やはり俺が十師族を守護するのは間違っている。   作:ハーマィア

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お待たせしました。続きでございます。


この作品に出てくる『十神』は読み方が「とがみ」であって、「とおがみ」ではございません。

ではどうぞ。


厄災を辿るため、全ての惡を屠るために用意された兵器

「……人違いです」

 

 正直な所、口実になりさえすれば電話口で話す言葉は何でもよかった。

 

 いや、口実の必要性すら無かっただろう。

 

 言葉を発さずに通話終了ボタンを押せば、それで良かったのだ。

 

 ただ、八幡の口から出てきたその一言はたとえ「事実の否認」であっても、「会話の否定」にはならなかった。

 

 それは拭っても雪いでも、削ぎ落としても偽ったとしても——奥底に鎮座する、八幡の本心だ。

 

 世界で唯一の、同じ能力を持つ理解者。

 

 彼女と話をしてはいけないということを、理性では納得していても、本能は理解していなかったのか。

 

 通話終了ボタンを押すその一瞬、八幡は自分でも気付かないくらい、ほんの少し、後悔をしていた。

 

 ……だがもう、これからは彼女を〝後悔〟する必要はない。

 

「……!? へおっ!?」

 

〝彼女〟の近くにいた材木座を専用魔法〝瞬間移動〟で八幡たちがいる場所に引き寄せた。

 

〝彼女〟は材木座のせいで記憶を失わずに済んでいたと考えて良いだろうし、こうして材木座がこちらに来た今、〝彼女〟はきっと八幡たちの事を覚えていない。彼らにとって全く利益とならない魔法科高校との会談を終えた今、何故会談したのかという自問自答に陥っているはずだ。

 

 因みに、瞬間移動による肉体的疲労や精神的ストレスは、予め備蓄しておいた自然回復力を消費してリラックスしたり疲労を回復したりする『緋癒』という、材木座が備えていた治癒魔法の一種により相殺されていた。

 

「大丈夫か?」

 

 八幡は、材木座に手を伸ばし床に尻餅をついた彼を立ち上がらせ——ようとして、材木座は掴んだ右手が本物ではない事に気づき一瞬戸惑ったが、それでも八幡の手を掴み、立ち上がった。

 

「……あ、ああ。しかし、流石に焦ったぞ。どうして追跡されてたのかな……鳥に変身したところなんて、見られたとしても、監視カメラに映らない場所で人が消えたようにしか見えんはずなんだが……」

 

 そう言って首を捻る材木座だが、彼は一つ思い違いをしていた。

 

〝彼女〟も未来視の能力を持っている事——ではない。

 

 未来の視え方は一つではない事を、だ。

 

 自分の視界の未来だけを視る八幡とは違い、捉えた対象の未来すら予知することができるその異能によって、小鳥から人に戻るシーンを見られていた為に、材木座は追跡されていたのだ。

 

 ただし、その事実を材木座が知ることになるのは少なくとも半年以上先の事であり、その事実が究明されるのもその時になってからである。

 

 まぁいいか、いずれにしてもこれで気にする必要も無くなった。——そんな風に考えて、材木座は八幡を見た。……だが。

 

「……八幡?」

 

 八幡の異変に気付いて問いかけるも、その反応を八幡がする前に——

 

「……なん……だと」

 

 ——あり得ないことが起きた。

 

 りりりりりりりりりりりりりりりり。

 

「……? なんだ?」

 

 八幡の携帯が鳴る。

 

 相手は誰か。……わからないのだ。

 

 発信元は一般的な番号が表示されているものの、恐らく先程の〝彼女〟からではない。〝彼女〟であれば、この前新調したばかりのケータイの番号を知っているはずがない。知るとしても、早くともあと2週間はかかっているはずだ。

 

 大体、今は何よりもイチジョウの能力〝記憶消去〟の影響下にある。殆どの人間が八幡の事を覚えていないから、対象は大幅に絞られる。

 

「……まさか」

 

 但し、これは記憶の忘却が効果を発揮しているという前提に限るが。

 

「……間違い電話とかやめてくれよ……!」

 

 今彼の懐にあるケータイはごく普通の一般回線を使用しているので、違う電話にかけようとして偶然八幡のケータイに繋がったというのは、あり得なくはない話だ。

 

 むしろ間違い電話の方が確率は高いのだろうが、それでも外部に協力を求めれるのであれば手を伸ばさないという選択肢はない。

 

 八幡は通話ボタンを押した。

 

「……もしもし」

 

 緊張が八幡の背を駆け巡る。

 

 悪寒が、彼を背中から抱きしめた。

 

 しかし、その電話は救いの手だったかもしれない。

 

『……あ、やっと出た。出るの遅いですよー、先輩』

 

「……っ!?」

 

 女子。メープルシロップのようにとろりと甘い少女の声で、電話の向こうの人物は語りかけてきた。

 

 八幡はその声に聞き覚えがあった。これ程に愛らしさを滲み出している声、彼女以外にいるとは思えない。

 

「……一色、か……?」

 

 震える声で聞き返したものの、八幡はほぼ確信していた。

 

 一色いろは。師補二十九家のひとつである一之倉や現十師族の一条と同じ『魔法技能師開発第一研究所出身の一色家の令嬢だ。

 

 そして、八幡にとっては彼女もまた扱い難い——現在置かれている状況を抜きにして、今最も会いたくない人物の一人であった。

 

 ただ、あくまでも八幡にとって「いろは」という少女は、優美子や隼人と行動を共にしている時に偶々面識が出来たというだけで、彼自身が一色いろはという少女に対して「親密である」という自惚れた自意識は持っていない、「友達の友達」という関係に近い。

 

 むしろ、彼女のことは今まで一度も意識した事がなかったくらいだ。

 

 

 

 ——先輩。……先輩の目的(・・)ってもしかして、六道を辞めることじゃなくて——

 

 

 

 ……彼女を避けていたのが、意図的なものかどうかは置いておく。

 

『そうですよー。世界一可愛い〝先輩の〟後輩、一色いろはです』

 

「……そりゃそうだ。前があれば後ろがあるように、先輩の後には後輩がいるんだから、お前の言葉は正しいな」

 

『……そういう事じゃないですってば。もー、相変わらず捻くれてますねー』

 

 半年も前の出来事であるが、未だに八幡が引きずっているものをさして気にした様子もなく、いろはは八幡へ電話をした本来の目的、話題を持ち出した。

 

『先輩って、ちょっと前に緊急事態メールを送信しましたよね?』

 

 やはりその事か、と八幡は納得する。

 

 彼ら六道が守護するのはあくまでも十師族であるが、残る十九家も十師族候補の家であることに変わりはなく、優先順位は低くなってしまうものの、残りの十九家にもシグナルは届くように設定されていた。

 

「ああ、送ったぞ」

 

『ですよね? ……あれ、結構煩く鳴ってたのに、二秒くらいしたらわたしの周りの人達はその事を忘れていたんです。……何があったんです?』

 

「そっちもか……」

 

 間違いなく、イチジョウの記憶消去と同じ現象が、いろはが今いる金沢でも起きている。東京から金沢まで届いているなんて、能力の距離に制限はないのかもしれない。——なんて、恐ろしい能力なのだ。

 

『そっちも……って、先輩この現象が何なのか知ってるんですか? まさか……敵?』

 

 とはいえ、彼女が事態解決のために貢献できることなど何もない。彼女の魔法は力技に適していないのに、戦えなど言えるものか。

 

 故にこの場で彼がすべきは、彼女を戦闘に巻き込まない事。

 

「いや、すまん。俺の勘違いだった」

 

 その為には、その二言だけで良い。

 

「それじゃあまたな、今度会った時にでもなんか奢る——」

 

 ……ただ、関係の断ち切りを急ぐあまりに、一色いろはの前で決して口にしてはならないことを、彼自身が忘れてしまっていた。

 

『先輩』

 

「……なんだ? 急いでいるんだが」

 

 ここでいろはの言葉を受けてボタンを押す指が止まったのも、いけなかったのかもしれない。

 

 彼はやはり、相当に疲れていたのだ。

 

 もっとも、何人であっても、彼女と相対してしまえば逃げられないのだが。

 

『わたしの前で嘘をついても、いいことはありませんよ?』

 

「……………………あ」

 

 一色いろはという少女には『如何なる虚言も通用しない』——そんな初歩的な事を、八幡は忘れてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いいですか先輩。不自然なタイミングで物事を否定するとまず嘘はバレますし、それが真実だとしても疑われます。……まぁ先輩がわたしと話している分には何を話してもクロだとわかるので関係ありませんが』

 

 一色いろはは『BS魔法師』である。

 

 強化措置や勉学・鍛錬などで得られる後天的な魔法技能とは違い、技能体系化する事が困難な魔法を生まれつきで使える魔法師がそう呼ばれる。

 

 だが、彼女の魔法は便宜上『BS』として呼ばれているだけで、その本質は魔法ですらないのかもしれない。

 

 彼女が持っている異能は『第六感』。視覚外からの攻撃を察知したり、相手の嘘を見分ける受動的なものや、山菜などにおける毒性の有無、左右に分かれた迷い道の正解などを見分ける能動的なものなど、その幅広さは多岐に渡る。

 

 能力の大部分がただの当てずっぽう、勘で説明がついてしまうが、通常であれば映像やレーダーの情報無しに攻撃を察知することなど出来はしない。

 

 勘の正確性を高めたり確実性を持たせたりする魔法は理論的に考えたとしてもブラックボックスの部分が幾つか出来るし、実現は不可能だ。

 

 だが、いろははその勘を、なんの情報もなく100%の正確性でぴたりと的中させる。

 

 彼女の能力を作戦に組み込んだ時の恐ろしさで言えば、戦略級魔法を遥かに上回るだろう。

 

 要するに彼女は八幡にとって声に出して言いたいくらい面倒で苦手な存在であるが、運の悪いことに、八幡はたまたま偶然自分の秘密に気付かれてしまい——興味を抱かれるどころか、徹底的につけ狙われてしまっていた。

 

「なんでそんな変た……珍しい能力持っちゃったの?『ターゲットした相手の嘘がわかる魔法』なんてそいつをずっと観察していないといけない訳だし、そんな事しても疲れるだけだ。持ってても無駄なだけだろ。「ヘヴィ・メタル・バースト」やるから交換しようぜ」

 

『そんなことないですよー。先輩のこと考えるのって、結構楽し……って今わたしのこと変態って言いかけましたよね。先輩にだけは言われたくないです。あと戦略級魔法をそう易々と』

 

「なんだ、「アグニ・ダウンバースト」の方が良かったのか?「シンクロライナー・フュージョン」はモロ核兵器だからまずいし……「海爆」はやってもいいが一応未来の技術だしな……めんどくさいから「マテリアル・バースト」でいいか」

 

『シャラップ! バレたら二度とおひさまを拝めなくなるような言動は謹んでください! 特に「マテリアル・バースト」が一番安いみたいな言い方やめてもらえます!? 先輩にとっては飽きた技術でも、世界からすれば喉から手が出る程の垂涎モノなんですから!』

 

「! ……盲点だった。エネルギー変換に使う材料のサイズや選択を自由に変えられる魔法式は正直適性ないと厳しすぎるから、エネルギー変換の対象を固定した「マテリアル・バースト」の起動式をブラックマーケットで流せば、司波兄妹諸共四葉を潰せる……!?」

 

『うわ本気だこの人! ……って、先輩尾行されない技術とか持ってる訳じゃないんですし、どうせ捕まって酷い目に遭うのがオチなんですからやめといた方がいいですよ。この会話だって絶対盗聴されてるし』

 

「……」

 

『先輩?』

 

返事を返さない八幡にいろはが問いかける。——それから数秒すると。

 

「……だいじょぶ。みんな忘れてる……」

 

 心の底から怯えた声が、いろはの鼓膜に届いた。

 

『比企谷先輩!? やっぱりこの現象は先輩のせいなんですか!?』

 

 だが、図らずしていろはのその言葉は、八幡の意識から彼の失言を追い出し、また別の悩みを植えつけた。

 

「……いや……違う……んだが……」

 

 説明しても大丈夫なのだろうか。いや、言って巻き込む可能性があるというだけでもう、一色いろはには伝えてはいけない。

 

『じゃあ説明してください。力になれると思うんで』

 

 そう言って、自信たっぷりに誇らしげな顔をする少女の顔が八幡の脳裏に浮かんでくる。優美子や雪乃達と同じく、思わず甘えてしまいそうになる。

 

 でも、それをせきとめる理性がぶつかって、胸が苦しい。

 

 うずくまって、地面を這い転がりそうなほどに痛い。理性のもたらす痛みは、これほどに酷いものだったかと疑問を抱きそうになったその時。

 

「ふーん。……いいんじゃないですか? せっかく手伝ってくれると仰っているんですし、この際甘えてみては?」

 

 声が、痛みを伝えた。

 

「————あ?」

 

 ぐじゅり。そんな音が、意識の外から聞こえて来る。それがイチジョウの攻撃だと察知した時には既に、感じていた胸の苦しさは激しい痛みへと変わっていた。

 

 影の世界への、イチジョウの侵入——

 

「……外に、だせっ……!」

 

 ケータイを握り潰し、振り返りもせずに絞り出したその言葉の一瞬後、風船が破けるように影の世界が壊れ、八幡とイチジョウは、現実世界へと引き戻される。

 

 影の世界から出てすぐに、八幡は己の正面にイチジョウの姿を認めた。

 

 ネファスが助けてくれたのだろう。胸に空いた筈の穴は影によって塞がっていた。

 

 そして外に出て、八幡はすぐにイチジョウが何をしたのかを知った。

 

「……く、位相を反転させたのか、よ……!」

 

 ねじ曲がった扉や七色に点滅する壁、天井からクラゲの触手のように垂れ下がる照明などがすぐ視界に入る辺り、ここで何かあったのは明白。

 

「ふざけんなよ……! 世界を品種改良するみたいに弄びやがって……!」

 

 玩具。地球や世界をそんな風に扱う傲慢な人間が、八幡は一番嫌いだ。それが——

 

「あはは。より良くなる世界の為に変革は必要だと思われますが。一緒に滅びましょう?」

 

 ——それが、悪魔のような笑顔を振り撒いて目の前にいる。

 

「……いいか、俺は基本的に女には手を挙げない。……お前は例外だ」

 

 ありったけの憎しみを込めて、八幡はイチジョウを睨む。するとイチジョウは、微笑み返してきた。

 

「面白い事を言いますね」

 

「あぁ!?」

 

 例えば——と前置きをして、イチジョウは喋り始めた。

 

「わたし以外の残る九人も、全員女の子(・・・・・)ですよ。その中にあなたの好みの女の子がいたとしたら、どうするのです?」

 

 一瞬、この世全ての音が吹き飛んだように八幡には聞こえた。

 

 これが明鏡止水? などと思ってみながら、不意に湧き上がる場違いな笑いをイチジョウを睨む事で噛み殺す。

 

 残る十神が全員女子——なんだ、そんな事はとうの昔に知っている。そのレベルで八幡を揺さぶる材料には、微塵もなり得ない。

 

 たとえ世界の外にある情報であっても、この世界で現象として観測されてしまえば、それは知ることができる。

 

 故に比企谷は、百年前からその存在を知っていたのだ。知り尽くしているし、もう既に見飽きてすらいた。

 

 逆に、彼女の感情に火をつける火種を、八幡は豊富に持っていた。

 

 感情に火をつけるもの——即ち、神と呼ばれたイチジョウの過去。

 

「思考が隣歩いてるよバケモノ。そんなんだから、ニイサマ(・・・・)が貴族の玩具になるんじゃねえの?」

 

「————————」

 

 ついでに(・・・・)日織を救おうとしていることを悟られないようにしつつ、八幡は構えた(・・・)

 

 上下左右、前後のどれから来たとしても迎え撃てるように、気を配りながら。

 

「……どこ、だ?」

 

 ——それがいけなかった。

 

 彼の取った行動は間違っていた。

 

 注意を分散して向けるのではなく、ただ一点、敵であるイチジョウに的を絞っておくべきだったのだ。

 

 次の瞬間、八幡はイチジョウを見失い——

 

「……顔も知らないクセに、にいさまを侮辱した事を地獄で詫びろクソ野郎」

 

「が……ぶ、エ……っ」

 

 ——彼は再び、背後から胸を貫かれていた。

 

 余裕のなさをかき消そうとして、体を少女に持ち上げられながら、八幡は口端を歪めた。

 

「……じご、くで、詫びる? ——はは。やっぱ地獄に堕ちるような奴だったか」

 

「今度は妙な施しをされないように、ですね」

 

 言葉と共に、八幡の胴はイチジョウの左腕によって左胸、左脇腹にかけて切り裂かれる。

 

「あああああああああああッ!?」

 

 八幡の体は、心臓や肺に背骨、肋骨などの体内パーツを派手に撒き散らしながら崩れ落ちた。

 

「……っ、……っ、……」

 

 人体にとって重要な器官の殆どを破壊され、姿勢を変えるどころか呼吸ができない苦しさは、何に喩えたら良いだろうか。

 

 ——ああそうだ、『まな板の鯉』だ。

 

 彼の側に近寄り、彼を取り込もうとしていた影はイチジョウが床を踏み鳴らすだけで散り散りになった。

 

「…………あひゃー☆」

 

 床から見上げるイチジョウの瞳は愉悦に染まっていた。

 

ごぶっ。鼻と口から血が溢れる。胸に穴を開けられたどころか切開されたのだから当然だが、脳に血液を送る心臓や肺がまとめてなくれ抉られたられら。こきゆわまともめもま。

 

「……あ、……べ…………」

 

 さらぶれろ。ばりら、ぽろふろめろろ。

 

「——お疲れ様。今までよくがんばったね。もう死んでいいよ」

 

 何か聞こえるけど何を言っているのかわからない。情報を処理する為の機能は既に停止している。痛みだって、もうない。

 

 だが、薄れゆく意識の中、あまり多くのことを考えられない状況の中で、たった一つ——八幡は心配していた。

 

 自分の死についてではなく、電話に出ていたいろはについてだ。

 

 胸を抉られたと錯覚した時点でケータイは握り潰したが、それでもいろはが八幡の事を覚えているのをイチジョウに知られてしまった。

 

「おやおや? 反応がありませんね。もう死にましたか? ……たしか……さっきの……ほら、二色(・・)さんとかいう方。殺しちゃいますよー?」

 

 ——一色。にげろ。

 

 今の彼にできたのがその程度を願うことだけ。

 

 彼の全力を持ってしても、やはりイチジョウには敵わなかった。

 

 彼の命は、ここで終わりだ。

 

 でも、もしかしたら、彼ではない他の誰かがイチジョウを討って、世界を救うかもしれない。

 

 可能性はゼロではない。世界にはそれだけの広さがあるのだから。

 

 ひょっとしたら、この日本にいるかも。

 

 ……そう、例えばあの、司波達也とかいう——

 

「……?」

 

 だが。

 

『————』

 

 ここで終わらせるなら、八幡は最初から未来視の能力をあの方(・・・)から与えられてはいない。

 

「何か今、言いました……?」

 

 何を聞いたのか、あるいは見たのか、首を左右に振って見回すイチジョウ。

 

 しかし、見回したところで八幡以外に何もなく、誰もいない。

 

 命を蹴散らされる一瞬の終わりの中で、八幡も彼自身の声帯から放たれる微かな声を、ただ聞き取っていた。

 

「…………【封印解放(バースト)緋羅(ヒラ)】」

 

 ただしその言葉は、確かにイチジョウの鼓膜を打っていた。

 

 そしてそれが、八幡から発せられたこともイチジョウは気づいて——いた。

 

「はあ? 一体何を仰っているんです? 友人? それとも誰か好きな女の名前? ……ああ、そういえば貴方の名前を聞いていませんでした——」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………………………【十神(とがみ)十魄(とはく)】…………………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 思わず、聞き取ってしまったイチジョウの口から困惑が漏れた。

 

 すでに物言わぬ死体と変わりない状況に陥っておきながら、何を言っているんだこの小僧は。

 

 どうやら十神については多少聞き齧っている様子だが、いざ力比べをしてみれば大したことはない。

 

 見ろ、今にこうして地面に這いつくばっているじゃないか。

 

 袖の破れた右腕は、どこへ向かうでもなく床に爪を立てている。

 

「…………まちなさい」

 

 斬り飛ばしたはずの彼の腕が、あった。

 

「待ちなさい」

 

 臓物を床に撒き散らかしてやった筈なのに、彼の体には傷一つ見当たらない。

 

 それでも衣服が破けている辺り、新しく生やしたか治癒再生したか——

 

「待て!」

 

 ——イチジョウの干渉力を、突破したということ。

 

 ビキビキビキビキビキビキビキビキビギシィッ!

 

「待ちなさいっっっ!!!」

 

 顔を上げた八幡は、イチジョウを見ていた。

 

「——緋羅、ヒキガヤ」

 

 イチジョウが背負っている翼と同じ、結晶でできた一角獣を思わせる巨大な角が、八幡の額から生えている。

 

 だが、少し視点をずらせば、其のツノは王冠のようにも見える——

 

「————戦火を灯しましょう」

 

「…………ヒィぃぃキィぃぃぃがぁぁあやああああぁぁああああ!!」

 

 ——世界に君臨した二人目の十神(ヒキガヤ)は、全てを滅ぼす十神(イチジョウ)と違い、人々が生き残る道を、足掻く生涯を、人類の生存戦を望んでいた。





私はここに宣言するっ!

あと1話で入学編を終わらせると!

ブランシュとかエガリテとか壬生先輩とか討論会とか諸々やってませんが、それを解決することは彼の領分では無いので。



八幡が敵意を持って行動すると地形が変わりますし……まぁ今回その敵意が目覚めたんですが。

スロースタートにもほどがあるってーの。
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