やはり俺が十師族を守護するのは間違っている。   作:ハーマィア

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閑話扱いにしても良かったんですけど、全話から続いてたので一応続きとしました。


脱線っぽいのは今回と次回で終わって、その次から九校戦に向けて話が進んでいきます。でもクローンとか出てるし、単純に進ませるつもりはありません。

妖精騎士ガウェインが刺さり過ぎてつらい。


その目で見るは、真実か事実か。

 鶴臣の前に姿を現した若い男。

 

 自らを現代魔法の始まりと称する彼は鶴臣に「ついて来てください。死にたくなければ」とだけ言って、歩き出した。

 

「……まて」

 

 だが。

 

 鶴臣は素直に彼の後をついて行けない。ついて行ける筈が、なかった。

 

 何故かといえば、なによりもその容姿に理由がある。

 

 鶴臣は自分よりも若い容姿をしている男のことを、疑わざるをえなかった。

 

 何故なら——

 

「……何故お前は生きている? しかも、当時の姿のままでだ」

 

「ああ……そういえばそうですね」

 

 そう言って自分の顔に触れる若い男の容姿は、新聞やテレビで映る『英雄の顔』そのまま。しかもその顔は鶴臣が産まれるよりも10年以上前の姿であり、髭が生えたとかシワがあるだとかならまだしも、彼にはそれすら無く、肌のはりが未だに二十代の若さを保ち続けているのはあり得ない。

 

 それに、寿命という問題もある。

 

 事件が起きてから既に100年近くが経過していて、足し算をすれば男の年齢は少なく数えたとしても120歳を超えている。鶴臣の様に臓器を取り換えたりなどをしない限り、同一の心臓の拍動限界——寿命を超えて生きる事はヒトの身体構造上不可能だ。それに、魔法であっても寿命を強化する不老不死の類いの術式は古式にも現代魔法にも存在しない。

 

(だから……コイツは……別人だ……!)

 

 そう判断する鶴臣だが、若い男は首を横に振った。

 

「この世界のおかげなんです」

 

「この世界……?」

 

 また、曖昧な答え。

 

「ええ。僕が生きているのも、彼がこう(・・)なのも、あなたがここへ飛ばされたのも、全てはこの世界があるからなんです。詳しい原理を説明できる訳ではありませんが……逆に、この世界が存在しなければ僕は今こうして生きていませんし、貴方はここに来る事なく殺されていた筈だ。ここで目覚める前は、間違いなく死ぬという状況にいたんじゃないですか?」

 

「……………………」

 

 図星——とは違うが、男の言う事が鶴臣が辿ってきた道筋に当てはまる。

 

(……ということは、俺は既に死んで——?)

 

 まるで思考を読まれたかの様な、誰かの掌の上で踊っているような気持ちになって、それが不快で、内心とは別に鶴臣は押し黙った。

 

 キィ——。

 

 背後のビルが爆発し倒壊したのは、その直後。

 

「なっ……!?」

 

 彼らの沈黙を裂くように流星群が降って来た。

 

「……! 移動しましょうか。ここもそろそろ危ない」

 

 言って、男は足早に歩き始める。

 

 寿命で死ぬことはない。だが、男の言葉から考えるに殺されて死ぬことはあるらしい。

 

 そして、ここに来る人間は誰であれ、死ぬ状況にある。

 

 情報の時点で矛盾を起こしているが、鶴臣にも理解できる事がいくつかある。

 

 このままここにいても死ぬこと。

 

 あの崩壊を目の当たりにして、生き残れる気がしない事。

 

(……少なくとも、この男は生き延びている)

 

 鶴臣に、男について行かないという選択肢は残されていなかった。

 

 黙り込む鶴臣を気遣ったのか、若い男は振り返らずにこう言う。

 

「安心してください。この世界のオリエンテーションは落ち着ける場所で行いますから」

 

「…………」

 

 この世界にやって来た。十分に驚いた。だが、実際のところはチュートリアルすら始まっていなかったらしい。

 

 鶴臣は、大きなため息を吐いた。

 

 

 

「僕は警告を受けていました。『魔法を世に出すな』——と」

 

若い男が鶴臣を案内したのは、現在彼が住居に使っているという地下の一室。

 

そこで『この世界について』最低限の知識を鶴臣に語った若い男は、次に『若い男自身について』語り始めた。

 

 元々研究室だった場所を寝床としてだけ使っているらしく、若い男が腰を下ろしたマットレスは横倒しにした薬品棚の上に無造作に置かれていた。

 

 遮蔽物如きで防げるものではない、と空を気にする鶴臣に、若い男は「雨は地面より下に降らない」と言って、事実、先程から流星群は地下に降っては来なかった。

 

「……けれど、数百万人の命が絶対的に奪われると分かっている状況で、それを無視することは出来なかった。僕の恋人や家族もその犠牲者の予定リストに入っていましたし」

 

「……?」

 

 若い男の言葉に、鶴臣は違和感を感じた。

 

 リストに入っていた——計画を知っていた。その言葉ではまるでテロを行う狂信者集団との繋がりを匂わせる。——いや。

 

「……予定リスト、だと? 何故そんなものが存在している。そこまであの男が計算していたというのか?」

 

(そうだ)

 

 出来る出来ないの問題ではない。

 

 たかが一組織。それもテロリスト風情に、計画実行後の被害計算をするメリットがあったとは考えにくいのだ。

 

 威力を見せつけることで、ブラックマーケットにでも売り込もうと思ったのだろうか……?

 

『使えばどうなるか』を考えない筈もないが、『使えばどうなるか』もわかっていた筈なのに。

 

 若い男が提示したその答えは、鶴臣にとって予想外のものだった。

 

「ああ勿論、彼ではありません。彼の計画を利用しようとした、とある組織の人間達が立てたものですから」

 

「それが、ヒキガヤ……というのか?」

 

「ええ。僕もその組織にいました。……それに、ヒキガヤの計画には当初からその教団が組み込まれていましたから『観察』も潜入までしていましたし、僕には彼ら教団の行動は手に取る様にわかったんです」

 

 頷く若い男。しかし鶴臣には、疑問が残った。

 

「使えば数百万人規模の死傷者が出るような兵器を、あくまで民間の組織が手に入れられたというのか? そのレベルだと厳重を通り越して封印レベルで保管されている物だと思ったが、……まさかそれを手引——まさか」

 

 確認する様に口に出して喋っている途中。鶴臣は、気づいた。

 

「……………………貴方も相当深いレベルで関わっていたんですねぇ」

 

 その様子を見て若い男は感心したかのように頷く。

 

「そう。既に開発されている大量殺戮兵器ならまだしも、開発の構想すら練られていない、存在する(・・・・)はずのない(・・・・・)兵器なんて、警戒のしようがないでしょう?」

 

「……………………」

 

 鶴臣の背筋を、悪寒が走った。

 

 しかし、まさか。

 

 100年前は魔法の研究すらまともに行われていなかったのに。

 

 それがあるなら、なぜ、わざと隠すような真似をしたのか。

 

(……ヒキガヤによって狂信者集団にもたらされた兵器は核兵器程度(・・)ではなく、もっと凶悪なもの(・・・・・・・・)————!)

 

「あの事件は確か、核兵器の発動を魔法で防いだ、という事になってますよね?」

 

「……ああ。貴方の偉業は今や教科書に載っているレベルだ」

 

「照れ臭いですねー……いえ、そうではなくて。……結果的にそういう扱いが決まったというだけで、あの場で使用されようとしていたのは、核ではなかったんです」

 

「……だろうな」

 

 疑惑が確信に変わり、鶴臣は若い男の顔を見た。彼も、鶴臣を見ていた。

 

「僕が抑え込んだのは、とある『魔法』」

 

 ……その男は、とても悲しそうな目をしていた。

 

「戦略級。当時の研究段階ではそんな名前で呼ばれていた、人を殺す為に作られた魔法です」

 

 しかし鶴臣は、彼が若い男に見ていた「悲しさ」が何故か自分に向けられたもののような気がして、目を伏せた。

 

 同族憐憫なんてまっぴらだ。

 

 代わりに、言葉で若い男に返答する。……重い空気を吹き飛ばしたかったのかもしれない。

 

「……どうして俺に親切にしてくれたんだ? 暇つぶしか?」

 

「まあ、それもあります。…………それしかありませんね」

 

 けらけらと笑う若い男。年齢だけで言えば彼は鶴臣よりも30歳は年上だが、鶴臣の前に立つ彼は外見相応、いやそれよりも若く見える。

 

 そして、鶴臣が気遣うまでもなく、既に彼はその事を気にしていなかった。

 

 ただ、その気遣いが鶴臣に新たな事実をもたらしたのは流石に計算外だった。

 

「外から来た方と話をしたのは、……うーん……30年ぶりですから」

 

「30年……そんなにか」

 

「体に変化がありませんと、時間の経過にも鈍くなるみたいで」

 

 途方もない時間だ。慣れでどうこうできるものでは——

 

(……? 30年……?)

 

 一瞬、何かが引っかかった。ただ、その違和感は不明瞭であるが故に「何がこうだ」と指摘することは鶴臣に出来ず、首を傾げる。

 

 これは鶴臣の問題なのだが、しかし彼は同じようにすぐに補足してくれた。

 

「彼女も貴方と同じ日本人のようでしたよ。……当時は私もそれほど余裕がある訳では無かったのでこの世界ですぐに別れましたが、彼女からは面白い話もいくつか聞けました」

 

 一旦言葉を区切った若い男。その顔には呆れのような畏怖のような、「拒絶」の感情が浮かぶ。そして、彼の口が再び開かれた時には、その拒絶は鶴臣に伝播していた。

 

「まさか、国家レベルの軍事力がたった一つの『家』によって滅ぼされるとは思いませんでした。一般的な魔法使いの方々も著しい進化を遂げたものですねえ」

 

「…………なに」

 

 鮮烈な痛みにも似たショックが、鶴臣の全身を駆け巡った。

 

(30年前。それに、国の滅亡だと? ……そんなの、あの事件しか——!)

 

 鶴臣の脳裏に閃いたのは、とある悪魔の一族の名前。

 

「『彼女』は、その事件の手引きをしていたそうです。子供が攫われることなども完璧に内包された上での計画だったそうですよ」

 

「……あの事件に、黒幕がいたのか」

 

 世界がその行いに震撼した、あの一族。

 

 鶴臣自身、その事件を知った時はその一族を見る目が変わったのを覚えている。

 

「その事件を起こしたヒキガヤの目的は教えてくれませんでしたが……何でも、彼らの復讐がしやすいようにわざわざ敵の戦力を削っていたらしいですし、相当手の込んだ計画をしていたのでしょうね」

 

「あの四葉を……操り人形のように……扱うのか」

 

 なんて奴らだ。……そう言おうとして、鶴臣は既に終わった自分の身では手遅れ、どうしようも無い事に気づいた。

 

 誰にも、どうやっても伝えられない。

 

「…………、」

 

 その時、鶴臣はとある感情を味わった。

 

 それはどうやら絶望的で。

 

 それはどうやら終末的だ。

 

 もうとっくに手遅れではあるけれど。

 

 もう誰にも伝える手段はないけれど。

 

「……私は、最上の情報を得たのか」

 

 その悔しさは多分、自害するよりも難しい。

 

「どうぞ。……死にはしませんが、この世界で人間らしさを忘れないためです」

 

 言って、若い男はペットボトルの水をコップに注いで鶴臣に渡す。

 

 先程の説明にもあったが、この不死の世界にもエネルギーや水は存在していて、若い男はそれを利用して水の浄化装置を作り、このように飲める水をも作り出していた。

 

 透明なその水を眺めて、鶴臣は思わず笑みをこぼす。

 

 殺されてしまう世界において、不死とはまた滑稽なものだ。

 

『処刑であって、あれは死刑ではありません。死んでその痕跡が残る事を危惧し、我々を世界と隔絶された場所に追放したんです。積極的に殺される心配は無いと言っても良いですが、油断は禁物ですよ』

 

 若い男の言葉が鶴臣の脳裏をよぎる。

 

「……先程の言葉」

 

「はい?」

 

「あの言い方では、我々に死なれては困るといった風だった。では、何故ほっておけば死ぬと分かりきったこの世界において、流星群(あの魔法)の存在を許す? 話が矛盾しているではないか」

 

 もっともな疑問。連中が自分達の怯えを楽しむためと言われたなら納得してしまいそうになるが、それでは雨の積極性に欠ける。それに、結局は殺してしまうリスクを背負う羽目になるのだ。

 

「我々が彼方の世界の誰かに殺害されれば、殺したという情報は記録されるのにその対象者が発見されず、不信感をもたらし、影響を与えることになります。ですが、この世界で起きた事は全てこの世界でのみ共有される事柄。此処であの光に誰かが殺されたところで、外の世界に漏れる心配は無いという事です」

 

「? それはあり得ないだろう。あの魔法があるし、外の世界から干渉し続けているんじゃないのか?」

 

 四葉真夜。鶴臣は会ったこともないが、あの最強の魔法を使えるのは極東の魔女だけだ。

 

 鶴臣の言いたい事がわからなかったのか、少し悩むそぶりを見せた後、若い男はこう言った。

 

「あの魔法……? ああ、流星群の事ですか。アレは最初からこの世界に存在している現象そのものなんです」

 

「……何だと」

 

「この世界はそもそも——」

 

「——なんです」

 

「…………は?」

 

 鶴臣は、今までに経験の無いくらい首を捻った。男が話した内容が理解できなかったのでは無い。

 

 そんなに(・・・・)スケールの大きな話であった事に、鶴臣は驚いただけだ。

 

「……そんなもの(・・・・・)が存在するのであれば、我々魔法師が存在する意味はあるのか……?」

 

「すべての事象には意味があると言いますが、そりゃあ(・・・・)魔法師は(・・・・)作られた側(・・・・・)ですから(・・・・)、何かしらあったんだと思いますよ。ああ勿論、軍事力や経済を発展させるため、ではなく」

 

「何か巨大な思惑がある……が、やはりもう我々では手の出しようがないのか」

 

「妄想は自由ですからね。現実に持ち込まなけりゃいくらでも話せるってものですし」

 

「うむ…………」

 

 天井を見上げる2人。当然、灰色の壁材があるだけだ。

 

「ん?」

 

 しかし、鶴臣はある事に気づいた。

 

「……これは」

 

 部屋を照らす照明の電球が、切れかけていた。

 





〜人物紹介〜


若い男(仮称)

核兵器テロを魔法で未然に防いで英雄扱いされた二枚目。その真実は「ヒキガヤ」によるテロ組織を利用した魔法実験に横槍を入れて中止に追い込んだ、「ヒキガヤ」の裏切り者。裏切った後、すぐに捕らえられて保護を理由に監禁され、その頃から「精霊の眼」を警戒していたヒキガヤが彼を殺す事を躊躇したため、最終的にこの世界から追い出された。
 彼の行いによって「ヒキガヤ」は自らが描いていたシナリオを大幅に変更せざるを得なくなり、それまで秘匿するものとして予定されていた魔法が実在する技術として世界に君臨する事になる。
 のちに行われたシナリオ変更前の計画を再計算した記録によると、彼の行為によって凡そ50万人もの命が救われた、という予測が出ている。


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