やはり俺が十師族を守護するのは間違っている。 作:ハーマィア
『「せんせい」。どうして人は人を殺しちゃダメなんですか?』
……チカチカと、色とりどりのランプが点滅している。
六畳程の面積の部屋の中に所狭しと並べられた電子機材を眺めながら、薄紫色の検査服を着た少年は隣に立つ白衣の男性に語りかけていた。
『それはね。〝いらない事〟だからなんだよ。我々は群れを成して生活する生き物。殺し合うことは自らデメリットを生み出してしまう事になるからだ』
タブレットに触れる男性は少年に一瞥もくれる事はなかったが、少年の質問に答える声色は優しげだ。
『でも、「よのなか」には人を殺すのが好きな「さつじんき」や一人でいる「こと」を好むヒトがそんざいするとデータで見ました。「だんたいこうどう」をしない、好まないヒトは、「せんせい」が仰った〝「むれ」を成して生活する〟のカテゴリーには当てはまりません』
それに対し、少年の声は抑揚がない。それは感情が無いというのではなく、感情を削り取られた結果、残ったもので声を発している、というものだった。
『群れを成して生活すると言っても、それを構成する個人の感情は無視してよろしい。不必要に見えたとしても、実際そうであっても、それは社会にとって必要なものに他ならない。反面教師とかね』
『「ふひつよう」であるなら、切り捨ててしまうのが「ごうりてき」じゃないかと思います』
『いい事を教えてあげよう。林檎は何があっても必ず腐ってしまうんだ。腐敗した箇所があればそこから、腐った場所がなければいずれかの場所が。ただ、林檎に限らず果実は熟したものが一番美味い。だから、適度に熟している必要があるんだ』
『「じゅくす」イコール「ふはい」であると? それを許容するんですか?』
少年が男性に向かって顔を上げる。しかし、男性は変わらずに視線をタブレットに向けたままだ。
『だから「適度に」だよ。やり過ぎた・或いはやり過ぎる人間は処罰されなければならない。丁度、ガン細胞の様にね』
『「せんてい」の様なものでしょうか』
『ああ。樹の全体を美しく保つ為にはいくつかの間引きをするのも仕方ない事だ。だが君がそれを気にする必要はない。君は言われた通りの任務をこなせばいいんだよ』
『理解しています。……「せんせい」。「しつもん」があります』
そこで初めて、男性が言葉以外に反応を見せた。
ちらり、と少年の方を見やり、タタタタ、とタブレットに触れるスピードが速くなる。
『なんだい?』
『「せんせい」が仰る通りであれば、「わがくに」は「てきこく」に対して絶対的な「しょうり」を治める「ひつよう」が有りません。「ゆうれつ」の「もんだい」を除外するのであれば、「われわれ」が存在する方が「ひごうり」です』
『ふむ。何故そう思うのかな?』
『「われわれ」は「いっぱんじん」とは違います。学習したデータの中には「にんげんしゅぎ」なる「われわれ」に対しての「てきたいしゃ」がいます』
『……続け給え』
一瞬指を止めた後、男性はその論の続きを話すことを許可した。
但し視線は、タブレットでも少年でもなく、彼らを監視する自動照準機能付き無限自動小銃に向けられていたが。
『「われわれ」の数に対して「いっぱんじん」の「かず」は何十倍もいます。「いっぱんじん」に「われわれ」の「ぎじゅつ」を伝えることが難しい以上、「こうきょうせい」の低いものを持つ「われわれ」が繁栄し存続するしかありませんが、それは「いっぱんじん」の「そんざい」を悉く駆逐する「みらい」です』
『……それはまずい、と?』
タイピング速度が初めの比ではない。今や、五指全てをフル活用して彼はタブレットに文字を打ち込んでいた。
『先ほどの「せんせい」の「はなし」です。「せんてい」をする必要はあっても、「き」を切り倒すようでは「ほんまつてんとう」です』
『だから、一般人という大樹に
『はい』
『ふむ……確かにそうだな。君の言う通りだ、
そこまで話を聞いて、男性は初めて少年の方を振り向いた。
キュイイ、と銃が動作する音が聞こえる。
何よりも
『「せんせい」。最後にもう一つ、「しつもん」があります』
『……? なんだ?』
少年は、相変わらず抑揚のない声で話し続ける。
彼らに向けられた銃口は、その全てが火を噴いていた。
『今のこの「しゃかい」に、「じゅっしぞく」は必要でしょうか』
ドガガガがががががががががダダダダだだだだだだダダダダだダダダダダダダダ!
――直後、部屋は硝煙と金属がばら撒かれる音、小銃の弾痕を刻む音で視聴不可能となった。