少しばかり長くなってしまいましたが、楽しんでいただければ幸いです!
「尾楽さん、またねー!」
「じゃあな!」
「うん、またね!」
クラスの男子や女子に挨拶され、いつものように笑顔で挨拶を返す。うちは共学故に男女共に同じ教室ではあるが、どちらかというと女子の方が多い。いや、全体で見るとそんな事はないのだろうが、少なくともこのクラスだけは何故か女子の方が多いのだ。しかしそんなクラスでも男子も女子もみんな一様に仲が良く、このクラスのみんなとは一度は遊んだことはあるだろう。
だが登下校となれば話は別だ。家も比較的近いし、何よりそれが習慣付いている為、私は一人の人物としか基本的には登下校を共にすることはない。
「要! 帰ろっ」
授業が全て終わり今日の学校での一日は早くも終わりを迎えた。帰りの支度をし、机の横に掛けてある鞄を待ったところで亜実が私の視界に入った。
彼女はもう既に帰り支度を済ませており、鞄を後ろ手に持って私ににこやかな笑顔を見せている。
「うん、帰ろっか」
私の返事で先を行く彼女の後についていく。
後はこのまま帰るだけ……なのだが、教室から出るまで後数歩というところで私はある事を思い出してしまった。
「……ごめん、亜実。私一緒に帰れない」
「へ?」
私の言葉に亜実は少々間の抜けた声で振り返った。
私は今日遅刻してしまったのだ。授業中も先日の夜更かしが祟った為にずっと寝てばかり。それだけの事をすれば、この学校という一つの国の中では大罪。当然、然るべき罰を受けることになる。
「帰れない」と聞いた亜実は少しした後それを理解したのか苦い顔をし「まあ当然だよな」と表情を浮かべた。
「私、先生から呼び出し受けてたんだった……」
「……でしょうね」
毎度毎度遅刻をしては先生に呼び出されている。しかも今回は授業中に寝ていたという2コンボ。
遅刻だけならばあるいは、見逃してもらえたのかも知れないが、授業中の昼寝はさすがに不味いよなぁ。
「……はぁ、帰りのHRで鬼の形相の先生に後で職員室に来るように……って」
今日何度目のため息だろう。そして私は後何回ため息を吐くのだろう。
「ま、やっちゃったもんはしゃーないっしょ。待っててあげよっか?」
「いや、多分長くなるから先帰ってて……」
心配なのか同情なのか、慰めの言葉を掛けてくれる友人に意図せず声量を下げて呟く。
亜実は「でも……」と引き下がらないが、私のしてしまった事に対しての用事の時間に、彼女も付き合わせるのはさすがに申し訳ない。
「ごめんね、せっかく一緒に帰ってくれるのに……」
私は俯きながら死人のような、さながらホラー映画に出てくる化け物の如き足取りでゆっくりと教室を後にする。
「ああ、やっぱり怒られるのかなぁ……」
怒った先生の顔は何度見ても恐ろしい。いや、先生自体が怖いわけではない。暮斗先生は若いし、顔も女の私がこう思うのもあれだが凄く美人だ。優しい時は優しいし、私は暮斗先生が担任でよかったと思っている。
だが怒った時は別。
その時の先生の表情と言えばまるで泣く子も黙る地獄の鬼のようで屈強な男でさえも逃げ出すだろう。
「……誰が地獄の鬼なんですか」
「!?!?!!??」
突然の先生の登場に声を上げるのも忘れて勢いよく後ろに数歩下がる。というか私、声に出てたんだ……。やっべえ。
「せせせせせ先生! い、い、今のは違うんですぅぅ!!」
慌てふためき身振り手振りの渾身の動きと声色で弁明を図る。
先生は朝と同じように呆れた声で、一つため息を吐くと私の手を取った。
「まったく、いつまでも来ないと思ってたら廊下のど真ん中で、一体何をやってるの?」
「せんせぇ……」
今でこそ鬼の形相ではなかったが、私はあえてベソをかいているフリをしながら先生を見つめる。
先生はそんなことお見通しのようで、またしても呆れた顔をした。
「明日の授業で使う教材を運ぶのを手伝って貰おうと思ってたのに」
「ふえ?」
先生の口から出た言葉は予想外のものだった。今日遅刻したこと、授業中に寝た事へのお叱りではなく、教材を運ぶのを手伝って貰おうとしていただけ、と。
あまりの予想外の言葉に力が抜けた私の声は間抜けそのものだった。
意外そうな顔をする私に先生は続ける。
「まさか怒られると思ってたの? 先生だって忙しいし、それに朝のHRで言ったでしょう?」
HR……。一体何のことだろう。
正直全く話を聞いていなかった私はHRの話なぞ全く聞き覚えがなかった。
何のことか分かっていない私に「あなたねぇ……」と、首を軽く左右に振り先生はゆっくりと説明を始める。
「昨夜この近辺で不審者が目撃されたから寄り道はしないようにって話をしたでしょう? だから長くなりそうな事はやめて、代わりに教材運ぶのを手伝って貰おうと思ってたのよ」
「そ、そうなんですね、あははー……」
誤魔化そうと無理やりに笑顔を浮かべ、後頭部を右手で撫でる。
「まだ少しだけ残ってるから尾楽さんも手伝って頂戴」
「わかりました!」
直接怒られるわけではないと知った途端から今までの不安が全て消える。嫌な授業や用事が終わった後などは一気に元気になるものだが、これもその類のものだろう。
先生は「こっちよ」と私を誘導し、目的の教材が置いてある場所へと向かう。
「それにしてもあなたはどうしてこうも遅刻ばかりするのかなぁ?」
向かう道中、先生が私へと投げかける。
遅刻はよろしくない事だとはわかりながらも夜更かしはしてしまう。言ってしまえばそれが原因なのだが、はっきりそうだとは言えず。
「いやぁー、最近家のことが忙しくてですねぇ……」
と、つい誤魔化した。
「まあ、尾楽さんのご両親は二人とも働いているから、家事とかも自分でしなくちゃいけないのはわかるんだけど……」
確かに私の両親は共働きではあるが、両親は両親で家事はやっているらしく、実のところ私がやることと言えば自分の分の炊事、洗濯程度である為、そこまでの負担はないのだ。
なんだか両親のせいにしているような気がして少しだけ胸が痛むが、私自身への物理的な痛みや精神的な痛みには変えられない。
途中ピタリと先生が止まり、思い付いたかのように私へと振り返る。
「これからは先生が毎朝起こしに行きましょうか?」
「えっ!?」
思わず想像してしまう。毎朝ギリギリまで寝ている私に朝から叱る先生。朝からあの鬼の形相を見ることになれば、それこそ毎日が生きた心地がしない。
「だ、大丈夫ですよぉ〜!」
「どうして? 先生が迎えに行けば遅刻しなくて済むんじゃないの? 校長には私から言って……」
先生の"ホンキ"の眼差しに冷や汗をかきながらたじろぐ。
「そ、それにほら! 私毎朝亜実と一緒に登校する約束してるし!」
「う〜ん?」
先生は一瞬考えた素振りを見せたが、少しして諦めたのか「それもそうねと」前へと向き直り再び歩き出した。
しばらく会話がないまま廊下を進む。もう下校時刻は過ぎており、校舎には殆ど生徒は残っていない為、二人の足音が響くだけの廊下で少しばかり気まずかった。
そしてまたしばらく歩いたのち、ふと先生が呟く。
「そういえば最近変なことばかりよね」
「変なこと、ですか?」
変なこと。その言葉に妙に引っ掛かりを覚えた。
「そう。昨日は昨日で不審者の目撃があったばかりだし、つい先日だって近くの山にヘリコプターの墜落事故があったでしょう?」
そういえばそんな事があった気がする。この学校からも見える山。そこに一機のヘリコプターが墜落した。その日は授業中であった為、今でもその時の事は覚えている。
近いとは言っても一番近くの山、という意味であり、物理的な距離自体はそこまで近いわけではない。墜落した時も山から煙が上がっている、程度の認識しかなかった程度だ。だとしてもヘリコプターが山に墜落することなど普通は目にする機会などまずないだろう。そういう意味でも私の記憶にはその時の光景を鮮明に思い出せるほど焼き付いていた。
「その前には隣の地区で男女の殺人事件。しかもまだ犯人は捕まってない……」
それも覚えている。それをニュースで見た私はあの時も今日と同じようにギリギリで家を飛び出し、見事に遅刻した上、先生に怒られているのだから。
「今日はこれが終わったら先生が家まで送っていきますからね」
うーん、先生に送って行ってもらえるのは嬉しいが、私自身結構なコミュ障であんまりにも会話が続かない時間が続くと気まずい訳なのですが……。
そうなった場合、ここから家までが近いというのが唯一の救いか。
「さ、着いたわよ」
気付けば教材置き場の前まで来ていた。他愛のない話をしてる時ほど時間が経つのが早く感じるものだ。特別会話に夢中になっていたわけでも盛り上がっていたわけでもないけど。
先生が鍵を開けている間、後ろで何かを感じる。
振り返ってみると、そこの窓は開いており、吹き抜ける風が私の後ろ髪を撫でていた。
「ここだけ窓開いてる……」
他の窓は全て閉まっているのに何故か私の後ろの窓だけは開いている。換気か何かで開けたまま閉め忘れたのだろうか?
なんとなく気になり窓を閉めようと近づいた時、ふとあるものが視界に入った。
(あれは……?)
まず見えたのは校門。そしてそこの近くで倒れている人影とその人物に覆い被さるもう一つの影。距離がある為男女のどちらかかはわからないが、何やら倒れている人物はもがいているようにも見える。
それが喧嘩か何かに見えた私は、既に鍵を開け終わり、教材を運び出していた先生を慌てて呼び止めた。
「先生、あれ! あんなところで喧嘩してる人たちがいる!」
「えっ……!?」
先生は持っていた教材を床に置き、足早に窓へと近付いた。
しばらく見つめたのち、勢いよく振り返った先生の顔は青ざめていた。
「尾楽さん! 今すぐ先生と来て!」
それだけいうと先生は急いで窓を閉め、私の手を取り駆け出した。
何が何だか分からない私は先生に連れられるままその意図を聞いた。
「え、教材は!? てか急にどうしたんですか!?」
「そんなもの、今はいいわ!」
余計に訳が分からなくなる。なぜ急にこんなに慌てているのだろう。喧嘩を止めるだけなら先生お得意の大声で一度窓から注意すればいいものの……。
喧嘩を直接止めに行くのか。それともいくら先生と言えども女性だ。男子の喧嘩の仲裁に入った所で逆上した生徒が先生に殴りかかるかもしれない。それを危惧して他の先生に仲裁に入るよう促しに行くのか。
何か考えあっての行動ではあるのだろうと色々と思考を巡らすものの、やはりその意図は掴めない。気になりながら頭を捻っていると、突如周囲に携帯の着信音が響き渡った。
(こんな時に、誰?)
その音源は私のスマホだった。鞄から取り出し液晶を確認する。
発信相手を見ると、相手は亜実。
着信のボタンを押し、携帯を耳に押し当てる。
電話のスピーカーから聞こえてきた亜実の声は今まで聞いたこともないような声色だった。
「要! 今どこ!?」
「え? まだ学校だけどーーー」
話している途中を遮って亜実は捲くし立てるように言った。
「学校から出ないで! 教室にいて!」
「え……?」
さてさて、第2話、いかがだったでしょうか?
本当はもっと引き延ばすつもりだったのですが、作者自身、我慢できなくなってしまってまさかの急展開笑
バイオハザードやがっこうぐらし!から触発されている通り、この作品もそういう作品です笑
今後一体どうなって行くのか……!
外で喧嘩を目撃してしまった要ちゃんですが、果たしてそれは一体なんなのか!
先生は何を見てしまったのか!
そして亜実の電話の意味とは!
次回もよろしければご期待ください!