やはり俺が十師族を守護するのは間違っている。 作:ハーマィア
ほんとはもうちょっと早く投稿する予定だったんですけど、モンストのワートリコラボにどっぷり浸かってたら投稿するの遅くなりました。
ワートリと俺ガイルを基本にして混色モノをまた書こうかな……。
……その少女は、生まれた時から夢を見ていた。
いつか自分は自由になって、普通の人間のように、普通に働いて、普通に遊んで、普通に生きて行ける。そんな夢をいつか叶えられる日が来ると、そう信じていた。
しかし、彼女に夢を考える程の知性が彼女の親によって与えられたのは彼女の〝オリジナル〟が知性なくして使えない『魔法』という技術の持ち主だったからで、その親である人間は、そもそも彼女をその場所から逃す気はなかった。
その事を彼女は知っていた。だから、手足に鎖が繋がれた現実から目を背けようとして彼女なりに精一杯、夢を見ていたのだ。
それでも、閉鎖された環境で子供が考え得る誤魔化しは限界が早い。
外の世界が見たくなって、本や記憶から読み取る知識だけでは物足りない。想像できるものが少なくなる。
幸か不幸か、彼女は知性と知識を与えられた事で、彼女の親ですら想像しない脱走の手段を思いついた。
考える設計図は全て頭の中に覚えておいて、一度たりとも口に出したり書き留めたりはしない。
そして、計画を考えていくうちに、彼女は自分の親がそれ程利口ではないということに気づいた。
自分が今こうして存在していることから、コイツに計画力と実行力はある。
しかし、自分
現に、簡単な医療キットだけで手首の監視装置は取り出せたし、首元の爆弾も偽物にすり替えられていることに一切気付いていない。
あとは、隙を見計らって処分されたと見せかけて、脱走するだけだ。
(……ここを出たら、何をしよう)
少女は、それまでずっと考えていた計画のその先を忘れて、見えなくなってしまっていた。
☆
「……っ!」
「っぶな! ……くっ、ふおっ!?」
雪乃擬きが構える刀の鋒による刺突剣のような四段突きや、そこから繋がって帰ってくる斬り払い・切り返しといった止まらない剣戟。
それらが引き際を知らない波のように八幡を呑み込もうとして、八幡はそれらを捌くので精一杯だ。
しかし、一瞬でも雪乃擬きの刃が八幡の身体に食い込めばそこを押さえて反対から反撃できる。が、それを雪乃擬きもわかっているのか、確実に八幡の命を飛ばせる首を狙う時以外は決して深く踏み込まず、八幡の小手先反撃を迎撃するに留まっていた。
彼女が自分の首を狙ってきたところの隙を突くという考えも八幡の脳裏をよぎっているものの、失敗した時に飛ぶのは八幡の命だ。それだけは外せず、手段として取ることが出来ずにいた。
「……なあ! 雪ノ下擬き! お前よお!」
だから、八幡は自慢の武器を持ち出す。
蹴りと手にした白色の鍔なし短刀で雪乃擬きを引き剥がし、刃渡り10センチにも満たないナイフのような刀を雪乃擬きに突きつけた。
「……なんですの? 他の女の名前でわたくしを形容するなんて、殿方としての教養は些か足りていないのではなくて?」
抱き着くように八幡に攻撃を仕掛けていた雪乃擬きは、引き剥がされて雪乃そのものの顔を不愉快そうに歪め、再び八幡に斬りかかった。
それを払い退けながら、八幡は言葉を紡ぐ。
雪乃擬きから動揺を引き出すための、言葉を。
「……それだよ、それ。なんでお前、俺が男だなんて、わかるんだ?」
鈴のように可憐さと儚さを含んだ飴のようにか細い声で、八幡は手繰り寄せる。
「……!」
「声も、顔も、体格も、役者のプロだって俺が男だと見抜けなかった! なのに、初対面で何故お前は俺を見抜ける!?」
身振りを交えて雪乃擬きを視線で貫き、
その直後、硬直とも、反射運動の予備動作とも取れる〝肉体運動の滞り〟が雪乃擬きの体に訪れた。
(————っし!)
八幡は、一瞬の隙を逃さなかった。
八幡が口にした疑問は最もだ。しかし、今この瞬間に八幡が知りたい答えではない。
彼女を取り押さえた後にゆっくりと確認できる事だし、斬り合いの最中に敵が話し合いへの変遷に応じるとは最初から考えていない。
一瞬の動揺の為に嘘八百——それが、九重八雲との確執の中で生み出された八幡の戦闘術の一つだ。
刀を逆手に握り、ほぼ殴りかかるような体勢で八幡は女子らしからぬ獰猛な笑みを浮かべて、やはり殴りかかった。
「……、なん——」
しかし、この場合は八幡の詰めが甘かったとしか言い様がない。
「甘い……わよっ!」
「なだっ……!?」
敵は雪乃擬き一人で、他にはいない——そう思い込んでいたのだから。
突如、横から白皙の脚が伸びてきて、八幡の突き出した右手のナイフの刃部分を蹴り砕く。
視覚外からの攻撃——それを全く予想していなかった八幡は、僅かゼロコンマ1秒、動きを止めてしまう。
予想外による思考停止。
まさか、自分が企んだ動きをそのまま返されるとは思ってもいなかった八幡は、そのまま動きを止めてしまっていた。
そして、その隙に雪乃擬きは手にした刀を振りかぶって、バットのように振り上げ、そのまま——動きを止めた。
「…………っ!?」
〝驚いて動きが止まった〟というより、〝動きが止まって驚いた〟という顔をしている。
その顔は雪乃擬きと八幡の戦闘に割って入った少女も同じで、その驚き方はまるで姉妹のよ、う、で…………。
「……まさか、雪ノ下のクローンが二〇〇〇〇人いるとかじゃねえよな」
焦り方も、歯の噛み締め方だってまるで瓜二つ。ドッペルゲンガーは、その存在が一人だけではないらしい。
「……くっ」
乱入してきた少女も、雪乃と顔立ちが全く同じだったのだ。
しかし、そんなものがわかったところで判断材料程度にしかならず、彼女達がピンチに陥っているのは依然として変わっていない。
二人が固まった体勢で身動きを取れない中、八幡だけが構えを解いたことで、彼女達はいまさら、自分達が八幡によって捕らえられていることを悟った。
目に見えない何かに体を拘束されている。呼吸と瞬きはできるが、指一本動かせない。それだけがわかって、それ以外が何もわからない。
細い糸が多重にからまって彼女達の動きを止めているのかもしれないし、神経系の自由を奪われているのかもしれない。
兎にも角にも、この拘束から早く抜け出さなければ——
「よっこらしょっ……と」
八幡が雪乃擬き達に向かって歩み始めた。そして、何故か彼が刀を手放す——と、彼女達は自分を拘束しているものが一体何なのか、知ることができた。
「…………! その武器が……!?」
彼女達の目に入ってきたのは、手放された刀、ではなく、蹴り砕かれた刀の破片だ。
先程蹴り砕かれた筈の刀の破片が、宙に浮かんだまま静止している。
(……いや、あれは破片になったのではなくて、破片になったように見せる為に、伸びた刀身に部分的に色が付いているだけ、か?)
数秒後、八幡が刀を離したその場所から、刀にかけられていた光学迷彩が解け始めた。そして二人の全身、指の一本一本に至るまでを徹底的に縛りつける、白い帯状の何かが姿を現す。
最初はナイフほどの大きさしかなかった白き短刀が、変形・拡大し、今やショッピングモールを覆い尽くさんとするばかりに巨大化していた。
刀から伸びたものは壁や天井のあちこちに根を張っていて、まるで蜘蛛の巣のように、雪乃擬き達を捕らえていた。
「これは……化学物質? それとも魔法強化を受けたマジックアイテムか……?」
「さあ、しらねえよ。元々俺のもんじゃねえし、借りもんだからな」
八幡は気怠げな体勢に戻り、乱入してきた方の雪乃擬きに首を傾けた。
「あんま乱暴に扱ったりできないんだが、まぁ、今回は許容の範囲内ということで」
「借り物……? ……この強さ、十師族か六道クラスの持ち主でなければ納得がいきませんわね……」
「んな雑魚共にこれが使えるわけないだろ。
白く輝く拘束具に変身した武器を目だけで眺めていた最初の彼女は、驚きを露わにして視線を八幡に向けた。
「『ブリオネイク』のような模倣武器とも、実際の逸話がある雷切丸のような実在武器とも違う。神話がそのまま武器になった。それが神話武装だ」
「神話の実物化……ですって。そんな大ボラを誰が信用すると?」
あからさまに八幡を馬鹿にした笑みを浮かべる雪乃擬きだが、八幡は彼女を無視して彼女達を拘束している刀に目を向ける。
「十握剣は十の拳の剣とも書く。握り拳一〇個分だから結構長い訳で、刀身を無制限に伸ばす能力はそこから来てる——と思う。長さを表すだけだからそんなん関係ないかもしれんが。ただ、『十握剣』は妖刀『村正』とかみたいに一振りの刀を指す言葉じゃなくて、各々の神話を持つ複数の刀が、十握剣と呼ばれていたんだ」
「……だから?」
「その神話を、この一振りに全部込めた。……まぁ、撃てば必ず先に攻撃できる銃とか放てば必ず当たる槍とかの神話も取り込んでるから純粋な十握剣とは言えない。が、ゲキ強どころか紛れもない世界最強の剣だから、誰があと何人来ようとこいつ一本で難なく迎撃出来る」
「言ってくれますわね……」
意味の無い会話に溢れる苛立ちを、最初の雪乃擬きは隠そうともしなかった。
「……だから、まぁ、
「「……!?」」
——八幡がこう話すまでは。
☆
カタ、——どちゃ。
音を立てて、雪乃擬き達の背後で何かがフロアの床に落ちた。
湿った音がしているから、濡れているものか——
「……見てみろよ。キメラの死骸パークになってんぞ」
八幡の視線につられて振り返る彼女達。そして、紅を目にした。
既に彼女達の拘束は解かれていたが、今度は視覚から入ってくる情報に彼女達は囚われてしまった。
雪乃擬き達の周囲、広く広がるモール内の吹き抜けスペースには、壁や天井などそこら中に血溜まりが出来ていて、その上・或いは近くに串刺しにされた双頭の犬や帯に体を縛り砕かれたと見られる三つ足の烏、正中線に沿って体を半分に断たれた羽を持つ牛などの死骸があった。
「なに……こ、れ……?」
言葉を失う彼女達に、八幡がため息を吐く。
「大方、自分達を死亡事故に見せかけて脱走してきたんだろう。が、詰めが甘すぎだ。お前達を産んだ機械、計画書や計画者が無くならなけりゃ、お前達はまた作られる。そうして作られたクローンが脱走という結果を弾き出して、お前達に追っ手が差し向けられたんだろうな」
ショックの度合いは、八幡が語った予測の方が大きかったのかもしれない。
「……ひょっとして、追われてることに気づいてなかった?」
二人とも床にへたり込み、片方は顔を手で覆って伏せ、片方は八幡を睨んだまま涙を見せた。
「……そういう、こと……?」
「ま、お前らの責任じゃないのは確かだ。クローンとか作る奴の方が悪い。それに、ただの人間とは違ってお前らは、基本的人権が保障されるかどうかもわからない。死にたいと言うなら今すぐ殺してやるが、どうする」
八幡が右手を挙げた。……すると、3人を囲むようにあちこちに広がっていた蜘蛛の巣が生き物のようにうねり、そこから無数の刀身が発生。その鋒は全て雪乃擬き達に向けられていて、即席の処刑場がこの場にできた。
全ての現実を突きつけ、審判のように選択肢を与える八幡に、雪乃擬きは縋るような視線を向けた。
「……生まれてきた妹達は、どうするのですか」
「施設と、計画した奴、実行した奴を処分した後、希望を取った上での話になるが、殺すか生かすかのどちらかになるだろ。魔法の研究材料なんて比企谷はもう必要無いし、他に選択肢が思いつかん」
「生かす……? こんな世界に、生きる意味なんてあるのですか」
顔を伏せ、提示された選択肢を見上げず、地面と見つめ合う雪乃擬き。
「誰にも愛されてない。わたくし達の生みの親は、わたくし達をデータを採る為のサンプルとしか見ていない。それどころか、邪魔になれば殺すだなんて……」
「お前達は生まれてくること自体が間違っている。食用肉ならともかく、人間のクローンは世界中から疎まれて当然の存在だからな。クローンとは別物だが、魔法師が嫌われる理由のひとつが調整体絡みの問題であったりもする」
その言葉を聞いた彼女の表情は、子供のようにわかりやすく、絶望していた。
この先、彼女が何かを成し遂げたとしても、きっと達成感なんてものは得られない。
誇りも驕りも全ては他者の存在によって成立するものだし、その他者は誰一人として自分をまともに見てくれないときた。
全てが自己満足で終わる世界に、自分たちが執着しなければならない理由など、どこにあるというのか。
「もう一度言うぞ。お前達が望むなら、俺は速やかにお前達を殺す。神経が信号を伝えるよりも早く息の根を止めて、まぁ、墓くらいは作ってやるよ。……本当にやりたい事が無いのならな」
「…………!」
俯く雪乃擬きの、隣の彼女は何かを思い出したらしい。でも、雪乃擬きは、全く何も——
「……でも、とりあえずは生きろ。生きなきゃ『普通の生活』は出来ないぞ」
しかし、八幡のその一言で、雪乃擬きは目を見開いた。
「あ……それ、ひょうちゃんの……」
ひょうちゃんと呼んだ方の雪乃擬きが、呟くように言った。
「運命というのは、人間一人の力じゃどうにもできないようになってる。だから生まれたばかりの赤ん坊は親の助けがなきゃ数十分で死ぬし、大人達は次代に繋ぐために今あるものを必死に守ろうとする。クローンであろうと何であろうと、お前達は〝人間の被害者〟だ。だから、お前達が生きたいと言うなら、俺はそのサポートをしてやる。それが……たとえクローンであろうとも、全ての人類に対して責任を持つ魔法討滅機関【ヒキガヤ】の在り方だからな」
その表情は、暗闇の隙間に差し込んだ光に照らされているように、暗い表情でも、前向きでいるように見える。
ただ、立ち上がった彼女はもう、下を向いてはいなかった。
「……氷ちゃん」
不安げに、八幡にライダーキックをかました雪乃擬きが立ち上がった〝氷ちゃん〟を見上げる。
「……行きましょう、
「……うん、うん……!」
泣きじゃくる翼の手を取り、氷は八幡を見た。
「……それで、これからどうすればよろしいのですか?」
「……ああ、それなんだが」
ちらり、と八幡が横を見る。氷達もつられて見ると——
『キミ、大丈夫か!? それにしても酷い有様だ……ほぼ全壊状態じゃないか!』
『あ、えっと、一応、魔法師なんで、こういうのには慣れてる、といいますか……』
『魔法師? ……申し訳ないが、事情をお聞きたいので署まで同行してもらえますか?』
『これやったのわたしじゃないですよ!? なんかむこうで暴れてる人がやってて——』
八幡の視線の先では、八幡があえて隠れているように指示した一色いろはが、今頃現場に到着した警官隊に捕まっていた。
いろはが盾になるのは八幡の目論見通りだが、彼女の機嫌次第では時間をあまり稼げないかもしれない。今ごろ、八幡が隠れているようにと言った意味を理解している頃だろうし。
「……逃げるぞ。警察に捕まると面倒だ」
十握剣を懐にしまい、八幡はいろはがいる方向とは真反対に歩き出した。
「ヒーローみたいなこと言ってたくせに……締まりませんわね」
くすり、と氷が笑った。
その仕草に、八幡は不貞腐れるようにそっぽを向いた。
「仕方ねえだろ。こっから警察に指示飛ばして対応するにも限界があるし、俺この状態だとロクに魔法使えないから催眠も記憶操作も出来ないし。補導の常連にだけはなりたくない」
最後の理由だけやけに具体的だった風に聞こえたのは、二人の気のせいか。
「……補導で済むとは思えませんけど」
「だから逃げる」
「前は何で補導されたんだよ……」
呆れ気味に聞く翼に、八幡はこう答えた。
「打ち上げに失敗した花火がこの辺管轄の警察署に落ちて、それがバレた」
「…………」
「…………」
八幡の後について歩く二人は、一瞬立ち止まってこう思ったのだという。
こんなやつについて行って大丈夫か、と。
八幡「そういや、どうして俺が男だってわかったんだ? いや、知ってたみたいな反応だったけれども」
氷「……顔とか服装以前に、あそこまでスカートに気を配らないのは殿方くらいなものですよ。丸見えでしたし、お連れの方は鼻血を出していらっしゃいましたし」
八幡「あ、やべ。無意識に下着脱いでた」
翼「おまわりさーん!」