やはり俺が十師族を守護するのは間違っている。   作:ハーマィア

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風邪ひきました頭がいたいです


醤油とプリンと自意識過剰お姉ちゃん

『穏やかな日差しが注ぎ、鮮やかな桜の花びらが舞う、このうららかな春の佳日。名門国立魔法大学付属第一高校に入学する事が叶い、とても嬉しく、また光栄に存じます』

 

そう言って新入生の答辞を読み始めたのは、十数分前に八幡がその形の良い胸に彼の五指を沈み込ませた司波深雪嬢だ。

 

「……。……っ!?」

 

やる事が無くて、意味もなく深雪の胸に触れた手を握ったり開いたりしてみていると、彼の正面から凍死してしまいそうな程の冷気が吹きつけた――気がした。

 

しかし、ふと気になって後方の席を振り返ってみると、達也が隣に座った女子二人と何やら話している。

 

(ああ、そういうことか)

 

恐らくは、達也が顔を向ける女子二人に嫉妬しているのだ。それを声や表情には微塵も感じさせず、雰囲気だけを八幡に当てに来るのは流石(?)としか言いようがないが、

 

(……『私の胸揉んだ手で何余韻に浸ってんだコラ』って顔してる……)

 

極冷の闘気が答辞を読み上げている深雪からは発せられていて、八幡は顔を青くしながら即座に手をにぎにぎするのをやめた。

 

手の動きだけであそこまでの怒りを見せるなんて、余程怒りが治まっていないか――それがわかってしまうくらいに、ただずっと八幡を見つめていたのか。

 

そのどちらでも八幡は『え? 何? 俺の事気になるの?』なんて感想(げんそう)を抱いたりはしない。

 

何故かといえば、ただ、彼を襲う風は正面からだけに留まらないからだ。

 

「……ヒキオ、何してんの?」

 

万象の未来を知る者でも無いのだから、彼はつい、で自分が犯した過ちの面倒臭さの全貌を知る事はない。

 

「……いや、ちょっと……」

 

ただの質問に違いはなかったのだが、どうやら隣に座る彼女(・・)は八幡のその(・・)反応で色々と察してしまったらしく、途端に目を細めた。

 

「……なに? あの子と何かあったの?」

 

あの子。優美子の視線の先には、春に咲き誇る、花ですらも自分との痛烈な格差を感じて蕾に戻らざるをえない程の強烈な美しさを放つ美少女がいた。

 

当然のように、優美子は比企谷八幡が司波深雪と「何かあった」と勘ぐっている。

 

「……い、いや? 何も無いにょ」

 

「絶対に何かあったし」

 

だが、彼女はその現場を見ていない。八幡をこの場に引きずってきた雪ノ下雪乃は、今はどこか別の場所にいるのだろう、というか背後を振り向かないでもハッキリとわかる、背後の方の席から八幡の方にだけ怨念を送っている彼女なのだろう。

 

「知ってる? ヒキオが変に噛む時は何かやましい事があった時なんだよ」――と、彼の頬を掴んで引き寄せる、第一高校の新入生にして一科生、三浦優美子。

 

「変に噛む時ってなんだよ、なんでそんな癖知ってんだ幼馴染かよ俺は常に噛んだ事しかないにゃ」

 

「はい嘘」

 

彼は雪乃と共に講堂に到着するなり、背後から忍び寄ってきた優美子に「あ」とか何かを言う前に雪乃から引き剥がされ、今まさに埋まろうとしている席に滑り込むように着席させられたのだった。

 

「ていうか、どうして雪ノ下さんと登校してたの?」

 

深雪との因縁にはもう興味が無いのか、優美子はケータイを弄っている。

 

「……あー、まぁ、あれだ」

 

それでも、八幡は恥ずかしげに顔を逸らし頬を掻きながら、はぐらかすように小さく呟く。

 

「どれだし」

 

「婚約を申し込まれた」

 

しかし、彼の口から話された内容は、彼女が想定していたよりも素直なもの。

 

だが、寝耳に水である事は間違いなかった。

 

「はぁ!?」

 

思わず声を上げる優美子。その声は講堂内に響き渡るような大きさではなく、精々が隣の席の生徒が顔を向ける程度の小さなものではあったが、ずっと彼を視界に捉えていた様々な視線は、より一層その眼力を強める――或いは鋭くする――こととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プリンと醤油。一見合いそうにないその摩訶不思議な組み合わせは、合わせればウニの味になるのだという。

生まれてからこの方、仕事の用事のみではあるが高級料亭や高級寿司に何度か足を運んだ事もあり、当然そういった常識も備えている彼は、今更そんな子供じみた食の実験に興味などない。

だが、一見合いそうにないモノ同士が奇跡のコラボレーションを果たすことはままあり、マッ缶ほど和洋中すべての料理と引き合い調和を織り成す事は無いにしろ、そういう可能性がゼロパーセントでは無いのである。

 

……つまり。

 

「これからよろしく、オレは森崎……すぅえっ!? ……ひっ、比企谷か?」

 

「あ、おう……比企谷八幡だ」

 

(……俺が、森崎と知り合いなのは間違っている)

 

入学式を終え、八幡に限らず新入生一同は、入学式の後にIDカードの交付を受ける必要があり、彼が彼として比較的目立ちにくい窓口に来ていた。

 

入学式よりも前に生徒証の発行が出来るのは生徒達の代表として受け取る事になっていた司波深雪のみであり、その他の生徒は例え次席であったとしても窓口に足を運ばなければならない。

 

そして、この学園に入学する一科生としては生徒証発行のし忘れなど言語道断であり、あとで送付してもらうよりも圧倒的に短時間かつ手間がかからないため、既に人が並び始めていた発行待ちの列に渋々並んだところ、その前にいたのが彼と同じ一科生として入学した森崎だったのだ。

 

「お前もまさかこの学校に来てるなんて思わなかったな。てっきり一般の高校に通ってるものだとばかり」

 

森崎の前にもまだ何人かは並んでいて、あと数分は手続きに時間がかかりそうだ。

だから、森崎が八幡の方を振り返って八幡と雑談をしていようと他に誰も咎める者はいない。他に話をしている生徒もいるくらいなのだから。

 

「その必要があったってだけだ。というか、お前こそなんだその格好。相変わらず外面には興味無しか」

 

興味なさげに、八幡は森崎のその容姿を指摘する。森崎は、場合によっては何工程もステップを踏む必要がある化粧はめんどくさがってしないし、肌の手入れも最低限しか行わない、ガサツな気性の持ち主だった。

 

「……う、うるさい! お前には関係ないだろ! …………オレだって、お前がここに入学するなんて知っていれば多少は気を使ったんだ……」

 

顔を赤くして俯く森崎昴(もりさきすばる)(♀)。スカートを靡かせる彼女は八幡と旧知の仲であるが、所詮はロッカールームの掃除用具入れに二人で入ったことがある程度の関係(半裸)であるに過ぎない。

 

共通の知り合いであり事情を知る材木座にはラッキースケベ担当などと揶揄されたりもするが、それが知れ渡れば血を見るのは明らかなので、八幡は全力で森崎ルートを潰そうと必死になっている。だが、二百年程前に行われた禁酒法時代にもあったように「抑圧されればこそ動いてしまう」といったジレンマは確かに存在する。フラグを圧し折ろうとすればするほど、より強靭に、大きくフラグは再構築されていく。

 

「……?『うるさい』の後、何か言ったか?」

 

「うるさい!」

 

既に、彼と彼女の『(えにし)』は切っても切れないものへと成長してしまっていたのだった。

 

彼と彼女は、今更他人のフリなど出来るはずもない。

 

「…………八幡くん」

 

だから(・・・)、それを見ていた彼女(・・)が八幡と森崎の関係に気づくのも、時間の問題(・・・・・)だった。

 

「……また、他の女の子とイチャイチャして……っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七草真由美が比企谷八幡にとってどういう「言い訳」が通る相手なのかと言えば、言い訳に関しては少なくとも一度も通ったことはなかった。

 

『from:七草真由美』

『title:』

『八幡くん。雪乃さんに婚約を申し込まれたって、どういったシュミのお話なのかしら。あと何か森崎さんとも仲が良かったわね』

 

『from:比企谷八幡』

『title:Re:』

『いや、趣味も何も、向こうから申し込まれただけでして。先輩方と同じです。森崎って誰ですか』

 

『from:七草真由美』

『title:Re:』

『なるほど。つまり八幡くんはそうやってたくさんの女の子をキープしているのねー。あなたと話して顔を赤くしてた子よ』

 

『from:比企谷八幡』

『title:Re:』

『誤解を招くその言い方やめてください。答えは伝えてませんけど』

 

『from:七草真由美』

『title:Re:』

『その言い方だと答えは決まってるみたいね』

 

『from:比企谷八幡』

『title:Re:』

『まぁ、はい』

 

『from:七草真由美』

『title:Re:』

『どう返事するの?』

 

『from:比企谷八幡』

『title:Re:』

『俺と雪ノ下のやり取りなんで黙秘します』

 

『from:七草真由美』

『title:Re:』

『つれないなぁ。じゃあ、お姉さんへの返事はどうなのかな?』

 

『from:比企谷八幡』

『title:Re:』

『俺と雪ノ下さんのやり取りなんで同様に黙秘します』

 

『from:七草真由美』

『title:Re:』

『そっちじゃなくて私との婚約よ!』

 

『from:七草真由美』

『title:Re:』

『ちょっとまって。雪乃さんだけじゃなく陽乃さんともそういう話になってるの?』

 

『from:七草真由美』

『title:Re:』

『ちょっとどういう事? 返事ちょうだい』

 

『from:七草真由美』

『title:Re:』

『返事! あと森崎さんとはどういう関係なの!』

 

(めんどくせぇな……)

 

いよいよ四件目のメールが来てしまったところで、八幡は顔を上げた。

 

顔を上げた彼の目の前には、深雪とはまた違う種類の美少女がいた。ウェーブがかかった黒髪にかつてはトランジスタグラマーなどと比喩された、小柄ながらグラマラスな体型が魅力的――だと彼女自身が主張していた――な七草真由美生徒会長が、頬を膨らませて八幡を睨んでいた。

 

「……あざとい」

 

「あざといって何よ! これでも私はみんなから慕われているし「妖精姫」って呼ばれてるんだからね!」

 

「んな愛称で呼ばれてる時点で馬鹿にされてるような気がしますが……冗談ですよね」

 

「ふふん。ホントよ」

 

自慢げに胸を張る真由美。八幡はそれに一瞬だけ絶句した後、

 

「すいません転校手続きしてくるので事務の場所教えてください」

 

冷静になって今自分が取るべき対応を速やかに実行することにした。

 

「どういうこと!? こんな完璧美少女お姉ちゃんと同じ学園に通えるようになったのに、その幸せを放棄するの!?」

 

「自意識過剰お姉ちゃんがウザい……」

 

といってもその手段が実行できるわけなどなく、手を掴まれてブンブンと振り回される。

 

襟首や肩でないところがやはりあざといと感じながら、八幡はなされるままに振り回されているのだった。

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