前回、ラストでまさかの事態が起きようとしていた訳ですが、二人が見たものとは一体何なのか。
その答えが、これだ
1、2、3!
先生に連れられ、長い廊下を走る。
先生はどこに向かおうというのだろうか。先ほどの亜実からの電話のこともある。
ーーー教室にいて!
電話で亜実はそれだけ言うとすぐに通話を終了してしまった。とても焦っているような、そんな雰囲気だった。私と亜実は中学からの付き合いがあるものの、あんな亜実の声を聞くのは本当に初めてだった。それだけに、何か良くないことがあったのではないかと勘繰ってしまう。
それにそれより少し前の先生との話のこともある。ここ最近この近辺で事件、事故が多発しているといったもの。ただの偶然だと思いたかったが、それにしてもこの異様な偶然の連続は私の不安感を煽るには充分過ぎた。
「はぁっ、はぁっ、先生!」
息を切らしながら先生を呼ぶが、先生は走るのに夢中なのか、それとも私の声が聞こえていないのか、反応を示さない。
運動部でもない私は体力が多い方ではなく走りながら喋り掛けるのは辛いが、何も反応が無いことに堪らず先生へもう一声。
「どこにっ……どこに行くんですかっ……!?」
一体先生は何を見てここまで必死に走っているのか。この問い掛けにも尚も先生は沈黙を続ける。
廊下を駆けながら角を曲がり、いよいよ正面玄関まで辿り着いた。
(校庭……?)
だが先生は未だに私の手を離すことなく、玄関を抜け、そのままグラウンドへと駆け出す。
(まさか、直接怒りに行くの……?)
もしあれが本当に喧嘩であるならば、いくら教師と言えども果たしてあれを止められるのか。
……まあ、止められるだろう。先生ならば。何せ先生の怒った顔はクラスの男子ですら恐れている程。普段はとてもいい先生なだけあり、怒った時はとてつもなく怖い。学校中で先生を怒らせるのはタブーとされているほどだ。先生もこんなことで有名となれば迷惑極まりないだろう。
息を切らしながら走ったのち、いよいよその問題の二人へと辿り着いた。
「こら! あなたたち! こんな所で何をやってるの! やめなさい!」
先生は二人へ近づくや否や大きな声で怒鳴りつける。
取っ組みあっていた二人は驚いた顔で先生と私を見詰めた。
「せ、先生! 違うんすよ! コイツが先に……」
「何が違うって言うの! 校内で喧嘩は許しません!」
未だ取っ組みあっている二人へ強引に近づき、勢い良く引き剥がす。
先生の力が強かったのか、二人が疲れていて体力がなかったのか、覆い被さっていた男子生徒はそのまま後ろへ尻餅を着いた。
「いてて……」
取っ組み合いをしていたのは二人の男子生徒だった。恐らくクラスが違うか学年が違うかで私は二人に見覚えはなかったが、元々先生のクラスの生徒だったのか、先生はその男子生徒二人に見覚えがあったようだ。
特に覆い被さっていた方の男子には。
「まったく、あなたはまた喧嘩して……。これで何度目よ!!」
「だからせんせっ……ッ!」
この男子生徒の驚きようを見る感じ、男子生徒が見上げた先には例の如く鬼のような形相の暮斗先生の顔。なのだろう。
私は少し後ろにいる為にその顔は見えないが、きっとそうなのだろう。よかった、こっちから見えなくて。
「いい加減にしなさいよ……?」
男子生徒は慌てて倒れているもう一人を起こす。よく見るとその生徒の顔には痣があり、さらにはマウントを取っていた方の顔は唇の端が唇色それよりも赤く見える。それは思春期男子特有の喧嘩の激しさを物語っていた。
「ご、ごめんな! その……ホント悪かったよ!」
「い、いいって……! 俺も調子に乗りすぎたからさ」
慌てて男子生徒は下の生徒は謝罪を述べる。その二人の会話はとてもぎこちなく、本当に心から謝罪や許しの気持ちがあるのか疑わせるものだった。
……先生の前ではそれでも仕方ないだろう。ある意味喧嘩で傷付く怖さよりも先生の怒った時の怖さの方が何倍も恐ろしいというのは、先生にもお気の毒な話だが。
「あなたたちはすぐ喧嘩するから。まったくもう、たまには仲良くできないのっ!?」
「い、いや、俺たちもう普通に仲良いっすよ、な!」
「あ、ああ! もちろんよ!」
わざとらしく握手をして見せる。
だが先生の言葉から察するに、この二人は毎回喧嘩しては先生に怒られているようであり、もはやこれは恒例行事のようなモノなのだろう。やるなら先生の確実にいない場所でやればいいものを、下校途中に言い争ったりでもしたが為にこんな所で喧嘩になんてなってしまったのだろうか。
「こんな所で喧嘩なんてしてないで、早く帰りなさい!!!」
「はっ、はい!」
「すみませんでした!」
二人は地面に落ちた鞄をそれぞれ拾い、一目散に駆け出そうとする。……が。
「待ちなさい」
「は、はい?」
「……なんすか?」
先生はそれを呼び止めた。
あれだけ怒ってまだ怒るのだろうか。二人は形だけでも反省しているようだし、取り敢えず許してあげても良いのではないだろうか。
だが先生は先程の荒げていた声から一転、優しめに、落ち着いたトーンで二人へ告げた。
「そんな顔して帰ったらご両親も心配するでしょう。保健室で手当てしてから帰りなさい」
先生の優しげな声に私はどうした事かと違和感のないように前へ半歩ほど進み、気付かれぬよう先生の顔を横目で見た。
その顔は今日だけで何度見たか分からない呆れ顔少しと、その中にある優しげで、いつもの綺麗で美人な暮斗先生そのものだった。
男子二人もその先生を見てようやく安心したのか、元気よく「はい!」と返事をし校舎の中へと入っていった。その姿はやはりぎこちないが、それでもその二人の仲は元々良かったものだと推測するのは簡単だ。
「……ふぅ」
難事も去って先生も一息つく。怒ることはやはり疲れるのだろうか、首に手を当て軽く回したその姿はさながら難なく敵を倒した映画のヒーローのようだった。
「あの二人はね、本当はすごく仲がいいのよ」
「……そうなんですか?」
少し苦笑しながらそう言う先生に私もつられて苦笑しながら返してしまう。
言葉ではこう言いながらも私も去っていく二人を見て本当はそうなのだろう、と思っていた。同時に先生もやはりあの二人の事を大事な生徒であると認識しているというのが分かった。
「さて、戻りましょうか」
「……え?」
先生の不意をついた一言に私は思わず聞き返してしまった。
喧嘩していた生徒二人の件は無事解決したし、保健室にいる以上、今更喧嘩なんてする気にもならないだろう。そもそも私はこの喧嘩の仲裁の件に必要だったのだろうか。いや、絶対に必要なはずない。ただ間近で先生の怒鳴る様子と男子二人の怯える様子を見ていただけだ。
もう時間も大分経ったし、帰ってもいいんじゃないの?
「あの、先生」
「? 何?」
「私はまだ帰れないんでしょーか?」
私の質問に先生はクスリと笑い、ゆっくりと答える。
「教材運びがまだ終わってないでしょう?」
「!?」
嘘……でしょ?
あれだけ早く帰るようにとか言っておきながら、まだ私は帰ることが出来ないの!?
なんで、どうして……。早く帰って不審者さんの動画を見たいのに……。
「大丈夫、帰りは先生の車で送って行くから」
「……何で」
私はこの際だからと先程から抱いていた疑問をぶつけてみる事にした。
「何でわざわざ私を連れて来たんですか……?」
先生は「あーそれはね」と一言置くと続けてその理由を説明した。
「一人でいたってしょうがないでしょ? 私の目の届く範囲で喧嘩をするとどうなるかって言うのを尾楽さんにも見てもらおうと思ってね……」
ニッコリとした優しい笑顔でなんてことを言うんだ、この
少しの間を置き続ける。
「それに、尾楽さんにも友達と、出来ることなら喧嘩なんてして欲しくないもの。まあ、全部が全部ダメって訳でもないけど……」
その言葉と笑顔は優しさ、慈愛に満ち溢れていた。
一瞬私も納得しかけてしまったが、疑問はこれだけではない。
「じ、じゃああんなに急いでたのは!?」
「二人が喧嘩していたもの、教師として可愛い生徒の喧嘩は早く止めないと」
……そういうことか。
小学生や中学生の頃は正直言ってロクな先生がいなかったと思っていた。クラスでいじめがあっても無視したり、面倒ごとはとにかく避けたり。私は高校に入ってもどうせそんな先生ばかりなんだろうと思っていた。
やはりこの先生はどこまでも先生であり、やはり私の担任の先生でよかったと心から思う。喧嘩もしっかり止める事が出来て、誰からも尊敬されている。
改めて私は
全部の疑問が晴れた私は妙に納得した気分になっていた。
元々は遅刻した上に、授業中にまで寝ていたのが悪いんだ。大人しく教材運びを手伝わないと。
私はそう思い、先生と共に再び校舎の中へと戻って行った。
はい、というわけで相変わらずの短さですが、第3話、いかがだったでしょうか。
二人が見たものは結局ただの男子の喧嘩だったわけですね!
いや〜、いきなりやばい展開にならなくてよかったと、作者ながらにして安心しています。
実はあのまま突っ走ろうかと思ったのですが、やはりこの展開だと早すぎる、というわけでもう少しだけ日常で引っ張ろう思いこの展開でした。
なんかこう、展開が強引かなぁと思うところもあり、うまく日常を掛けているかは分かりませんが、先生がどういう人なのかを垣間見る事が出来たのかな、思っております、
次回はまだどんなものにするか決めかねているところですが、次回も楽しみにしていただければと思います。
ではまた!