やはり俺が十師族を守護するのは間違っている。 作:ハーマィア
やっばいまだ森崎達とのいざこざどころか達也がレオと知り合ってない……
「ねーねーお兄ちゃん、今日何かあった?」
キャビネットから自走車コミューターに乗り換え、無事自宅に帰ってきた八幡。
彼の妹である比企谷小町が用意してくれた昼食を食べてまったりとテレビを見ていると、不意に頭上から声が降りかけられた。
「……そうだな、今日は入学式というビッグイベントがあったな。後、雪ノ下から婚約を申し込まれたりもした。後は……」
しかし彼は、冷静に振り返る事なく沈着な態度を以て征く(?)。
「……後、は? 言っとくけど、小町全部知ってるから」
だがしかし彼の妹は、それ以上に落ち着いて――否、凍りつくような視線を八幡に向けていた。
「――司波兄妹に、正体がバレた……とか」
「……へぇ〜」
思ったよりも素直に白状した兄に、小町は感心した目を向ける。あくまで感心した目というだけであって一切許していないのは、態度や声色や表情雰囲気その他諸々から容易に読み取れた。
「ねぇお兄ちゃん。ねぇねぇごみぃちゃん。六道に参加する時、『せんせい』から教わったよね? 小町達は六道になって日が浅いし、不用意な接触はやめるべきだって。十師族の古株の家の人達の中には、小町達じゃなくて結衣さん家をまだ六道だと思ってる人が居るんだって」
「……おう、そうだな」
ソファーから顔を乗り出し、影の付いた笑みを向けてくる妹からギギギと顔を背ける八幡……だが、そんな事で彼は妹の追及から逃れられた試しがない。
「なのにお兄ちゃんはバカなの? ……もしかして、孫の可愛さに目が眩んでつい手が出ちゃった、なんて言い訳はしませんよね、
別の人物に声をかけるように小町は声色を変えるが、彼女の視界に収まっているのは相変わらず彼の兄だけ。
ただ、振り返りもせずに頬を掻く彼の瞳の色は、違っていた。
「『いや……つい、手がな』」
それどころか、次に彼が発した声色も、普段の彼のものとはまるで違う。
「『……まさか、英作が生き永らえさせた深夜の子供が、あそこまでかわいっ……才能のある姿をしているとは思わなかった』」
「自制してくださいって言ってんです! 貴方の深層心理がお兄ちゃんの行動に繋がるんですからね!
顔を赤くして拳を握りしめ、ぷりぷりと怒りを露わにする小町。
すると、小町の最後の言葉でまた八幡の瞳の色が変わる。
小町と同じように、いやそれ以上に顔を赤くして、両手を胸の前で祈りを捧げるように組み、目を潤ませた。
「『仕方ないでしょう!?
熱があるのを確認するかのように額に手を当てる様は完全なオーバーリアクションであり、それに関して小町は見ていない。
元造。それに深夜。小町にそう呼ばれたこの二人は、八幡のストレスから生み出された二重人格やその人物のデッドコピーなどではなく、紛れも無い本物の人格だ。
本物の人格が、方法は不明であるが己の死後に肉体から剥ぎ取られて八幡の魂魄に移植された結果、第二第三の人格として定着したのが彼らである。
有能な魔法師の交配がまるで遺伝子改良の如く気安く進められてきた魔法師社会であるが、魂の研究は想子や霊子の存在があるという事実があり、魔法研究にはそれらの知識が欠かせないものであったとはいえ、人類の技術は未だ、魂を弄ぶ事が出来るレベルには達していない。
ただ一家、比企谷家を除いては。
……かつて存在したという、
負の遺産として「
比企谷は、魔法自体を弄ぶ家なのだ。
魔法を自由に改造し、己の好きに成形する事ができる特異な能力。魔法発動補助の為のCADを必要とせずにしかも得意不得意なく全ての術をスピーディかつ大規模に扱う事ができる。なぜそんな事ができるのかといえば、それは比企谷の出自にも起因していた。
――ひとつ、比企谷はある目的を以て創られた
――ひとつ、その目的は人類に多大な犠牲を強いるものである。
――ひとつ、その目的は、人類を救う為に行われる、ひとりぼっちの戦いである。
――故に、当時の四葉家最強当主、四葉元造とその長女である司波深夜の魂の収集は、必務事項だった。
こんな事が今の四葉にバレたなら、ホルマリン漬けでは済まない。いや、魔法師社会からだけならまだしも、ヒトの輪を外れてしまうのは必然的と言えてしまうだろう。
「ここまで言う事を聞いてもらえなかったのは小町も久しぶりですよ! 三人ともそこに正座!」
「……んあっ? ……あの居候共、勝手に引っ込みやがった……!」
小町が憤慨し、ダン、と強く床を踏む。するとまた八幡の眼の色が変わり、独り言のように不満を漏らしていた。
それに関係なく、小町は笑顔で八幡ににじり寄る。
「……こ、こまち?」
「お兄ちゃん、あの人達を
訂正。薄く開かれた眼だけが、笑っていなかった。
有無を言わさぬ圧力に兄の八幡が押し負けそうになり、八幡はアワアワと手を振りながら、
「お、追い出すって言うけどな、あの人達が本気で潜ったら俺が追い出せるわけないだろ。むしろ俺が追い出されるまである」
「なら、いつものよーに小町が追い出してあげる☆」
言って、腕まくりをする小町。だが彼女の着ている室内着は半袖であり、一回たりとも捲れてはいない。ただ、そのポーズで八幡の瞳の色が二回程変わったが。
「ごめんねお兄ちゃん。出来るだけ痛くしないようにしたいけど、仕方ないから――ねッ」
平手を振りかぶる小町。言葉とは裏腹に、そのフォームに迷いがない。
「やめやめばっ!?」
「ぐっ……」
「へぶっ!」
「ひえぇ……」
そして小町怒りのビンタが二回、八幡の左頬と右の頬に放たれ、八幡の左側には若々しくも威厳のある顔立ちで、細身ながらも強靭さを感じさせる肉体を持つ達也似のポロシャツとスラックスを身につけた青年が、右側には深雪と姉妹であるかのように錯覚してしまう程似ている、しかし確実に深雪ではないと明確にわかる顔立ちの、セーラー服を着た少女が倒れ込んでいた。
「ぬ……何回やっても慣れんな、これには……」
「いたっ……ちょっと小町ちゃん、やり過ぎ……ひっ!?」
起き上がる二人だが、頭上から見下ろす小町の笑みに少女――深夜が軽く悲鳴を上げた。
「せ・い・ざ。二人とも日本人なんですから、出来ますよね?」
――因みに八幡は真っ先に正座させられている――
「……小町、これは仕方のない事だ。お前だって兄の晴れ姿には胸がときめいてしまうだろう?」
青年――元造に指摘されて、小町は嬉しそうにはにかむ。
「はい、勿論です。何たって小町のお兄ちゃんですから! でもそれとこれとは別です!」
バキィ!!
フローリングの床が小町の足踏みに合わせて盛大な破壊音を奏でている。
小町が足を退けると、その床は次の瞬間には完璧に修復されていた。
破壊と同時に
「……ねーお兄ちゃん。やっぱり材木座さんに頼んで強制成仏してもらおっか。必要って言ってるのは「せんせい」だけだし、別に比企谷としてはこの人達要らないよね?」
「いや、まぁそうだけど……そうするか」
二人を挟んで真ん中に正座している八幡が頷く――が、途端に右腕に絡みついてきた深夜が、瞳を潤ませた上目遣いで八幡を見上げる。
「……八幡君、それはやめて?」
詰め寄り、互いの息遣いが互いの肌に届きそうな程接近する深夜。
「……っ、司波、さ……」
八幡は言葉を詰まらせ、一歩引く。深夜が大きく踏み込んで距離を詰め、
「……深夜って呼んで頂戴……?」
「あだだだだだだだだだだだっ!! ギブ! ちょ、ギブって!」
一瞬で彼の腕を背後に回し、抵抗する間も与えずに関節を極めた。
うぐっ、と八幡が呻いた後、体を震わせ、口をゆっくり開いた。
「……わかりましたよ。成仏はしませんから、今後は大人しくしていて下さいね」
「「努力する(わね)」」
「この親子は……」
呆れた小町が息を吐くと、二人の体の輪郭がぼやけ始め、全身が完全な光の粒子となった後に近くにいた八幡に吸い込まれていく。
「……小町、一人くらい肩代わりしてくれても良いんだぞ?」
光が八幡に吸収し尽くされて、一息つくと八幡がこう切り出した。
「やだよめんどくさいよそんな人達。お兄ちゃん何の問題もなく暮らせてるんだから大丈夫でしょ」
しかし即答でぶった斬る小町に八幡は項垂れる。
「……いや問題大有りだろこれ。先代シリウスに、封印されてる筈の謎のメガネ姉に、四葉元造に司波深夜にエトセトラエトセトラ……。え? なに? この憑依数からして特異点なの、俺……?」
「明日もまた学校だから、早めに寝るんだよお兄ちゃん。それじゃ、おやすみ」
「……お、おやすみ。……やっぱ一人くらい成仏させても――っだ、嘘嘘、嘘ですからぁぁぁっ!」
一人発狂する少年の悲鳴は何故か個人宅に配備されている、百パーセントの確率で音を遮断する壁に阻まれて響くことはなかった。
元造はキンタロス、深夜はリュウタロス辺りでしょうか。
モモタロスはウィリアム・シリウスかと。