やはり俺が十師族を守護するのは間違っている。   作:ハーマィア

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これ考えてる時に他のアニメを見なければ……こんな事には。

当該はこれより多重クロスハーレム作品です。無理な方はブラウザバックを推奨いたします。

前話の八幡が言っていた「アイツ」も要素の一つだったりします


やはり彼の青春ラブコメは間違っている。

 

 

一悶着から、数分が経過した後。

 

「よく我慢したな」

 

達也と深雪は、新入生総代である深雪が行うスピーチや式の段取りの確認、入学式の前の最後の打ち合わせを行う為に彼らが立ち止まったこの場所で別れる事になっていた。

 

「はい、……いえ……その、彼には確かに嫌悪感と敵意を抱いたのですが……」

 

達也の慰めに、しかし深雪は神妙な顔をする。

 

「?」

 

暗黒の中で雲をつかむように言葉を探していた深雪は、漸く考えを纏める事ができたのか、顔を上げた。

 

「そこまで憎む必要がない……と言いますか、不思議と彼と接していて心が軽くなっていたんです」

 

「……まさか、お前……」

 

「そんな事は断じてありません! 心が軽くなったというのも自分で感じてそこまで深い憎しみに囚われなかったというだけで、深雪はお兄様のものです! ……でも……」

 

違和感を拭えずにいる。精神干渉魔法を使われたのか――などと考えつつ、ほぼ何もわかっていない状態で国防陸軍や四葉への協力要請は無意味だと悟り(四葉の場合は知っていても教えてくれないだろう)、その他で一番身近な情報通の知り合いに聞いてみる事にした。

 

 

 

 

 

 

雪ノ下雪乃。

 

魔法師。女性。年齢十五歳。趣味、読書乗馬映画鑑賞等々。好物は甘味全般、猫グッズや猫という存在に対しては目がない。逆に犬が苦手であるが、嫌いな食べ物に関して八幡は知らず。一科生として魔法科高校の入学試験に合格する事は当然の才女であり、彼女が肩に六花のエンブレムを着けているのもまた、自然な事だった。

 

「ねぇ、知ってるかしら?」

 

「……な、何が。豆しば?」

 

彼女もまた美しさと可憐さを併せ持つ美少女である事に間違いはないが、彼女は今、殺人鬼と同じ目をしている。この状態の彼女に対して乾いた笑みしか出ないのは、決まってやましい隠し事がある時。

 

つまり、詰んでいた。

 

「旅客機って牽引車が押したりしてるから後退が出来ないと思われがちだけど、理論上は普通にできるのよ。後退するためには燃料を大量に消費する必要があってコストがかかり過ぎるとか、周りにものがあってプロペラに吸い込まれる危険性があるだとかの理由で自力でする事はないけれど」

 

「……へー、そうなんだ……あれ、今なんでそんな話を……???」

 

腕を組み、目を閉じて雪乃は続ける。

 

「例えば、比企谷君の様な腐った目をしたゾンビが空港に大量に湧いて、旅客機で逃げる、という事態に陥った時、旅客機だけで逃げられる訳なの」

 

「あれ、なんでゾンビ? 雪ノ下さん映画の見過ぎじゃ……」

 

「いざという時、どういう時かはわからないけれど、そういう事も出来なくはない。つまりはそういう事よ。さて比企谷君、貴方は今『いざという時』の最中だと思うのだけど、どう? 何か隠し手はあるのかしら?」

 

「……」

 

やけに早口な雪ノ下雪乃嬢。その表情、耐え切れず失神した材木座やその場から感じ取った雰囲気、これまでのやり取りを総合して判断してみる事に。そうして精査された答えを、八幡は雪乃に提示する。

 

「……もしかして怒ってる?」

 

「ええ此処が学園内で監視カメラの範囲内でなければ今すぐ貴方の本体(・・)を粉微塵にしてる所よこのスケコマシ」

 

八幡が声を上げると、その美しい顔に青筋が浮いた。……ように見えた気がした。

 

「本体って……心外だな。此処にいるのが俺自身で、本物だぞ」

 

しかし八幡は戯ける。戯けなければ死んでしまう「いきもの」のように。

 

その八幡を雪ノ下は覗き込むようにじっと見つめる。見つめられた八幡は、その黒色の双眸に紫色の光が灯ったような錯覚を覚えた。

 

相対する八幡の両頬を掴み、じぃ……と覗き込む雪乃。

 

へぇ、……ふぅん、……成る程、などといくつか呟いた後、彼の目を見たまま言った。

 

そして、彼女が見たままの先程八幡が行使した魔法(・・)のカラクリを解き始める。

 

「敵の自分との相対位置を一部として組み込む魔法なのね。攻撃を受けた瞬間、着ている「身代わり」の術式が文字通り身代わりとなってその後のダメージを受ける。ただ身代わりが実体化するという特性上、本体は身代わりが実体化してる間、虚数空間(何処か)に弾き出され、敵を中心として反対方向に行ってしまう。魔法ではあるけれど同時にその本質である貴方は虚数空間に隠れてしまうから、実体であるだけの身代わりからは何も視れず魔法の発動は察知されない。……面白い術式ね。いつ考えたのかしら?」

 

「さっき。材木座を転ばせようとして出来た仮想空間の応用だ。2回目に出来た時は自分で躓いたし、完成したのは司波深雪の胸を揉んだ時にやっと形になったんだ」

 

最後の一節で雪乃の眼力が強まった。だが、それよりも魔法分野にも多彩な才能を発揮する彼女にとっても興味深い一言でもあり、彼女の意識は自然とそちらにも向いていた。

 

「相変わらずの早業……初めて掴む魔法を、毎回毎回どうやっていきなり実用レベルに調整しているのかしら。魔法の中身よりもそちらの方が気になるわ」

 

「教えなー…………あっ、はい、いえ、滅相もございません」

 

眼力どうのこうの以前に殺意が高まった雪乃は、八幡の誤魔化しが効く相手ではなかった。

 

眼光に射竦められた八幡は「まぁいいわ」と追求をやめた雪乃にむしろ感謝しながら、一歩後退りした。

 

「それよりも貴方、私に聞かなきゃ行けない事があるのではなくて?」

 

笑み。彼女の浮かべる笑顔は八幡にとって殆どが恐ろしいものばかりであるが、場合によっては微笑ましいものを見る目で見ている時もある。

 

「ところで、雪ノ下様は何故此処にいらっしゃるのでしょう……?」

 

そんな事などほぼ無いと知っておきながら、八幡はつい尋ねてしまう。

 

「遠い地より、貴方に死を届けに」

 

(理由になってねぇ)

 

正義を振り翳す人間と暴力を振り翳す人間の目は似ている。八幡はそう思った。

 

これは話題を変えるしかない――そう判断する事にして、八幡は目の色を変える。

 

「あ……あれ? そういえば七草姉は? こっちに向かってた筈だけど」

 

にこやかにフレンドリーな何処か癪に障る笑顔を浮かべるあのイケメンを思い浮かべながら、それとは程遠いモノを顔に貼り付け、雪乃には「葉山君の真似かしら? ……全然似てない上に貴方の顔にも似合ってなくて気持ち悪いわね」と言われてしまっていた。

 

「七草生徒会長なら此処には来ないわよ。来ようとしてたみたいだけど、偶然にも(・・・・)大変な仕事が舞い込んできたみたい。今はそれの後処理に追われているのではないかしら」

 

「何したんだよお前……」

 

今度は八幡がため息をつきながら雪乃に訊いた。

 

「別に? ただ彼女、少しばかり疲れていたみたいね。此処は見えているのに、道に迷って辿り着けなくて困っているのではないかしら」

 

道に迷う。この場所に於いて、そしてかの生徒会長に於いては絶対にあり得ない事をしでかした雪乃に、八幡は半眼を作り向けた。

 

「道を隠す術式と道を間違える術式か……そんな事をして発覚したらどうすんだ? 婚約者(・・・)に対して顔が――というか、言い訳が成り立たないだろ」

 

婚約者。それは言外に「雪ノ下の」が付いていて、雪乃の婚約者といえば、彼らの間ではただ一人の事を指していた。

しかし、それを指摘されて尚雪乃の表情が陰る様子はない。

 

(こういう話題はハッキリと顔を変えて嫌がるのに――?)

 

しかも、

 

「ええ、そうね。葉山君は元より、四葉の方々にも申し訳ない事になるわね」

 

何故か、無邪気に笑顔を浮かべる子供のような微笑ましいものを見る目をしている。

 

或いはその眼差しは、仕掛けたイタズラがバレるのを今か今かと楽しみにしている悪戯っ子のようでもあった。

 

(一体――)

 

ピピッ、と不意に八幡の携帯端末の着信音が鳴る。

 

「見て良いわ」

 

まるでその中身をしているかのように、雪乃は頷き自身の髪を払う。

 

恐る恐る八幡がそのメールの中身を見ると、

 

「……! まさか、雪ノ下……!」

 

思わず、振り返る。すると雪乃も嬉しそうに顔を赤面させて、ふにゃふにゃと口元を緩める。

 

「……っ、え、ええそうにょ。そにょ通り――」

 

二人は顔を見合わせて、

 

 

 

 

 

 

「……アイネ・ブリーゼ……新作……ケーキだとっ……!」

 

「雪ノ下家から正式に比企谷家に対して婚約の話を――って、え?」

 

 

 

 

 

 

彼のケータイには、彼がここ最近で贔屓にするようになった喫茶店のマスターから新作ケーキの写真が送られてきていた。

 

彼好みのとろりと甘いミルクコーヒーの写真と共に。

 

「雪ノ下! お前もあそこのマスターと顔馴染みだったのか? やったな、新作のケーキが試食できるぞ!」

 

文面は「今度店に出す新作ケーキの試作第1号が完成したから、食べにおいで?」というもの。何人か知り合いがいたら誘ってみてほしいとも書かれていた。

 

何が彼をそこまで熱狂的にさせるのか小躍りでもしかねない勢いで喜びを露わにする八幡だが、雪乃の言いたい事はそうではなかった。

 

「……いえ、そうではないのだけど……もう良いわ。何でもないの。……それで、アイネ・ブリーゼ……? 比企谷君が贔屓にしてるお店なの?」

 

「……あ、いや、まぁ……な」

 

しかし途端に、それまでマシンガンの如く口達者に話し続けていた八幡の歯切れが悪くなった。

 

その視線は、先程と同じ携帯端末に釘付けにされている。

 

「……? どうし――」

 

『たのかしら』まで雪乃の口から発せられる事は無かった。

 

彼女も、その文面には釘付けになっていたからだ。

 

『お兄ちゃん♪ 朗報だよ! 雪ノ下さん家から婚約のお話が来ましたー!』

 

「なっ、これっ、どっ……」

 

雪乃はまともな言葉すら継ぐことができていない。顔を赤く染め上げ、眠くなってしまいそうな程に頭がクラクラしていた。

 

その一方で、何故か顔を青くした八幡は無言で画面をスクロールする。

 

正気を失いそうになるも何とか気を正常に保ち続けた雪乃は、八幡の視線のその先を追うように彼の注視する画面に視線を落とす。

 

……とその直後、中学校時代の氷の女王と八幡に名付けられた程の冷ややかな恐怖の視線が、八幡に向けられた。

 

目を向けられた本人はそれに気付いてか気付かずか、身震いをする。

 

「……『いやー、それにしてもオーフェリア(・・・・・・)さんや優美子さんに結衣さん、真由美お姉ちゃんに香澄ちゃん泉美ちゃん、雅音(・・)(まさね)お姉ちゃん、光里(・・)(みのり)さん、澪さんにリーナさんとリーレイちゃん達に加えて雪乃さんも参加とは……小町ったらお嫁さん候補が多過ぎて選り取り見取りですよ? ていうかハーレムを超えてるよねこれ。』…………は?」

 

メールを声に出して読み上げた後、絶対零度の冷気を纏った雪乃からケータイを隠すように両手を上げて……紛う事なき降参のポーズだった。

 

「……落ち着こう、雪ノ下。お前は今、見間違いをしている。勘違いと言っても良い。お前が見たのはアイネ・ブリーゼの新作ケーキのメールだけ。間違いないな?」

 

「……間違いだらけだわ、比企谷君。貴方のその腐った目もそうだけど、他の全てが。一体どういう事かしら。いつからこの国は一夫多妻制なんて不純かつ理不尽極まりない腐った制度が認められるようになったの? 無作為に貪る愛は本物と呼べるのかしら?」

 

「……いや違うんです気付いたらこうなっててどうしようもなくて事情を説明してるのに誰も引く様子がなくてほんとごめんなさい……」

 

「ゆ・る・さ・な・い」

 

先程の深雪の件ですら雪乃の怒りは収まっていないというのに、ここに来てまるでその連中に比べて自分が出遅れているかのような事実が発覚。

 

婚約を持ち出した事による気恥ずかしさなど、何処かに吹き飛んでしまっていた。

 

例え出遅れてもあの女教師のように行き遅れになど絶対になるものかと吹き飛んだついでに色々と勘違いしてしまっている雪乃は、何に対する怒りかすらわからないまま、一目散に逃げ出そうとする八幡の頬を掴んで怒りの笑みを浮かべ、そのまま彼を入学式が執り行われる講堂へと引き摺っていくのだった。

 

 





この後八幡はゆきのんにザ・ワールドからのナイフ滅多刺しにされましたとさ。


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