要ちゃんはそれらを生徒と言っており、会話もしていたが、果たしてそれは本当に現実なのでしょうか
雲行きが怪しくなってきましたが、第7話、スタートです
※今回は天飛先輩目線です
尾楽さんが倒れた奴らの身体を揺さぶっている。
この子は……本当に心から心配しているようであり、懸命に看病しているように見える。
奴らはもう人類という輪から外れてしまっている、言うなればゾンビのようなもの。
身体の色は赤黒く、目は虚ろで、そのだらしなく開けられた口からは例えるとすれば生きている人間に対しての呪詛のような、声にならない声を上げている。
それだけの違いがありながら尾楽さんはまるでそれが本当の、生きている人間かのように接している。
(彼女には一体あれがどう見えているんだ……!?)
まさか、
もしそうだとすれば今の奴らを彼女の視界に留めておくのは非常に危険だ。
何としてでも彼女の視界から奴らを排除しなくてはならない。
「っ!」
やがて倒したはずの奴らの内の一体がゆっくりと立ち上がり、別の奴らの身体を揺すっていた尾楽さんへ顔を向ける。面食らっていた私は反応が遅れ、数瞬遅れてデッキブラシを構え直そうと手に力を入れた。
しかし尾楽さんも起き上がったそれに気が付いたらしく、私が構え直すよりも早く、立ち上がりそれへ向かって微笑んだ。
「良かった……大丈夫ですか?」
目の端から涙を流しながらも安心した様な声色で、仕留め損ねた奴らの内の一体に話し掛けている。
やはりおかしい。間違いなく私たち全員には奴らが"奴ら"であるようにしか見えないのだ。声を掛けられたそれは当然返事をするわけもなく、代わりに発せられた声はもうここへ来るまでに何度も聞いた、そして今この時にも何処からか聞こえてくる呻き声のみ。
だが、尾楽さんはそれが言葉に聴こえているのか「本当ですか?」と涙交じりの声で会話をしている。
「大した怪我じゃないって……そんなわけないですよ!」
私はその目の前のやりとりに言葉を忘れ、ただ呆然と立っていることしか出来なかった。本当はすぐにでも奴の頭を叩き割らなければならないのだろう。しかしこの目の前の光景はそれすらも忘れさせて呆気に取らせるほど不気味で異様なものなのだ。先生も月野瀬さんも何も言わない辺り、私と同じ心境なのだろう。
(ん……? 奴の様子が……何か変だ)
奴とのやりとりの中で私は疑問に思った。
頭を回転させる。
なんなんだ、この不自然な感じは。
私達が奴らに見つかった時には奴らは水を得た魚のように真っ直ぐこちらへ向かってきていた。でも今の彼女には……。
……まさか。
(襲われ……ない?)
……そうだ。何故か奴は尾楽さんに話しかけられている間は一切目の前の彼女を襲おうとしていない。
改めて彼女を見ると楽しそうに
それは尾楽さんの言葉や声のトーンなどに何かそういった作用があるのか、はたまた私の攻撃で奴の動きがそういったものになったのか。
奴らのことを何か知っているわけではないが、奴らのあれほどまでの凶暴さを見てそんなことあるはずがないと確信づいている。
「でも念の為に保健室行きましょうよ!」
彼女の数回の
奴は本当にそのまま彼女に手を引かれ大人しく保健室に連れて行かれるのか。
かなり危険ではあるが、同時にこれから何度も相対するであろう奴らの行動原理を知る切っ掛けになるかも、と興味もある。
そんな思考も束の間、次の奴の行動は明らかなもので私のこの考えがいかに愚かなものだったかというのを後悔させた。
「えっ! な、何っ……!?」
照れたようにキョトンとした彼女の肩に奴は手を掛ける。
そのまま掴んだ彼女のその肩へと顔を近づけて行く。
大きく開かれたその口には唾液の線が引かれ、それはすぐにでも彼女の肩へ喰らい付こうとしていた。
「っ! 要ぇっ!」
「……まずい!!!」
やはり気のせいだった。彼女の声に奴らを黙らせる特殊な力なんてないし、私の一撃はただ奴の急所を僅かに外していただけだ。
デッキブラシの持ち手を反転させ、大きく踏み込み何も付いていない棒の先端部分で奴の顔目掛けて渾身の突きを放つ。
それは見事に奴の右目に突き刺さり、グチュリと嫌な音を立てながら棒の先を赤く塗らす。腕にもその感覚は伝わってきて思わず吐き気を催しそうになる。胃から込み上げてきそうになるそれをどうにか抑え込み、今度こそは確実に息の根を止めなくては、と後ろ扉へ着くように腕を伸ばしきる。
奴の頭はそのまま扉へとぶつかり、ドスン、と鈍い音を響かせながらその動きを止めた。
「はぁっ、はぁっ……」
緊張のせいか切らした息を整えながら足で奴の胴を押さえながら棒を持つ手に力を込める。
またしても何とも言えない水音が混じった嫌な音を立てながら棒は勢いよく引き抜かれた。思いの外血はあまり飛び散っていない。
支えを失ったその亡骸は背で扉を擦るようにズルズルと崩れ落ちていく。
「尾楽さん、大丈夫……」
彼女の安否を問いながら振り向くと、その目線は奴らを見ていた時のものとは違い、異形の者を見るかのような目付きだ。
「あっ……あぁ……っ!」
恐怖とも怒りとも見えるその目は大きく開かれ、両手で押さえられた口からは震える声が発せられる。
「尾楽さん、しっかり……」
「来ないでっ!!!」
私が数歩近寄ろうとするもののそれはすぐさま彼女の悲鳴交じりの怒声で制された。
完全に怯え切っている。
……無理もない。私の想像が本当に正しければ、彼女の目には私は散々に奴を痛めつけた挙句無抵抗の同じ人間の一般生徒を殺害したように見えたのだから。
「どうして……どうしてこんなことに……」
「要……」
「っ……!」
彼女は崩れ落ち、ぺたりと地面へ座り込む。それと同時に月野瀬さんが彼女の目の前へと駆け寄る。先生はそんな教え子の痛々しい姿を見ていられなかったのか、悔し気に目を背けていた。
今の彼女の精神は極めて不安定だ。まだギリギリ心を繋ぎ止めているのかも知れないが、その繋ぎ止めているものが千切れるまでは時間の問題だろう。
……いや、あるいはもう。
「要……」
月野瀬さんが震える手で彼女の肩へと手を置く。
しかし触れた瞬間尾楽さんはその手を打ち払った。
「触らないでっ!!!」
顔を上げキッと親友であるはずの月野瀬さんを睨み付ける。
その目には明らかな敵意や憎悪と言った感情が篭っていた。
「なんでこんな事が平気で出来るの!? なんで誰も止めないの!? こんなの……ただの人殺しでしょっ!!!」
怒鳴り声の後嗚咽混じりにまた泣き出してしまう。
私ももうどう言葉を掛けていいかが分からなかった。
下手に声を掛ければ彼女を心を繋ぎ止めているものを壊しかねなかったからだ。
それに私が声を掛けたところで今の彼女から見た私はただの人殺し。そんな人間から声を掛けられたところでプラスの方向に向かうはずもない。
ここは月野瀬さんに任せるのが一番……なのだろうか。
「要! どうしたのっ!?」
尾楽さんの両手を掴んで月野瀬さんがその身を案じる。
「うるさいっ!!!」
パシン、と皮膚を打つような破裂音が静かな屋上に響く。右手を振り払った勢いで彼女が平手を打っていた。
慣性で顔を横に向け、打たれた左頬を押さえる。信じられないといった様子で月野瀬さんは瞬きすらも忘れているようだった。
浅く呼吸を繰り返しながら月野瀬さんを睨み続け、彼女は怒鳴りつける。
「人殺しの肩を持つあんたなんか! もう友達でもなんでもないっ!!」
「っ……」
「尾楽さん!!!」
友人への決別の言葉に無言を貫いていた先生がついに尾楽さんを怒鳴りつけた。
だがそんな先生すらも尾楽さんは憎しみの篭った目で睨みつけた。今の彼女にとって私たち三人はもうただの悪人にしか見えていないのだろう。
月野瀬さんもその怒声を耳にして目を瞑っていた。
(月野瀬さん……)
目を背けたくなるのもわかる。私だっていくらこんな状況だと言えども友人から決別を言い渡されれば素の状態でいられるとは限らないだろう。
彼女にもなんと声を掛けたものか……。こんな状況で何も出来ない自分が悔しい。
しばしの沈黙を置き、やがて目を見開いた彼女は、次の瞬間私の思いもよらないような行動に出ていた。
「何言ってんのよ!さっきから! いい加減目を覚ましなさいよ!!」
頬を押さえていた手を目の前の親友に打ち付け、今度は月野瀬さんが尾楽さんを怒鳴りつけたのだ。
その目からは大粒の涙を流していた。彼女もこんな地獄のような状況で精神が磨り減っているだろうに、そんな中親友からの決別の言葉を受け、その震える手を打ち払った姿を見ると複雑な気持ちになりいたたまれなくなる。
思えばこれから起こす行動はそんな精神状態であった彼女の苦肉の策、最後の手段だったのだろう。
「目を覚ますのは亜実の方でしょ!!! なんであんな人殺しをーーー」
尾楽さんが言い切らないうちに月野瀬さんは彼女の視界から外れるようにその場を立った。
……何か嫌な予感がする。彼女の行動を止めなければ何か取り返しのつかない事が起こるような、そんな不穏な空気を醸し出していた。
尾楽さんは顔だけを動かし月野瀬さんの姿を追おうとする。
月野瀬さんは尾楽さんの後ろへ回り込むとその顔を両手で掴み、
「これを見てもまだそんな事言えるの!?」
「やめてっ!!」
尾楽さんは顔を左右に振りその手から逃れようとするが月野瀬さんはそれを許さなかった。
「見なさい! あれはあんたを襲おうとしたのよ!!!」
強制的に視界に入るそれを尾楽さんは先程とは打って変わって黙って見つめていた。
段々とその顔が強張って行くのがはっきりとわかった。
ダメだ。今の彼女にこの光景を見せるのは危険だ……!
「な、何あれ……」
「あれがあんたの言う人よ! あれがあんたが人だと思ってたものなのよ!!!」
「ダメだ! 月野瀬さん!」
尾楽さんはパクパクと口のみを動かし、そこから発せられる声はない。次第に身体が震えていき、顔も青ざめて行く。
「あ、あれ……私、なんで……? えっ……あれっ……ぅ」
私が止めに入ったのも時既に遅く、ついにその身からは力が抜け、地面へと倒れ込んでしまう。
次に彼女が目を覚ました時に見る物は何なのか。それを見た時に彼女はどんな言葉を口にするのか。
私はそれを想像するのがとても恐ろしかった。
さてさて、第7話いかがだったでしょうか?
がっこうぐらし!にインスピレーションを受けて作成した本作ですが、今回の話はもはやがっこうぐらし!の由紀ちゃんの設定に近いものとなってしまいました
これはパクリと言われても仕方のないようなものですが……
一応、要ちゃんの設定などもすでに考えてはいるのですが、書いて行くうちに元の設定から大きくかけ離れてしまった……
これはこれで自分の望むものだったのであれですが……
新たに要ちゃんの設定も作り直さなくては……
あ、最後に余談というか、天飛先輩のフルネームは天飛 咲(あまと しょう)と言います!
……今の所どうでもいいですね笑
では、次回もお楽しみに!