最強パーティーの雑用係 〜おっさんは、異世界の客人を迎えたようです〜   作:エコー

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『最強パーティーの雑用係~おっさんは、無理やり休暇を取らされたようです~』
コミック・アーススターにて9月26日より連載開始予定!

このSSは好きな作品のコミカライズを祝して、もうひとつの好きな作品
オーバーラップノベルズ刊
『景品として異世界転生したら捨てられたので好きに生きようと思う』(しろいるか 著)
とクロスさせて勝手に書いたものです。



第1話

 

 

 

 レヴィは後悔していた。

 クトーが所用で出掛けている隙に宿を抜け出し、クサッツの街から程近い原っぱまで来たのだが──

 

「くっ、なんであの時みたいに速く走れないのよ」

 

 ──かつて対峙した魔物に、思わぬ苦戦を強いられていた。

 

 レヴィは今日、クトーに内緒でギルドに行き依頼を受けていた。

 内容は、街道筋に出没するラージフットの討伐。

 お金が欲しかったレヴィが、ウインドウショッピングのついでに立ち寄ったギルドで見つけた依頼だ。

 レヴィは、ラージフットの倒し方をクトーにレクチャーされている。

 だからこそ、レヴィはその薄い胸を張って依頼を受けたのだ。

 しかし。

 

「きゃっ」

 

 何度も背後に迫る、巨大な前足による押し潰し攻撃。

 辛うじてそれらを避けたレヴィは、クトーの教え通りにラージフットの周りを走りながら、話が違う、とごちている。

 ラージフットの基本的な倒し方は、魔物を中心に円を描くように一定方向に走り、目を回したところで頭のツノを切り落とす。そうクトーに教えてもらい、実際にやって、成功した。

 

 だが目の前にいるラージフットは、あの時のそれよりもずっと素早い。それに、心なしかツノの色も違う様にレヴィは感じた。

 だが現在進行形の危機にあるレヴィにとっては、些事に思えた。

 

「わ、私だって、私だって──」

 

 ラージフットの個体差に気づかない程に、レヴィは苛立っている。

 理由は分からない。けれど何故か宿の女将を見る度に、その苛立ちは募るのだ。

 だからこそ今回の暴挙に出たのだけれど。

 

「そりゃクシナダさんは美人だし、私より胸も大きいけどさ」

 

 元から雑念だらけのレヴィは、今回の戦闘においてクトーの教えの大事な部分を失念していた。

 有り体に言えば、倒せる相手だと最初から油断していたのだ。

 

 雑念から油断が生じ、綻びになる。やがてそれは繕えない程に大きくなり。

 

「──やばっ」

 

 とうとうラージフットの長く巨大な前脚に、レヴィは吹っ飛ばされた。

 

「──かはっ!」

 

 宙を舞い、背中を地に叩きつけられたレヴィは、衝撃で硬直し、息ができなくなる。

 押し潰されなかっただけ幸運なのだが、最悪な状況に変わりは無い。

 

「クトー、ごめん……」

 

 今のレヴィに出来るのは、師とも言えるクトーに対する詫びを呟くことくらい。

 その呟きも風にさらわれ、あとは目を閉じて祈るくらいしか出来ない。

 

 その時。

 聞き慣れない声音と共に、突風が吹いた。

 

「ミキシング……エアロ!」

 

 レヴィの僅か上空を通過した風の刃は、的確にラージフットの顔面を切り刻む。

 状況が分からずに、茫然と切り刻まれるラージフットを見つめていると、レヴィは何者かに身体を起こされた。

 

「大丈夫、ですか」

 

 優しい声音と、柔らかな香り。ふと顔を上げたレヴィの前には、自分よりも年下と思われる少女の笑みがあった。

 

 * * *

 

「助かったわ、ありがとう」

「いえ、間に合って良かったです」

 

 レヴィは、討伐されたラージフットの脇に正座をして、命の恩人である二人に深々と頭を下げた。

 よく見れば二人とも、レヴィよりも随分と年下である。

 その年下の少年は、あの時のクトーの様に魔法一発でラージフットを倒し、少女はレヴィに回復魔法を使用した。

 つまり、この二人よりも、自分は格下。

 その事実が、レヴィの苛立ちを消沈させていた。

 

「僕はグラナダ・アベンジャー、こっちはメイ。あなたは?」

「私はレヴィ。この先のクサッツに滞在しているわ」

 

 クサッツという言葉を発した途端、恩人二人は小さな会議を始めた。

 ごにょごにょ。

 ごしょごしょ。

 そして、二人は互いに頷き合い。

 

「レヴィさん、クサッツの街を案内してください!」

 

 二人同時に花咲く笑顔をレヴィに向けた。

 

 * * *

 

 昼過ぎ。

 討伐依頼の達成報告をしに、レヴィとグラナダ、メイはクサッツのギルドを訪れていた。

 倒したのはグラナダであるが、クサッツのギルドに登録しているのは三人の中ではレヴィのみ。

 依頼の報酬は、ざっくり山分け。

 レヴィは受け取りを拒否したが、

 

「あそこまで魔物を疲弊させたのはレヴィさん」

 

 というグラナダの言葉に、レヴィが渋々押し切られた形だ。

 

「さあ、何か食べに行きましょう」

「レヴィさん、クサッツの名物って何ですか?」

 

 グラナダとメイは、未知の街並みとそこに漂ってくる食べ物の匂いに、テンションが上がりきっていた。

 

「──その前にちょっと寄りたい店があるんだけど、いいかな」

 

 快く了承したグラナダとメイは、レヴィと連れ立って少し街を歩くことになり。

 

「レヴィさんは、いつからクサッツにいるんですか」

「少し前からよ」

 

 メイは、興味津々でレヴィに話しかける。それに応えるうちに、レヴィの表情も元の明るさを取り戻していた。

 

「なんだか、姉妹みたいだな」

 

 一方グラナダは、クサッツの賑やかな雰囲気を楽しみながら、先行く二人の少女を見つめる。

 一軒の土産物店に立ち寄ってしばらく。ふとレヴィが立ち止まる。

 

「あれ、ない……ない、ない!」

 

 頻りに自身の髪を撫で回す仕草に、グラナダは気づいた。

 

「どうしたんですか、レヴィさん」

「無いの。クトーに貰った髪留めが!」

「クトー?」

 

 グラナダは、新たに飛び出した名前に首を傾げる。

 

「さっきの戦闘の時、でしょうか」

「そうね、きっとそうに違いないわ。どうしよう、クトーに怒られる……」

「その、クトーさん、とは?」

 

 クトーという人物について尋ねられたレヴィは、面白い様に顔色を変えてゆく。

 

「クトーはね。あのドラゴンズ・レイドの雑用係で、眼鏡で、細かくて、時間にうるさくて、着ぐるみで、可愛いものが大好きで、それで、それで……」

 

 最終的にレヴィの顔面は、ほんのりと朱に染まる。

 

「わ、わかりました。そのクトーさんはレヴィさんのことが大好きなんですね」

 

 そのレヴィに追い討ちをかけたのは、無邪気な笑顔のメイだった。

 

「ち、違うわよ、誰があんな奴──」

「ほう、誰がこんな奴なんだ」

「だからクトーよクトー、だいたい今までどこ行ってたの……え?」

 

 ぎぎぎ、と音が鳴りそうな動きで、レヴィは後ろを振り返る。

 そのレヴィの視界には、さっきまで散々語っていた人物、クトーが立っていた。

 

「い、い、いつからいたのよ!」

 

 レヴィは声を震わせて零す。あまりのレヴィの変わりっぷりに、グラナダもメイも苦笑しか出来ない。

 

「少し前から後ろにいたが」

「じゃ、じゃあ、髪留めを失くしたのも……聞いてた?」

「無論、聞いていた」

 

 クトーのしなやかな指が、眼鏡の縁を持ち上げる。その奥の視線は鋭いが、決して冷たくはない。

 グラナダとメイにはそう映ったのだが、どうやらレヴィは違うようだ。

 レヴィはすっかり意気消沈し、借りてきた猫のように大人しくなった。

 

「さて、レヴィ。理由を聞こうか」

 

 低く通る声に、鋭さを増す視線に、ますますレヴィは縮こまる。

 

「ご主人さま、あの目……」

「ああ、少しフィルニーアに似てるな」

「はい、お説教の時は、いつもあんな目をしてましたね」

 

 メイの耳打ちに、グラナダは苦笑してしまう。まさか同じことを考えていたとは。

 クトーが一歩前へ出る。

 レヴィは一歩後ずさる。

 それを見かねたグラナダは、助け船を出した。

 

「ちょ、ちょっと待ってください」

 

 冷たいオーラを纏うクトーと気圧されるレヴィの間に、グラナダが割って入る。

 

「失礼、誰方(どなた)かな」

「僕はグラナダ・アベンジャーと申します。レヴィさんは……むぐっ!?」

「言わないで!」

 

 クサッツまで戻る道中、グラナダはレヴィが単独で討伐依頼を受けた理由を訊いていた。

 それをバラされては堪らないレヴィは、背後から必死にグラナダの口を塞ぐ。

 

「──何か理由があるようだな」

「な、なんでもないの」

 

 それきりレヴィは、喋らなくなった。

 

 団子に固まって歩く途中。

 グラナダとメイがレヴィを助けたと聞かされたクトーは、丁寧に礼を述べた。

 それから最後尾でしょげているレヴィに、少々きつい視線を向ける。

 

「グラナダ君、後で理由を聞かせてもらうぞ」

「はい。でも、レヴィさんを叱らないでください」

「──それは理由を聞いてからの話だ」

 

 レヴィは、自身より背の低いメイに支えられて歩き、一行はクトーたちの定宿であるクシナダの旅館へ着いた。

 女将のクシナダに訳を話したクトーが、グラナダとメイに宿への滞在を勧める。

 もちろん事情を聞く為なのだが、グラナダは逡巡した。

 メイは、そこかしこに飾られる見慣れない調度品に目を輝かせている。

 そんなメイを見たグラナダは、笑顔でクトーの誘いを受けた。

 とりあえずクトーたちが泊まる部屋へ通された四人は、早々に本題であるレヴィの件について話し始めるのである──

 

 ──ひと通りレヴィの言い訳を聞き終えたクトーは指でこめかみを押さえ、ついでに眼鏡の縁を持ち上げた。

 

「──で、一人で、勝手に、討伐依頼を受けたのか」

 

 座布団というクッションの上で背を丸めるレヴィは、まともにクトーの方を見られない。

 

「だ、だって、倒し方を教わったラージフットが討伐対象だったし」

「それで、その倒し方を実行出来ずに助けられたのか」

「な、なんか変だったのよ。ツノの色も前のと違ったし」

 

 その時、クトーの纏う雰囲気が変わった。

 

「ツノの色が、違った?」

「そうよ、動きも前のより素早かった気がするし、力も強かったと思う」

 

 顎に手を当てたまま聞いていたクトーは、立ち上がると同時にレヴィを見つめた。

 

「なるほど、調べてこよう。レヴィはここにいろ」

 

 そのままクトーは、部屋を出て行った。

 

 

 




お読みくださいましてありがとうございます。
このSSは全3話構成。
明日、明後日も1話ずつ投稿させていただきます。
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