機動戦士ガンダム In Last Paradisum 作:ROGOSS
モロッコが忙しそうにしている姿を横目に見ながら、ラインは本へ目を落とした。
モロッコの慌ただしそうな姿から、父が自分には秘密にして何かをしようとしていることは容易に想像がつく。父が何も自分には何も言わずにコソコソとしていることなどいつも通りだった。
ラインを二度と事件に巻き込みたくない。
そう父はいつも同じ言葉を繰り返すが、ラインとしてはその思いはありがた迷惑だった。
僕だって成長したんだ。いつまでも子供扱いしないでほしい。
ラインは頭を振ると再び本の世界へと入り込む。
今読んでいる本は一人の少女の話だ。
その世界では何百年も戦争が続いていた。
不毛な争いが続いた結果、人類は飢え子孫を残すことができなくなり全滅の危機に瀕した。
各国は、その現状をわかっていながらも、争いをやめようとはしなかった。
長く間延びした争いは、やめようという一言すら言うことを許さない状況を作り出していた。
そんな中、ある少女がただ見ているだけの国民……傍観者達に問いかけた。
「私たちは何もしなくていいのか?」と。
物語はそこで終わった。
中途半端な終わりだと誰もが思うだろう。
少女が問いを投げかけた瞬間、彼女は政府の暗殺者に狙撃されるという結末なのだ。
この後人類がどうなったのかは書かれていない。ただ……
「不毛な争いだ。まるで今の連邦とネオジオンと同じだ……」
そう呟くと、玄関からノックの音が聞こえた。
誰も出る気配はない。ラインは返事をするとカギを開けた。しばらくすると女の子が慌てたように飛び込んできた。勢いあまってラインとぶつかる。
ブロンドの髪をショートボブにした可愛らしい女の子だった。歳もラインとそう変わらないだろう。
「あ、ごめん。大丈夫?」
「私こそごめんなさい。あなたは……」
「あぁ、僕は」
「ライン様!」
まるでラインの言葉を遮るようにモロッコが走ってきた。
モロッコは少女を見ると顔をしかめ小声で何か指示をした。少女はそれを聞くと頷き、屋敷の中へと入っていった。
「何かお話になられましたか?」
「何も話してないですよ」
「……そうですか。それならいいのですが」
「あの……あのこは?」
「なぜそのようなことを?」
「議員の家を訪ねてきた女の子がいたら気になりませんか? それにここは僕の家でもあるし」
「ライン様」
モロッコはそれだけを言うと首を振った。
それだけで彼が何を言いたいかをラインは理解する。
それ以上の追及はだめ、ってことか……
もう質問はありませんね?と言うとモロッコはもと来た道を戻っていった。
ラインは天井に書かれている絵を見た。
最後の審判、と父は言っていた。宇宙世紀以前に書かれた有名な絵らしい。
「はぁ……」
ため息をつくとラインは部屋へと戻っていった。
●○●○●
執務室は緊迫した空気が漂っていた。
招かれざる客の突然の来訪にザジバーは痛む頭を抱えていた。
ここのところ、いつも悩みの種は尽きない。これは神から与えられている試練なのだろうか? だとしたら、老人の私にはあまりにも身に余り過ぎる。
「まさかアイリス殿が直々にお越しになるとは」
「議員の特技は先延ばしだと聞いたものでして」
「……おわかりでしょう。パンドラあの事件の影響は非常に大きい。あなたが望む連邦とネオジオンの対談はほぼ不可能です」
「それでもどうにかしていただきたい。そうしないと……」
アイリスはそこで言葉切った。
ザジバーは彼女が何を言おうとしているのか理解できた。
理解できているからこそそれを阻止するために対談の場を設けた。
だが、それすら戦争の道具として使われた今、彼ができることは非常に少なくなっていた。
「何度も申しますが、もう二度とあのような対談はできません」
「ザジバーさん。無理は承知です。それでもこれ以上無駄な血を流してはいけない!」
「わかっています……ですが、ネオジオンあなた方はあのような奇跡のような機会を邪魔した。それどころか、戦争の火種を自らまき散らし、未だに被害者面を続けている」
「邪魔?」
ザジバーはアイリスへ一枚の紙を渡した。
機体番号の下に書かれている名前にアイリスは目を丸くした。
「ガンダム……」
連邦軍の起死回生の必殺兵器として開発され、時代の節目に必ず現れるその機体の名前が書いてあったからだ。
「これは……?」
「もとは二機で一対のガンダムでした。ですが、一機はあなたがたネオジオンは強奪した」
「……」
アイリスは沈黙を続けるしかなかった。確信を持ててはいなかったが、噂で聞いたことがあることだった。何でも数ヶ月前、クレムリンが一機の連邦機を強奪したとかしないとか……まさかそれがガンダムであるとは想像できなかったが……
「ガンダムは争いの道具だ。兵器ですからね。ですが以上に平和の象徴としての意味合いが強い」
「私にどうしろと?」
「再びそろえるのです。そのガンダムを。そして国民……いえ全人類に訴えかけましょう。平和の望もうと。その気持ちに地球人も宇宙人も関係ない。そうでしょう、アイリス殿。あの対談に参加したネオジオン指揮官の娘であるあなたならわかるはずだ」
「……これが平和の象徴に?」
「もちろんです」
アイリスはザジバーを見つめた。
その目はまるでアイリスの実力と覚悟を図っているかのようであった。
だが、彼女は知っていた。
ザジバーが新たな争いを生まないために奔走し続けていることを。だからこそアイリスは、ザジバーを信じて共に平和のために様々な行動を起こしている。
ゆえにアイリスは嘆息すると再び書類へと目を落とした。
「ガンダム……」
祝福であり呪いの言葉をアイリスはゆっくりと唱えた。