TS転生ベルベット・クラネル君の英雄讃歌   作:美久佐 秋

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はじめの一つは全てを変えた
つぎの二つは多くを認めた
受けて三つは未来を示した
繋ぐ四つは姿を隠した
そして終わりの五つ目は、とっくに意義(せき)を失っていた



episode.16:空ノ唄

 精霊と冒険者───その二つの共通点から見出した『恩恵(ファルナ)』を極めた先にある到達点の予想。それを神々が聞けばひっくり返って爆笑するだろうか。

 中々にぶっ飛んだ推論だけど、今日話した事はアイズさん達にとってはかなり有意義な時間だっただろう。それが彼女の為になるかは彼女自身と神ロキを含めたフィンさん達の行動次第だけど、あとは僕の知り得ない事が複雑に絡み合っていくのを待つのみ。少なくとも、アイズさんの出生から来る孤立感や疎外感は薄れるに違いない。

 束の間、僕は枝分かれしてゆく未来に思考を馳せた。

 

 彼女達の思考に余裕を持たせる為に一拍の間を置いた後、僕はパチンと一拍手で音を立て、注目を集める。

 唸りながら考えを巡らせていた四人が顔を上げれば、そういえば、とでも言いそうな表情が伺えた。

 

 

「もう少しでお客様が着きそうなので、長考は一旦辞めにしてください」

「……すまない、すっかり頭から抜け落ちていたよ」

「いえいえ、爆弾を投げた自覚はありますので。それで条件通り同盟の件について一つお話しようと思うのですが……、何が聞きたいですか?」

「そうだな……」

 

 こういった交渉事については、他の三人は基本的に彼に一任しているのだろう。相槌を打ったフィンさんは考える様な素振り───親指を口元に添えて一舐めした後、真っ直ぐと僕を見据えてこう言った。

 

 

「単刀直入に聞こうか、ベル。───君はオラリオに何を求める?」

 

 

 その予想外の問いに、僕は首を傾げそうになった。

 

 

「予想外だ、って顔だね。神フレイヤとの関係を聞くと思ったかな」

「えぇ。オラリオを代表するファミリアと言われれば、やはり【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】の二つが上がります。その理由は単純に勢力として力があるというのも理由になりますが、商業系・医療系・製作系を代表する様なファミリアはいても、それらのファミリアは形態的に探索系のファミリアがあってこそ機能しているファミリアだからです。

 故に最大派閥と言われる【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】が組むとなれば他の探索系のファミリアは黙っている筈がない。横槍を入れてくるか、将又同じ様に同盟を組むだろう事は容易に想像できます…………あぁ、そうか。そうさせたい僕の真意を貴方は聞きたいわけか」

「あはは……まぁ、概ねそういう事かな」

 

 

 まぁ、敢えて聞かなかった理由は他にもありそうだけど……フィンさんから見た優先度はそちらが高かったのだろう。

 

 

「真意と言いましたが、最初は別に目的があった訳ではないんですよ」

「と、言うと?」

「オラリオに訪れる前、僕は吟遊詩人の真似事をしながら異なる文化、街の特産品、全人未踏の秘境などを自分の目と耳で見聞きしようと、世界中を制覇したとは言い切れませんが……様々な土地を渡り歩きました。育ての親でもある祖父の元を離れたのが12歳の頃なので、大体2年間くらいかな。そうしてオラリオに来たのが2ヶ月程前だったのですが……僕は【ファミリア】という現状の組織形態に不満を抱きました」

「それは……穏やかじゃない表現だね。『恩恵(ファルナ)』を授ける神を頂点とし、その力を求める冒険者達がいる限りは変えようの無い事だ。それに君もその一人な訳だけど、何処に不満があるって言うんだい?」

「基本的に他ファミリアとの男女関係が許されていないところです」

「…………ん?ごめん。今君は基本的に他ファミリアとの男女関係が許されていないところに不満を抱いている。そう言ったよね?」

「はい。言いましたよ」

 

 

 フィンさんもそうだけど、他の3人も断言する僕に戸惑っている様だった。

 

 

「基本的に僕は可愛いと美しいは正義だと思っています」

「あぁ、うん…………そうなんだ。唯美主義ってことかな?」

「概ね間違っていませんが、美とは人それぞれの主観性によって異なります。僕が見出す美とは人の生き様、人と人の出会い、つまりは縁が紡ぐ人々の美しさを見たいが為にオラリオにはやって来たのですが……【ファミリア】という組織形態では人と人の出会いは限られてしまう。……フィンさん。いや【勇者(ブレイバー)】。貴方もそう思ったことはありませんか?」

「確かに僕もそう思ったことはあるよ。なかなか、僕が求める女性像に当て嵌まる女性は現れてくれないからね。でも、それは質問の答えにはならないよ」

「ですが、利点にはなり得ますよね」

「……まぁ、一考の余地はあるかな」

 

 

 その返答を予想していたのだろう。リヴェリアとガレスさんの反応は予想通りと言う感じだったけど、対してアイズさんは予想していなかったと言わんばかりに、フィンさんの顔をまじまじと見つめた。

 

 

「他にもダンジョン攻略に関して言えば単純に戦力が増えますし、閉鎖的なファミリアの運営を知る事も出来ます。それは逆説的に同盟を組まないファミリアは隠したい事があると示す事になり、オラリオに有害なファミリアを炙り出せる。暫くは荒れるかもしれませんが……落ち着けば都市の治安にも繋がる可能性も大いに見越せますよね?」

 

 

 具体的には闇派閥(イヴィルス)と繋がっている可能性があるファミリアを把握できる。

 その可能性に思い至ったのだろうか。フィンさんを含め、最高幹部である3人は目を見張って耳を傾けて来た。

 

 

「僕は見た目麗しい女性や可愛い女の子は好きですが、それ以上に“美しく在る人”も好ましい。だからこそ、僕は人の営みを悪意を以て害する奴らを唾棄すべきと考えています。闇派閥(イヴィルス)然り、邪神然り。こいつらを排除するにはファミリアとギルドという組織の運営形態の見直しは必須です。先程行った通りに同盟を組む事で得られるメリットも多々ありますが、長期的な目で見れば奴らの付け入る隙を無くすことも出来るでしょう。結果的に僕の願望も叶うようになります」

「…………一考どころか、ロキも交えて話すべきだね。現状で君に追従しているのはどの程度いるんだい?」

「追従とは違いますが、【ヘスティア・ファミリア】の傘下に降るファミリアが四つ。恩恵(ファルナ)を授かる主神は違えど、うちは団員が僕しかいないので実質的に【ヘスティア・ファミリア】として扱う事になるでしょう。それでも冒険者の総数では貴方達に敵わないでしょうけど」

 

 

 今後どうなるかは分かりませんが、とは言わなかった。

 彼だって窓口が増えることの意味を理解していない訳がない。同盟を組むことになれば今は弱小でも、その関係性が続く限りは傘下であってもファミリアに所属する事は大きな利点となるだろう。

 その他諸々のメリットとデメリットの天秤を見据える彼の表情は自覚できる程に喜色を浮かべ、ドクドクと打ち響く心の臓が彼の興奮度合いを表していた。そんな自分を落ち着けるべく一つ深呼吸をした後、徐に立ち上がった。

 

 

「では、流石に僕達も失礼しようか。予想以上に良い話が聞けたし、必ずロキと協議するよ」

「えぇ。宜しく頼みます……【───木の乙女が風を撫でる。風の乙女が笑えば樹は揺れる。閉ざす無間に久遠の蛇の導きを】」

 

 

 内と外に隔てた境が及ぼす影響は、目に見えて歪みとしてあった。

 ダンジョンの修正力と相まって、内と外にズレが生じていたのだ。円状に展開されていた結界の境の内側はそのままに、堺から外側は螺旋を描くように木々と大地が捩れ曲がっている様相は異常としか言えないだろう。

 今も尚こうして立っている間にも何かを引き摺るような音を響かせながら大自然が動く様に、思わず【勇者(プレイバー)】達は頬を引き攣らせた。

 心地良い唄に機嫌上昇中な妖精達の笑い声との対比が面白くて、悪戯が成功した妖精のように僕も笑ってしまった。

 

 

「ふふっ……───」

「本当に、凄まじいな。……ベル君」

「はい?」

「僕個人としても、【ロキ・ファミリア】の団長としても、そして英雄を目指す者しても君の力は借りたいと思っている。…… 快い返事を待っていて欲しい」

「……えぇ。えぇ、待ちますとも。ただ今は未だ種を蒔いている時期なので、土壌に実が実るのはもう暫く先です。《妖精の祝福》の件も含め、己の内と向き合う事が貴方達に立ち塞がる困難を打破する力となるでしょう。原点(オリジン)を思い出してください。【───さすれば、夢幻の星が汝の導とならんことを】」

 

 

 そんな僕の言い回しに、リヴェリアが表情を綻ばせてこう言った。

 

 

「君は、まるで魔法使いのようだな」

 

 

 その言葉に対して、僕は虚を突かれたように目を丸くして彼女に視線を向ける。

 

 

「……どうした?」

「いいえ、大したことではありません。……ただ、そんな風に言われたのは久しぶりだったので」

「魔法使いと言われるのがか?」

「えぇ、そうです。言われたのは、あの人以来だったかな……───」

 

 

 キラキラと色彩豊かな星々が煌めきながらも、熱狂に包まれた特大のステージ。

 まるで“私”こそが世界の中心だと言わんばかりの歓声に、本気でそう思っていた“私“だけの景色。

 瞬く間に流れる時を惜しむ“私”は何時迄も、ずっと唱い続けたかった。

 

 だから“私”は手を伸ばした。

 そして“僕”は手を繋いだ。

 手と手を繋ぎ、宙と海に夢幻を唱った。たったそれだけだったけど、其処に奇跡はあったから。

 

 

「ふふふっ……」

 

 

 思わず意識して被っていた仮面が剥がれかけたけど、そのおかげで懐かしい記憶を思い出せた。

 目を瞑れば、その情景を鮮明に脳裏で映し出せる。

 そのことに機嫌を良くした“僕”を見て、何かを思い出していると悟ったのだろう。

 ニマニマと頬を緩ませる僕に、リヴェリアはこう言った。

 

 

「また会おう、ベル。その時は君の旅の話でも聞かせてほしい」

「……───えぇ、是非とも」

 

 

 その言葉を最後に、彼女達はこの場を後にしたのだった

 

 

 

 

 

 

 時刻は既に日付を越え、殆どの冒険者達が寝静まった頃。

 月光のように儚くも降り注ぐ天井水晶の煌めきを頼りに、リューさんとアスフィに預けた紫紺の魔力を辿ってゆく。

 そうしてあともう少しというところで感じ取ったのは、濃密な『美』の気配。傍らには我らが竈の女神の他にオッタルさんとかも居たけど……、今の僕にその事を気にする余裕は残っていなかった。

 

 

「フレイヤ!!」

 

 

 自分の意識が離れていき、思考までもが自分のモノではなくなっていくような得難い感覚。獣、とまでは言わないまでも内に秘めた獣性の箍は外れかけ、理性によってギリギリ抑えていた。

 じゃないと彼女に傷付けてしまうから。

 それでも彼女は身を駆り立てる衝動のまま飛びついた僕を嬉しそうに受け止め、抱き締める。

 なによりも最初に来てくれたのが、自分の下だったから。

 

 

「───へ、……ぇ?!クラネ、ちょ、ヘスティア様!?」

 

 

 お互いをお互いに理解し尽くしていた僕達は、瞳を交わし、そうして唇を重ね合う。そんな突然の情事に声を上げたのは神秘使いの女性だったか。

 視界の端で我が主人が後ろから飛びついて目を塞いだり、巌のような猪の男が少女の眼前に立ったりと忙しなかったけど、直ぐに視線を戻される。頬に手を添えられ、目と目が吸い込まれるように絡み合う。その眼差しが、「私だけを見なさい」と雄弁に語っていた。

 

 

「ぁん……ぅむちゅ、ふっ、ぁむぅ……───ちゅ」

 

 

 途端に激しくなっていく息遣いと水音。

 口腔の中で跳ねる唾が艶かしく唇を覆っていった、───……その時だった。

 

 

『神秘による外部からの干渉を確認。一時的な剥離状態にある仮面(ペルソナ)・固有名称【ベルベット】の自然回復を停止、……体内の保有神秘と同系統の神秘のため、干渉を認証。並びに“魔法(グルヴェイグ)”の限定解除を認証。【魔術式・命題(コード)空ノ唄(ヴァニタス)』】の詠唱のため、仮面(ペルソナ)・固有名称【詩織】に権限を移します』

 

 

 無機質で虚な声質。

 まるで凡ゆる感情や想念を掻き集め、グチャグチャになって暴れ出しそうだったのをより大きな“心”で束ねられたような印象だ。

 そんな他人事のように思いながらも、“私”は神ロキの言葉を思い出していた。

 

 

『転生じゃなくて、正しくは憑依やな』

 

 

 死が人に許された最後の経験だとするのなら、経験によって成長していく人の魂(ペルソナ)は死によって完成する。

 故に本質的に望まれた誰かである『偶像』の主権限は“僕”にあり、『“(ベルベット)”=“ ”=“(詩織)”』の関係性は成立しても、斯く有れかしと望まれた(ベルベット)”と“(詩織)”の間に(イコール)の関係性は成立しない。あるのはウロボロスのように連鎖する不可逆の因果。“僕”が“私”を識っているのも、“私”が“僕”を識っている事を“僕”が知らなかったのも。全ては其処に帰結した。

 それを敢えて言い表すのであれば転生ではなく、憑依なのだろう。

 

 恐るべきは殆ど無いに等しい情報量でありながら、正解を見抜く慧眼か。或いは、神域の思考能力だろうか。

 そしてその思考に追いついている現状は尋常でない筈なのに酷く他人事に思えて仕方がなくて。

 ただただ自分に課せられた天命を果たさんと其の瞳に黄金を宿せば……、相も変わらず世界は奇跡で満ちている。

 

 

 斯くして───重なる声と弾ける泡の、音がした。

 

 

 

 

 

 ──────

 ───

 ───………………。

 

 

 時刻は既に日付を越え、殆どの冒険者達が寝静まった頃。

 月光のように儚くも降り注ぐ天井水晶の煌めきを頼りに、リューさんとアスフィに預けた紫紺の魔力を辿ってゆく。

 そうしてあともう少しというところで感じ取ったのは、濃密な『美』の気配。傍らには我らが竈の女神の他にオッタルさんとかも居たけど……、僕は気にも留めずに駆けつけた。

 

 

「フレイヤ!!」

 

 

 そんな僕を彼女は嬉しそうに受け止め、抱き締める。

 なによりも最初に来てくれたのが、自分の下だったから。そのまま僕達の目と目が吸い込まれるように絡み合い、唇を重ね合わせた。

 

 

「ぁん……ぅむちゅ、ふっ、ぁむぅ……───ちゅ」

 

 

 誰もが言葉を発せず、艶かしくも美しい有様に目を惹き寄せられる。

 途端に激しくなっていく息遣いと水音。

 口腔の中で跳ねる唾が艶かしく唇を覆っていった、───……その時だった。

 

 

「くぉぉおおらぁぁああ───!!何をしてるんだ君達は?!」

「何をって……、キスよね?」

「口付け、接吻とも言うよ」

「ボクが言ってるのはそういう事じゃないよね?!今、此処で、みんなの前でって事だヨ!?」

「みんな……?」

 

 

 ヘスティアの物凄い剣幕で冷静になった僕はフレイヤから一歩離れる。

 周りを見渡せば目を瞑って黙するオッタルさんと耳まで肌を真っ赤に染めたリューさんとアスフィ、そして【戦場の聖女(デア・セイント)】の姿が。何故彼女が此処に……?と視線を向ければ彼女は気まずげに目を泳がせた後、表情を引き締めて一歩前に身を滑らせた。

 

 

「初めまして、ベルベット・クラネル様。【ディアンケヒト・ファミリア】に所属しています、アミッド・テアサナーレです。【戦場の聖女(デア・セイント)】の二つ名を頂いております」

「これは御丁寧に。ご存知のようだけど【ヘスティア・ファミリア】唯一の団員にして団長、ベルベット・クラネルです。レベル2ですが、まだ二つ名は貰っていません。そして僕がこのパーティのリーダーをさせてもらっているけど……オッタルさんやアスフィ達と一緒に此処まで来た、という事で合っていますか?」

「はい。簡単に説明しますと、私は探索からの帰還途中にダンジョンの出入り口にて神々を伴った一団を見掛けたのです。加えてその中には彼の【猛者(おうじゃ)】まで同伴しているとなればただ事では無いと思い、私の方から声を掛けさせていただきました。そして毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の大量発生という異常事態(イレギュラー)で【ロキ・ファミリア】の遠征隊が被害を受け、その治療を貴方が引き受けたとか。毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の体皮から分泌される劇毒は上級冒険者の『耐異常(アビリティ)』を以てしても耐え切れません。どのように治療をなさったのかは聞きませんが、患者の状態だけでもお聞かせ願えますでしょうか……?」

 

 

 そう言って此方を見据える彼女の瞳は、ひたすらに患者の安否を心配する気持ちと治療師(ヒーラー)としての矜恃を秘めていた。

 ……隣に美の女神がいるというのに、肝が座っている。それにフレイヤよりも己の信念に準ずる姿に僕は思わず見惚れてしまった。それは隣に居たフレイヤもだったらしく、妖しい笑みを浮かべていたのだった。

 

 

「抑えてフレイヤ。漏れてる、漏れてるから」

「あぁ、ごめんなさい。ちょっと珍しいくらいに良い子だったから」

「それは全面的に同意するけど、今は抑えてて」

「あの……?」

「あぁ、気にしないで。患者については……まぁ、毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の毒だけなら僕が身体から抽出したので問題ないです。物理的な被害としては、遠征隊で用意していた回復薬(ポーション)で事足りたようですよ」

「そう、ですか。偶然とは言え怪我人がいると聞き、そのままついて来てしまったので……死傷者が出なかったと聞いて安心しました。ありがとうございます」

 

 

 そう言って彼女は律儀に頭を下げたのだけど、僕は物凄い事を聞いた気がする。いや、気のせいでは無い。

 

 

「今とんでもない事を聞いたけど……本当に?」

「えぇ、本当よ。一応ハーフエルフの受付嬢……エイナだったかしら。ベルの専属の」

「うん。エイナさんに?……まさかエイナさんに言伝を頼んでそのまま此処まで?」

「此処まで」

「えぇ〜〜……随分と行動力のある方なんだね?」

「まぁ、そんなところも可愛いのだけど」

 

「あの……その、すみません……」

 

 

 内緒話をしていた訳ではなかったので、僕達の声は彼女に丸聞こえだ。でもまぁ、当人であるアミッドさんは反省しているようだ。耳をほんのり赤く染めながら、若干居た堪れ無さそうに肩を縮こまらせていた。

 

 

「まぁその辺りのフォローはフレイヤがするつもりなのかな?」

「えぇ。うちの団員達に下層域の探索に行かせて、また今度挨拶代わりのお土産としてドロップアイテムでも持っていくわ」

「それは彼女の主神も喜ぶだろうね。燥ぎ過ぎて腰抜かさなきゃいいけど」

 

 

 そんな随分な言い草に、フレイヤはクスクスと笑みを溢した。

 

 

「そう言うことなら僕に異存はないですが、僕達が依頼(クエスト)を受けて此処まで降りた事は聞きましたか?」

「そう、なんですか?」

「そうなんです。まぁ簡単に説明しますと帰って来ない眷属を心配した主神が知り合いの僕に捜索依頼を出し、それを僕は受けました。ちなみに捜索対象は全員無事ですが、かなり酷い怪我をしていた1人は意識不明の状態です」

「かなり酷い怪我で意識不明となると、出血多量による脳機能の低下でしょうか?」

「その可能性は否定出来ませんが、幸いと言うべきか怪我自体は完治しているので、後は当人の自然回復に任せるしかありません。捜索対象である当人達は、なるべく早く地上に帰って仲間を安静な場所で休ませてやりたい、という意見なのですが……」

「丁度周期的にゴライアスが17階層に現れるな。俺はフレイヤ様の護衛としているからベルの言う捜索対象の奴らの護衛には加われないが……、どうするつもりだ?」

「そうなんですよ。ですので、僕達は【ロキ・ファミリア】の遠征隊について行く許可を貰いました。流石に僕も守るべき主神と……オッタルさんは居るけど、フレイヤの安全を優先したいのでね。依頼の半分は終わったけど、もう半分は地上までの同行だから、基本的に彼らにも戦って貰おうと思っています」

「……そうか。パーティのリーダーはお前だ、ベル。俺はその指示に従おう」

「ありがとうございます。フレイヤの安全は貴方に任せますよ」

「言われなくとも」

 

 

 戦闘面に関しては心配しようがないけど、彼のフレイヤに対する想いは真摯で実直だから安心して任せられる。彼は良き理解者だ。

 そんな僕達をアミッドさんは交互に見て納得したように頷いた後、僕に向かって視線を投げかけてくる。

 

 

「その、私からベルベット様に頼みたいことがあるのですが……」

「頼みたいこと、ですか?負傷者達の回復に掛かる時間を考えれば出発はまだ先だと思いますので、その頼み事を受けるかどうかは内容に拠りますが……」

毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の大量発生……異常事態(イレギュラー)の解決に、貴方の力を貸してください」

 

 

 その固い意志を孕んだ眼差しに、僕は悦に浸るのを自覚していた。

 

 

 




故にこそ、新たな六つは一つであった

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