

 

 停止した羽根弾は壁となって後から来る羽根弾を跳ね返す。跳ね返った弾は狙いも何もない破壊力の権化となって、後から来る弾丸に当たって壁に弾痕を刻むか攻撃者であるイチジョウに還っていく。

 

 確実に八幡を殺す威力を持っているということは、並大抵のシールドなら容易く貫通するということで、壁には反射しないということだ。

 

 それに、たとえ咄嗟の判断には弱くても、前もって準備できるのなら魔法構築スピードは関係ない。

 

 定義された効果時間が〇.〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇一秒でも狂えば一切発動しない、時間を取り込む未来予知ありきの術式であるが、八幡にとっては造作もないことだ。

 

 一秒なら一秒、一分なら一分。彼は術式の発動期間の正確さにおいて、学年主席である司波深雪を大きく突き放している。

 

 その実力は部品などに不調が発生する可能性を持つ機械とは違い、何があっても一切ブレることはない正確さで、もはや故意にでもねじ曲げない限りは発動時間がずれない程で、だが、それができるからなんだという程度の能力だった。

 

 こんな場面でもなければ、彼の一番の才能が日の目を見ることは無かっただろう。

 

『う、うおああああああああああっ!?』

 

 床に倒れ伏すイチジョウを睨んでいると、部屋の外——遥か下で、叫び声が聞こえる。

 

「チッ」

 

 恐らく、この部屋から崩れ落ちてくるコンクリートを見上げて絶叫しているのだろう。そんな必要、ないのに。

 

「『再成』は事象の巻き戻しではなく事象の上書き……だからこそ、その過程を読み取る必要があるわけですが」

 

 八幡の肩から血が滴り落ちた途端、破壊された筈の茶室は破壊される前の状態に戻っていた。

 

「アンタは攻撃対象以外にはどうやら干渉力を発揮しないらしい。それがさせないのか出来ないのかは分からんが」

 

「……う、ぐ、が……」

 

 イチジョウにとどめを刺さないのは、日織を殺さない為だ。そして、イチジョウに日織の体を諦めさせるのが一番いい。……が、現代魔法を用いた攻撃がイチジョウに通じないことは確かだ。まだ八幡の腕は再成を拒絶しているし、瀕死の重傷程度では弱まりすらしないらしい。

 

 そして、八幡は距離を取ってイチジョウに目を向ける。

 

「……傷の治りが遅いな? 力を使うと治癒力も低下するのか。それとも——」

 

 八幡に返す言葉の代わりに、斬撃が飛んでくる。

 

「——そもそも傷など気にする必要が無い、か」

 

 が、無理な体勢で撃った為かイチジョウは吹っ飛び、結局八幡から大きく外れて部屋に一文字を刻んだだけに終わった。

 

 ぐじゅるぐじゅる、と背中から広がっていた羽が体内へと戻っていく。それで治療をしているのかもしれない。

 

 八幡は警戒をしつつ、今更ながらケータイを開いた。

 

 ケータイを開いて一秒、思考のために時間を取って八幡は指を再び動かす。

 

「……やっぱ連絡取るべきはアイツだよな」

 

 例によって例の如く(四葉家当主)買い換えたばかりの新品スマホで、記憶している番号を入力し、コールする。

 

「……? 漫喫にでもいんのか、アイツ?」

 

 だが、四コール経っても中々出ない。普段ならどんな状況でも二コールで出るというのに、いったいどうしたのか。

 

 結局、材木座が電話に出たのは六コールが終わって七コール目に入ってからだった。

 

『むぅ、こちら材木座』

 

「……実は今かなりヤバい状況にいる。相模と関本先輩に連絡を取ってくれ」

 

 文句は言わない。材木座にも事情はあるだろうし、まずは連絡できたことに安心しなければ。

 

『ふむ? むぅ……』

 

 だが、材木座から返ってきたのは「了解」でも「今は無理だ」でもなく、懐疑的な疑問形。

 

「おい、どうした?」

 

『あのう』

 

 五秒待ってやっと、材木座から返事があった。

 

 はやる気持ちを抑えつけながら、八幡は材木座の返事を待った。

 

 だが。

 

どなたかと(・・・・・)間違えていませんか? 我……あ、僕は〝さがみ〟〝せきもと〟なんて知りませんし、あなたの声も聞いたことがないです』

 

 まるで、間違い電話を受けたような受け答えの仕方だ。

 

「……………………は?」

 

 困惑が、八幡の口から漏れる。

 

「…………」

 

 未だ床に伏したままのイチジョウの口端は、歪んだ笑みを作っていた。

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