やはり俺が十師族を守護するのは間違っている。   作:ハーマィア

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嫉妬とは何か。

人を堕落させる罪の象徴。人に争いをもたらす悪魔。切り捨てるべき人類の欠点だ。

理性とは何か。

人間にしかないもの。人間でしかあり得ないこと。誇るべき人類の美点。

 ——君は、どちらを選ぶ?


シンプルでリベラルなカタストロフィ

 視界の隅々まで澄み渡る青空。肌で感じる空気の温度。春を抜け、夏に入り始めるこの時期は吹きつける風が心地良く、草の臭いですら清涼剤となり得る。

 

 折本かおりは息を吐いた。

 

 これほど安らかな空気を吸うのはいつぶりだろう。

 

 身の内に蟠る苛立ちのひとつひとつが他人を想う心によって集められ、群体となっていた「憤りの集合体」。

 

 それが風に煽られ、小さくなっていく。

 

 膨大な破壊の後、不意に人は想いもよらぬ安らぎを手にすることがあるのだ。

 

 それは思考の放棄ではなく、意志の清算。

 

 意識の漂白ではなく、心理の整頓。

 

 今日この場所で、何が(・・)起きたのか(・・・・・)を受け入れる為の準備運動。

 

 さあ目を開け。現実は目前だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………うんにゃ」

 

 

 

 

 

 

 ——彼女の足下に転がる、銅製のネームプレート。

 

熱や爆風でひん曲がり、銅が溶けて歪んでいても、残った部分はハッキリと読み取れる。そしてそこに記されていた名称は、人の名に非ず。

 

 

 

『魔    属第三高 』

 

 

 

 風に舞い上がる土埃。その中には、熱でボロボロに焼け落ちたものの灰も含まれている。

 

 ごく最近まで若人達の学舎であったその場所は、何処をどう見ても瓦礫の山が見えるばかり。

 

 ヒトの文明の最たるもの。「学ぶ」というヒトの存在意義に等しい校舎が、今は跡形もない。

 

 今朝方に八幡が生徒会長と「話をしてくる」と向かった魔法大学付属第三高校。

 

 

 

 そこは、文明の廃棄場。瓦礫の集積場と化していた。

 

 

 

 

 

 

 激情の姫は、高らかに謳う。

 

 獲物を絶滅せんとばかりに、息巻いて。

 

 

 

「————あいつらっっっ!! 一体何処行きやがった!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かおりが最悪の事態に直面する、僅か数十分前。

 

 八幡は甘党だ。ブラックコーヒーも飲めないこともないが、やはりコーヒーといえば練乳がたっぷり入った甘いコーヒーを所望する。

 

 その点、紅茶であれば特にこだわりはない。

 

 ホットでもアイスでも、暑くても寒くても、ストレートでもシロップやミルク入りでも。

 

 だが。

 

「…………」

 

「…………」

 

 出された紅茶を一口。

 

「……渋い」

 

 砂糖をしこたま入れてやっと誤魔化せる程に渋い紅茶を飲み干して、八幡はこの紅茶を淹れた人物を睨む。

 

 明らかな嫌がらせとしか思えないが、コレを本人はきちんと真っ当なおもてなしと思い込んでいるからこそ、タチが悪い。

 

「……結構なお手前で」

 

 そんな口上が思わず口から漏れてしまうくらい、その紅茶は不味かった。

 

「……おや、そうかい?」

 

 一口飲んだだけでもうカップをソーサーに戻してしまった愛梨とネファスは、クッキーで口直しをしている——かと思えば、八幡にとって信じられないことに再び紅茶に口をつけた。

 

 2人の反応も決してマズいものを無理矢理飲み込んでいるという表情ではなく、本当に美味しそうに、クッキーと紅茶を楽しんでいるように見える。

 

 もう驚愕するしかない八幡に、何故か不思議がっていた彼は頷いた。

 

「——ああ、君には違ったかな。ストレートティーじゃなくオレンジジュースにでもすれば良かった」

 

「——なに」

 

 嫌がらせではない。その事実に八幡が驚いていると、彼の隣で声が上がった。

 

「日本のクッキーも中々やるわね……特に、紅茶の淹れ方に関してはワタシの中で一番よ」

 

 笑顔のネファス。どうやら相当お気に召したらしく、おかわりまで要求している。

 

 相当機嫌を良くしたらしい彼は、ネファスのカップに二杯目を注ぎながらこう言った。

 

「僕は今、僕なりにこれからのハイソサエティにマストだと思うハイセンスでかつファンクショナルな日常のバリエーションについてグロッピングしてる最中でね。これはその途中で偶然身につけたテクニックさ」

 

 八幡にはオレンジジュースを、ネファスには紅茶のおかわりを。

 

 さりげない会話の中でふたつを出し終えた手際の良さは前にあった時よりも確実に進化している。

 

 誰に対しても心配りを欠かさない第三高校生徒会会長、玉縄のそんな姿に、八幡は正直かなりの衝撃を受けていた。

 

 最早八幡の知る玉縄とは完全に別人。イメチェンや変身などに収まりきらない、趣味趣向の変革。と言ってもいい。

 

(こいつ、執事とか目指してんのかな)

 

 などと、玉縄手製のクッキーを頬張りながら思う。

 

 クッキーは子供舌の八幡でもとても美味しくて、八幡はこちらをおかわりしていた。

 

「えーと……つまり自分探しの途中?」

 

「イグザクトリィ。なにせ、まだフューチャーのドリームもウォッチしていないからね」

 

 手首を基点にして海藻のようにゆらゆらと、しかし時折フレキシブルに動く掌。

 

(何、感情とリンクしてんの?)

 

 まるで玉縄の感情の振れ幅に従って動くアホ毛のように見えた八幡は、玉縄と彼の手首を交互に見続けた。

 

「…………」

 

「……何をしているんだい」

 

「んぇ?」

 

 見ている当人に自覚はなくても、見られている側にとって視線とは気になるもの。また、目立つ行為とはそれだけで人の視線を集めてしまう。

 

 はむはむ、と可愛らしくクッキーを頬張りながらしきりに視線を動かす八幡の仕草には、その場にいる誰もが釘付けになっていた。

 

 自分への視線に気づき、八幡は周囲を見渡す。実にさまざまな反応がそこにはあった。

 

「……えーと」

 

 自分(八幡)の顔をしているネファスは頬をかきながら視線を逸らし、

 

「…………っ…………」

 

 愛梨はぷるぷると震えながら、手に持ったカップを紅茶とは別の紅い液体で満たしていた。

 

(……姉妹だなぁ)

 

 いろはのアレ(・・)は彼女固有のものではなく、姉譲りなのか……と八幡が感心していると、軽いノックの音。

 

 失礼します、という言葉と共に彼らがお茶をしている生徒会室に入ってきた役員と思しき男子生徒。八幡を見て顔を赤くした、ではなくおずおず、と玉縄に耳打ちした。

 

「……ふむ、そうか。これを句木君に伝えて代案を出すように頼んでくれ。3日後までには返事が欲しいな」

 

「了解しました」

 

  何か問題があったのか。玉縄は男子生徒にいくつかの指示を出して、男子生徒は足早に生徒会室から出て行く。

 

 その間、八幡はずっとクッキーをもぐもぐしていた。

 

「……さて、そろそろいいかな? 本題を聞きたい」

 

「もっとこれが食べたいです(本音)」

 

「ハア……おおかた、九校戦についてだろう? そうでなければ『君』が『君達』になって三高に編入してくるなんて普通あり得ないからな」

 

 新しいクッキーを皿に並べながら、玉縄は携帯端末に触れる。

 

 席を立ってそれまで対面していた八幡の隣に座り、自分が今まで座していたソファの上にスクリーンを下ろす。

 

 連絡先を選び、通話で呼び出す(コール)

 

 呼び出し音は数回で途切れ、『はい、もしもし』という声とともに少年の顔が生徒会室の通信用モニターに映し出された。

 

 あどけなさと年齢に似合わない落ち着いた雰囲気の連立、ではなく混在。

 

 はっきりと分かれているのではなくそれ単体で新たな個性となっている。チョコミントみたいだな、と八幡は玉縄の通信に出た吉祥寺真紅郎をそう思った。

 

『何の用だい、生徒会——っと、一色さん? ……それに、比企谷まで。どうしたんだ、パーティーでもやっているのかい?』

 

 落ち着いて滅多に取り乱す事のない彼にしては珍しく混乱した様子で、長らく登校していなかった愛梨やいる筈のない八幡(に変身したネファス)の姿に驚いている。

 

『そちらの方はどなたかな』

 

「こっちの彼女が比企谷君だ、吉祥寺君。こちらの比企谷君に見える方は影武者という事らしい」

 

 ぽんぽん、と玉縄が八幡の肩を叩くと、吉祥寺は目を剥いて叫んだ。

 

『しばらく見ない間に君はほんと面白い変貌を遂げたな!?』

 

 驚かれている八幡はクッキーに夢中で話す気がない。代わりに玉縄が答えた。

 

「まぁそれは彼が1番自覚しているだろうな。——それはそうと吉祥寺君。九校戦の選抜はどうするか考えているかい?」

 

『え? ——まだまだだよ。何せ定期テストだってこれからなんだ。君や雅音、十七夜さんに四十九院さん達は確定だろうけど……』

 

確定枠(・・・)に、彼らを入れたい」

 

 吉祥寺の目の色が変わった。……何故か、疲労感の増した色に。

 

『……理由を聞いても?』

 

「比企谷君、説明頼む」

 

 ジュースを口に含み、んく、と飲み込んで新しいクッキーを口に放り込む。

 

「ふぉふぇふぁふぉんふぉ、うぉふぁんふ」

 

「という事だ。……どう思う?」

 

『せめて世界に存在する言語で話してくれないかな!? あと喋る時は口にモノを入れるのをやめろ! 行儀が悪いだろう!』

 

「…………(もぐもぐ)」

 

『食うのをやめろ!』

 

 クールキャラである吉祥寺をここまで崩れさせるのは、相変わらず彼しかいない——そう、改めて思いつつ、玉縄は視線を吉祥寺に向けた。

 

「彼らの都合にはこちらも最大限譲歩しなければならない。しかし、彼らの要求は所詮彼らの都合によるもの。我々が突っぱねたところで三高に被害が及ぶ事はないし、せいぜい東京が火の海になる程度だ」

 

『……いや、それ最後が十分過ぎるんだけど!? なんでそんなに冷静な顔でいられるんだ!? 酔ったりしてないよな!?』

 

 カメラにしがみついて荒ぶる吉祥寺。皿に残る最後のクッキーを飲み込んだ八幡は、やる気無さげにようやく口を開いた。

 

「んく……え? だってお前、所属してる研究所とか家とか全部金沢(こっち)だろ。お前らの協力がなくてもうまくいけば東京がちょっと半世紀くらい住めなくなるだけだし、問題ないんじゃね」

 

『なんで君が否定側なんだ!? それにちょっとって! なんでそんなに楽観的なんだよ!!』

 

「まぁ協力がなかったら九校戦でお前らまとめて死ぬからな。みんな一緒だ」

 

『最初から協力を諦めてたのか君はァ! ていうか死ぬじゃん! 損害出るじゃんか玉縄!?』

 

「……ん? ああ、僕達が彼らに協力しなければそうなるだろうね。大丈夫、そうなった時、自分1人だけ逃げようなんて汚い真似はしないよ。みんな一緒だ」

 

『…………ッ!』

 

「というわけで、協力してくれにゃいか」

 

『……殆ど脅しじゃないか……はぁ』

 

 コントのようなボケとツッコミの応酬の最後、吉祥寺にそう聞く八幡の頬を引っ張る愛梨。

 

 彼女はある意味、吉祥寺よりも深刻な表情を浮かべていた。

 

「……あなた達は、どうしてそんな(・・・)なの?」

 

会話を分断する、一見すると頓珍漢な愛梨の科白。しかし、それは彼女からしたら最もな言葉だ。

 

 愛梨は八幡と玉縄の2人を指して否定した。

 

 無理解からくる拒否感。似たように同じ反応をする2人。

 

 関係性だけなら、先日愛梨が聞いたように最悪なものとは思えない。

 

 剣呑とした雰囲気は微塵もなく、逆に穏やかな空気が漂っていて、憎悪や嫉妬の表情もない。

 

 ——ただ、愛梨に視えた形(・・・・)は。

 

『……一色さん。これが(・・・)彼ら(・・)だ。慣れないだろうけど、慣れてほしい』

 

 この二人をよく知っているが故の、吉祥寺のこの科白。愛梨はようやく理解した。

 

「……折本さんが言っていた意味がよくわかったわよ……」

 

 魔法の常識を覆す魔法『文明の雷姫』。その在り方は概念や理屈、権能に近いものであり、それを体内に宿す愛梨の視界は通常の魔法師達のものとは異なる速度で、景色を映し出していた。

 

「…………うみゃい」

 

「まだまだあるから存分に食べてくれ」

 

 ぱくぱくとクッキーを食べ続ける八幡と、ジュースのお代わりを注ぎ、にこやかにする玉縄。同じソファーに腰を下ろす二人の、その真上。

 

 火花とも雷光とも言い難い異色の煌めきが、人間には感知できない速度で点滅を繰り返す照明機器のように、点いては消えていた。

 

 一瞬千撃合戦。……要するに、非魔法師どころか先程玉縄に要件を告げに来た生徒ですら気づかないほどの速さで魔法を撃ち合っていたのだ。それに、発射されている魔法の威力はからかいで済むようなお遊び程度のものでは無い。

 

 消えるが一瞬だから毎度挟み込む闇に気づかない、ではなく、点くのが一瞬だから誰も訪れる光に気づいていない。

 

 結果的に相殺されているから良いものの、このままではどちらかが押し負けた途端、生徒会室に柘榴の花が咲く羽目になる。

 

(……早く止めたいけど)

 

 無理だ。飛び交う銃弾に向かって話しかけるようなもの。二人は表面上は何もしていないと言い張っているのだから、愛梨だけがそれを視ることができるこの状況下において、言論による魔法の撃ち合い阻止は不可能に近い。

 

 吉祥寺は二人が何をしているのかを知っている様子だが、画面の向こうにいる彼に止める術は持っていない。

 

 撃って、撃ち落として、狙って、狙われる。

 

 どちらが先に手を出したとか、原因は何だとか。もう気にする暇はない。

 

 純然たる殺し合いの域であり、それを止める術は今の愛梨には無い。

 

 二人を止める事自体は可能かもしれないが、昨日今日能力を得たばかりの愛梨では、慣れない操作で二人の命までも止まってしまう可能性がある。

 

 魔法の殺し合いに目を向けて、そして釘付けになっていた愛梨。

 

 美しいばかりのその光芒に魅入られた彼女は、源である彼らの変化に気づけずにいた。

 

「…………おい」

 

 だから、愛梨が変化に気づいたのは八幡の一声があってから。

 

「……っ?」

 

 いつか見た八幡の人間性(・・・)

 

 覆って、埋めて、隠した上に折り重ねて、真の底——そんなものに辿り着く事は決してない。

 

 何をどうこねくり回したところで、もう二度と目にすることはない。そう思っていた彼の真性。

 

 それが、こんなにも簡単に。

 

 まるで、今までの秘匿に意味など無かったかのような易さで、露呈しようとは。

 

 玉縄を睨む八幡の顔。彼の顔に貼り付けられた感情は間違いなく、昨晩愛梨が目にした「八幡の底」の浮上に他ならない。

 

 この二人の間に何があったのか。愛梨は兎にも角にも気になっていた。

 

「…………なんだい?」

 

 睨み返す玉縄は、獰猛で勝ち気な笑みを浮かべている。

 

「……協力()してもらえる……ってことで良いんだよな」

 

「ああ、勿論。僕達の命運がかかっているから手加減(・・・)はできない」

 

「あとさ」

 

「?」

 

「最近体が鈍ってんだよな。まともに体動かしたのって4月以来だし」

 

 会話が増えるにつれ、攻撃を交わす回数も減って——いや、より研ぎ澄まされた攻撃が深く鋭く相手を付け狙う。

 

「……あぁ、そうか(・・・)

 

「だからさ、武道場でも何処でも良い。ちょっと軽く手伝ってくれよ」

 

「いいとも。気の済むまで付き合うとしよう」

 

 最早、彼らのやり取りに言葉は飾り以下の価値しか持たない。

 

 吐き出される言語に込められた感情は闘争の二文字のみ。

 

 まるで出会えば殺し合う犬猿の仲。或いは、決して交わらないくせに隣り合う水と油のよう。

 

『…………あー』

 

 彼に会うと聞いてかおりが否定的な表情を浮かべていた理由を、ほんの少し理解できた——気がした、愛梨だった。

 

(……まだ、周囲への被害を考えているだけマシ、かしら)

 

 そう思い込む事にして、愛梨は部屋を出る二人の後について行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、本当にやるの……?」

 

「勿論だとも」

 

「大丈夫、本気なんて出さんし」

 

(もう出てるし)

 

 愛梨の右側に八幡。左側に玉縄。彼女の足下から伸びる白線を中心に、男性体に戻った八幡と玉縄が対峙していた。

 

 ネファスはそも興味がないのか、八幡の影に潜っている。

 

 八幡はこの学園を訪れた時と同じジャケットを羽織ったまま、玉縄はジャケットを脱いで臨戦態勢。

 

 二人とも、武器はおろかCADすら手にしていない。

 

(……比企谷くんはCADを使わないからわかるけど、玉縄君は……?)

 

 現代魔法の使い手ならば、魔法の発動にCADは必須。玉縄も何かしら「持っている」のかと愛梨が考えていると、

 

「……まぁ、比企谷の協力者はみんな全力を出すのにCADが要らないからな」

 

「……何を言ってるんだい?」

 

 八幡が愛梨に説明してくれた。

 

 そして愛梨は考えた事を口にしていないので、思考がまた漏れたのだろう。

 

 八幡は玉縄に、面倒くさそうに言う。

 

「こっちの話だ。……『文明の雷姫』盗られたんだよ」

 

「はあ!? ……いや、まぁ、……そういう事か。どうりで彼女な訳だ」

 

「一条引っ張ってくるよか千倍マシだろ。……一色、合図だけしてくれるか? 審判とかは別に要らないから」

 

「……わかったわ」

 

 二人から離れた場所に移動した愛梨は、八幡の求めに応じて腕を上げる。

 

 何故こうなったのか、愛梨にはわからない。八幡と意志の疎通ができるようになったとはいえ、全ての思考を読み取れる訳ではない。

 

 八幡と玉縄の間にどんな因縁があるのか。

 

 合図として腕を振り下ろした直後も、愛梨は八幡の関係を気にせずにはいられなかった。

 

「——っ!?」

 

 愛梨が腕を振り下ろすとほぼ同時、白金の光が愛梨の前で弾ける。——それは、二人が衝突した瞬間に生まれた光だった。

 

 光からほんの僅かに遅れて音がやってくる。

 

 二人から距離を取ったとはいえ、所詮は同じ屋内。屋外で、しかもかなりの遠くから見られる落雷ならともかく、この距離で光と音の速度差を感じるには近過ぎる。

 

 光と音が届くまでの間にズレを生むには音速を超える速度で激突が発生しなければならない。

 

 つまり、二人の衝突速度は音速を軽く超えていたのだ。

 

「く、ぅ……!?」

 

 ……二人の激突に遅れて、衝撃波が発生する。

 

(なんて威力!? 2人とも武器なんて持って、——!?)

 

 愛梨すらも気付かないうちに、2人はいつの間にか武器を手にしていた。

 

 八幡の右手には明らかにCADでないとわかるものの、魔法とは別の黒色の波動に刀身が包まれた大振りの黒剣が握られていて。

 

 玉縄は虹色の日本刀擬きを構えていて、しかしそれだけではない。

 

 玉縄の足元に不自然に散らばる石があった。見た目だけでも紅、黄、蒼、翠と様々な種類があり、形は凹んでいたり割れていたりと歪なものの、その輝きは紛れもない本物の宝石に見える。……なのだが、玉縄は懐から宝石を取り出す事もなく、八幡との衝突の度にただ何処からかばら撒かれるだけ。

 

 彼が手にしている虹色の剣は日本刀のように片刃で反った造りをしていて、しかし鍔がなく鞘も見当たらない。

 

 柄だけは付いているものの、それほど凝った造りでもなく、抜き身の仕込み杖という印象が強い。

 

 そして、衝撃波が愛梨の元に届く頃には、二人は既に攻撃の3撃目を交わしていた。

 

 黒剣と虹色剣がぶつかり合い、虹色剣が砕けて、刀身が床に散らばる。

 

 散らばった刀身は元々宝石で出来ていたらしく、壊れてもすぐに再生し元の長さを取り戻していた。

 

「……っ」

 

 八幡と玉縄の剣戟では、常に玉縄の剣を破壊している八幡の方が圧倒的に有利だ。

 

 その筈——なのだが。

 

「……チッ」

 

 舌打ちをしたのは八幡。玉縄を剣ごと叩き斬ろうとする予備動作を中断してまで、玉縄から大きく離れる。

 

 ——と。

 

 床に散らばった宝石の破片が突如爆発を起こし、銃弾のように弾け飛んだ。

 

 が、一粒の例外もなく弾けたその宝石片は標的に命中する事なく武道場の壁に弾痕を刻む。

 

 八幡が破壊した武器に警戒心など持っていなければ、今頃彼は蜂の巣になっていたかもしれない。

 

「……くっ」

 

 今のが割と本気の奥の手だったのか。

 

 悔しそうに剣を構え直す玉縄の周囲にはもう宝石片はひとつもなく、構える剣に刃こぼれなど一つもない。

 

「——らぁ!」

 

 だから、剣を捨てて八幡が玉縄に殴りかかったのは誰にとっても予想外のことだった。

 

「なぁっ!? ちょっ、君っ!?」

 

 慌てながらも、玉縄は八幡の正拳突きを首を捻って躱し、剣を八幡に向けた。

 

 破壊されることが前提のこの虹色剣に、そもそも剣戟を挑むこと自体間違っている。

 

 しかし、剣で迎え撃たないのであれば、それは自壊する事をやめた、ただの剣。素手で挑むにはあまりに無謀過ぎる。硬化魔法を使ったとて、結局剣を砕けば同じことの繰り返しなのだから。

 

「……にっ」

 

「あっ」

 

 振り下ろされる剣を片手白刃取りで受け止め、取り上げる(・・・・・)

 

 玉縄が持ってさえいなければ、あれはただの壊れやすい剣に過ぎない。

 

「もら……ったあ!!」

 

 奪い取った剣を壁に投げ刺し、無防備な玉縄に飛びかかる八幡。しかし、剣をどうにかすれば彼に勝てると思うにはまだ早過ぎた。

 

「甘ぁいっ!」

 

 八幡の飛び蹴りを回し蹴りで相殺、そのまま足を八幡ごと床に叩き落とそうとした所で黒剣の波動に気づき、真横に蹴り飛ばして剣の軌道を曲げる。

 

(チャンスだっ……!)

 

 剣を振り抜いた隙だらけの八幡。玉縄はその懐に飛び込みつつ、取り上げられた時に切り離しておいた虹色剣の柄の欠片を握りしめる。すると壁に刺さった虹色剣が爆発し、弾丸と化した虹色剣が八幡めがけて襲いかかった。

 

「あ!?」

 

 大きくずれた弧を描く八幡の黒剣は、的を外された事により空を切り、そのままやってくる虹色剣弾を斬った。

 

 しかし、その瞬間、最後の抵抗であるかのように、剣の形を保っていた虹色剣は爆発を起こす。

 

「え——きゃあっ!?」

 

 威力の拮抗、エネルギー同士の衝突により、先程の比ではない衝撃が辺りを襲った。

 

「……っ、なんて戦いをしてるのよ……」

 

 衝撃に耐えて、辺りを見回す愛梨。

 

 ……まるで戦争を再現しているかのようだ。

 

 掛け軸などはとうに破れ落ち、使用されている材質や内部の構造により防音や想子の拡散性に優れている特殊合金製の武道場の壁は、建築当時から無傷だったにも拘わらず、先程ののやり取りだけで無事な所がひとつも見当たらなくなっていた。

 

 そして、何より。

 

 澄み渡り、晴れ渡った青空。

 

 快晴と呼ぶには雲がうっすらとかかっているが、何もない一面の青よりは、これくらいが丁度いい。

 

 ピクニックや散策でもしたい気分になる。

 

 丁度2人の剣閃が止んだ事だし、と愛梨は2人に呼びかけた。

 

「こんなにいい天気なんだから、外に出てさん、ぽ……で……も」

 

 呼びかける途中で、気づいた。

 

 武道場は、魔法の暴発という万が一の危険性を考えて被害が広がりやすい窓はおろか天井窓すら設置されていない。

 

 空調が換気機能も備えているのでそもそも必要がないのだが、それ故に青空が(・・・)見える筈(・・・・)はないのだ(・・・・・)

 

「…………」

 

 普通見えない青空が見える。これは、どういう事か。

 

 愛梨が透視能力に目覚めた?

 

『文明の雷姫』にそんな追加オプションは無い。

 

 屋根が無い?

 

 ぴんぽん大正解。

 

「「…………」」

 

 原因は何だろう。

 

 八幡の黒剣が外れた時に余計なものを斬っていた気もするし、玉縄が床に散らばった宝石弾を一斉発射した時は狙いなどつけていなかったから、吹き飛ばしたのかもしれない。

 

 そもそも、今の爆発で天井が吹き飛んでいたのかも。

 

「……ちょっとあなた達、やり過ぎ——」

 

 そう言いかけて、愛梨は目の前の2人が戦闘をやめてただ呆然と空を見つめているのに気づいた。

 

「……?」

 

 2人に釣られ愛梨も空を見上げる。……2人の視線の先、武道場の遥か上空にはバレーボール球くらいの大きさの光球が浮遊していた。

 

 見たところ、先程の虹色剣の残骸が球状になったもののようで、さまざまな色が表面に浮かんできては中に落ちていく様はこの世のどんな宝石よりも美しい。

 

(消滅していない……ということはまさか、先程の衝撃を全部吸い込んで……!?)

 

 その美しさには極大の破壊をもたらす「効果」が含まれている。

 

 アレが落ちてきたらどうなるのかと思う。

 

 ……武道場が粉微塵になるだけで済むだろうか。いや、そもそも武道場が粉微塵になる程の威力で周囲が無事で済むのかどうか。

 

 愛梨も暫く見つめていると、その光球は落下を始めた。

 

「……っ!? 止まれ……!」

 

 破壊するものが何もない上空、つまり今のうちならば周囲への被害は出さなくてすむ。

 

 そう思い、エネルギーの球を破壊しようと愛梨が雷撃を放つ。

 

 雷撃が触れると光球は爆発を起こし、愛梨は胸を撫で下ろした。

 

 安堵しきったところで、愛梨は、2人の視線に気づいた。

 

「…………っ」

 

「…………」

 

 瞠目し、あんぐりと口を開けてこちらを見る八幡と玉縄。

 

「……言っておくけれど、この件はしっかり折本さんに報告させてもらうわ。模擬戦とはいえ誰がここまでやっていいと——」

 

(……?)

 

 2人の表情は変わらない。まるで、会話など耳に入っていないかのように。

 

 こんな時だけ反応がそっくりで、仲が良さげに見える、と愛梨は彼らがこちらを見る理由を探る。

 

 2人の顔には一切の情というものが見えず、ただ驚き、ただ固まっているらしい。

 

 喜怒哀楽が抜け落ちるほどの衝撃——それは、一体。

 

「衝撃……? …………あ」

 

 愛梨も、それに気づいた。

 

 巨大。

 

 自分の攻撃で破壊したと思い込んでいた、エネルギーの塊。それが愛梨の雷撃を吸い込み、光球の大きさが巨大化していたのだ。

 

 バレーボール球程の大きさだったものが、今は軽自動車を軽々包み込めるくらいに膨張していた。

 

「————————」

 

 目の前の光景に思考が停止すると共に、愛梨は自分の能力の弱点を思い出していた。

 

 確実に滅するという意思がなければ、攻撃は全て敵の攻撃を肥大化させるエサになってしまうのだと。

 

 そして一旦愛梨の雷撃を取り込んでしまえば、二度目の効果は極限まで薄まってしまうのだと。

 

 それまで浮遊していた光球がぐらり、と動いた。そして、巨大化はさらに加速していく。

 

 光球が落下を始めたのだ。真下にいる3人目掛けて。

 

「——玉縄! 周囲の人間に防護結界! 衝撃より防熱に特化したやつ!」

 

「君は被害が学園の外に出ないように内向きの結界を!」

 

 すんでのところで我を取り戻した八幡と玉縄は、お互いに声を掛け合って魔法を組み立てる。

 

 しかし、落下自体は止められなくて。

 

「「まずいまずいまずい折本(さん)に怒られるああああ!!」」

 

「今、そこを気にしてるの!?…………あ」

 

 愛梨がようやく我に返った時には、エネルギー球はもう目前で。

 

 ——直後、自分の体が崩壊する感触と共に、愛梨の視界は白一色に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『結界内大気成分、分析完了。放射性物質の検出はありません』

 

「その他の有害物質は? 空気成分のバランスに異常がないかもっと調べて」

 

『気圧、窒素比率、正常。一酸化炭素混合量規定以下。有毒ガスの検出もありません。マスク無しで呼吸もできます』

 

「了解」

 

 そこまでの安全確認が行われて初めて、かおりは特殊作業車のハッチを開けた。

 

 耐冷耐熱対衝撃は勿論、完全密封することで水中はおろか宇宙空間ですら一年は滞在可能な特殊車両。

 

 主に戦略級魔法による破壊の後に使われることが多いこの車を、まさか自分の通う学園内で使う羽目になるとは。

 

(……破壊され過ぎて、どこから三高かわかんないけど)

 

 脳の内側で暴れ回る頭痛に顔を顰めながら、かおりは車両の外へと出た。

 

 第三高校、校門付近。——がある筈の場所で、車は停車していた。

 

 外は乾いた風が吹いている。

 

 威力を封じ込める結界が張られていたからか被害は外に漏れてはいないものの、結界で閉じ込めた分、逃げられない衝撃は内側に向けられ、被害が増していたのだろう。

 

 心配なのは、日曜日も学園内で仕事をしていた職員や部活動に励んでいた生徒達の安否だ。

 

 瓦礫の下敷きになってはいないか。

 

 この破壊をもたらした攻撃(?)に直接体が晒されたのなら、恐らく生きているかどうか。十文字の「ファランクス」なら防ぐ事は可能かもしれないが、生憎とその御曹司は東京にいる。

 

(……でも)

 

 この時間、この学園には八幡が居たはずだ。彼が何の対策も取っていないとは思わないし、この学園の生徒会長が生徒が受ける被害を許すとは思えない。

 

『生存者を発見。学園内にいた職員・生徒は生徒会長が魔法で保護した為に全員無事との事。また、緊急搬送が必要な患者はいませんでした』

 

「りょう、かい」

 

 やはり。これ程の破壊に晒されてなお無事だったという事は、彼らが何かしたのだろう。

 

「……こうなった原因もあいつらなんだろうけど……はぁ」

 

 やはり自分も、ついていくべきだった。

 

 安堵やさまざまな感情が入り混じり、かおりは深くため息を吐いた。

 

「……そういえば」

 

 瓦礫の山を見渡す。この様子では地上の施設は一つ残らず全壊しているのだろう。

 

 重要な資料だったり、CADなども全て破壊されているに違いない。

 

「地下施設が残ってると良いんだけど——っと」

 

 かおりが瓦礫に触れる。すると、触れた箇所からさざ波が立ち、触れていない瓦礫や小石にまで波及して、山となっていた瓦礫は形を保てずに崩壊、泥水のように地面に広がった。

 

 建て直すにしろ全く新しいものを建てるにしろ、巻き戻す(・・・・)にしても、ここまで破壊されきったものを残しておいてもどうしようもない。

 

 それなら、探し物(・・・)をするのに瓦礫があるだけ邪魔だ。

 

(……生存者は一箇所に集まってる。万が一の未確認の生存者がいた場合も、これで(・・・)見つかる。……何より、人を集めておきながらそこから逃げたバカ共(・・・)をあたしが逃がすと思ってんのかなぁ……?)

 

 次の瓦礫、次の瓦礫と、かおりが指先で触れるだけで地面にあるすべての無機物は壊れる。

 

 ばしゃばしゃと、水たまりの上で遊ぶ子供のように駆けていく。

 

 そして、2分ほど経過した後。

 

「……ふふふふふ。……もーいーかーい?」

 

 かおりはついに見つけた。

 

 自分が触れているにも拘わらず、液体にならない瓦礫の山だ。

 

 かおりが呼びかけると、瓦礫の中から「やべっ」という可愛らしい声が聞こえた。

 

「……今大人しく出てくれば、ごめんなさいで許してあげる。……けど、このまま篭り続けるなら、明日から比企谷の宿泊先は雅音のところに」

 

「さっせんした! アイ!」

 

 ビニールシートを剥ぐかのように瓦礫の迷彩が解け、かおりの足下には土下座をする八幡(♀)の姿が。

 

 そして。

 

「……あ、あの、えっと、これは……」

 

 瓦礫の偽装が施されていた場所で三足チェアに座ってマグカップを片手にあたふたする愛梨と、

 

「やあ折本さん。何事においてもまずは気分をリフレッシュして次に対しプリペアする事が重要だと思うんだよ、うん」

 

 優雅にアウトドアティータイムを決めている玉縄がいた。

 

「玉縄君、こんにちはー。東京湾と瀬戸内海、どっちがいい?」

 

 彼の手元をよく見るとカタカタと手が震えており、ティーカップの中身も殆どがこぼれ落ちている。

 

「……そ、その二択というのはアレかな、デートのお誘いとかいう……」

 

「そだねー。コンクリプランはふたつあって、足にアクセサリーをつけて海の景色を楽しむのと、全身浸かってゆっくりとした時間を過ごすのと、どっちが良いかなー?」

 

「コンクリプランって何ですの!? 足に重しつけられて沈められるの!? それともコンクリートの中に詰められてゆっくり腐ってくの!?」

 

 ガタガタと怯え、顔を青ざめさせる玉縄。

 

「…………何か言うことはあるかな、会長」

 

「さっせんした! アイ!」

 

 八幡の隣に彼も同じくスライディングシュートしたところで、かおりは漸く愛梨に目を向けた。

 

「ごめんねー? こいつら止めるの大変だったでしょ」

 

「……あ、い、いえ、えと、……その」

 

 かおりの向ける同情の視線から目を逸らす愛梨。

 

「……止めようとしたのは事実だけど、結果的に威力を増幅させる形になっちゃって……」

 

「……そうなんだ」

 

「……だから、ええと、私にも責任の一旦はある、というか……」

 

「……気にしなくていいよ。この後手伝ってもらうけど、一色さんがわざとじゃなかったっていうのはわかるし」

 

「折本、さん……」

 

 かおりのはにかむような笑みに、沈んだ表情ばかり浮かべていた愛梨は、顔を上げた。

 

「だから、気にしすぎるのもダメだよ」

 

 かおりがそう微笑むと、それまで頭を伏せたままだった八幡が急に頭を上げた。

 

「やっぱそうだよな、人間反省が大事っていうけどいちいち証明だの証拠だのって言ってたら埒があかないし。大事なのは本人がどうありたいかってことだし。それじゃこれから俺はネカフェでひとり反省会を——」

 

 膝立ちの状態から立ち上がろうとして、ゆっくりとかおりに押さえ込まれる。

 

「あんたは今日からウチで預かるから。大丈夫、雅音もいるし寂しくないよ」

 

「……考えうる限り最悪の展開だっ……!」

 

 かおりの手を払って逃げ出そうとする八幡だが、反対の手が襟首ではなく首そのものを掴んでいる為、逃げようにも逃げられない。

 

「ひっ……!」

 

 逃げられないように、八幡の背後からするりと両腕を前に回すかおり。

 

 背後から抱きついているのだが、それを受けている八幡の怯えようは、どう見ても銃を突きつけられた人質のそれだ。

 

 八幡の耳元で、蜜のように甘い、しかし猛毒を含んだ声が囁かれる。

 

「……比企谷。今日、何をどうするつもりで学校に行ってどういうつもりで学校を灰燼に帰したのか、ゆっくり教えてもらうから。比企谷にもそれ相応の理由があったんだろうし、大丈夫だとは思うけど……あたしが納得できるまで、寝かせるつもりはないからね」

 

「…‥まっ、任せてくれ、完璧なプレゼンを……」

 

「あ、栞ちゃんも来る(・・)ってさ」

 

「………oh」

 

「……え?」

 

 それを聞いて八幡はがくり、と項垂れた。

 

 栞、という名前に反応する愛梨だが、彼女が何か言う前に、真っ白に燃え尽きた八幡がかすかに開かれた口でただ呆然と言った。

 

 

 

「…………最後の晩餐はカツ丼がいいな」

 

「今日の晩ご飯はお刺身だよ、比企谷」




ちなみに先に手を出したのは八幡です。
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