神殺しin―――ハイスクールD×D   作:ノムリ

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訓練

 灯巳は、涼の命令で『月の都』で訓練に励んでいるであろう、イリナとゼノヴィアの様子を見に行く為に市場の中を抜けていた。

 『月の都』は本拠地となる城と城下町を中心に円形に都市が広がり、中心から外に行けば行くほど自然が増え、人の手がついていない場所が増えていく。

 イリナは李安のいる山に行っているので、先に近いゼノヴィアに会いに行くこと灯巳は選んだ。

 

「やってますね~」

 ガァン!ギィン!と剣同士がぶつかり合う音が人気のない広場に響く。

 此処は、城下町から離れた訓練所。多少暴れた程度じゃ影響はなく、そもそも城下町に住んでいる住人は訓練所にはあまり近寄らないようにと通達がなされている、と言っても訓練所には小さな宿泊施設という最低限の生活必需品しか置かれていない時点でやってくる人などいないのがだ。

 舗装すらされていない道を抜けた建物があるだけの訓練所。そこにはジャージ姿の二人が居た。

 ブロードソード型の光剣を右手に握りセレナは、ゼノヴィアの振り下ろすデュランダルを光剣の刀身で受け流し、刃落とした光剣で胴体を一閃。衝撃に耐えきれずに漫画ように吹っ飛びゴロゴロと転がって行ったゼノヴィア。

 

 ジャージを砂まみれにしてデュランダルを杖の代わりにして不格好ながらも立ち上がるゼノヴィア。

 セレナも休憩は挟むつもりはらしく、ブロードソード型の光の剣を短剣の形に変えて、ゼノヴィアに向かて投げた。

 剣士弱点と言えば、遠距離攻撃とイメージがされやすいが正確には、遠距離攻撃と暗殺者が弱点だ。

 遠距離攻撃は剣のリーチ外からの一方的な攻撃。暗殺者は罠を張り、ヒット&アウェイを基本とした戦い方、相手が嫌がることをとことんして追い詰め最後に確実に仕留める。

 立て続けに短剣型の光の剣をゼノヴィアに投げるセレナ。一方、ゼノヴィアはデュランダルの幅のある刀身を盾にして短剣を防ぎ、傷を受けない代わりにその場から動くことが出来なくなってしまった。

 

「ゼノヴィア言ったはずです。デュランダルはその強度と幅の刀身は時として盾になりますが、それは緊急時のみに使うこと。今のは横に転がって初撃も短剣を避け、体勢を立て直すのが正解です!」

「うわ~スパルタ……セレナに戦いの基本を教えたのって、主だったもんな。主、勝ては良いってタイプだから手段は選ばないし。サルバトーレ・ドニ?だったっけ、剣を使うカンピオーネと戦ってきたから剣士をどう崩したらいいかって思考錯誤してたみたいだからそれ全部使ってセレナ鍛えたらしいし」

 

 涼の戦い方と言えば、カンピオーネの本能を『混沌獣』で強化、身体も状況に応じて陸・海・空に対応しながら時には、武器や防具を作り出し戦う。臨機応変の反面、決め手に欠ける部分を『雷神の鎚激』の火力でカバーしている。

 セレナの師匠は涼であり、涼は剣士の戦う姿をサルバトーレ・ドニから見て学習していた。

 そもそも、カンピオーネと一般の剣士が同じ位置には立つことなど叶うわけがないが、セレナは涼について行くべく弱音を吐くことなく努力と試行錯誤を続けて今では光の剣の形を使い分け、投擲や矢のように飛ばすことで遠距離攻撃も取得している。それは師匠である涼の臨機応変な対応の高さ参考にしたからこそ遠距離攻撃も身に着けた。

 涼が自分で自分の戦い方を見出したように、セレナも自分で自分の戦い方を見出した。

「灯巳が来たことですし一旦休憩にしましょう、ゼノヴィアいつまでも転がってないで水分補給しなさい」

「…は、はい、あ、あとでちゃんと水分、とりますので…はぁ」

 訓練が一段落したことで構えていたデュランダルを下ろし、地面に倒れこんだゼノヴィア。

 ゼノヴィアを放っておいた、外で訓練を見ていた灯巳を手招きする。

 とことこ、とスポーツボトルに口をつけて水分を補給するセレナの元に駆け寄る灯巳。

「涼さんから連絡がありました、灯巳さんを様子見に寄こすと」

「そうなんだよ、それでゼノヴィアの訓練の成果は?」

 二人して、地面に倒れて荒い呼吸を必死に整えようとしているゼノヴィアを眺める。

「ゼノヴィアは力押しで戦うタイプだったのでまずは技量を付けさせようかと。重く太い剣でも―――速くしなやかに操るの重要です。彼女はそれが出来ていない、それではデュランダルの特性である「すべて」を斬れる能力は半分も活かせません。現に、私がデュランダルを借りて使った時には正式な使い手ではないのにかかわらず、空間を断ち切ることが出来ました」

 それは貴方が可笑しいだけだよ、と灯巳は心の中で呟いた。

 いくら聖剣使いとして育てられていたとしても、セレナはゼノヴィアと同じ天然物の聖剣使いと言ってもデュランダルを扱えるほどではない。

 ゲームで言うなら、装備レベルが足りないとようなものだ。

 ゼノヴィアの方は、装備は出来ても本来の強さが発揮しきれない。なら出来るようにレベルアップをすればいいだけの話だ。

「ゼノヴィア!いつまで寝てるんです!さっさと訓練を再開しますよ」

 スポーツボトルを机に置き、椅子に座って水分補給していたゼノヴィアに叫ぶ。

 ゼノヴィアは慌ててスポーツボトルを置き、椅子て立てかけてあったデュランダルに手を伸ばしていた。

「やっぱりスパルタだ」

 夏休みの大半を訓練に次ぎ込むであろうゼノヴィアに心の中で合掌しながら、イリナの様子を見に行くべく登山を開始した。

 

 

@ @ @

 

 

「よっ!ほっ!」

 手付かずの山道を岩を足場にジャンプして進んでいく。

 山に山道など存在はせず、こうして道なき道を進んで行く他ない。

 普通なら袖と丈の長い動くには向かない巫女装束に下駄で激しい動きなど出来るわけもないが、そもそも灯巳の身に着けている巫女装束が一般のそれを同じものなわけもなく。動きやすいようにあれやこれやと工夫が凝らされている。

 山の中腹辺りまで登ると、手作り感のある小さな小屋が立っていた。

「李安ー!」

 ノックもせずに小屋の扉を開けると中には囲炉裏を囲み、湯飲みで茶を啜っている李愛が居た。

 少しボサっとした黒髪にツリ目、黒い着物を着て、灯巳が小屋に入ってきたことを気づきながら文句を言うこともしない。

「あれ?イリナが来ていると思ったけど」

「アイツなら山に体力と筋肉作りがてら今日の晩ご飯の山菜取りに行かせている」

「……それって後半の方がメインでは?」

「アイツは技術はあるが、体力と細い剣で重量のある攻撃が無かったからな。まずは体作りをしない事には話にならん」

 そう言ってずずず、と茶を啜る李愛。

 灯巳は剣やら刀やらの事をはからっきしなので、李安がそう言っているならそうなのだろうと納得して上がり込み、勝手に台所に置いてあった湯飲みを持ってきた囲炉裏の火の近くに置いてあったやかんからお茶を注ぐ。

「ずぅー、にっが!」

「薬草を煎じて作っているからな、体にはいいぞ。慣れると苦さが癖になる」

 

 ジジイだ、と思いながら我慢して薬草茶を胃に流し込む。コーヒーとは違う苦みが口一杯に広がるが、緑茶をよく飲む灯巳からすれば確かに悪くないものだった。

 二人で会話もなく茶を啜っていると、外でガタガタ、と物音が聞こえてきた。戸を開けたのは勿論、イリナだったが、いつもの姿とは大分異なった姿だった。 

「た、ただいま、戻りましたぁ…あれ、灯巳が居る」

 ツインテールに枝と落ち葉を絡ませ、ジャージを泥だらけに汚しキノコや筍、薬草を詰め込んだ竹で編まれた籠を背負って汗だくのイリナだ。

 李安は湯飲みを置いて立ち上がり、イリナから籠を受け取り。イリナは溜めてあった水で顔についた汚れを落としている。

 

「どう見ても、晩ご飯の山菜を取りに行ってしくじったようにか見えないけど?」

「やっぱり?そう見えるけど、結構体力使うんだよねこれがさ。道の無い山の中を移動しないといけないし、山菜が増えるごとに重心移動にも気を使わないといけなくて、しかも、偶に猪とか熊も出るんだもの気配を消して、察知するのも気に付けたよ!」

「それだけ聞くと、十分訓練にはなっているみたいだね」

「そうだね、山菜取りから早く帰ってくると李安さんが刀の稽古してくれるの!まだ一本も取れてないけどね、でも強くなっているのが分かるよ。自分がどれだけ聖剣に頼っていたのかも分かった」

 

 イリナは壁に立て掛けてあった刀のユカリを見つめながらそう言う。

 僅か二週間の稽古でイリナは多くのものを見て、経験した。自分より強い刀の使い手。しなやかな刀の動き、軽い足さばき、細い刀で岩を断ち切り、突進してくる獣を容易く切り伏せた、時には片足だけで岩の上に立ち刀を振るった姿も見た。同じ武器を使っているのに自分の数倍も、数十倍も強い使い手の姿。

 それはイリナが自分を弱いと自覚させるのに容易いものだったらしい。

 

「これだけあれば十分か、毒キノコも紛れてるが判別しろってのもまだ無理か。イリナ、刀を持て、相手をしてやる」

「やった!すぐに用意します!」

 壁に立て掛けていたユカリを掴み、イリナは外に飛び出し。灯巳も成長具合を見る為に後を追った。

 木刀を持つ李安とユカリを持つイリナは向かい合っていた。

 

 夏の暑くなった空気がひんやりと冷たく感じ、張り詰めた糸のように二人の間を緊張が走る。

 イリナは冷や汗を一筋流し、李安と言えばリラックスした状態で木刀を構える。

「頭で考えるのもいいが、偶には体で動けよ」

「ハッ!」

 少し前の動きとは比較にならないほど素早く、無駄な力を入れて刀を振らず、木刀で受け流がされれば素早く体勢を立て直し斬り返す。

「動きは良くなってきたな、だが、甘い」

 斬り返しを木刀の柄頭で弾いた。

「あんな方法で弾くとか、相変わらず人間離れしてるな~」

 灯巳は前にも、李安のこの技を見たことがあった。まだ李安が、涼の部下となる前セレナと一騎打ちをした時に振り下ろされた光の剣を刀の柄頭で弾いたことがあった。他にも漫画で出てきそうな刀で銃弾ならぬ魔法の弾を斬ったりなどセレナと同じように人間離れしている。

 若干、呆れ顔をしながら灯巳はイリナの練習風景を眺めた。

 イリナが一方的に攻めるだけかと思えば、隙を見て李安も反撃する。その一撃が当たればイリナは行動不能になるのは確実な威力を持っていた。

 

 一振りで骨を砕き、一突きで木を貫通する。それだけの威力を李安は刀一本で生み出す。

「イリナ、刀は防御には向かない。俺の様に受け流すか、躱すかを咄嗟に判断しろ。剣客が戦場で得物を失うのは自殺に等しい」

「ぐぅ!…はい!」

 地面を転がることで、李安の刀を躱し。ジャージを一層、砂で汚しながらそれでも立ち上がるイリナ。

「イリナも熱血だね、私も訓練しないと追いつかれちゃうかな」

 訓練する友人に姿を見て、久々に自分を訓練する意欲を掻き立てられて灯巳。

 

 


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