雨、私には檻に見える。空から落ちる雫の向こうには、どんな世界があるんだろう。
私は閉じ込められている。この赤いお屋敷は、私のおうちなんかじゃない。私のお墓。
でもそれでいい。別にそれを嫌だとは思わない。だって外に出たって、面白いことなんかあるの?
人間なんて脆いって聞いた。私が触れたら一瞬ではじけ飛ぶってお姉さまが。
生きてる人間は咲夜しか知らないけど、確かに咲夜は吹っ飛んじゃいそうだわ。そう簡単に触れないけど。
私に自由はない。お姉さまは私をここにくぎ付けにする。外に出たくはないけれど、ちょっと悲しい。
だって、外に出たいだなんて言ったことないもの。外には私の知らないものがたくさんあるんでしょ。でもそれを知る必要はないわ。今を生きていればいいもの。
けど、お姉さまは私を信じてくれない。だから私が少し不安定になっただけでパチュリーが雨を降らしたりするんだわ。
灰色の空、濡れた大地、あんまり面白くないわね。空のずっと向こうには、少し眩しい光が見える。あれが魔法の切れ目、パチュリーの作った雲の境界。そこから漏れる光は、私の目に容赦なく突き刺さってくる。痛い、痛い、痛い。あんなに遠くにあるのに、太陽の光って怖い。
妖精たちはびくびくしてるし、図書館の本はざわめき立ってる。なんかもうめんどくさいから部屋に戻ってきた。私の部屋に明かりはない。吸血鬼には明かりなんて必要ないわ。咲夜が入ってくるときだけ、燭台に火が灯る。咲夜は人間だからしょうがないわ。
目を閉じて、枕に顔をうずめる。まだ昼間だし、今日は寝よう。そう思って伏せっていても、あの音だけは聞こえてくる。屋敷を伝う雨の音。
目を閉じていてもわかる。雨が際限なく降り注いで、この屋敷を取り囲んでいる。単調な音が続いたと思ったら、急に音が変わる。一瞬だけ激しくなってすぐに元に戻る。多分、風が吹いたんだわ。目を閉じていてもわかる。雨の音はそれだけで外の様子を私に教えてくれた。今はそれだけでいいじゃない。私が自分で外に出ることなんてない。ないのに……。
どれくらい眠っただろう。目が覚めたらもう雨の音は聞こえなくなってた。お姉さま達に気づかれないようにこっそり館の窓から外を見た。赤い霧が空を覆ってる。あ、これお姉さまだ。なんの根拠もなくそう思った。今度は何を始める気だろう。どうせまたろくでもないことでも考えてるんだ。私はまた自分の部屋に引っ込んでもう一度目を閉じる。どうせつまんないもの。
……
…………
………………
……………………あ、またなにか音が聞こえる。雨じゃない、なんだろうこの騒がしいの。
「止まりなさいそこの紅白」
またこっそりと様子を見てた。見たこともない人がお屋敷に乗り込んできてる。何だろうあの紅白、外にはああいう人間もいるんだ。
私はまた音だけを聞いていた。この屋敷に起こったことを理解しようとして、聞き耳を立てる。
「楽しい夜になりそうね」
「永い夜になりそうね」
そっか。お姉さまは外の人と遊ぼうとしてるのね。いいなぁ楽しそう。外の世界にはこんなに面白いんだ。
紅白の人は私に気づかずに帰っちゃった。そうだ、私もお姉さまについていって、あの人に遊んでもらおう。パチュリーはまた雨雲作るかな。でもいいや、ちょうどお姉さまも出かけてるし、騒ぎを起こすにはちょうどいいよね。
紅白の巫女さん、私に外の世界を教えてよ。