およそ3ヶ月ぶりの投稿ですが、読んでくれている読者様に感謝を。
蛇足ですが、この作品を書くきっかけとなったのがフロムソフトウェア社のBloodborneでした。
あの筆舌に尽くし難い世界観をダンまちの舞台で上手く表現出来るようにと、他作品の設定を矛盾が生じないように混ぜてみたりと試行錯誤していたのですが、此処までの話ではあまりブラボ成分を取り入れられているとは言えないと思います。
まぁ分かりやすい伏線程度には小出ししていましたが、ここから本格的にベルベットの活動やら暗躍やらが始まってきます。そして他のキャラとの関わりも多くなっていき、Bloodborneの世界観を取り入れることも多くなると思いますので、これからも作者をよろしくお願いします。
美久佐秋より。
今回の話は、前話と第2章の山場に向けての繋ぎの話です。
「やっぱり……ここに居たんですね、リューさん」
「クラネルさん、どうして此処に……」
狭い木々のトンネルをくぐった先、細い木立と水晶に囲まれた
頭上から差し込む一筋の光が妖精を照らす幻想的な光景に見惚れていたのも束の間、声を掛けると振り返った彼女から何故と返事が返ってきたので、僕は彼女のケープの内側に身に付けている
「貴女達に預けていた『紫紺の欠片』から発せられる僕の魔力を辿ってです。もうすぐ集合時間なので、所用ついでに貴女を探しに。……この墓は、もしかして貴女の【ファミリア】の?」
「ご存知でしたか……であれば隠し立てをする必要はありませんね。私はこうして彼女達───私が所属していた【ファミリア】の仲間達に花を手向けるために、時折ミア母さんから暇をもらっています。
「気にしないでください。……僕も花を添えても?」
「えぇ。それは構いませんが……」
花は?と不思議そうに見つめる彼女の顔がおかしくて、クスリと笑みを零す。
「【 汝の正義、その背の翼が折れたとしても、
「この花は……」
幻想的な景色を彩る光彩。
そこから産まれる青紫色の星の花が流星のように降り注ぎ、正義と秩序を司る女神の眷属達の墓が彩られる。
冥福を祈りながら贈った鎮魂歌は、どうやら彼女達にも気に入ってもらえたらしい。剣に宿る彼女達の意思に、草で編み込まれた
「花言葉は『正義』『誠実』『悲しんでいるあなたを愛する』です。貴女達───女神アストレアの眷属に贈るとすれば、きっとこの星の花が相応しい」
「あ、ありがとうございます…… ですが私には、この花を受け取る資格がありません」
「……?」
訝しむ様に視線を送れば彼女の瞳は伏せがちになり、僕の視線から逃れるように背を向ける。そして花束を墓の側にそっと置いた後、彼女は顔を上げて確りと視線を合わせてきた。
その空色の瞳に、一瞬吸い込まれそうな気がした。
「私が所属していた【アストレア・ファミリア】は全員が女性で第二級冒険者ということもあり、当時の私達は少なからず名を馳せていました。そして正義と秩序を司る女神アストレア様のもとで私達は迷宮探索以外にも、都市の平和を乱す者を取り締まっていました。その分、対立する者も多くいたのです。
そしてある日、敵対していた【ファミリア】にダンジョンで罠に嵌められ、私以外の団員は全滅……遺体を回収することもできず、当時の私はこの十八階層に仲間達の遺品を埋めました……彼女達はこの
リュー・リオン。彼女の
ほんの五年前の話だ。当時の僕の歳は九つ。その話を伝え聞いたのは祖父にオラリオの様子を話しに来ていたヘルメスからだったけど、その時の感情を語るには僕では力不足だ。
そしてその顛末が、本人の口から語られる。
当時のことを思い出しているのか、リューさんは唇を曲げ、瞳を不安に揺らした。
「生き残った私は、アストレア様に全てを伝え、そしてこの都市からお一人で去ってほしいと頭を下げました。何度も懇願する私に、あの方も受け入れてくれた」
「神アストレアをこの都市から逃した、というわけではないですよね」
「……はい。激情の言いなりになる醜い私の姿を、あの方に見てほしくなかった」
当時の感情の一端を覗かせながら、彼女ははっきりそう言った。
「仲間を失った私怨から、私は仇である【ファミリア】に一人で仇討ちしました」
「誰の協力も借りずに?」
「はい。敵方の【ファミリア】や組織に与する者、関係を持った者……疑わしき者共に対し、復讐に突き動かされた私は闇討ち、奇襲、罠、手段を厭わない襲撃を繰り返し、大組織であった敵対派閥の息の根を止めました。……あれは正義ですらなかった。
そして行き過ぎた報復行為は、冒険者や組織、商人問わず、多くの人から恨みを買う事となり、彼らによって賞金を懸けられた。冒険者の地位も既に剥奪され、今もギルドの
それが、ギルドの
何も顧みず派手に動き回った代償……とは言え、襲撃した者の中には癒着していたとされる一部のギルド職員もいたことから、その事実をギルド側が隠蔽したかったのも一因だろう。全ては明かされず、都市外へ逃れた神アストレアがご存命していることで
「……その後は?」
「力つきました。全ての者に報復した後、誰もいない、暗い路地裏で」
もともと死ぬ覚悟だったのだろう。
復讐をやり遂げ、主神も、仲間も失った彼女を生に繋ぎ止められるものは、既にいなかったのだ。
「血に濡れて、汚泥にまみれ……愚かな行いをした者には、相応しい末路だった」
「……」
「……けれど、彼女……シルが、路地裏に一人倒れていた私の手を引いてくれた。当時の私に言わせればそれはとてもしつこいお節介でしたが、そんな彼女の献身のお陰で私は今もこうして生きている。遂にはミア母さんに頼み込んで、『豊穣の女主人』の一員として迎え入れてくれました。……地毛も、強引に染められてしまいましたが」
冒険者時代は常に覆面を纏っていたので、【
優しい声音で、リューさんは現在の自分に至るまでの話を締め括った。
「……耳を汚すような話を聞かせてしまって、すみません」
「……」
「詰まるところ、私は恥知らずで、横暴なエルフということです……クラネルさんの信用を裏切ってしまうほどの。こんなにも綺麗な花を受け取る資格は……私にはありません」
冷徹な表情のまま自嘲に似た言葉を言うリューさんを、僕は否定する事はなかった。
何故なら、彼女自身がそう思っているから。簡単に人の言葉で考えが変わる様なら、とっくに彼女の心はシルに救われている。独り残された妖精の心は清廉に過ぎて、復讐に走った己の行為を許す事は、きっと出来ないだろう。ならば、僕は彼女を肯定しよう。
「貴女は、尊敬に値するエルフだ。そう僕は断言します」
「……何を言って」
訝しむ様な視線を向けてくる彼女は、本当に何を言われているのか分かっていない様子だった。
その一呼吸で彼女との間を詰め、そっと手を取る。
握ってしまえば折れてしまいそうな程にか細く、少しひんやりとした柔肌。なるべく嫌悪感を抱かれないよう、極めて女性的な仕草と笑顔で語りかけた。
「貴女のした事は、確かに正しくは無かったかもしれません。だからこそ貴女は『正義』を見失い、自分を信じられなくなったのでしょう。しかし、貴女の復讐は不当ではなかった」
「それは……」
動揺に、空色の瞳が揺れる。
そこに畳み掛けるようにして正面から抱きしめる。強張った身体に僕が突き飛ばされる事はなかった。
「リューさんが激情に駆られて復讐に走った自分自身を許せていないのは、今の話を聞けば分かります。同時に、報復行為自体を後悔した事はないことも。何故なら貴女自身がそれを否定してしまえば、嘗ての仲間達を侮辱する事になるから。貴女の行動のおかげで街に笑顔を取り戻せた事も知っているから。ならば……その復讐が『正義』でなくとも貴女は、貴女達が正義の剣と翼に誓った想いは果たせた筈です。故に今の貴女に『正義』が無くとも、『秩序』は此処にあります……誇って良い。貴女は尊敬に値するエルフだ」
「───あ」
背中越しに彼女の心を労るように優しく撫でる。薄緑色の髪もゆっくりと撫でれば次第に緊張も解れ、重心が僕の方へと預けられる。
横目に見えた彼女の淡い笑みに、───ありがとう、と誰かが言った。
そこを目前にして各々の装備の最終チェックをしていたパーティーメンバーの中に、僕とリューさんは合流した。
ただ……僕もリューさんに対して指摘しなかったからだけど、僕達の距離感に変化を感じ取ったのだろう。見送りに来てくれていたフレイヤはニコニコとその美貌に笑みを浮かべ、ヘスティアはブンブンと見事なツインテールを不機嫌そうに荒ぶらせていた。
でもリューさんのことはシルに頼まれていたのだ。おそらくだけど彼女達が不機嫌なのはもっと別のことだろうし、その事については触れないようにしよう。
「はい、注目。これから探索に向う訳ですが、何故か僕がリーダーに抜擢されてしまいました。事前情報は全て頭には入っていますし、やるからには責任を持って務めさせていただきますが、経験不足は否めません。何かあった時は臨機応変に動いて貰って構いませんし、寧ろ推奨します」
「……
「他の皆さんも問題ありませんね……。アミッドさんの為に大まかな役割の説明をします。まずは機動力と火力を兼ね備えたスピード型の魔法戦士であるリューさんが前衛とし、
「……あの、クラネルさんは魔導士なのでしょうか?」
僕の説明にアミッドさんは戸惑うように問いかけてくるけど、戦士なのか魔導士なのか判別の付かない
まぁ僕の戦闘スタイルが冒険者の常識から逸脱しているのは自覚しているし、初めてパーティーを組む人に対して『オールレンジの万能タイプ』と言っても想像し辛いのは仕方がない。アスフィやリューさん達の反応を思い出し、どう説明したものかと苦笑していると、横からリューさんが助けるように口を挟んでくれた。
「彼の戦闘スタイルは一概にこうだと明言することは出来ません。強いて言うなら、“魔法使い”でしょうか。クラネルさん曰く、《攻撃》《防御》《回復》《支援》など大方の事は出来るらしいですが……パーティー行動としては役割を限定してくれた方がやり易いのは確かです。そして自分で言うのもあれですが、今回のパーティーは各々の分野で一流と言える冒険者が揃っている。故にクラネルさんは
「あぁ、うん。……そんな感じです」
「……わかりました。私の
……
そんな風に前向きに考えたけど……少しリューさんがポンコツになった気がする。説明に加えて今回のパーティーの指針も補足してくれたリューさんだけど、隣でアスフィが彼女の変化に戸惑っていた。まぁ、リューさんの言った事に間違いはない。
状況に応じて僕は前衛にも後衛にも加わることが出来るだろうしけど、今回のように一つの役割に徹した方が連携を取り易いのは確かだ。それに今回はパーティー行動に於いても高い働きを期待できるメンバーなんだし、一人でなんでもやる必要はない。
その反面、恩恵ではなく冒険者としての
そのためヘスティアとフレイヤ達とリリも一緒に僕達の見送りに来てくれていたのだけど、フレイヤの護衛として付いて来ているオッタルとの対比の破壊力が凄まじい。探索の直前ということで、思わず声に出して噴き出しそうになった僕は腹筋に力を入れて耐える羽目になった。
「さて、準備は良いですか?」
モンスターの口腔のような十九階層への入口を背後に、臨時とは言え命を預ける仲間達に振り返る。
始まりはアミッドさんからの
───その、刹那。
背筋を這うような不快な感覚に、敵が広げた魔力の領域内に捕捉されたのを
抱えられる事を承知して魔力を練り上げるアミッドさんを最も脚が速いリューさんが抱え、僕はアスフィに手を引かれて空を翔ける。そしてこの領域内に捉われた途端、まるで引き摺り込まれるような感覚を感じ取っていた僕は本能的にどのような力かを判別、同時に精神力を使い果たす勢いで魔力を練り上げ、指揮者のように虚空を一文字に撫で切る。
そうして僕は初めて魔法として発現した
「【
“夢・願望・コミュニケーション”を象徴し、「集中力を高め、幸運へと導いてくれる」という意味が込められた人差し指。先行きの掴めない未来を指さす様に、言葉に込める想いを秘めて。淀みのない動作で振われた指先の跡を追って虚空を灯す力強い“神秘”の煌めきは、言ノ葉を確かに記す。
その術理は【
所謂、限定的な奇跡の行使による
故に、この
星々のように宙を浮かび、空間を支配する幻想的な文字群。誰もがその光景に目を見開き、詠歌の銘が唱えられ───繋ぐ四つが世界を変えた。
「【
僕に刻まれた恩恵を媒介に己を炉とし、そこを起点に広がる領域内を家に見立てた守護の聖火。
敵の魔力が黒い波となって襲いかかり、領域と領域が衝突し合う。この炉を司る我が女神に贈った詠歌は物理的な守備力は皆無だけど、あらゆる悪意を拒絶するのだ。その事実が、僕の判断が間違っていないこと証明していた。
「精神汚染!呪詛の類です!アミッドさんは敵性存在に向けて詠唱開始!特にヘスティアとフレイヤは気をつけて、おそらく【神性】に反応している!次点で『神秘』持ちも!」
僕達をダンジョンの奥底へ引き摺り込もうとする、おどろおどろしい魔力の主。結界の展開にかかりきりになり、アスフィに抱えられたままヘスティア達の下に運ばれた。
次いでリューさんに抱えられながら此方の領域外に入ったアミッドさん。彼女達は頬に髪を張り付かせる程に嫌な汗をかきながらも、きしむ精神力を振り絞り、
それを横目で見やった僕は、詠歌を繋げた。
「【 癒しの滴、光の涙、永久の聖域。
「【 最初に産まれ、最後に出づる雷霆の系譜。我が主神の名は
一拍先に完成した詠歌追奏。
繋がれた無意識に働きかけ、彼女の激情に呼びかける。同時に精神力と魔力を分け与れば、溢れて離れそうになった魔法の制御。彼女は此方をチラリと見やり、その表情に乏しい眼差しを一瞬緩ませた。
「【 ディア・フローテル 】」
紡がれる聖女の癒し。
限界を越えて展開された菱形の
同時に押し潰されるような重圧が掻き消え、構築していた聖火の領域も夢幻の如く元に戻っていく。それは悪意を退けた事の証明であり、一先ず難を逃れたのを確信した僕は共有していた無意識を手放したのだった。
久しぶりの投稿ですので、なるべく感想・批評に対しては返信出来る様にします。お待ちしています_φ(・_・