最強パーティーの雑用係 〜おっさんは、異世界の客人を迎えたようです〜   作:エコー

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前回のあらすじ

ピンチに陥ったレヴィは、突然現れた二人、グラナダとメイに救われて──


第2話

 

 

 

 ──夕刻。

 レヴィが落ち込んでいる部屋に、夕食の膳が運ばれ始めた。

 前世で馴染みの食器を見たグラナダは、感嘆の声を上げる。

 

「お椀だ! 和食だよ、メイ」

「はい、よかったですね。ご主人様」

 

 グラナダは喜び、メイはグラナダの為に味を覚えておこうと決意する。

 

「遅くなった」

 

 クトーが帰ってきたのは、人数分の膳が整う少し前だ。

 とりあえず備えつけのお茶でも飲みながら、というクシナダさんの提案で、一同は卓を囲んで座る。

 

「──あのラージフットは、変異種だった。それを教えていなかったのは俺のミスだ」

 

 現場を見てきたクトーは、湯呑みを置く。レヴィは、クトーの意外な謝罪に瞠目し、顔を逸らして俯いた。

 

「ううん、私こそ……勝手なことして、ごめん」

 

 緩やかな風が、レヴィの長い髪を揺らす。

 時折眼鏡を押し上げながら、クトーは腕組みをしている。

 

 二人の様子を眺めるグラナダとメイは、互いに顔を見合わせて、頷いた。

 次の膳を運んできた女将のクシナダを呼び止め、グラナダは耳打ちをする。

 

「僕たちの分は、僕たちの部屋に運んでください」

 

 クトーとレヴィの様子を見たクシナダは、意味ありげに微笑んで、かしこまりました、とグラナダの耳元で囁いた。

 

 * * *

 

「ご主人様」

「ん?」

 

 グラナダとメイが割り当てられた部屋。

 二人きりの食事は、静かだった。

 

「……クシナダさん、お綺麗でしたね」

 

 西京焼きの様な魚を口に運びながら、メイは呟きを漏らす。その目にはもはや光は無い。

 

「ご主人様も、ああいうダイナマイトな女性の方が……」

「メイ」

 

 努めて優しく、グラナダはその名を呼ぶ。

 

「今は、元の世界へ帰ることだけを考えよう」

 

 グラナダの声音は、まだ発育中の薄いメイの胸にすっと沁みていく。

 

「そう、ですね。村を復活させなきゃ、ですものね」

「それだけじゃない」

「え」

「あの村でみんなと、メイと、ポチと、一緒に暮らすんだ」

 

 グラナダはメイの肩を両手で優しく包みながら、柔らかく言い聞かせる。

 その所作に、何より間近で見つめるグラナダの笑みに、鬱屈としていたメイの顔は急激に紅潮した。

 

「は、はいっ!」

「さあ、早くごはんを食べてしまおう。露天風呂が待っているよ」

「露天風呂っ!?」

「ああ、景色を見ながら入れるお風呂だ」

「は、はい、頑張ります……優しくして、くださいね」

 

 メイが何を頑張るつもりなのか解らないグラナダだったが、その花咲く笑顔に水を差すのは何となく気が引けた。

 

 

 

 

 

 

 グラナダは一人、広い露天風呂を堪能していた。

 前世では体験出来なかった、憧れの露天風呂である。

 メイが一緒に入りたいと粘ったが、レヴィが迎えに来てくれたお陰で助かった。

 

「ふう……気持ちいいなぁ、露天風呂って」

 

 垣根の向こうの景色をぼんやりと眺めながら、グラナダは思考をフル回転させる。

 

 ──三日前、俺とメイは魔力の渦に飲み込まれ、突然この世界に飛ばされた。

 俺が経験した異世界ガチャなどではなく、本当に突然だった。

 

 ポチは、元気にしているだろうか。

 帰りたい。

 フィルニーアとメイ。

 三人で過ごした、あの村へ──

 

「失礼する」

 

 よく通る低い声に、グラナダの思考は断ち切られた。湯殿に現れたのは、クトーだ。

 掛け湯を始めるクトーの広い背中に、

 

「クトーさん、良い宿を紹介していただいて、ありがとうございます」

 

 グラナダは頭を下げ、礼を述べた。

 が、クトーは淡々と入浴の準備を進めながらグラナダに応える。

 

「レヴィを救ってくれた恩人に、ぞんざいな扱いなど出来る筈がない。宿代もこちらで持つ」

「そんな、そこまでしてもらっては……」

「気にするな。恩は返せるうちに返せ、だ」

 

 クトーは、あくまで宿代はレヴィを救ってくれた対価だという。

 そんな不器用な優しさに、グラナダは苦笑まじりに頷いた。

 身を清めたクトーは、グラナダから少し離れて湯に沈む。

 

「それに君たちは、この世界の人間では無いのだろう?」

「──気づいていましたか」

 

 グラナダたちは、レヴィには異世界から来たとは語っていない。

 つまりクトーは状況だけでその結論に辿り着き、それは異世界転移が今回の自分たちだけではない、という証左となる。

 

「君が使った魔法は、この世界には無い魔法だったとレヴィが言っていた。しかも、特殊な技術が使われているようだ、と」

 

 たったそれだけの事から異世界人だと推察したのか。

 クトーの洞察力に舌を巻くグラナダは、同時にレヴィの観察眼の高さにも驚いた。

 

「同じ魔法を、同時に放ったらしいな」

「ええ、ミキシングという技術です」

「ミキシング?」

「低位の魔法を複数同時に行使する事で、相乗効果を得る方法ですよ」

「なるほど、そのような方法が普及した世界なのか」

「いえ、普及はしていません。我が師が編み出した独自の技術です」

 

 グラナダは両手を見つめながら、師であるフィルニーアを思い出していた。

 ミキシングの技術も、この両手も、フィルニーアに貰ったものだ。

 それらが無ければ、今の自分は存在し得ない。

 そう思うと、自然とグラナダの目から雫が零れた。

 

「──へェ、異世界にゃ色んな凄ぇ奴がいるんだねェ」

 

 そんなグラナダのセンチメンタルをぶん投げるように、それは突然現れた。

 

「猫?」

「ああ、猫だ」

「……せめて白虎と呼んでもらえないものかねェ」

 

 とても白虎には見えないそれは、湯気のようにぷかりと浮きながら、手にしたキセルをピコピコと動かして笑った。

 

「初めまして、わっちはトゥス。嬢ちゃんの、付き添いみたいなもんさ」

「嬢ちゃん?」

「レヴィのことだ。少し前に色々あってな」

 

 小さな白虎のようなトゥスは、キセルを燻らせながら苦笑を浮かべる。

 その姿にグラナダは、元の世界に残してきてしまったポチを重ねた。

 

「ポチ、元気かなぁ」

「ポチ?」

「ああ、向こうの世界に残してきた神獣です」

「ほう、神獣ときたかい」

 

 グラナダは、ポチと自分の関係を説いて明かす。

 と、トゥスのキセルがグラナダを指した。

 

「もしかしたらそのポチが、あんたらを元の世界に帰してくれるかもしれないねェ」

「どういうことだ」

「どういうことですか」

 

 同時にトゥスへ問うたのは、グラナダとクトーだ。

 

「あんさんとその神獣さんは、魂で繋がってるんだろ。ならその繋がりを辿れば、また元の世界へ戻れるかもしれない、ってことさねェ」

 

 クトーは軽く頷き、グラナダは呆然とトゥスを見つめている。

 

「トゥスはこれでも仙人のような存在だ。知識なら誰よりも蓄えている」

「なるほど……そうか、そうか!」

 

 湯の中でグラナダは立ち上がる。股間が目の高さに来たせいで施設を避けたクトーにも気づかないまま、露天風呂に仁王立ちで両の拳を握りしめる。

 

「もしもまだそこに次元の歪みがあるのなら、飛ばされて来た場所でアクティブ・ソナーを使えば……元の世界とのリンクも可能かもしれない!」

 

 グラナダの発する聞き慣れない言葉に疑問を持つが、それで思考を邪魔するほどクトーは無粋ではない。

 それに何よりもグラナダの希望に満ちた顔が、クトーには好ましく思えた。

 

「明日、やる事は決まったな」

「はい。ありがとうございます、クトーさん、トゥス仙人」

「仙人なんて呼ばれると、何だかくすぐったいねェ」

「すぐにメイに知らせてやります」

「ちょっと待て」

 

 そのまま風呂から上がろうとしたグラナダの背中に、クトーの声音が響く。

 

「ひとつ聞いておきたい」

「な、何でしょうか」

「ポチは……可愛いのか?」

 

 

 

 

 

 




お読みくださいましてありがとうございます。
明日は最終話。
18時に投稿いたします。
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