123756787!   作:リッ菌

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第10話 避難!

「早く……っ! 早く中に入りなさいっ!」

 

……動けなかった。それはショックだからか。それともこんな状況にありながらも先生に再び会えたからか。すぐ近くまで奴らは迫って来てるというのに、先生の怒鳴り声にも似たそれを聞いているというのに、私の足は一歩も動かない。足に力を入れようとしてもどうしても震えてしまって上手く力が入らない。

 

「やっぱり……やっぱり私のせいで……?」

 

私は結局先生を殺してしまう事になるの?

結局私があんな事を言ったから?

先生が今こんな目にあってるのは全部私のせい?

一度決まってしまった結末はどうあがいても絶対に変える事は出来ないという事?

それともこれは本当は夢?

長く続いてるだけの悪夢?

頭の中に次から次へと後悔や願望が飛び交う。

 

「月野瀬さん! 早く! 鍵をっ!」

 

「……ぁっ!」

 

先輩の言葉でハッと我に帰る。

……そうだ、これは紛れもなく現実で、悪夢のような光景ではあるけど、目の前で起きてる事は夢でも何でもない。そして放送室に逃げ込まなければならないというこの状況。

 

「ぁぐっ……ぁっ!!!」

 

「先生ぇっ!!!」

 

気付けば奴らの集団のうちの一体が先生の肩に掴みかかっていた。先生の傷ついた肩だ。先輩は悲鳴を上げ、先生の下へと踏み出そうとしていた。私はその痛々しさに思わず目を背けてしまった。

背後から組み付かれている為かあまり抵抗できてないように見えた。

 

(先生を助けなきゃ、このままじゃ……)

 

でも行けば私の命はないかもしれない。下手すれば先輩までも。

 

(どうしよう、どうしよう……!)

 

目の前の扉の鍵はこの手にある。足は動かなくても手を伸ばせば鍵は開けられる。鍵を開けられさえすれば私たちの身は安全されたも同然だろう。でも本当にそれで良いの? 無事に生きていられたとしてその後は? 私はまた何もできないままこの事を後悔し続けるの?

 

(……いや)

 

それで良いわけなんてない。今から応急処置すれば先生だって助かるかもしれない。私たちだけ助かろうなんて、それで良いはずなんてない!

 

「先生を離して!」

 

奴らへと視線を移していた為か先輩の手はあっさりと振りほどくことができた。そのまま一直線に先生へと駆け寄り、組み付いていた一体を押し退けるようにして引き剥がす。それはバランスを崩しヨロヨロと後退し、背後にいた奴らを巻き込んで波のように引き下がらせた。奴らに隙ができる。先生を助け出すなら今しかない!

タイミングを見逃さずに先生の手を引き先輩の元へと戻る。突然の事で驚いていたのか先生はその動きについていく事が出来ていないようで、半ば引き摺られるような形だ。少しだけ申し訳ない気持ちがあったものの、今はそんな事を気にしている余裕はない。

 

「全く、無茶なことを!」

 

戻るや否や先輩に叱責される。デッキブラシを既に構えていたその後ろ姿からでも、少しだけ笑みを作っているように見えた。

 

「すみません! でもこうしないとって!」

 

私はすぐに視線を扉に移し答える。

私の返答に小さく溜め息を吐きながらも先輩は決意したように告げた。

 

「ここは私が受け持つから月野瀬さん! 早く鍵を開けて二人を中にいれるんだ!」

 

「……はい!」

 

デッキブラシを構えていた先輩に背を向けたまま返事をし、素早く放送室の鍵を解錠する。緊張からくるものか、はたまた恐怖からくるものか、手は震えてはいたけれど、鍵穴はカチリとそれが解除された音を立てる。後は二人を中に入れて安全を確保するだけ。でも要は眠ってるし先生も負傷してるからどれくらいの時間が掛かるか。

奴らは4、5体程だった。数は多いけど距離はそれなりに開いている。いざとなれば先輩も奴らを倒した事があるしなんとかなるだろう。すぐに攻め込まれるという事はない……とは思う。だからといっていつまでも時間を掛ける訳にはいかない。時間を掛ければ掛ける程それだけ危険が増すという事だから。

 

「先生、中に!」

 

扉を開き半ば押すような形で先生を中へと入れる。痛みが相当効いているのかよろめきながら「うぅっ……」と低い呻き声をつつも何とか中へと入るのを確認する。腕からは依然として流血が続いているようで、その腕を真っ赤へ染め上げており、指先からは変わらず血が滴り落ちていた。

 

(先生、あと少しだけ待ってて下さい。今度は私が先生を助けてみせますから……)

 

一度扉から出て今度は要を部屋に入れる為に目を向ける。その様子を見てふと気付いた。本当にいつまで寝ているんだろう。かれこれ2、30分は経っている?

私自身、意識を失ったことなんてないし、そんな人を介抱したことがなければ見たこともない。だからわからないけれど、一度気絶した場合はここまでの時間意識を失っているものなのだろうか。せいぜい10分かそこらだと思ってたけど、さすがにこれは長すぎる……?

 

「まさか、要……」

 

嫌な予感が頭を過ぎる。

一瞬にして思考が停止し、血の気が引いていくのがわかる。寒気を覚える身体とは裏腹に額が湿っていくのを感じた。

今すぐにでも安否を確認したい。……しかし今は外で奴らを食い止めている先輩の事もある。

 

(とりあえず今は要を中に入れないと……)

 

《最悪の事態》だけは頭から取り払っておく。それだけは考えないように、はやる気持ちを抑え要手を引き肩を抱くように起き上がらせる。

 

(要の手、温かい……)

 

体温は感じられるところからすると命に別状はないようだ。

 

(よかった……)

 

ほっと胸を撫で下ろす。詳しい状態は後で調べるとして、それを確認できただけでもひとまずは安心できる。その安心感はまるで無くしてしまった大切な宝物をやっとの思いで見つけた時のような……。

その手を握り、体温を感じた時、脳裏に光景が浮かぶ。

小学校の頃からずっと仲の良かった要。どんな友達よりも一番仲が良かった。自分の事よりも常に私の事を考えてくれて。

屋上でのあの時だって、あれはきっとただ混乱していただけ。言われた時は当然ショックだったし悲しかった。それに頭にもきた。でも仕方ない。……それもそのはず。あんな光景を目を覚ましてすぐに見てしまえば取り乱すのも当然といったもの。……いや、もしかすると、一時の感情とはいえ少なくともその時は本心だったのかも知れない。

それでも要は私の一番の親友であり、一番大事な人である事に変わりはない。

 

(要……)

 

……私はこの子()を喪った時、果たして正気を保っていられるのか……。

 

「早く、月野瀬さん……!」

 

「……ぁっ!」

 

扉からわずかに身を出していた先生の苦しげな声で我に帰る。少し辺りを見てみると先輩が食い止めていた奴らは倒されていた。でもその奥からはすでに複数体の奴らが迫って来ている。

……私はこんな時に一体何をやっているんだろう。この場に留まるという事は先生や先輩はおろか要自身の身も危険に晒す事に繋がるというのに。

しっかりしないと……!

 

「……今行きます! 先輩も早く!」

 

「ああ、わかってる!」

 

奴らが迫り来る中、要を抱え、先輩と共に放送室へと駆け込んだ。

扉を施錠しながら思う。

どうしてこんな事になってしまったのかと。いつまでこんな事が続くのかと。

そんな事を考えるのは無意味であるとは分かってはいるものの、やはり不安なものは不安だ。そして何より、要を思うとより一層。

要……。




かなり久々の投稿……

これからは月1くらいのペースで投稿できれば……うーん

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