ベルベット君は前世女だったから、女の気持ちのわかるプレイボーイになってしまったぜ。
それとヘスティアとのやり取りを描いてたら、なんか胸がズムズムしてきた。尊い。あと尊い。ヘスティア可愛い。
※ベルベット君のスキル、転生の理由対する見解について修正を加えました。
誰が最初に言ったのかはわからないけど、僕はなかなか的を射た言葉だと思う。
冒険者は皆、主神から『
ダンジョンでは特殊な加工技術により燃料となる魔石や武具の素材となるドロップアイテムが手に入る。それらのアイテムを冒険者は日々ダンジョンでモンスターを倒すことで手に入れるので、危険が常に付き纏う。危険はダンジョンだけではなく、他ファミリアとの抗争なんかもあるらしい。
当然、ギルド職員の忠告を無視して深く潜り過ぎれば死の危険は階層に比例して深くなる。それを知っているからこそ、ダンジョンに入るのは恩恵を受けたことを前提にし、なるべく生きて帰れるように冒険者とギルドの職員たちは【ステイタス】のレベルを指標にする。
つまり『常に保険をかけて安全を第一に』という、先達からのアドバイスでもあるのだ。
「ねぇ、君聞いてるの?」
「えぇ。保険をかけ、安全を第一にすれば冒険をしてもいいと言う話でしたよね」
「違うわよ!!」
「冗談ですよ。でも僕には……いえ、僕たち【ヘスティア・ファミリア】は早急に力をつける必要があるんです。別に焦っているわけではありません。しかしそうでもしないと、零細ファミリアである僕たちは予想できる危険に立ち向かえなくなってしまう」
「はぁ〜〜。聞いたわよ何度も何度も。耳に胼胝ができるくらいにね!!」
「それは大変だ。エイナさんの耳に何かあれば僕はファンの皆さんから袋叩きにされてしまう」
「〜〜〜ッ!! もう!! 揶揄ってるの!?」
「はい。エイナさんはヘスティア様の次くらいに反応が面白いので」
そう言ったきり、エイナさんは口を閉ざしてしまった。
「……まぁ聞いてくださいよ。今回のようにミノタウロスが5階層まで上ってくるというアクシデントにも、エイナさんから教わった知識のおかげで助かったんですから。だからこれからも御鞭撻の程、よろしくお願いします」
「…………はぁ、本当に君って口が回ると言うか、上手いと言うのか。まるで神を相手にしているような気分だわ。神ヘスティアの苦労がうかがえるわね」
「ふふふ、エイナさん可愛い」
「……えうっ!?」
「じゃぁ、僕はこれで」
「え、ちょ、ベル君!?」
今日も日課のエイナさん弄りをした僕は、エイナさんの声を背にギルドを後にする。
……そうだ。今日はいつもより実入りも良かったし、ヘスティア様にお肉を買っていこう。
この迷宮都市に僕がやって来たのはつい最近のことではあるけど、祖父と暮らしていた田舎を飛び出したのは約2年前……つまり僕が12歳の時だ。
何処ぞの“マ”からはじまって“ラ”で終わるタウンな場所を旅出た少年ではないが、普通そのような年齢で旅に出るなど、いくら祖父がぶっ飛んだ存在とはいえ、ありえないと言っていい。
この世界ではダンジョンでなくともモンスターがいるところはあるし、人攫いや盗賊もいる。貴族なんて権力を笠に着る存在代表だ。
詰まる所、モンスターと言った存在がいて、それに対抗するために帯剣する人は街を歩けばざらにいるこの世界は前世ほど子供に優しくないのだ。僕が祖父と暮らしていた村は平穏という言葉が似合う、いたって普通でなんの旨味もない村だったからかそれまで盗賊といった類の輩を見たことがなかったが、旅に出てからは何度も遭遇していた。
それならどうして僕は無事旅を続けることができたのか、という疑問がついてくるけど……それはまた後にしよう。
ともかく、僕は2年の間いろんな国や場所を旅していたのだが、この世界は未知で溢れている。
異なる文化を持つ国、街の特産品、全人未踏の秘境。日本に似た国もあった。何処も彼処も面白おかしく、旅の先々で僕は生前とまではいかないけど吟遊詩人のように歌ったりしていた。
そのためか、オラリオの外では僕は【
……姫、と呼ばれている理由は歌うときは変装として女の格好……要は女装をしていたからなのだけど、オラリオではそのことに気づいた人は今のところいない。女の振る舞いは前世と同じようにすればよかったし、女装して歌わなければまずバレないだろう。
「……うん。やっぱり早急に僕達は力をつける必要があるよ」
そう、僕は目の前の建物を仰ぎ見ながら、独り言ちた。
「【火よ、風よ、水よ。この身に汝の調べを与え給え】」
……うむ、辺りに気配はない。まぁ、ここまで警戒するのは今の時点では過剰と言えるだろう。実際、この日課は魔力──精神力のステイタス値を効率よく上げるためだ。使える時にはなるべく使うようにしている。
割れた床のタイル、ごっそりと抜け落ちた天井から降り注ぐ茜色の日差し。
教会内を通り過ぎ、祭壇の先には小部屋が。本の収まっていない本棚が連なり、その一番奥には地下へと続く階段。
前世では女ではあったけど、今では帰って来る度に秘密基地のような住処に秘められた少年魂が疼くと言うか、住めば都と言うのか。
階段を下りきり、小窓から漏れる光が同居人ならぬ同居神が帰って来ていることを教えてくれた。
「ヘスティア様ーー。帰りましたよーー」
「やぁやぁお帰りー。今日はいつもより早かったね?」
「えぇ。遠征から帰還途中の【ロキ・ファミリア】の幹部の一人に遭遇したので」
「むむっ! それはナイス判断だ。ロキの眷属はどうかはわからないけど、ロキ自体はロクでもない奴だからね。それに僕のことをいつもロリ巨乳って馬鹿にするんだ!! ロキ無乳の癖に!!」
うん。それについては異論はないな。今日もナイスおっぱいです。
ペタペタと僕の体を忙しなく触れる小さい両手。これはいつも彼女からやってくることなのだけど、身長が小さいから下から覗き込むように触れて来るお陰で僕は毎日大きなお胸を堪能できるわけだ。
「そのことについては何度も聞かされましたよ。それに早めに帰って来たのはそれなりに多くのモンスターを倒せたからでして、お肉を買って来ましたよ」
「何っ!? それは本当かいベル君!!」
「えぇ、ステイタスの更新が終わったら直ぐに夕食の準備を始めましょう」
「やった! なら早速ステイタスの更新を始めよう! 善は急げ! お肉が僕を待っているんだ!!」
「ふふふ、大袈裟ですね」
背中を押されるように僕は部屋に入れられ、ベットの上まで案内された。
……この字面だけ見れば何故か如何わしい感じになってしまうな。でもまぁ、僕からは彼女──ヘスティア様に対してそう言う気持ちになることは、限りなく低いと思う。
というのも、それはヘステイア様の容姿と性格に起因している。
艶のある漆黒の髪は丸い顔と頬が特徴な小さな頭の両サイドで纏められ、髪を結わえるリボンには銀の鈴が飾られている。そして服の上からでもわかるくらいに豊かな成熟した胸。人の身では絶対有り得ない幼さと色香を持ち合わせた
ロリ巨乳、妹、主と眷属。
属性ましましとか言うなよ。僕もわかってる。色々と危ない背徳的なキーワードが揃いすぎだ。
ただそれ以上に僕は彼女のことを主として尊敬しているし、妹のように愛おしく思っているだけなのだ。
「……君、何か失礼なことを考えていないかい?」
「いえいえ、そんなことはないですよヘスティア様」
「本当かい……? ま、いいや。いつもと同じように頼むよ」
「わかりました」
軽装の武具やインナーなどの上半身の装備を脱いた僕はソファへと投げ捨てた後、鏡に背を向けて立つ。
僕の男としては線の細い、それでいて無駄なく引き締った体。旅のお陰で体力も筋力も自然に着くものだ。ムキムキは嫌なので是非このままがいい。
そんなことを考えながら、僕はある
「【神ヘスティアの名の下、ベルベット・クラネルが告げる。ベールに隠された主の恩恵を表わし給え】」
するとボンヤリと背中に光が灯り、チリチリと下側から焼けるような感覚を覚える。ただ本当に焼けているわけではない。掛けた魔法が『ヘスティア様の竃の灯火でベールのように隠すイメージ』にした影響だった。
そうして顕になったのは、背中に刻まれた聖火のシンボルと黒い文字群。【
「…………ううむ。いつ見ても君のそれは凄いね。出来ないことはないんじゃないかい?」
「想像できないことと知らないことは出来ませんよ」
「それを出来ないことはないって言うんだよ。人ってやつの可能性は無限大で、いつだって神の想像を超えていくんだからね」
「……ヘスティア様が言うと説得力が有りますね。(予想外のことをしでかすという意味で)」
「だろう? まぁ、戯れるのはここまでにして、始めようか」
「はい。お願いします」
言外に込められた意味に気づかないまま、ヘスティア様はベットでうつ伏せになった僕のお尻の辺りにピョンと飛び乗り、座り込んだ。
そしてカチャリ、と音がした後、体温くらいの温く赤い液体──
「そういえば、今日はいいことでもあったのかい?」
「わかりますか?」
「零細ファミリアの主神とは言え、僕は君の主神だよ? まだ出会って日は浅いけど、同じ家に住んでいるんだ。君の変化くらい一目でわかるものだよ」
「そうですか」
「そうなんだよ。で、何があったんだい?」
「ちょっと話せば長くなるんですけど……───」
僕はすっかり日課となったダンジョン探索の報告……彼女が言うには『
いつものように5階層の探索をしていた時、ミノタウロスと
一度は迎撃してみせたけど、両手に握っていた武器のうち片方が砕けてしまったこと。
ミノタウロスの腕に抱かれ、絞め殺されそうになったのをギリギリで逃れたこと。
5階層にいないはずのモンスターがいるのには何か理由があり、その何かへミノタウロスを押し付けようとしたこと。
予想通りに遠征から帰還中の【ロキ・ファミリア】の団員──アイズ・ヴァレンシュタインと遭遇し、ミノタウロスを倒してもらったこと。
そして彼女の剣技に魅せられた僕は、迷宮都市最強を目指すと決心したこと。
こうして話してみれば、今日だけでかなり濃密な時間を過ごした気がする。……気の所為ではないな。
「───君ってやつは、随分と無茶したものだね。まぁ君は無茶と無謀の違いも理解しているだろうし、いざという時は《歌》も遠慮なく使うようにしているんだろう?」
「えぇ、まぁ……さすがにミノタウロスは早かったかな。いけると思ったんですけどね。やはり攻撃が通らないことには、攻撃を受けなかったとしても戦いになりませんし」
「頼もしいね。ま、僕は君が無事に帰ってくることを祈っているよ……よし、終わった。
「えぇ」
「じゃあちょっと待てよ……。今、紙に、書き写、したよ。よし、君の新しい【ステイタス】だ」
そうして背中の上から差し出された用紙を受け取り、ヘスティア様は「全く。ゼウスのやつは【
それを横目に、僕は羊皮紙に視線を落とした。
ベルベット・クラネル
Lv.1
力:G224→G236
耐久:H112
器用:G242→G265
敏捷:F327→F358
魔力:D421→D493
《魔法》
【 】
《スキル》
【
・詩を紡ぎ、心象を具象化させる。
・効果の程は魔力量と心象の具体性、強度に依存する。
12、23、31、73……トータル139の加算か。
魔力が他に比べて成長率が高いのは恒常的に魔法をかけているからだろう。敏捷は今日のミノタウロスとの追いかけっこの影響だな。
レベル1とはいえ、中々の成長速度ではないだろうか。
そして今現在ファミリアとしての問題となっているのが、僕のスキル──【
詠唱の代わりに必要なのは《歌》と《想像力》、あとは魔力さえあれば如何様なものでも具象化させる《魔法》のような《スキル》。
冒険者としてかなりレアなスキルと言っていいだろう。しかしここで問題となっているのは、このスキルが本当にどのようなことでも
火の焼けるような紅蓮の熱を歌えば、敵を燃やし尽くす業火を。
審判を降す雷神を歌えば、降り注ぐ雷の裁きを。
聖者の祈りを歌えば、他者に癒しを。
英雄の如き豪腕を歌えば、力のアビリティを。
駆ける疾風を歌えば、敏捷のアビリティを。
万能に過ぎるその力は、他の神々が知れば絶対に僕のことを欲しがるに違いない。自惚れとかでも何でもなく、それは純然たる事実だ。知られるとしても、せめて僕がレベルを上げ、その上で僕から公然の場で知らしめるのが最も望ましい。
多くの者がみれば、他を牽制しあってくれるだろうから。
「どうしたんだい? そんな神妙な顔をして。何か悩み事かい?」
「……前にも話しましたよね。僕は転生し、今世では男として生まれたということを」
「うん、聞いたよ。あと君の育ての祖でもある祖父がゼウスだったこともね」
僕はヘスティア様の眷属になる時、これまでの全てを話している。
前世が女で、今世では男として生まれたこと。
育ての親でもある祖父が大神ゼウスであること。
そして僕は『恩恵』を受ける前から限定的ではあるが、力を使えたということ。
記憶を魂の浄化という形で無くしてからではあるが、転生という概念は神々の間では当たり前の概念として知られていた、というのは祖父の談だ。
そして“私”の魂が“僕”として生まれた時、記憶を保持したままだったのは魂の質が精霊に近いものだったかららしい。
精霊とは自然の触覚であり、神の眷属だ。
僕の場合は
望んでいたこととはいえ、男として転生したことをすんなり受け入れられたのは、このおかげだった。
そして神ヘスティアの
その予想は概ね間違っていないだろうと僕は思う。何せ『恩恵』を受けるだけで、心象を具象化できるようになったのだから。
「人の身で無くなることは怖くはありません。寧ろ精霊に近づくことでヘスティア様と長く生きられることは僕にとって喜ばしいことです。しかし、この力は人の身には過ぎる。眷属として、主神に迷惑をかけることに「ベル君」……はい」
「……それ以上は言わせないよ」
「ですが」
「ベル君」
鈴の音が鳴る。
ハッと俯いていた顔を上げれば、目の前には慈愛に満ちた女神がそこにいた。
「さっきの言葉、最初のところまでは良かったよ。主神としてあれほど嬉しい言葉はないだろう。でもね、ベル君」
「……はい」
「僕たちは家族だろう?」
家族。そう、確かに僕達は一緒に暮らし始めて日は浅いけど、確かに家族の絆で結ばれているのだ。
「……だからこそ、家族には迷惑をかけたくないという考えは、おかしくないはずです」
「そこだよベル君」
「……?」
「本気でわかっていないのかい? ベルベット・クラネル」
「……えぇ。僕の言うことは間違っていないはずです」
「うん。確かに間違っていない。けどね───」
彼女は勢いよくソファから立ち上がり、大きな胸をブルルンと震わせながら腕を左右に広げてみせる。
そしてこう言った。
「───僕は君の主神で! 君は僕の眷属だ! そして僕は竃の女神!! 家内を守らずして何が家庭の守護神か!!
あんまり僕を舐めるなよ? 確かに僕はグータラするけど、君に迷惑をかけられて……いや、君との苦労を迷惑だなんて思うわけがないだろう?」
……神威を解放していないのに、この堂々とした佇まい。正しく、彼女は『ファミリア』の守護神であった。
「ふ、ふははははっ!」
「な、何がおかしいんだい?!」
「…………いいえ、ヘスティア様! 可笑しいのではありません。ただ、僕はあなたに出会えてよかったと噛み締めているところでした」
「ふふん。そうだろう? ならもうさっきみたいなことは言うんじゃないぞ」
「……はい。祖父とあなたに誓って」
「じゃあ早く夕食にしよう!! もう僕はお腹ペコペコなんだ!」
「はい。今すぐに用意しますね。ジャガ丸君でも食べて待っててください」
「わかったよ。君の料理はなんでも美味しいからね。本でも読みながら想像でも膨らませて待ってるさ」
そう言ってソファの上に寝そべるヘスティア様。
……彼女のあり方は自分に正直で自然体だからか、一緒にいて心が安らぐ。
「待っていてくださいねヘスティア様。僕はもっと強くなって、都市最強の冒険者になってみせますから」
「ん? 何か言ったかいベル君」
「いいえ、何も。ただヘスティア様が可愛いなぁと思っただけです」
「……うぇい!?」
「では僕は夕食の準備を」
「べ、ベル君。もう一度、もう一度今の言葉を言ってくれ!! お願いだ!」
夕食の準備を始め、背中を向ける僕に何度も「お願いだぁ〜」と、呻き声のように囁いてくるヘスティア様。
そんな彼女との堪らなく愛しい日常を、大切にしたいと思う。
「───ふふ」
だから僕は、愛を込めて歌うのだ。
テッテレ〜♪
───神ヘスティアとの絆が深まりました。同じファミリアの眷属に対する、効果が微上昇します。