の金剣です。勢いで書いたものですがよければどうぞ
カルデアの廊下をバタバタと走る足音が聞こえる。カルデアには多数の英霊たちが存在する為、基本的にいつでも賑やかなことに変わりはないのだが、今響いているものは、足音からして軽やかさを感じさせ走り去る音と、それをガチャガチャと金属の擦れる音を鳴らしながら追いかける音だ。
「待たんかセイバー!今日こそ我に付き合わせてやる!」
「ですから!結構だと言っているでしょう!何故貴方の部屋で二人きりで茶など飲まねばならないのですか!」
「それは貴様が我の嫁だからに決まっているだろう!夫の相手をするのは妻の役目だぞ!」
「私は断じて貴方の妻などではありませんから!!」
やけに上機嫌で呼び掛けながら迫り来る黄金に対し、怒気混じりに言葉を返しつつ走る青い風。
最早カルデアの面々もこの二人の追いかけっこには見慣れたもので、特に止める様子もない。
…というよりは、何かしようものならかの英雄王の機嫌を損ねかねない為、関わらないでおこう。という考えが広がっているというのが事実かもしれないが。
「いつまでも男を待たせるなよ!」
「待っているようにお願いした記憶はありませんが!」
どこかで振り切らなくては埒が明かない。そう感じた騎士王は曲がり角で霊体化して煙に巻こうと考える。
「フッ、甘いぞセイバー!その手は見切っている!喰らうがいい!都合良く霊体化を封じる鎖!」
英雄王の背後の空間に黄金の波紋が浮かび、そこから鎖が放たれると、背を向けて走っていた騎士王の身体に巻き付いて拘束する。
「なんですかそのふざけた鎖は!ッく!?本当に霊体化出来ない!?」
彼の言う通り、顔を合わせる度に逃げ回っている彼女は正直に言ってネタ切れだった。『曲がり角で霊体化』という手も既に何度か使っている手だった。
追い掛ける彼は無限にも近い蔵から、なにかしらの道具を取り出して追い詰める事が出来るが、逃げる彼女の武器は己の宝具と直感。詰まる所自分の身一つしかない。
「くっ…!」
鎖を巻き付けられたことにより重さが増し、僅かに移動速度も鈍る。
「フハハ!諦めろ!セイバー!」
「貴方こそ!いい加減諦めたらどうですか!」
背後からは相変わらず喧しい金属音を立てながら走る姿。あれだけの鎧を着ていながらどうしてこうも足が早いのか。
諦めろと言われて諦める筈もないが、このふざけた鎖を振り解く余裕もない。
懸命に走り続けるも、先程まで縮まらなかった距離は見る見る間に縮まっていく。
『これまでか』
と、走り続けながらも敗北が近いことを悟ると正面に人影が立っている。
その姿は見間違える筈もない、カルデアに於いてもう一人存在する英雄王…否、賢王と呼ばれる男だった。
二人の黄金の王に挟み撃ちを受けた騎士王は一瞬足を止めてしまい、その隙をついて背後からの英雄王に捕縛される。
「ハハハ!ようやく捕まえたぞ!手こずらせてくれたな!さて、では我の部屋に」
鎖を巻きつけたままの騎士王を、そのまま引っ張って連れて行こうとする英雄王に
「おい、雑種が呼んでいるぞ」
と、声を掛ける賢王。
「そんなものは後にしろ、我はようやくセイバーを捕まえたところなのだからな」
「貴様、そう言って常に呼び掛けを無視しているであろう。その所為で態々我が呼びに来たのだが」
「我の代わりに行けば良いだろう?同じ我なのだからどちらでも変わるまい」
「確かにそれはそうだが、我は既に何度も代わりを務めてやっているが?」
「なにも今でなくともよかろう、セイバーめを愛でてからでも」
「いいから行けと言っている」
一気に空気が張り詰める。
何故この二人は言い争っているのか。今のうちに逃げられないかと思案するが、今動き出すのは不味い気がする。
「…チッ。興が醒めた、命拾いしたな?セイバー」
舌打ちをして、背を向けてマスターの元へと彼が歩き出すと、巻き付いていた鎖が地面に落ち、鎖は瞬く間に粒子となり消える。
一体なにをするつもりだったんだ、とは思いつつ、言葉にしてはまた余計な事を聞かされると思い、言葉は押し留めた。
「…その、ありがとうございます」
とりあえず英雄王の部屋への強制連行は避けられたものの、もう一つの脅威に目を移し、警戒して距離を取りつつも一応の礼を告げる。
「何がだ?礼を言われるような事をした覚えはない。我は我の為に彼奴を引き離しただけだからな」
礼を言われた彼は不敵に笑みを浮かべながら、彼女を見つめている。
「……それでは、私は失礼します」
「まあ待て」
賢王の笑みから嫌な予感を受け、そそくさとその場を去ろうとするも即座に引き留められてしまう。
無視をしたいところだが、結果的に先程は助けられたと思わなくもない。そうなれば彼女の性格上、無視をすることは出来ず。
「何でしょうか」
「助けてやったのだから、少しくらい我に付き合ってもよかろう?なに、二人きりなどとは言わん。少々地味だが、此処の食堂で許そう」
「…分かりました。それならいいでしょう」
結局この王に付き合わされることに変わりはないが、二人きりを要求されていた先程よりは数段マシになったように思える。…というか、聞いていたのではないだろうか。
食堂のテーブルに向かい合って座る。
他に食堂に居たサーヴァント達の好奇心に満ちた視線が二人に注がれるが、当の本人達は気にした風もない。
…というのは彼のみで、彼女はといえば内心気が気でなかった。
『可笑しな噂が立つのでは』と不安を覚えるほどである。
しかし、席に着いてからの会話といえば『マスターについて思う所があるか』だとか『休息は確りとっているのか』という拍子抜けのようなものばかりだった。
このまま取り留めもない会話で終わるのならいい。とは思っていたが、そうならないとも思っていた。
「随分と彼奴に好かれているようだな」
と、矢張りというべきか、一番避けたい話題を持ち出してくる辺りが『矢張りこの男は英雄王だ』と思わせる。
「…身に覚えが有りません。どうしてあそこまで付き纏われるのか」
「ほう、理由が分からないと」
「ええ、他に見目麗しい女性なら沢山居るでしょう。どうして私を選ぶのか分からない」
これは嘘だ。理由は分かっている。恐らくはあの聖杯戦争。それが理由で私に固執しているのだろう。彼のものにはならないと、断固として拒否し続けたから。かの王はそれが気に入らない、そんなところだろう。
しかし、何故彼がその記憶を持っているのかは分からないのだが。
「……さあな、それはあの我にしか分からぬことだ。どうして貴様を伴侶にと狙い続けるのか。直接聞いてみるのはどうだ」
「遠慮しておきます。私から彼に近付くのは私の為にならないのはよく分かりますから」
彼は一瞬間を置いてから、態とらしく肩を竦めて口を開き、私はその提案に即座に首を横に振る。
「何故そう言い切れる」
訝しむような視線に対し
「勘です」
と、一言で答えれば、そろそろ助けられた分は返しただろう、とばかりに立ち上がる。
「では、私はそろそろ失礼させて頂きます」
「嗚呼、よかろう」
席に着いたまま、視線だけ向ける彼に、軽く頭を下げてはその場を後にした。
「全く、相変わらず中々手強い女よ」
自室に戻ってはソファに腰を下ろし、やれやれ、と溜息混じりではあるものの、どこか愉しげな声色で呟く。
「力尽くで組み伏せる我よりも、我の方が上手くやれるかと思ったのだが…そうはいかないらしい。…フフ、記憶があるのは我も同じだというに。嘘の下手な女よ、セイバー」
王の目線は宙を見ているが、その瞳には輝ける聖剣を構える騎士王の姿が浮かんでいた。