今回から話が少しづつ進んでいくのかな、と作者は勝手に思っております。
またしても先生と二人きりになってしまった要は、無事に教材を運び切ることが出来るのか!
校舎へと戻り、先生の後をついて行く。教材を運び込む為に再び長い廊下を歩いているのだが、どうしてうちの学校の廊下はこんなに長いのだろう。外から見たときはそんな感じはあまりしないのに。空間が歪んでいるのか、などとあるはずもないSFチックなことさえ考えてしまう。見ただけのものと、実際のに感じてみたものとでは多少違いを感じたりする事があるものだが、まあ、これもそういう事だと思っておこう。
やがて見えた階段を上り、2階へ出たところで右に曲がる。
「せんせー」
「ん? なあに?」
呆けたような私の声に先生は軽い笑みを浮かべながら振り向いた。
「あの教材ってどこまで運ぶんですかー?」
段ボール箱3つ分ほどの教材は実際に触ってみるまで重さなどは分からないけれど、手伝いが欲しいとなるとそれなりの重さはあるのだろう。教科書のような本は一冊であれば重さは当然大したものではないが、それが10冊、20冊ともなればそれなりの重さは覚悟しなくてはならない。
段ボール箱3つ分に詰めているものとなるとやはり雑誌や書類か何かなのだろうか。私は運動部でもなければ勿論、男子のように力がある訳でもない。あまりに重たいものを持つようであれば私程度のものではあまり助けにはならないだろうに。
「職員室までよ。尾楽さんもいるもの、明日使う分だけじゃなくて、今後使うものも今のうちに運んでおこうと思って」
「うへぇ……」
やはり私も持たなくてはならないのか。仕方ないと言えば仕方ないが、せめて廊下はもう少し短かったら良かったのに。
元いた教材置き場まで辿り着きくと先生はそれを一つひょいと持ち上げる。
「ほら、尾楽さん」
先生は重たくないのだろうか。いや、案外簡単に持ち上げている為、少なくともあれは女子の力で持ち上げられるものではあるということ。
想像していたものではなかった為少しだけ安心して両手を差し出してその荷物を受け取る。
「うっ……!」
私の手に触れた瞬間に先生の手から離れたそれは先程までの私の想像を容易く裏切った。
ずっしりと重みのある教材をうっかり落としそうになるが、すんでのところで踏ん張り、持ち堪える。
「な、なんで先生はそんなに簡単に……」
「ん? どうしたの?」
段ボールを2段に重ねたそれを持つ先生の表情はとても涼しげで、まるで重さなど感じていないかのようだった。
疑問に思った私は一度自分の持っている教材を置き、先生の持つ教材へと手を掛ける。
「お、重っ……」
それは上一つを持ってもとても重たかく、少なくとも私が待てるようなものではなかった。
「……何をやってるの?」
「……なんでもないですー」
目を細め怪訝な表情を浮かべる先生に私は諦めて自分の荷物を持った。私の持つものも確かに重たいが、先生の持っているものよりも軽いのは間違いない。
「……あんなに重いものを二つも……。もしかしたら先生は本当に鬼なのか……」
「……尾楽さん?」
ボソッと呟いたつもりだったのに、それは先生の耳にはしっかりと聞こえていたようだ。怪力、鬼の形相、地獄耳と、もはや先生は
慌てて笑顔を見せ、荷物を持ちながら先生の後を追う。
「いやぁ〜、それにしてもさっきの先生かっこよかったですよ!」
今の呟きを忘れさせるかのように先程の校庭での件の話を振る。ご機嫌取り……と、言えばそれまでだが、この言葉に嘘はない。……いや、やっぱりご機嫌取りの方が大きいです、はい。
「……あんなの普通よ」
「え?」
急につい先程までの先生の声のトーンから、シリアスなものへ変わり、私は耳を疑ったのかと、つい聞き返してしまう。その足取りは普段よりゆっくりと、
重たいものに見えた。
「もうあんな事にはなりたくないもの。私のせいで、私が守れなかったせいで……」
「……先生?」
いきなりどうしたのだろう。先程までの先生の元気さはなく、絞り出された声はとても弱々しいものだった。
普段から怒られており、それのお陰か他の生徒達よりも普通に話すことの多かった私は、先生の事を多少は知っているつもりだった。それでも、やっぱり人には触れられない部分、触れてはいけない部分というものがある。この聞き慣れないほどの弱々しい声は、その触れられない部分に含まれるものなのだろう。
あんまりしんみりするのも嫌なので、私は慌てて話題を変える。
「そ、そう言えば昨日見た動画凄く面白かったんですよ!」
「あら、動画?」
よしっ、食い付いた!
やっぱり先生にはそんな今にも折れてしまいそう声は似合いませんぜ!
「そうなんです! 私の好きな動画なんですけどね、ゾンビが来た時のためにとか言って、自作で簡単な武器を作ってる人がいるんですよ!」
「あら、それは少し物騒ね……」
困ったような声で言葉を返す。……まあ、先生という生徒を守り育てる立場の人間からしてみれば武器を作っているような怪しい人間が誰でも見られる動画投稿サイトに動画を上げているなど、あまり好ましくはないだろう。
でも、一度食い付いた話題を逸らしてまたさっきのような空気になってしまうくらいならと思った私は話を続けた。
「でもですよ! これがまた面白くて! 武器を作り終えた後にそれを試しに使うんですけど、その時の姿がもう必死で必死で!」
やば、思い出すだけで笑いが込み上げてきそうだ。
「うーん、でもやっぱりそんなのを見てるっていうのは先生からしたら少し、心配かな」
「大丈夫ですよ! 面白いんで! そのせいで昨日は夜中まで見ててですね……あ」
そこまで言って私は口を噤む。
待てよ、わたし今余計な事言わなかったか?
面白いから、夜中まで見ててって……。
恐る恐る先生の頭を見やると背筋がゾワリと震えた気がした。いや、こ、これは大気が震えている……?
「尾楽さん、今なんて……?」
「あ、あわわわ……せせせ先生……」
私が言い訳を考えてシドロモドロしていると、そこにまるで空気などないかのようにゆらりと首をこちらへ向けた。大気が震え、逆光のせいで顔に影がかかり、覗いた目だけが光を反射して光っているその様はまさに
「さっきあなた言ったわよね? 家事で忙しくてなかなか起きることが出来ないって……?」
「あうあう……ちちち、違うんですよ、今のは言葉のアヤってやつで……」
必死に言い訳をしたが、もう時既に遅し。
「ぜんっぜんっ反省していないじゃないのーーーーー!!!」
「ぎゃーっ! ごめんなさーーい!」
暮斗彩という火山が噴火した瞬間だった。
私はその火山から放たれる噴石に身を焼かれないよう、うずくまり教材の重さも忘れて頭を隠した。
しばらくそうしてブルブル震えていると、聞き覚えのない声が出て聞こえた。
「先生、何やってるんですか?」
恐る恐る顔を上げると先生も既にそちらへと顔を向けており、私のことなど気にも留めていない様子だった。これは思わぬ救世主が来たと、安堵する。
「あら、
私は腰を上げ、その南方と呼ばれた生徒へと目を移した。
髪型はショートで、濃い青がかった黒をしている。スラっとしており、その立ち姿はどこか凛々しさを感じる。
「はい、今日は部活も休みなので帰ろうと思ったのですが、忘れ物をしてしまいまして……」
冷静にそれだけいうと、視線を先生から今度は私へ向けた。
そして涙目になっている私を見て状況を察したのか、ふふっと軽い笑みをこぼした。
「先生、あんまりいじめちゃダメですよ。私にとっても可愛い後輩なんですから」
どうやらこの天飛という女子は自分の先輩であり、何かの部活に所属しているようだ。
そしてこの天飛先輩に先生も"いじめちゃダメ"などと言われ、黙っていることは出来ないらしく、静かに言った。
「はぁ、あのね、これはそういうんじゃないのよ。第一、私にとっても可愛い生徒なんだから。いじめるだなんて、そんなことするわけないじゃない……」
それを聞いた天飛先輩はまたしてもふふっと笑みをこぼす。
「わかってますよ。今のは冗談です。先生がそういう人じゃないって私、よく知ってますから」
天飛先輩も元々先生の生徒だったのだろうか。
それにしてもこの人、かなり出来る……。
あの怒り状態だった先生とこうも対等に喋るなんて……。
何がともあれこの場を鎮めてくださって先輩様様、ありがとうございます。
「まったくもう……。さ、あなたも忘れ物を見つけて早く帰りなさいね」
天飛先輩へ諭すように帰りを促すが、先輩はまだ何かあるのか、その場から動こうとはしない。
「? どうしたの?」
先生が尋ねると、天飛先輩は何も言わずに先生の両手に積まれている段ボールを一つ手に取り、私と先生の顔を交互に見た。
「先生、二人よりも三人の方が楽ですよね。私も手伝いますよ」
ニッコリと微笑むその顔はまさに天使そのもの。いや、今の私にとっては窮地を救ってくれたヒーローであり、神様である。
「あら、悪いわね。どうせもうこんな時間だし、帰りは送って行くからせっかくなら手伝ってもらおうかな」
こうして私と先生、二人だけの空間に新たに天飛先輩という頼もしい人物が加わったことにより、少しだけこの場が愉快なものとなった。
……願わくばこのこのような平穏がいつまでも続きますように。
さてさて、第4話、いかがだったでしょうか!
今回から新たに天飛という女子が追加されました!
やっぱり人数が増えるとラク……いや、楽しいですね!
さて、今まででバイオハザードとかがっこうぐらし要素皆無じゃんと思ったそこのあなた。
実はちゃんとゾンビ要素や、ウイルス?の設定までそれっぽいのを考えてますので、そのうち出てくると思いますよ!
ではでは、今回はこの辺で!
次回も楽しみにしてください!