少し短くなりましたがいい感じにまとまったと思います。
ヘッドホンをいつも首にかけ右目が隠れるほどのロングヘアー。
姉妹に変装しているときはなりきっているせいかハキハキと喋るのだが普段の性格は大人しい。もっと言ってしまえば無口。
加えて引っ込み思案でもあるので友達も多いとは言えない。
中野家の三女中野三玖。
そして三玖が初めて好きになった男子。
上杉風太郎。
自分達に勉強を教えてくれる家庭教師であり同じクラスの同級生。
一度は告白をしたが不発に終わり姉妹達も風太郎に好意を抱き始め今は姉妹間で風太郎争奪戦となっている。
修学旅行では最後の日に風太郎と2人で大好きな歴史の世界に入り込めた。その際に好きという単語を発したがそれは姉妹に向けて言った、ことにした。4人の手助けがあったから風太郎と一緒に行動出来た。風太郎は4人に気付いてなかったようだが。
色々揉めたこともあった修学旅行だったが雨降って地固まると言ったように5人仲直り出来た。
三玖「でも、フータローの1番は譲りたくない」
最初に好きになったから譲りたくない。という気持ちが無いとは言い切れない。みんな風太郎の良さに気付くのが自分より遅かった。自分の方が風太郎の良さに早く気付いた。告白だって勇気を出して言った。ままごとの途中にしちゃったからうやむやになってしまったのは仕方ない。それでも最初は最初。5つ子ともなると順番に結構こだわりを持つようになるのだ。
三玖「みんな後から好きになったのにドンドン攻めていってる。このままじゃフータローが取られちゃう……それは、やっぱりやだ」
二乃が言っていたように姉妹の誰が風太郎と結ばれてもきっと私達は全員祝福出来るだろう。だがそれは結果の話であって道中の話ではない。姉妹全員がそれぞれの思う恋の道を進んでる。三玖に至っては最初にスタートしたのだ。後悔はしたくない。風太郎に選ばれなかったとき心から祝福出来るように。何より自分が風太郎と結ばれるために。
三玖「もっとフータローに好きって気持ちを伝えなきゃ。でもパンばかりじゃさすがにフータローも飽きちゃうよね……食べ物は一旦お休みしとこう」
今バイトしている所はパン屋。
最初は向かいの風太郎がバイトしているケーキ屋にする気だったが二乃に取られてしまった。それならそれで風太郎の好きな自分になれるように。料理上手な自分になって風太郎に振り向いてもらうために。
修学旅行では朝に厨房を貸してもらいパンを作って風太郎に食べてもらった。その時初めて風太郎のお母さんの話を聞かせてもらった。そして自分の作ったパンでお母さんを思い出してくれた。そのことがとても嬉しかった。
とはいえパンを毎日持っていけば段々と嫌気が差すだろう。まだまだ料理は勉強中の身。
凝ったパンが作れるわけでもない。少しパンのプレゼントはお休みだ。
三玖「うーん……パン以外だと何が出来るかな。料理は二乃にまだまだ敵わないし料理以外にしよう。フータローは何をすれば喜んで……ううん、意識してくれるかな。明日の勉強の時間までに考えておこう」
三玖「今日は四葉と2人なんだね」
四葉「そうだねー。最近は5人揃うことも少なくなってきたよね」
三玖「バイトもあるし仕方ない。私も出れないときあるし」
四葉「それもそっか。私も同じだし」
三玖「でもみんなで卒業するためにそれぞれ頑張ってるのはやっぱりいいことだと思う」
四葉「うん!頑張ろー!」
風太郎「邪魔するぞ」
三玖「あ、フータロー。いらっしゃい」
四葉「上杉さん!お待ちしてました!」
風太郎「三玖と四葉の2人か。なかなか全員集まらんものだな」
三玖「仕方ないよ。バイトもあるし」
風太郎「それぞれがしっかり勉強してくれてりゃ何も言わないさ。それに人数が少ないということはそれだけ勉強の密度を濃く出来るからな」
四葉「今日はなんだか上杉さんのやる気が違いますね!」
風太郎「今日は小テストを作ってきたからな!今のお前らの力を見せてもらうつもりだ!」
三玖「唐突なテスト……」
四葉「こ、これは難敵です……」
風太郎「さぁ準備しろ。さっそく開始するからな」
そう言ってテーブルに置いていた教科書や自分のノートを一旦しまい、さながら学校のテストのようにペンと消しゴムだけをテーブルに置いた。
風太郎「さきに言っとくが俺が個人個人に作ったテストだからな。出てくる問題は人によって違う。自分の力を全て発揮してもらうためにな」
三玖「自分の今の実力……」
四葉「頑張りますよー!」
風太郎「よし、始めてくれ」
テスト用紙を手に取り問題を解いていく。
学校ではないにしろテストと言われると体が自然と緊張でピシッとなる。
背筋が伸び無言になる。
昔はテストという言葉が嫌いだった。勉強も同じくらい嫌いだった。風太郎が家庭教師になると聞いたときやる気なんて一切なかった。風太郎のことを突っぱねたのに彼は私の土俵に立って戻ってきた。とても嬉しかった。それからだろう。勉強を通して彼の人となりを知り、自分の長所を知り、それを伸ばしていく楽しみを知った。昔はあれだけ嫌いだったテストと勉強も風太郎となら頑張れる。今だって自分達のために作ってくれたテストのことを考えると胸があったかくなる。
三玖(うん。頑張れる。フータローに今の私を見てもらうんだ)
しばらく無言のままテストが行われた。
部屋に響くのはペンの走る音と時計の音。
一時間のテストは問題なく進んでいき……
ピピピピッ!ピピピピッ!
テストの終わりを告げる時計のアラームが鳴り響いた。
三玖「ふぅ……終わった」
四葉「うーん、難しかったです……」
三玖「結構難易度高かった……」
四葉「疲れた〜……」
三玖「フータロー終わったよ……フータロー?」
風太郎「……」
三玖「あれ?フータロー、寝てる」
四葉「おぉ、珍しいですね」
三玖「確かに」
テストに集中していた2人は横に座っている風太郎がいつのまにか寝てしまっていることに気付かなかった。テスト中の静かな空間と眠気に勝てなかったようだ。
三玖「もしかしてテスト作っててあまり寝てないのかな」
四葉「上杉さんならあり得そうだね」
三玖「少し寝かせてあげよう」
四葉「賛成!」
2人は風太郎をこのまま寝かせてあげることにした。
テストで疲労した頭も少し休ませたかったので小休止にする。
四葉「私飲み物持ってくるね」
三玖「うん、ありがとう」
四葉は台所に向かい三玖は隣に寝ている風太郎を眺めた。
テーブルの上に腕を置いてその上に頭を乗せている。顔を三玖の方を向いているので寝顔がよく見える。
普段はしかめっ面ばかりの風太郎だが寝顔はとても穏やかだ。
三玖「なんか可愛いなフータロー」
無意識に手を伸ばし風太郎の前髪をすくい上げた。
規則正しい寝息をたてている風太郎の顔が目の前にある。
まじまじと彼の顔を見てしまう。
今自分の顔はどんなふうになってるのだろう。
好きな人の寝顔がこんな近くにある。緊張して強張っているのか。それとも愛らしくて笑顔になっているのか。いや、きっと照れてしまって真っ赤になっているのだろう。しかし鏡で確認する勇気はない。
三玖「えへへ、フータロー」
もちろん彼からの返事はない。それでも呼びたかった。
目の前にいる大好きな人の名前を。
普段はこんなこと恥ずかしくて出来っこないのは自分が一番よく分かってる。
こんな時でもないと出来ない。
三玖「頭撫でちゃお」
風太郎の髪に手を通す。
自分の髪とは全く違う手触り。なんだか硬くてチクチクする。髪の毛一本一本も短い。
初めて触った男の人の髪の毛になんだか感動めいたものを味わっていた。
同い年なのに今は風太郎が自分より年下に見えた。寝顔というだけでここまで普段のカッコいい風太郎から可愛い風太郎に変えることが出来るのだ。三玖は彼の睡魔に感謝した。
よく彼を私の隣で寝かしつけてくれたと。
三玖「フータロー、このままじゃ腕痛くならないかな。起きたとき痺れて大変かも」
風太郎は今自分の腕を枕にしている。
腕の上に頭を乗せているわけだから血流が悪くなり感覚がなくなっていく。
そして目を覚ましたときに頭をどけると一気に血が流れる。
すると腕がしばらくの間痺れて動かせなくなってしまう。
三玖「フータローの頭を持ち上げたら起きちゃうよね。どうしよう」
少し考える。
頭をいきなり持ち上げたらさすがに起きてしまうだろう。
なら逆はどうだろうか。テーブルの下に持っていく。
でもどこに風太郎の頭を乗せるか。
答えはすぐに出た。彼が寝ている状況だからこそ出る答え。
三玖「フータロー。おいで」
寝ている彼の横に行き頭をそっと持ち上げて自分の膝に乗せる。
出した答えは膝枕だ。
タイツ越しに彼の髪の毛がチクチクと足に届く。
三玖「結構フータロー重い。男子って感じ」
頭を撫でながら優しく微笑む。
四葉「飲み物持って……わお!三玖大胆なことしてるね」
三玖「あ、四葉。えへへ」
四葉「三玖のそんな顔初めて見たよ。あ、お茶どーぞ」
三玖「ありがとう。なんか今すごい幸せなんだ。フータローに膝枕してるからかな」
四葉「いーなー。私も上杉さんに膝枕してみたいよー」
三玖「今は私のもの」
四葉「今度お願いしてみよーっと」
三玖「そうだ。四葉、ちょっと取ってきて欲しいのがある」
四葉「ん?なになに?」
三玖「耳かき棒」
カリカリッ
カリカリカリ
四葉に耳かき棒を取ってきてもらい膝枕している風太郎の耳かきをしている。
なんで耳かきをしてるかは自分でもよく分かっていないが無性にしてあげたくなった。
なんというか膝枕と耳かきはセットだと感じたのだ。
もちろん風太郎が寝ているからこそ出来たことだ。こんなこといつもなら顔から火が出るほど恥ずかしいし言えない。なんだか少しずつ自分の行動が思い切ったものになっている。
カリカリカリ……
四葉はいつのまにか寝ていた。
テストでよほど頭を使ったのだろう。
カリカリ……
目線を下に戻して風太郎の耳へ。
自分の耳を見たことは無いが彼の耳はなんとなく福耳っぽく見えた。自分より耳たぶが大きいと感じた。ちょっと好奇心をくすぐられ、彼の耳たぶを摘む。プニプニといい感触だ。
自分の耳たぶと比べても彼の方が厚みがあって触り心地が良い。
三玖「フータローの耳たぶ気持ちいい」
プニプニ
カリカリカリ……
耳たぶを揉みながら耳かきをしてるなんとも不思議な光景になっている。
三玖「フータローにこんなこと出来るなんて夢みたい。普段からここまで行動出来るようになりたいな」
カリカリ……
プニプニプニプニ
囁き声で呟く。普段の自分への思い。
昔よりずっと積極的になれたと思う。素直になれたと思う。
けどまだ風太郎の前に立つと恥ずかしさが勝ってしまう。そんな自分を変えるために。風太郎の好きな自分になれるために。出来ることを全力で。たとえ姉妹が敵だとしても。
三玖「みんなと公平に戦えるように。私頑張るねフータロー」
カリカリカリ……
でも今だけは。彼のことを独り占めしたい。
さっそく公平じゃないとは思いつつもこの機会を逃すほど自分はよく出来ていない。
三玖「私のこと。これからたくさん教えていくから。フータローのこともたくさん教えてね」
ふーっ……
風太郎「んっ……あれ、俺」
三玖「あ、おはようフータロー」
風太郎「三玖か……おはよ……って何してんだ」
三玖「膝枕」
風太郎「……すまん。寝ちまってたのか」
三玖「いいよ。私たちのために寝不足になるまで起きてたんでしょ?今は寝てていいよ」
風太郎「今は断る気力が無いがいいのか?」
三玖「うん。いいよ。おやすみフータロー」
風太郎「あぁ……お休み……」
三玖「これからもよろしくね、フータロー」
風太郎「……あぁ」