episode.09: :神は不変、されど人の可能性は無限大
迷宮内では見知らぬ他ファミリアの冒険者と関わらない、という不文律が冒険者の間にはある。理由は「迷宮内で問題が起こっても、それを証明することが難しいから」だ。
冒険者たちの強さを測る指標としてレベルが最も重要な要素となっているが、ファミリアとしては構成員の数も大きい。
その点、これまでの僕はレベル1の新人であり、構成員も僕以外の団員は皆無だった。実際にヘスティア様からは何度も耳に胼胝が出来そうなくらいに、迷宮内では絶対に問題を起こすなと言い聞かされていた。
それは僕自身の力を衆目と神々に露見させないためにでもあるし、先程に言ったように下級の中でも最下層に位置するヘスティア・ファミリアでは他ファミリアとの小競り合いが有利ではないからでもある。
……まぁ結局は何が言いたいのかというと、それらの要因のおかげで、僕は僕がオラリオにやってきた理由───可愛い女の子、もしくは美しい女性との出会いができない、という問題をヘスティア・ファミリアに入団した僕は直面させられたのだ。
それはもう、愕然としたね。
ヘスティア様とファミリア自体に文句はない。文句どころかヘスティア様には《歌》を毎日歌ってもいいくらい感謝しているし、愛している。いや、実際寝るときは子守唄を歌ってるんだけどね?
話を戻そう。
前々から祖父からは神やファミリアのことについては聞いていたけど、この目で見て、他ファミリアとの親交の少なさに驚き、そしてただただ気に食わないと思った。
ちなみに何に対してか、と問われれば、“神”という
詰まるところ、僕はこの二つの要因を解決しなければ女の子と触れ合えない、という事実だけが僕の頭を悩ませていたのだ。
───では、どうすれば良いのか。
結論から言うと、解決の糸口は僕の実力にあった。
これは“僕”としての人生で学んだことだが、この世界では力が何よりも優先され、力なき者に人は寄ってこない。
カリスマでも、財力でも、単純な戦う力でもいい。
力がなければ勝てず、守れず、強き存在に淘汰されてしまう。
事実、“私”は自分を守る力がなかったから背中をブスリと刺されたし、ファミリアなんかは突き詰めてしまえば【
だからと言って、神という存在を排除するなんていう、危険極まりない考えは持っていない。そもそも僕は神そのものを否定しているわけではない。
要は威厳を持って畏れられる存在であって欲しいということだ。……まぁ、だらしが無さ過ぎる女癖を控えてほしいと何度祖父に説得を試みても結局は治らなかったという経験から、神の威厳云々についてはもう改善不可能だと確信しているので、何も言うまいと決めている。言ってもきりがないからだ。
で、だ。
ここでまた僕の過去話だけど、あまりに祖父の女癖が酷いということで、僕は村長から直々に村の女性陣を祖父から引き剥がすように説得を頼まれたのだけど、無理だと諦めた僕は、ある方法をとった。
───題して、『神は不変、されど人の可能性は無限大』作戦。
つまり、そういう事だ。
ハッキリと詳細は語らないけど、村長からは「そうじゃない」と言われたとだけ言っておく。今頃その女性達は夫とよろしくやってるのだろう。彼女達は祖父の愛人達だけあって中々手強かった。
と、まぁ……要は僕が他の冒険者よりも強くなればいい、ってことだ。
僕が高ランク冒険者になれば、様々な恩恵を得ることができるだろう。
まず他ファミリアからのちょっかいを出されないようにできるし、フレイヤ・ファミリアとの同盟を公に組めるかもしれない。僕の力が認知されれば、一緒のファミリアに入りたいと言ってくれる人も出てくるかもしれない。
全てまだ“かもしれない”の話ではあるけど、僕が高ランク冒険者……具体的にはレベル5までは上げたい。そこまで行けば、連鎖的にヘスティア・ファミリアは大きくなっていく筈だ。今はカツカツな財力も潤い、仲間も増える。それに加え、他ファミリアとの同盟を組むことができれば完璧だ。
理由は言わずもがなである。
そのためにも僕は一刻でも早く力をつける必要があった。
これまでの具体的な攻略内容の詳細を語るとすればドン引かれるかもしれないが、聞いてほしい。
数で表すと、一日の攻略で倒したモンスターは金額に換算すればその数──約100000ヴァリス。ここに注釈を加えるとすれば、“Lv.1の冒険者の五人組”の一日の稼ぎは約25000ヴァリス、単純計算でその四倍……20人分の動きを僕は約一ヶ月間──正確には26日間も続けていたのである。
迷宮内の地図とモンスターに関する知識を記憶し、攻略の“効率”を突き詰め、それを実践できる実力が戦闘技術として既に備わっているのもあるだろう。
そしてその奮闘はつい先日に実を結び、アイズ・ヴァレンシュタインの記録を大幅に塗り替える約一ヶ月──正確には、半月と六日足らずだけど──という世界最速記録でのランクアップ、という結果を僕は叩き出したのである。
当然の如く……と言って良いのかはわからないが、いずれ開かれる【
即ち、中層への進出──延いては、パーティーの結成を最優先とした行動へ舵を切る必要がある。
具体的な締め切りは【
と、言う訳で……───
「───名前はベルベット・クラネル。僕と、パーティを組んでくれないかな?」
「いやですごめんなさい身の危険を感じるのでお断りします。フレイヤ・ファミリアとか色々聞いてはいけないような単語が聞こえたので聞かなかったことにしますのでさようなら」
「逃すとでも?」
「……デスヨネ」
「あとこれからソーマ・ファミリアの
「え゙?」
二人目のファミリア加入者、リリルカ・アーデ。
僕がランクアップした、数日後の出来事だった。
ベルベット君の可能性は大神を超えるらしい(意味深