武器を新調し、帰りに1階層でゴブリン相手に試し斬りした後、僕は
そして僕はたった今、ヘスティア様に渡された羊皮紙と睨めっこをしていた。
ベルベット・クラネル
Lv.1
力:G236→G248
耐久:H112→G235
器用:G265→G286
敏捷:F358→F389
魔力:D493→C554
《魔法》
【 】
《スキル》
【
・詩を紡ぎ、心象を具象化させる。
・効果の程は魔力量と心象の具体性、強度に依存する。
上から12、123、21、31、61。トータル248加算、か。
……流石にヤバイ気がする。
「どうしたんだい?ベル君」
「いや、どう見ても成長早すぎますってコレ」
「早すぎますって……そんなこと分かりきっていたことじゃないか。それよりも僕は耐久値がこんなに上がっている理由を知りたいなぁ……?」
「あ、いや、これはですね……」
「……」
「……はい。試し斬りしてた時、防具なしで態と攻撃にあたりました。すみません」
「君の本来の戦闘スタイルは避けて避けて避けまくる
「はい。合気──力の流れを見極め、利用する術理です。極東でタケミカヅチ様から教わりました」
「まぁそのおかげで器用値ばかり上がって、耐久値の不足をベル君なりに解決しようとしたんだろうけど……ポーションの使用を渋ったりするなよ?攻撃を態と受けるのも君よりも一段階は格下の時だけにするんだ。それでも油断は禁物だ。わかったかい?」
「はい。心に刻みます」
「よし、ならいいさ。実際耐久値を上げれば生存率も上がるわけだしね。これ以上はとやかく言わない」
「……ありがとうございます」
理解してもらえたようで一先ずは安心だ。
よし、なら暫くダンジョン探索は浅い階層で耐久値の上昇に努るという方針で、明日は朝一番にナァーザさんに会いに行こう。ポーション類を買い足しにと、いつもお世話になっているミアハ様へお礼もしよう。……あの人はお金を直接渡すよりもご飯のお裾分けとかの方が素直に受け取ってくれそうだし、何か作るか。
「そういえばベル君」
「どうしました?」
「ギルドのアドバイザーがいるだろう?」
「エイナさんのことですか?」
「そう。その子を予定の空いている日でいいから僕のところに連れてきてほしいんだ」
「エイナさんをヘスティア様のところに……?」
「あぁ。君のことだ。上手く言葉巧みに話を逸らしたりして秘密を守っているんだろう?」
「人聞きの悪いこと言わないでください。まぁ事実ですが……」
字面だけ見たらまるで僕が最低な男みたいじゃないか。誤解を受けるようなことを不用意に言わないでほしい。
「まぁそれはそれだ。僕は今後の探索のためにもギルドに協力者を作っておいた方がいいと思うんだよ」
「言いたいことはわかりますよ。僕の秘密を守ることができ、尚且つ【ヘスティア・ファミリア】の地位向上に協力してもらえる人……彼女の場合はダンジョン探索に便宜を図ってもらいたい、ということですよね」
「流石ベル君、話が早いね。そこで僕が直接人となりを見て、判断しようと思うんだ」
「……エイナさんは信用できる人ですが、ヘスティア様が直接会いたいと言うのであれば、僕に異議はありません」
「よし。なら明日にでも次の休日を僕にもらえないか、交渉頼むよベル君」
「結局大事なとこは僕なんですか」
「よっ!頼むよ色男!プレイボーイ!!」
それ、褒めてるのか貶してるのか分かりませんよ。あと煽てるにも言葉をもっと選ぶべきだと思います。
「ほら、アホなこと言ってないで行きますよ」
「よし来た。今日はベル君の奢りだね!」
「ふふふ、では……主よ。お手をどうぞ」
先程の団欒とした和やかな雰囲気とは打って変わり、改って畏まった態度で従者のように主へ手を指し伸ばす。
ボロボロなホームが少し残念だけど、それはそれで僕達らしいと、笑い合ったのだった。
日は既に沈みきり、夕食時には少し遅い頃合。
西のメインストリートには宿屋や酒場が多く、冒険者や仕事帰りの労働者達で賑わう店が多いのだけど……僕達の目的の店──『豊饒の女主人』では、様子がおかしかった。
喧騒、と言うよりも動乱と表現した方がいいだろうか。
「な、何か様子がおかしくないかい?」
「おそらく冒険者達のいざこざでしょうね。ですが、既に収まった後のようですね。ほら」
指をさした先には一人の
「な、な、なっ───」
ヘスティア様が壊れたラジオみたいになった。口と目を大きく開け、ワナワナと震えだす。
そして彼女の視線を追ってみれば……
「───ロキ!?」
「あぁん?なんや……アイズたんに酌してもらって良い気分浸ってたちゅうのに、ウチのだあぁい嫌いなヘスティアの声が…………ヘスティア?!」
あぁ、この方が神ロキか。うん……ヘスティア様とは頗る相性が悪いらしい。主にどこが、とは明言しないが。
「なんでヘスティアがおるんや!!此処はウチのお気に入りの店なんやで!?」
「知らないよそんなの!?僕は眷属と一緒に夕食を食べに来ただけさ!!」
「はあぁん?!ロリ巨乳は立ち入り禁止ですぅ!!お帰りくださいぃ!!」
「ふっざけるな!此処は君の店じゃないだろう!?」
……いや、一周回って相性いいんじゃなかろうか。あそこまでお互いに言い合える仲というのは貴重だし、邪険にしても邪魔には思っていないらしいし。あ、ロキ様がヘスティア様の胸を鷲掴みに。ヘスティア様もヘスティア様でやり返しているようだし……放っておこう。
「なんだい。冒険者のくせに随分と可愛い顔してるねえ!」
「自覚してます。まぁそれは置いておいて……すみません、うちの主神がお騒がせしてしまって。代わりと言ってはなんですが今日は懐に余裕があるので、何にかオススメの料理があれば出してくれませんか?お酒はあまり度数の高くないものをお願いします」
「お、言ったね?ならジャンジャン出すから全部食べきるんだよ!!」
恰幅の良いドワーフの女将はそう言って大きなフライパン片手に火をつけた。
キッチンと座席が対面式になっているカウンター席。そこに座る僕は彼女の後ろ姿を見て、感慨に耽る。
───この人が【
彼女が【フレイヤ・ファミリア】の元団長であったというのは、この店を紹介してくれたフレイヤ様本人の談だ。
それに他の子達も……今の僕じゃ逆立ちしても敵わないだろうな。
その中でも唯一異質でありながら至って普通な、薄鈍色の髪を後ろでアップに纏めたヒューマンの少女──シル・フローヴァだった。
銀に似た髪色からフレイヤ様を連想するのは考え過ぎだろうか。
冒険者向けの酒場という意味では場違いにも思えたが、接客の際の仕草一つ一つに女の色香があり、中々に侮れない雰囲気……小悪魔、と言うべきか。そんな、男を弄ぶ女特有の仕草を自然にしている。もちろん狙ってもいるのだろう。
それでも彼女は楽しそうにしているので、それ以上の無粋な考えは止めにすることにした。
……話は変わるが、背後から物凄い視線を感じるのは気のせいだろうか。気のせいであってほしい。
「……また会った」
気のせいじゃなかった。
「……会うのは二度目ですね、アイズさん。何かご用ですか?エルフの少女が一人、女性がしてはいけないような顔で此方を睨んでいるのですが」
「……?レフィーヤは普通だけど」
首を傾げながら振り向き、また此方に注意を向けてくる【剣姫】。
それにしてもレフィーヤと言ったか。あの取り繕う表面の切り替えの早さは、見てて面白いなぁ。
あの少女はアイズさんが大好きで、それに天然なアイズさんは気づいていない、という構図か……。もしや、これは幻の美少女の百合百合が見れるのでは!?
「あの、聞いてる……?」
「ん?あぁ、申し訳ございません。考え事に耽ってしまっていました」
「なら仕方ない。私もよくあるから」
「そうですか」
「うん……」
「…………」
「…………」
──ッ!!会話が続かないぃ!!折角の美少女なのに!!もっと色んなこと話したいのにぃ!!
あぁダメだ。落ち着こう。可愛いは正義だ。だからアイズさんの口数が少ないという欠点も魅力になる。ならこっちが意思を拾って上げないと、疎通が儘ならなくなる。
……よし、随時説明補完でいこう。
「それで、どうかしましたか?」
「うん……ミノタウロスのこと。ごめんなさい」
「あの牛頭のミノたんが上層まで上がってきたのは【ロキ・ファミリア】が原因だから、それの謝罪ですか?」
「……うん、そう。……その、探索も早く帰ったんでしょ?迷惑もかけたと思うから、その謝罪」
成る程。天然ではあるけどしっかりと道理は弁えているわけか。【戦姫】とか言われていたらしいから、戦闘狂なのかとも思っていたけど……教育が良かったのか、強くなりたい理由があるのか。二つに一つ、もしくは両方か。
「……そうですか。ですが、僕はあまり気にしていないので大丈夫ですよ。助けてもらった身ですし、一度迎撃したけど武器が砕けたから逃げていたんです」
「でも、武器が砕けたのも原因は……」
「あぁ、そもそも僕が使っていた武器はギルドの支給品なんですよ。攻撃が通るだけのアビリティと武器の性能がもう少し良ければ勝てていましたね」
「……本当に?」
「えぇ。まぁ後からとやかく言っても負け惜しみにしかなりませんね。ですからそのうち倒しランクアップしますので、その時は奢ってくれますか」
「うん、良いよ」
流れで食事の約束を取り付けることが出来たわけだけど……アイズさんのファンにバレたら殺されるかも。
それから僕がアイズさんの雰囲気というか、空気を掴んでからは会話も弾んできた。でもやっぱり【戦姫】と呼ばれるだけあって、話のネタは専らダンジョンのことしかない。アイズさん、女の子としてそれは如何なのか。そこまではまだ口を挟まないけど。
「まぁ、上層でミノタウロスと遭遇することなんて滅多にないでしょう。あぁ、別に油断ではないですよ?対策はしっかりとしてから挑みますから」
「なら、良いと思う」
「あとですね。『冒険者は冒険してはいけない』って言葉があるでしょう。あれって『常に保険をかけて安全を第一』って意味じゃないですか」
「私もリヴェリアにそう教わった」
「あの【
「ベルのところは違うの?」
「えぇ。【ヘスティア・ファミリア】は結成されてからまだ数日しか経っていませんからね。いや、僕のファミリアのことは置いておいてですね。僕はギルドのアドバイザーさんに教わっているんですけど、その言葉を聞いた時、こう思ったんですよ」
「……?」
「『常に保険をかけて安全を第一』──ならば保険をかけ、安全を第一にすれば冒険をしてもいいのでは、と」
「おぉー……!」
「まぁそれを言ったら思いっきり怒られましたが」
感銘を受けた様子でアイズさんはそれを聞いていたけど、“怒られる”というワードに肩をビクリと震わせた。
どうしたのだろうか、と思ったけど一つ心当たりがある。というのも、エイナさんの授業はかなり厳しいし、怒るとエルフ美人なのも相俟って結構怖い。そして【
リヴェリアさんに教わったと先程言っていたし、もしアイズさんが【戦姫】と呼ばれていた時代の教育係なのだとしたら…………エイナさんの数倍厳しいとしよう。さらにアイズさんは教わったことを破ってしまうのだ。それはもう、かなりこっ酷く怒られるのではないだろうか。
「ま、まぁ……要は無茶と無謀を穿き違えてはいけないということですね」
「うん……今もたまに怒られる」
「それ、は……」
何歳かまでは知らないけど、確かアイズさんは幼少の頃から【ロキ・ファミリア】に所属しているはずだ。
幼いからまだ判断がつかない、なら大人がしっかり見ておかないと。
子供であればそういった融通も利くだろう。けど何年もダンジョンに潜っていて、それでも注意されるって……──
「──アイズさんって、冒険者としての自覚が足らないって、よく言われませんか?」
「うぅっ……!ベルが、リヴェリアと同じことを言う……」
ううむ。これは【ロキ・ファミリア】の幹部達は苦労しただろうな。特にリヴェリアさんの苦労が思い浮かばれる。
…………いや、これは僕が言うとブーメランになるな。うん。少しは自重してエイナさんを労ってあげよう。そうしよう。
そう決心した時、目の前にドンッ!!と大盛りのパスタと肉料理、あとワインが出された。
「はいよ!トマトパスタと牛のステーキ、ワインは肉に合うものを選んだよ!」
「おぉ……美味しそうですね。ではアイズさん、話の途中で申しわけないですが……」
「うん。食べてていいよ」
「ならば……いただきます!」
まずは鉄板の上でジュウジュウと肉汁を跳ねさせているステーキから……おお、焼き加減も肉厚も最高だ!値段が高めなのも頷けるな。
「どうだい、坊主。美味いだろう?」
「えぇ、本当に美味しいです。肉自体もですけど、味付けがまた絶妙で……タレが違うのでしょうか」
なんか、こう、味わいの深さが違うと言えばいいのか。ワインだけじゃない。なにか秘伝のタレとかがあるのかもしれない。
「結構わかるじゃないか」
「まぁ、一人旅を2年していましたからね。料理はそれなりに上達しましたよ」
「そうかい。ならこのトマトパスタはどう思う?」
「ちょっと一口食べさせてくださいね」
クルクルとフォークに麺を巻きつけ、口へ運んだトマトの風味と濃厚さを味わう。
「……麺と程よく絡まるトマトソース。これは瑞々し過ぎず、しかし熟れ過ぎてもいない。ですがトマト自体は市場で売っているもの……麺に合う最適な熟れ頃になるまで涼しい場所で保存しているのでしょうか。なるほど……特別な食物を使うのではなく、そのような工夫で最適な状態へ持っていくのですね?」
「へぇ、やるじゃないか!!どうだい坊主、うちの厨房で働いたりしないかい?もちろん給料はそれなりに出すよ」
「いえ、今の所はダンジョン探索で手一杯ですので遠慮しておきます」
「そうかい。冒険者辞めたくなったらいつでもウチに来な」
「ははは、考えておきますね」
こんなに堂々と勧誘してくるってことは、そもそもここは男禁制の職場ではないのか?料理を振る舞うのは好きだし、やる気も無きにしも非ずだけど……女装を強要される未来が見えるぞ。吝かではないが、そもそも女装ってのはバレないという自信があるから堂々と出来るのであって、普通の人ならバレれば恥ずか死ぬ。僕は寧ろ、どうだ!可愛いだろう!?と開き直るけど。……ってことは、僕は普通ではない?
客観的に見たらそれってかなりヤバイな。朝のフレイヤ様の呆れてアホを見るような目を思い出した。
あぁ、そうだった。フレイヤ様で思い出したけど、ヘスティア様はどうなったんだろう。
僕は夢中になっていた食事から手を離し、我が主神の様子を見る。
「「────」」
……神ロキと一緒になって撃沈していた。状況を見るに彼女達は飲み比べで対決し、結局は乱入してきたドワーフの冒険者──【
そんな彼女の姿を見て、少しだけお節介を焼こうと思った。
「これはただの独り言ですが…………やはりリヴェリアさんはさぞ高潔で、それ以上に仲間思いで優しく、人が出来た方なのでしょう。アイズさんのことを大切に思っているはずですよ」
「そう、かな……」
「えぇ。そのはずです。どうでもいいと思っている人のことなんて飢えようが朽ち果てようが、正しくどうでも良くなる。お節介は好意、または愛の証拠ですよ。僕も良く育ての親に怒られ、お節介を焼かれましたからね。リヴェリアさんのことを邪魔だなんて思ってはいけませんよ?」
そのように僕は自分なりの言葉で、リヴェリアさんの想っているだろうことを伝えた。ただのお節介で。
アイズさんは、少しでもわかってくれただろうか。家族との日常の、愛情の尊さを。それは当たり前だと思ってしまうと、中々気づけないものだから。
「うん……わかった───」
よかった、と思う。こうして言葉を交わした、それも彼女のような美少女が道半ばで死んでしまうのは、とても悲しいことだ……“私”が死んだ時は、誰か悲しんでくれただろうか。泣いてくれたらいいなぁ。
ふと、祖父のことを思い出す。また今度、手紙を出そうと思った。
「───じゃあ、ベルも私のこと、好き?」
「──……。困ったなぁ」
丁度喋らないアイズさんが気になり、横を見た時に視線の交わる瞬間。何かを探し求める幼い少女のような表情を浮かべるアイズさんの不意打ちに、僕は不覚にもときめいてしまった。つい「困った」と零してしまったけど、アイズさんは自分が何を言っているのか理解しているのだろうか。
わかっていないなら、不用意にそういうことを、それも違う【ファミリア】の団員の間で言うべきではない。そのように僕は指摘すべきなんだろう。
「それは、どういう意味でですか?」
「…………今日、ベートさんがミノタウロスから逃げてたベルのことを馬鹿にして、番になるならベートさんとベルとどっち選ぶかって言われて、私は少なくともそんなことを言うベートさんは嫌ですって」
「あぁ、それであの人はお縄についていたんですね」
「うん」
でもアイズさんは理解した上で、僕に聞いているらしい。
ここまで来ると天然ってすごい。素直に僕はそう思った。
だからこそ、中途半端な答えでは納得しないだろうと理解して、僕はしっかりと答えることにした。
「まず一つ。アイズさんに好意は持っていますが、それは惚れた腫れたではありません」
「うん」
「そして二つ目。割と最低な自覚はありますが、僕は可愛い女の子や綺麗な女性が好きです。優しくもしますが、基本的に女性には礼節と道理を以って接します」
「うん」
「最後に三つ目。この前に言ったこと、忘れていませんよね?」
「うん。……オラリオ一の冒険者になるって」
「えぇ。そして僕は少なくともレベル3になるまでは、女性との関係を遠ざけています」
「……今のレベルは?」
「1ですよ。まぁ、今の僕が答えられるのはこれくらいです」
「そう……」
……なぜ、彼女はそんな沈んだ表情を浮かべるのだろうか。まさかアイズさんが僕に好意を持っているわけではあるまいし、まして僕も一目惚れなんてする精神年齢でもないのだ。彼女のことは今日知ったばかりで───
「じゃあ、レベル3。その時のランクアップのお祝いで、また聞くから」
───……不意打ちは、卑怯だと思います。
注意事項ですが、今作の描写の部分は殆ど想像力で書いています。
多少は調べたりもしていますが、それについてもにわか的な知識ですので間違っていたりしても、見逃すかやんわりと教えてもらえると助かります。